*** 子育ち12章 ***
 

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「第 12-08 章」


『生き方の 生前贈与 受け育つ』


 ■つれづれ

 育児や教育に関する情報は,その気になれば必要以上に手に入ります。できるだけよい子育てをしようと考えると,かなりの量の情報を目にすることになります。ある段階に達すると,納得するよりも,困惑の方が広がってくるようになります。かえって迷わされてしまうのです。

 ある幼稚園の園長先生が自己体験として語っていました。育児書を読みあさっていると,「泣いたらそのまま自由に泣かせてあげなさい」とあるかと思えば,一方では「泣いたら抱いて,声を掛けてあげなさい」とあります。いったいどうすればいいのか,戸惑うことになります。著者が知っている子どもがそれぞれ違うからだと考えれば,対応が違うのも当然ということになります。すべての子どもに当てはまる子育てなどないのかもしれません。

 短い話の一部を取り上げることはフェアではないのですが,子育て情報について大事なことは,子どもが違うのではなくて,同じ子どもであっても状況が違うということです。子どもは痛いときには泣きます,悲しいときには泣きます,満たされないときには泣きます,悔しいときには泣きます,寝足りずに気分が悪いときには泣きます。泣くからにはそれなりのわけがあります。さらに,それは子どもの状況ごとに違うはずですが,同じ状況ならどの子も泣くと考えるのが自然です。

 わがままを言って泣いているときは,自由に泣かせておけばいいでしょうし,悲しくて泣いているときには抱きしめてやるべきでしょう。泣いたらこうするという対応が一通りしかないと考える,正解は一つと思いこむことが間違っています。一人の子どもに対しても臨機応変に対処する必要があります。

 育児情報はケーススタディですから,同じ状況にあるときに限って,有効になるはずです。どんなときにもこうしなさいとは言われていないですし,言えるはずもありません。自分の子どもに対しても,泣いたらこうするという処置は幾通りかあり,ケースバイケースで使い分けることが大事です。一筋縄ではいかないのが子育てなのですから,単純に自分流という安易な道を選ばないようにしてほしいと願っています。

 泣いたらどうするか? この羅針盤では,その方法を選ぶ際に気を付けておく指針を提供しようとしています。安心を与えるべき時は抱いてやればいい,無理な自己主張を抑えるべき時は泣かせておけばいい,そんな適切な選択ができるママになってくださいね。



【質問12-08:ママ,あのね。ママはワタシに生き方を見せてる?】

 《「生き方を見せてる」という意味を分かってあげましょう!》


 〇程がよいこと?

 ワタシのママは,私たちにはたくさん食べなさいと言うのに,自分はあまりご飯を食べません。ダイエットをしているからです。このあいだも,お気に入りのお洋服が着られなくなったといって怒っていました。洋服に怒っても仕方がないと思います。ワタシも去年のお洋服が着られなくなりますが,大きくなったからです。

 ワタシがそう言うと,「それとこれとは話が違うの」って言いながら,別の洋服を引っ張り出していました。ママは大きくなりたくないみたいです。ママと一緒にお風呂にはいるとき,体重計に載ることがあります。ワタシは少しずつ増えていきますが,ママはなかなか変わりません。「全然減ってない」と体重計をにらんでいるからです。体重計がかわいそうです。

 洋服は身体に合わせるもので,身体は洋服に合わせるものではないと思います。ママと二人で湯船に浸かっているとき,ママがお腹を触りながら,「少し肉をあげようか」と言うので,「要らない」と答えると,「親子だから遠慮しないで」と押しつけてきました。ワタシは慌てて湯船の外に逃げ出しました。

 あのね,ママ。ダイエットって,危ないんだってよ。先生が,人は健康であることが一番美しく見えると教えてくれたわ。ワタシは今のままの元気なママでいてほしいな。ママが着られなくなったお洋服は,ワタシが大きくなったら着てあげるから。

 ママは別のダイエットをした方がいいかも。ママの口から飛び出す言葉のダイエットを。少し黙っていてほしいと思うこともあるほど,言わないでいい余計な言葉がポンポン飛び出してくるから。でも,本当にママが言葉少なくなったら,ママが何を考えているか分からなくなるから,困っちゃうかも? やっぱり,今のままのママでいいことにしておきます。

・・・少しぐらいのでこぼこがあった方が,ママらしいのかも。・・・


 〇社会?

