*** 子育ち12章 ***
 

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「第 10-06 章」


『人の知恵 書いて残せば 磨かれる』


 ■はじめに

 手の届くところに,メモ用紙がありますか? できれば,あちらこちらにメモ用紙を置いておけば役に立ちますよ。使い切って補充しなければならない日用品があったら,すぐにメモしておきます。もちろん,買い物に出かける前には,必要なものをメモしておくようにしていますよね。

 仕事に限らず,何か思いついたアイデアは,すぐに記録しておかないと記憶の外に吹き飛んでいきます。テレビを見ていて,気になる情報があったらすぐにメモをします。例えば何らかの応募や連絡先など,一時記憶は保存が利きません。書く行為は保存という効用を持っているのです。

 若い人がメールを使います。電話で話すだけなら,一時記憶の連続です。世間では,言った,言っていないという情報の欠落が起こります。それは,話が一時記憶だからです。そのことを感じているから,若者は文字情報としてやりとりしようとしています。文字にしてメモリーできる確実性が,メールの魅力の一つなのです。

 子どもの書いた字を年齢毎に並べてみると,子どもの成長が一目瞭然です。それは大人の目から見ればまだまだ未熟でしょうが,子どもなりに少しずつ上手になっているはずです。だんだん形になってきたということに気付かないと,親として子どもの未熟さばかりを気にするようになります。

 子どもを毎日見ていると,全く成長していないように見えてしまいます。それが親の焦りの元です。長い目で育ちを見るためには,そのときどきの記録を残しておいて,半年前の子ども,一年前の子どもをきちんと思い出す手続きが必要です。育ちの証拠を,状況証拠ではなくて,物的証拠として収集する地道な関わりが,親業の指針を与えてくれるのです。



【質問10-06:お子さんと一緒に書いてみませんか?】

 《「一緒に書く」という内容について,説明が必要ですね!》


 〇手の記憶?

 幼い頃に乗り覚えた自転車は,しばらく間があっても再び乗れます。身体が覚えているということです。人が知恵を持つようになったのは,手の器用さがあったからです。手に職を持つということが言われていました。いわゆる職人になるかどうかは別にして,手を使う育てはとても大事なのです。

 指を使うと,手の筋肉を細やかにコントロールしなければなりません。そのプログラムが神経細胞のネットワークとして書き込まれます。繊細なネットワークが設置されるわけです。自分風に書かれたプログラムができていくのです。

 字を書く前に,真っ直ぐな線,丸い線,横線,縦線など基本的な線分を書くプログラムを用意しておきます。手に習い覚えさせておくのです。その予習ができていれば字を書く準備が整います。字を書くのは,とても精密な作業であると思っておいてください。

 お箸の使い方や鉛筆の使い方をしっかりとしつけておいてください。学校に任せるというような手抜きをすると,子どもがつらい目に遭います。例えば,お箸を握って使うことしかできないと,指を動かすプログラムが抜け落ちてしまいます。鉛筆を使うのは同じプログラムを使うので,字を書くのに苦労するようになります。

 お子さんに字を書かせるときに,最初は大きく書かせてください。腕全体を動かす作業が簡単だからです。徐々に書く紙を小さくしていきます。細かな動きは難度が増すので,徐々に進めてください。いきなりノートに小さな字を書かせようとするのは無理です。

 このように手を介して一旦書き込まれた神経ネットワークは,ちゃんと残ります。しかもそのネットワークは運動機能として働くばかりではありません。物事を考えるネットワーク,物事を見分けるネットワークにもなります。幼いときに覚えた言葉が一生役に立つのと同じです。

・・・字を書く作業は神経ネットワークの建設工事なのです。・・・


 〇字って?

 幼い子どもは,字を絵柄として覚えます。「鳩」という字はハトのイメージを重ねて覚えてしまいます。大人でも書けないけれど読めるという字がありますね。絵柄として記憶しているのです。ですから,「危」という字はあぶないという字だと,小さい子どもにも覚えられます。

 英字と違って漢字は字そのものに意味が備わっています。表音文字と表意文字の違いです。音を表すにはひらがながあり,48文字があります。数少ないひらがなを覚えると,話し言葉がそのまま文字に書けます。音をなぞればいいので,簡単で便利です。ところが,いぬの「い」がいすの「い」でもあるというのは迷いを生むことがあります。気長に慣れさせてください。

 字に対する教えは,段階的に進めることが肝要です。まず読めるようになることから始まります。この時期は読めることが楽しくなります。道筋の看板を読みまくりますが,この経験が大切です。このように字とのつきあいの第一印象がよければ,文字そのものに対する興味が湧いてくるからです。

 やがて,字を書きたいと思うようになります。字を書けるうれしさが続きます。字が書けたら文章を書きたくなります。このように,喜びのステップを経ることができれば,自然に勉強が進みます。ただし,このステップは入り交じって進みますので,こだわらないようにご注意くださいね。

 子どもはマネをして育ちます。ママの書いた字をお手本にします。大好きなママの字ですからね。だからといって,ことさら美しく書くことを求められたら,ママはしんどいですね。正確に書けばいいんです。正確とは丁寧に書くということです。それぐらいはできますよね。頑張ってください。

・・・字を上手に書くのは後回しにして,書く楽しさを教えてください。・・・


 〇やり遂げる?

