*** 子育ち12章 ***
 

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「第 12-11 章」


『ためらいは 背中押すより して見せて』


 ■つれづれ

 学生さんが就職先を選択するとき,先輩がいるかどうかというポイントも評価しています。そのことから何を判断しているのでしょう。先輩という自分となにがしかのつながりのある人も選んだということで自分の選択眼の確認ができること,就職後も何かと面倒を見てくれそうな味方がいるという安心感が確保されること,などが考えられます。

 営業の世界では飛び込みは話も聞いてもらえないのが普通なので,「○○の方から来ました」と公的機関を詐称する悪辣さも出てきます。正式には紹介状ということになりますが,誰かに橋渡しをしてもらえれば,第一段階はすんなりと入り込めます。いろんな会で,新規会員の紹介をすればなにがしかの特典があるというやり方は,扉を開ける鍵を手に入れるためなのです。

 小学生が中学校に上がるとき,近所のお兄ちゃんお姉ちゃんと顔見知りになっていれば,ずいぶんと気持ちが楽になります。はじめて通う中学校がどんなものかイメージできない不安が,知っている人も通っているというだけで,大丈夫と思えて払拭できるものです。知らない土地で同郷の人に会うだけでホッとするのと同じです。

 公園デビューといった小さな地域だけではなく,校区といった普通の地域に溶け込む場合にでも,子どもが同じクラスの親同士のつながりがあれば,割とすんなりと仲間入りできます。誰か知った人がそこにいるということは,たとえそれほど親しくなくて挨拶を交わす程度であったとしても,とても気持ちの上で大事なコネになるはずです。

 新しい出会いに対して,人は臆病なものです。新しい人は何を考えているか分からないからです。そこで途中に何かを介在させることで身を守り,自分に向けられるかもしれない悪意を拭い去ろうとします。それが紹介者の役割なのです。ところで,若者はその紹介者としてインターネットを採用しています。メールという電子機能を介在させることで安心が得られるという錯覚に陥っています。信頼の置ける紹介者を自分の近くで見つけられなくなっているようです。



【質問12-11:ママ,あのね。ママはボクのためらいに気付いてる?】

 《「ためらいに気付いてる」という意味を分かってあげましょう!》


 〇笑われる?

 ボクはみんなの前で話すことがとても苦手です。どうしてかというと,胸がドキドキして顔が真っ赤にほてってしまい,汗がどっと噴き出してくるからです。だから,学校でも先生になるべく指されないように,下を向いています。目が合うと指されそうな気がするからです。

 みんなは先生に指されようと大きな声で「ハイハイ」と言いながら目立とうとしていますが,ボクは見つからないようにちょっとだけ手を挙げています。誰かが指されると,当てられないで済んだとホッとします。友だちの発表を聞いていると,同じことを言っているので,ボクが答えなくてもいいなと思っています。

 授業参観の日は学校に行きたくありません。教室の後ろに立っているママに,手を挙げようとしないボクが見つかるからです。今日は先生がみんなに手を挙げさせて聞かないように,と一所懸命祈っています。班学習なら,発表するのが得意な友だちに任せればいいので,ボクは立って話さなくても済みます。

 あのね,ママ。ボクが小学校に上がるとき,ママは大きな声で返事をするように教えてくれたよね。だから,ボクは名前を呼ばれたら思いっきり大きな声で「ハイ」って返事をしたんだよ。先生はニコニコして「ハイ,元気のいい返事ができましたね」って言ってくれたんだけど,みんなはどうしてか笑っちゃうんだ。ボクが返事をするとよそのお母さんも笑っていた。

 ボクはちゃんと返事をしているつもりなのに,みんなに笑われて,ボクはどうしていいかわからなくなっちゃった。また笑われるんじゃないか,そう思うと段々とみんなに聞こえるように声を出すことが怖くなってきたんだ。ママの言う通りにしたのに・・・。

・・・ママの言いつけを守っているのにうまくいかないと,ためらいます。・・・


 〇口は一つ,耳は二つ?

