*** 子育ち12章 ***
 

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「第 10-05 章」


『一言が 時と場合で 恩や仇』


 ■はじめに

 ママはお子さんの言葉に敏感です。言葉を口にするようになれば安心しますが,言葉が出てこないと心配しますよね。そんなとき何を心配されますか? 発声機能の心配ですか,言語機能の心配ですか? まず最初の心配は聞こえているかどうかという聴覚機能です。

 口に出す言葉はまずママの声で聞いて覚えなければなりません。聞き覚えた音と同じ音を発声しようと試しながら,ゆっくりと言葉らしい片言を言えるようになります。聞き取りによって正確な音をお手本として記憶していなければ,口に出すことができません。

 字を読むことの前に,言葉を聞き取ることが子どもには大事です。このことが案外と見落とされているようです。例えば,幼子に幼児言葉で語りかけてはいませんか? 幼子はママの口まねをしているつもりですが,上手に言えないだけです。常に正しい音を聞かせてやってください。

 ニワトリの鳴き声を聞いた子どもがマネをします。大人がコケコッコーと教えるから,そのように覚えていきます。英語ではcock-doodle-dooですね。牛はモーウ,イヌはワン,ネコはニャーオと,発音していきます。お国なまりも聞き覚えていきます。どのように耳にしているかということは大切です。

 話し言葉と書き言葉があります。暮らしの場では話し言葉ですね。書き言葉はよそ行きです。普段の自分は話し言葉の世界にいます。ですから,話しぶりが人柄になって現れてきます。文字言葉ではなくて,聞く言葉に子どもの育ちが掛かっているのです。このことを十分に意識しておいてください。



【質問10-05:お子さんと一緒に聞いてみませんか?】

 《「一緒に聞く」という内容について,説明が必要ですね!》


 〇心の糧?

 もう一人の子どもは言葉を糧として育つので,子育ちは豊かな言葉を摂取することから始まります。言葉が少なく貧困であれば,心貧しくなります。心の栄養不足になるからです。豊かなということはただ単に言葉をたくさん知っているということではありません。

 食事でもただ食べていればいいというものではありませんね。栄養豊かな食事をバランスよく摂取しなければなりません。もう一人の子どもも栄養豊かな言葉を摂取する必要があります。子どもを母乳で育てるように,もう一人の子どもも母の言葉で育てるようにした方がいいようです。テレビ任せにすると,栄養が片寄ります。

 ママは自分の言葉に自信がありますか? お子さんが摂取しても大丈夫ですか? ミルクをあげるとき,ママはちょっと自分の口で確かめたりしますね。ママの言葉をお子さんに口移しする前に,ママ自身が聞いて気持ちよい言葉であるかどうかを確認してください。一緒に聞くということです。

 子育てを見ていると,子どもに寄り添って育てることが抜け落ちているようです。親が一緒にしてみるのではなくて,高みから命じて子どもにさせようとしているのです。教えようという気持ちになっているからです。小学生ほどになればそれも可能ですが,幼児期までは親のマネをして育っているので,親が手本になる必要があります。

 子どもがときどき,「パパだってしてるのに,どうしてボクだけ?」と言うはずです。幼い子どもには大人だからとか子どもだからという区別はできません。皆同じと思っています。ということは,素直にマネをしていればいいと育っている時期なのです。

 大人と子どもの区別をつけない言葉遣いも気をつけなければなりません。子どもが「おはようございます」と言ったとき,大人は「おはよう」と答えますね。やがて,子どもは大人に向かって「おはよう」と言えばいいと覚えていきます。大人も「おはようございます」と答えた方がいいのです。

・・・日々の言葉が素敵であるか,自分の耳で確かめてください。・・・


 〇場慣れ?

 日本語には同音異義語があります。また一字違いで違った言葉になります。こんな話がありました。〜ある日,娘が突然「ママー,くまのプーさんって,苗字は熊野?」と聞いてきました。〜同じ音ですが,意味が違います。

 こんな話もあります。〜先日、ママさんバレーをやっている母は、友人の車を借りてドライブに出かけた。久々の運転ではあったが,何事もなく家路につき,自宅近くのガソリンスタンドに立ち寄った。スタンドのお兄さんに「レギュラーですか?」と聞かれた母は,恥ずかしそうに「まだ補欠です」と答えた。〜勘違いという言葉のすれ違いです。

 言葉は状況によって変わります。会話ではお互いに伝えようとする事柄がすれ違うとき,たまたま同じ言葉が登場してしまうととんちんかんな状況が生まれます。その場に相応しい言葉遣いがあるということを経験しておかなければなりません。

 縁起を担ぐ場合などの忌み言葉は意識されていますが,普段にも多少の気配りはしておく方がつきあいは円滑になります。相手のことを考えるということですが,そのためにはどうすればいいのでしょう? 自分が言われたらどう感じるかと考えればいいのです。ここでも,自分が聞いたらというチェックが関わってきます。

 場慣れをするという言葉があります。場にオドオドしないためには慣れるしかないということですが,人との関係にはいろんなシチュエーションがあります。子どもと一緒にちゃんとした場に入っていって,その場に相応しい会話の実際をじっくりと聞き取ってください。言葉も裸のままでは生臭くなるので,TPOという装いが不可欠です。

 言葉を飾らないという素朴さが時代の風潮のように見えます。それは刺身を調味料なしで食べているようなものです。人に向かって素直に「臭い」という言葉を突きつけたら,相手は素直に受け取れたものではありません。素朴でもいいという場は限られているのです。

・・・場に相応しい言葉が使えないと,思いはすれ違います。・・・


 〇聞き入る?