 社会科の見学で,スーパーマーケットに行ってきました。野菜や果物,お魚やお肉,お菓子や飲み物,いろんなものがきれいに並べられていました。その後,お店の人が裏の方を見せてくれましたが,段ボールの箱が山のように積んであったり,ごちゃごちゃとしていました。表の方はきれいにしているけど,裏の方はそうではありませんでした。

 弟が「お腹が空いたよ」って言っています。「今用意しているんだから,もうちょっと待ちなさい」。ママの声はちょっぴり甲高くなっています。これはいけません。ワタシは立って行って,手伝うことにしました。「少しは手伝ってくれてもいいのに」って,ママが思っているに違いないからです。

 キッチンは散らかっています。お皿にできあがったハンバーグがキャベツと一緒に載っています。流しにはキャベツの葉っぱが数枚捨てられています。ワタシはお皿を取り上げて,「これはもういいの」と聞きました。黙って持って行くと,「それはまだでしょ」って叱られることがあるからです。

 テーブルにおかずを並べながら思いました。テーブルはお店なんだ。そして流しの方はお店の裏と同じ。きれいにものを並べるためには,裏の方で散らかってしまうことがあるみたい。ママは作る人,ワタシは並べて売る店員さん,弟はお客さん。そうなんだと思って楽しくなってきました。

 あのね,ママ。ママとワタシと弟,三人のつながりを見てると,社会科で勉強したことと同じように見えてきて,ママはすごいなと思うよ。お家でスーパーマーケットのおじさんと同じ仕事をしているみたいなんだもの。ママがイライラせずにもうちょっと普通にしてくれていた方がいいと思うけど。ママにそのつもりはなくても,ワタシはママの背中でいろんなことを学ばせてもらってるの。

・・・社会とは,人が役割分担によってつながっている関係なのです。・・・


 〇不仲?

 ママがパパと険悪のようです。夕ご飯を食べているとき,二人は無言です。ワタシが弟とケンカするときはわめき合いますが,大人は違うようで,くすぶっています。弟は何も感じていないように普段と変わりなくしていますが,ワタシはどうしていいのか分からず,二人を見ているしかありません。何を食べたか分からないまま,夕食を終えました。

 ママは私たちにはいつもと変わらない口調ですが,顔が笑っていません。弟がはしゃぐのを一所懸命抑えなければならず,疲れてしまいます。これ以上ママの気持ちを乱してはいけないような気がしたからです。学校に行っても楽しくありません。遊んでいるときは忘れていますが,授業中に黙って座っていると,ふっと思い出されてしまいます。

 このごろ,明るく笑うことができなくなりました。ワタシが何かいけないことをしたせいかなって,思ったりします。いつだったか,ママがワタシのことでパパと話していて言い争いになったことがあったからです。考えても思い当たることがありません。弟とケンカをしましたが,これまでもあったことで変わりはありません。

 あのね,ママ。ワタシはどうすればいいの? ワタシには大人のママとパパを仲直りさせることなどできっこないし,とても耐えられない気持ちになっちゃう。ワタシにできることは思いっきり悪いことをして,不良になってしまうしかないみたい。

 気詰まりな状況から逃げ出したいという気持ち,ママとパパに裏切られたという腹いせ,そしてワタシが悪い子になればママもパパもケンカどころではなくなるかもしれないという期待,そんな気持ちが渦巻いて頭の中がどうにかなってしまいそう。何か違ってるんじゃない? 助けて,ママ。

・・・子どもは大人と別世界で生きているのではありません。・・・



《生き方を見せてるとは,素っ裸の心を見られていることです。》

 ○人は自分でこうありたいと考えているようには生きられないものです。あちらこちらにほころびを抱えています。それらをつぎはぎして生きています。子どもも子どもなりに同じように育ちの過程を生きていきます。子どもにとって親は生きる上での最も信頼する道標です。

 高い山や木は,そのつもりはなくそこに存在しているだけですが,知らないうちに目印になっています。幼い子どもにとって,親は身近にそびえる目印です。最初の目印が真ん中からわずかにずれているだけでも,進むうちに大きく逸れていくことになります。そのことを弁えておいてくださいね。


 【質問12-08:ママ,あのね。ママはワタシに生き方を見せてる?】

   ●答は?・・・もちろん,「イエス」ですよね!?

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