 字を書く動作は,一画一画組み上げていきます。どの一画が欠落しても正しい字にはならないので,細部にまで手抜きすることなく完結するようにします。それだけに面倒です。さらに表意文字なので,一字一字個別に覚えなければなりません。子どもにはその数に限りがないように思えるでしょう。

 字を書き覚えるときに,筆順という約束があります。どういう順序で書こうと結果が同じなら構わないといういい加減さは,子どもにはよいしつけになりません。筆順を守ることで,ものごとには順序があるということを知るようになります。さらには,順を追って書いた方がきれいに楽に書けるというメリットもあります。

 一つのことをやり遂げる癖が,最近の子どもたちには身についていません。途中で放り出しても大して気に留めません。中途半端にすれば落ち着かないという気持ちをしっかりと育ててやらなければなりません。そのしつけの一つが,字を正確に書く訓練です。字を書く体験は字を覚えるためのものではなく,ものごとに挑む心構えのしつけでもあるのです。

 大学の二次試験で,問題を完全に解ききっていない受験生が増えてきました。どの問題も途中までしか解けていないのです。いわゆる部分点の合計で入学をしてきます。世間的に言えば,部分点は意味がありません。どの仕事をやらせても,満足にし終えることができなければ役に立ちません。一つでもやり遂げるものを持っていれば,それなりに仕事はできます。

 自信のない状態とは,これだけはちゃんとできるというものを持っていないことです。子どもに自信を持たせたければ,この字はちゃんと書けるといった実力を備えさせることです。確実な力にしてやることに気をつけてください。愚鈍に力をつけることの方がいいという積もりで付き合ってくださいね。

 子どもが途中で放り出していたら,「最後までしなさい」と言いますよね。「すればいいんでしょ!」って答えられたら,カチンときますね。それを我慢して親として見届けてください。そのまま放置したら,世間に出てから他人に対してふてくされた言動をして,結局は嫌われる羽目に陥ります。

・・・小さなことをやり遂げる習慣が根気の元です。・・・


 〇描く?

 身近なものを描くお絵かきも楽しいものです。見たままを描くといっても,一度に全部は描けません。描いていると「ここはどうなっていたかな?」という箇所が必ず出てきます。見ていても記憶していないのです。覚えていないから,設計図がないのと同じで,描く作業が滞ります。

 人の記憶は曖昧です。記憶していないと役に立ちません。描くことで細部を認知できるようになります。ものを見る目を養うことになります。描くことで頭の中のイメージを出力し,それを再確認することで,より正確なものに修正していけます。きちんと描くまでには時間をたっぷり与えることです。

 ところで,幼子の描く絵は奇妙です。バランスがとれていません。大きさが不釣り合いです。配置もバラバラです。視点も自由奔放に動いているので,あっちこっちから見えるものがツギハギされているように描かれます。まるで抽象絵画のようです。

 ママを描いた絵では,顔が大きく描かれ,身体は付け足しのように小さく描かれます。幼児に記憶されているママのイメージが描かれているのです。大人は人としての体型を忠実になぞっていないと注意します。しかし,絵はイメージの再現ですから,あまりこだわる必要はありません。

 絵には,科学的な設計図と感覚的なイメージ図があります。子どもの描く絵は普通の絵画と同じように,感覚的なものです。心の表象として絵を描かせる診断法があるのは,そのためです。幼児は言葉が未熟であり,また自分の心を語るもう一人の自分も未発達ですから,気持ちを表現できません。それを補うためにも,子どもの描いた絵を見守ることが役に立ちます。

 絵を読むといっても,専門的な読解はできませんね。「何を描いたの? 何をしてるの? ここは何処? この人は誰?・・・」といった質問をしてみたり,「可愛いね! 大きいね! 楽しそうね!・・・」と感想を共有する言葉をかけてください。絵の雰囲気とともに,この子は寂しいのか,楽しいのか,うれしいのかといったことを感じてくだされば十分です。

・・・子どもは心のイメージを素直に描こうとしています。・・・


 〇観察?