 まとまった時間,話を大人しく聞く習慣をお子さんの身につけてやってください。15分,30分,45分,1時間と慣れてくるにつれて,時間を延ばしていってください。最近のテレビ番組は短い時間でCMが入るので,気持ちを持続することよりも気を散らす習慣が付いてしまいます。

 学校の授業は45分が基本です。小学校に上がるまでには,45分間の話がきちんと聞けるようにしつけておいた方が得ですよ。学校ではぼやっとしていて塾で真面目にすればいいというのは,最も無駄な時間の過ごし方です。忙しい時代には,やるべき時にやってしまう癖ほど貴重なものはありません。

 まとまった時間一つの世界にじっと留まるためには,非日常の世界に入らなければなりません。現在の日常は忙しすぎるからです。ママはハヤクハヤクと言わなければならないほどです。たまにはビデオや映画をじっくり楽しむ場所に,子どもと一緒に浸ってみませんか? 子どもは退屈するから無理だと諦めていませんか? 確かに退屈するかもしれませんが,それでもおとなしく付き合っている内に慣れてくるはずです。

 子どもの飽きっぽいペースに合わせすぎていると,いつまでも社会のペースになじめなくなります。しつけの基本は慣れです。はじめは多少のぎごちなさもありますが,繰り返すことで慣れてきます。そこまで根気よく付き合わせてください。

 人の生理的時間は90分が基本のようです。睡眠も90分周期になっています。映画の上映時間も期せずして90分ぐらいです。生理的に持続できる時間に合致しているからです。その半分が学校の授業時間に決められているのも,生理的リズムに沿っています。

 お子さんに読み聞かせをするときは,15分,30分,45分という時間を一つの目安と考えておいてください。機械的な時計の時刻に合わせるよりも,生理的な時間のペースを守る方が疲れなくて済みます。疲れなければイライラしなくなります。気持ちも落ち着いてくるはずです。

・・・じっくりと聞き入る力が考える力を育みます。・・・


 〇聞き取る?

 感覚器官の中でも視聴覚が最も意識世界では働いています。旅をするのも見たり聞いたりする楽しみがあるからです。情報を入手して適切に反応することが基本的な生きる営みです。ひまわりの映像を見て今日は雨が降るので傘を持参するという行動をします。後ろから車が近づいてくる音がするので道路脇に避けるという安全対策を講じます。

 正しい情報が入力されないと,適切な出力行動はとれません。人は超精密なシステムですから,情報のわずかのバグが解釈を誤らせ,大きな誤動作になる可能性があります。会社や団体での活動中に,言った,言わないという情報伝達のバグが原因で円滑な関係が壊れることがあります。

 ママが「毎日言ってるでしょ!」と声を高くするのは,子どもへの入力が不完全なことを表しています。「ママが何を言っているのか分からない」という子どもの声が聞こえていますか? 意味不明な言葉は,聞いても文字化けを起こすだけで,フリーズを招きます。幼児に「散らかしちゃ駄目って言ってるでしょ」と怒鳴っても,幼児は散らかすことがどういうことか分かっていないのです。

 ナポレオンが「私の辞書には不可能という言葉はない」と豪語したエピソードが知られています。人は言葉の辞書を持っているから,行動ができます。もう一人の自分が音を聞き「危ない」と判断したら,自分に向かって「避けろ」という行動命令を出します。そのとき,どんな音なら危険かという辞書を持っていないと動けません。

 本を読んでいて読めない漢字が出てくると,そこだけ意味がぽっかりとバグになります。出会った人の名前を思い出せないと,気持ちの収まりがつかないのは,理解のバグが生じているからです。言葉の辞書検索がフリーズ状態なのです。ですから,先に進めなくなります。

 自分の辞書を作るためには,言葉を意味と一緒に聞き取る作業が不可欠です。辞書には例文が載せられています。同じように,こんな場合にこの言葉を使うのだという例文をメモリーしておくようにします。使いやすい辞書ができあがるはずです。お子さんと一緒に辞書づくりを楽しんでください。

・・・辞書にない言葉は聞き取ることができません。・・・


 〇聴く?

 目は目蓋という保護シャッターで閉じることができますが,耳は常に開放しています。音情報だけは聞き漏らさないためです。ところで,立ち話をしていると周りの音が聞こえなくなります。テレビを見ている家人はママの声が聞こえていません。携帯電話で交信しながら運転していると危険ですよね。音情報は聞く気にならなければ聞こえません。

 聞こえているはずなのに,受け付けていないのです。わざと聞こえない振りをしているのと区別がつきません。雑踏の中でも話ができるのは,相手の声だけを選んで聞き取ることができるからです。視聴覚機器に囲まれた暮らしは,楽しげな音の溢れた世界です。常に音のある世界にいると,静けさが怖くなります。でも,静かに耳を澄ますと,気にも留めていなかった,聞き逃していた音の世界が広がるはずです。

 話し上手な人とは聴き上手な人です。話すばかりで聴こうとしない現代の会話は,言葉から潤いや美しさを削ぎ落としています。電話で話しているとき,相手の声が小さくて聞きづらい場合,こちらの話し声が大きくなりませんか? 自分が聞こえないから大声を出すのは,考えてみればおかしいことです。でも,それが人の会話です。自分が聴く気がないから,誰彼構わずとにかく話したくなるのです。

 静かに聴いてくれる人がいたら,落ち着いて穏やかに話すことができます。十分に話せるから,あの人と話すと会話を楽しめたと自己満足し,相手を会話上手と評価するようになります。ただ聴いているだけですが,それは相手に「伝わった会話ができた」という充実感をもたらします。

 子どもに言葉の楽しさを教えるためには,ママが静かに耳を傾ければいいのです。子どもは自分の辞書からありったけの可愛い言葉を取りだして聴かせてくれることでしょう。聴くことによって,子どもの辞書に今現在どれほどの言葉が掲載されているかが分かります。その言葉を使って子どもに話しかけてやれば,子どもはママが自分のことをよく分かってくれていると実感するでしょう。

 辞書は改訂されます。子どもの言葉の辞書も日々更新されていきます。ヴァージョンアップを重ねていくにつれて,バグが取り除かれ,洗練された言語ファイルが構築されていきます。その編集会議が親子で一緒に聴くという作業なのです。○○さんちの言語審議会を開催してください。

・・・聴けば聴くほど,もう一人の子どもは豊かに育ちます。・・・


 〇ニュアンス?

 優しい言葉を不機嫌そうな顔をして語ると,言葉は逆の意味を運びます。言葉では丁寧に応対しても迷惑そうな顔をしていることってありますよね。子どもの名前を呼ぶときも,その声の調子で伝わる意味がいろいろあります。子どもは音の質に敏感です。言葉の意味より音の響きの方が先に聞き取れるからです。

 同じ言葉でも,前後の文脈の中でニュアンスが異なります。一部を抜き出されると,思いもしない意味を発することがあります。そのような事態を恐れるために,責任を伴う発言では曖昧な言語が多用されます。そんな積もりで言ったのではないのに,という経験は茶飯事です。

 言葉を聞くときには,相手の表情や全体の流れを同時に読みとることも必要です。暴言に聞こえたことは,聞き手に向けられたものであるより,言った本人のイライラでしかない場合もあります。子どもが乱暴な言葉を言ってきても,それは子ども自身の気持ちの発露であり,親に向ける積もりはない場合もあります。売り言葉に買い言葉という即応は,一呼吸置くことで避けた方がいいでしょう。

 逆の立場に立てば,自分が疲れていたりイライラしているときは,言葉が激しくなります。いわゆる八つ当たりになります。子どもはその激昂をまともに受け止めてしまいます。大人気ないという意識を引き出すためにも,気持ちが滅入ってきたらフーッと息抜きをしてみませんか?

 ものも言い様で角が立ちます。苦い言葉は口当たりよく,甘い言葉は苦みをまぶして,バランスよく伝えようと気配りしてください。笑顔で語れば素直に聞き入れてくれます。怖い顔で語れば怖さだけが伝わり言葉は受け取って貰えません。お子さんとの対話では,どうすれば聞いて貰えるかというポイントを学び合ってください。

 今忙しいから後で,とお子さんからの話を遮ることが多いかもしれません。でも,お子さんの方では今聞いて欲しい気持ちがいっぱいなのです。話すタイミングには旬の時があります。今でなければならない,そのタイミングを察してやることが,子どもの話を聞く姿勢なのです。

・・・ニュアンスやタイミングが抜けた言葉なんて!・・・



《一緒に聞くとは,もう一人の子どもとの共育ちです。》

 ○小学校に上がる頃の娘さんの話です。〜「お母さん,ガソリンスタンドの人はみんな親切でやさしいね」と言う。理由を尋ねたところ,「どこに行っても必ず,『元気ですか?』と聞いてくれるから」。娘は「現金ですか」と「元気ですか」を間違っていた。〜言葉を優しく受け止めているいい子ですね。

 いい方に聞く習慣は気持ちを明るくします。同じことでも悪い方に考えると,落ち込むばかりです。力の湧かない言葉だけを探すようになります。元気の湧くような言葉をお子さんと一緒にたくさん仕入れてくださいね。


 【質問10-05:お子さんと一緒に聞いてみませんか?】

   ●答は?・・・もちろん,「イエス」ですよね!?

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