 何かを描こうと思えば,まず最初にするのはデッサンですね。大まかに言えば,形のイメージを切り出すことです。見たままの形を描けばいいのですが,それが意外に簡単ではありません。デッサンに用いる基本的な形は,丸,四角(正方形,長方形など)です。三角もありますが,少ないでしょう。

 ものを観察するとき,それがいくつかの丸といくつかの四角の組み合わせであると読みとらなければなりません。それを教えるためには,積み木遊びがいいでしょう。四角な棒を組み合わせれば,いろんなものを組み上げることができますね。細部は再現できなくても,イメージはできあがります。何に見える?という遊びをたくさんしてください。

 幼児に一匹の黄色の羽をしたチョウチョを見せておき,それを他の種類のチョウチョがいる箱の中に紛れ込ませます。「さっき見せてあげたチョウチョは,どれだったかな?」と探させます。「これ」と指差せる子と指せない子がいます。どうしてでしょう?

 指差せる子は「黄色いチョウチョ」と覚えているので判別できるのですが,黄色という言葉を知らない子どもは指差すことができません。色はそれを表す言葉を知らないと見えていても記憶に残せないのです。子どもの絵を見ると実際とは違った色で描いていることがありますが,色盲である場合は別として,まだ色の識別ができないからです。クレヨンの色を言葉で覚えさせてくださいね。

 小学生になると,立体的な絵を描けるように,観察力をバージョンアップしなければなりません。何を意図的に見るようにすればいいのでしょう? それは明るさです。光の当たっている部分と影の部分を見分ける観察です。光の当たっている部分は白い色を重ね,影の部分は黒い色を重ねる積もりで描けば,立体感が表現できます。

 家庭の中では,一つ気をつけておくことがあります。それは部屋の蛍光灯による照明の下では,光と影が際だちにくいということです。窓から差し込む太陽の光のように決まった方向からの一つの光に浮かぶ絵柄を選ぶようにすれば,明暗がくっきりするので分かりやすいでしょう。ものが見えるのは光があるからであるという原則を忘れないことです。

・・・描くには形と影と色の観察力が必要です。・・・


 〇考える力?

 昔から,読み書きそろばんという素養が求められていますが,若者と接しているとその基本力が身についていないように感じます。読み書きの力が弱いので,思考力も発揮できていません。考える力は,読み書きの能力を縦横無尽に使うことなのです。

 特に,書く力が備わっていないと,知的活動は曖昧な状態に据え置かれます。知ってはいるが納得していないという宙ぶらりんな状態になります。何かについて滔々と意見を表明している方の中に,結局何を言いたいのか分からないという方がおられます。書いてみて推敲がされていないので,納得できていないからです。

 分かりやすい話をするためには,その本質の理解が不可欠です。そのためには,文章に書き表してみて,自らの理解の程度を検証するプロセスを経なければなりません。子どもの文章を読むと,同じことを言い換えながら,堂々巡りをしているものがあります。書いているときは自覚できませんが,書いたものを見返せば,容易に気が付きます。

 推敲という言葉は難解ですが,要は見直すということです。自分の中にあるものを書き出して,そこに並んだ言葉を整理し直し,補充したり割愛する手続きを加えることです。考えるという行為は,書き出してみることで完結します。頭の中だけで考えていると,結局はゴチャゴチャとして混乱するだけだという経験は誰しも持っていますよね。

 話がずれるかもしれませんが,悩みがあるとき,誰かに相談します。分かってもらおうと言葉を選んで話します。そうすることで,自分が何を悩んでいるのか,はっきりと自覚できるようになります。自分の中にあるものを一度出すことができれば気持ちが楽になりますが,それは混沌とした問題を整理することができるからです。

 日記を書くとか,思いついたことを箇条書きにするとか,エッセイを書くとか,何かを書くというプロセスをなるべく取り入れてください。子どもは作文を書くのは嫌いと言いますが,押しつけられた課題について書かせようとするからです。普段から書くという習慣を身につけておけば,それは最高の学ぶ力につながります。

・・・書くことが考える力を育てる基礎訓練です。・・・



《一緒に書くとは,もう一人の子どもの力を引き出すことです。》

 ○お子さんの成長を記録するために,カメラやビデオで撮影されていることでしょう。それは二度と出会うことのない貴重な一瞬です。育ちには今しかありません。姿はアルバムに残りますが,心の記録も残しておいてやりませんか?

 お子さんの書いたもの,描いたものを日付順に整理して残してあげませんか? 何を感じ,何に興味を持ち,何を考えていたか,心の表象を紐解く手がかりになります。作文や絵や賞状などのほか,いろんな記録ができると思いますよ。


 【質問10-06:お子さんと一緒に書いてみませんか?】

   ●答は?・・・もちろん,「イエス」ですよね!?

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