 ボクが「あのね,ママ」と話しかけようとすると,「今忙しいから,後で」とか,「うるさいわね,ママはそれどころじゃないの」って言われちゃう。ママはボクにいつも「ちゃんとしなさい」って言うけど,ママだってボクの話をちゃんと聞いてくれないんだよ。

 今日うれしいことがあったんだ。お外で遊んでいるとき,さっちゃんが転んで膝をすりむいたんだ。さっちゃんは痛そうにしてべそをかいていたので,ボクがすぐに先生に教えてあげたら,先生は「ありがとう」って言ってボクの頭を撫でてくれたよ。ボクはたださっちゃんがかわいそうだったから先生に教えただけなのに。

 何となくうれしい気持ちがするから,ママにお話ししたかったけど,ママはどうせ聞いてくれそうもないから,言うのは止めたんだ。代わりに,犬のジャッキーなら聞いてくれそうだから,話してやったよ。尻尾を振って,よかったねと言ってくれたみたいだった。

 あのね,ママ。ママは時々ボクに言うよね,「どうしてもっと早く言わなかったの!」。ボクはいつも言おうとしているんだけど,聞いてくれないか,聞いてくれても叱るばかりじゃないか。普通に聞いてくれたらお話ししたいことはいっぱいあるんだよ。「どうしてもっと早く聞いてくれなかったの」。

 ママはボクにお話をしたいと思うことがあるのかな。しなさいと言うか,してはいけませんと言うか,いつも命令することしか言わないんだもの。ジャッキーとお話ししている方が楽しいのはどうしてかな。ジャッキーはボクに命令しないからかな。

・・・共感できないと感じる相手にはためらいで身構えるものです。・・・


 〇初体験?

 遠足で遊園地に行ったとき,お馬さんがいたよ。すごく大きいんだ。ボクよりも何倍も。側に行くとお馬さんがボクの方に顔を近づけてきたから,ちょっと撫でてあげようとしたけど,目の前の口に大きな歯が見えたので,怖くなってあわてて手を引っ込めちゃった。側にいたおじちゃんが大丈夫だよって言いながらお馬さんの鼻を撫でて見せてくれたから,ボクもちょっとだけ触ったよ。ドキドキしちゃった。

 お隣のお兄ちゃんがセミ取りをしていたので,ボクも連れて行ってもらったんだ。白い網をそっと近づけてパッとかぶせるんだ。お兄ちゃんはセミがバタバタしている網をボクの方に差し出して,セミをつかまえるように言ったけど,ボクは怖くて後ずさりしちゃった。

 「セミを手で捕まえたことがないのか?」,「ウン」。「いいかよく見てろよ,こうするんだ」。お兄ちゃんは網を狭めてセミが動けないようにしてから,手を差し込んでセミを捕まえました。「こうしてセミの背中の方から横をつかむようにするんだ」と言いながら,ボクにつかませてくれました。

 お兄ちゃんがつかんでいたときはおとなしくしていたセミが,ボクがつかんだら急にブルブルってしたので,怖かったのとビックリしたのとで思わず手を離してしまいました。セミは飛んで逃げていきました。「ごめんなさい」。「いいんだ,またつかまえればいいから」。

 指の先に今でもセミのブルブルという感じが残っちゃった。セミって力が強いんだよ。でもボクが本気を出してつかんでいれば,きっと逃げられないと思う。今度は大丈夫。初めてのときはとっても怖かったけど,一度つかんだら怖くなくなったよ。

・・・初体験は何も分からないからためらわれるものですよね。・・・



《ためらいに気付いてるとは,育ちのスタート待ちの緊張感の共有です。》

 ○子どもの育ちは大部分が習うより慣れろというパターンです。取りあえずやってみる,そこからいろんな情報が手に入ります。はじめてナマコを食べた人は勇気があると思いますが,取りあえず食べてみたら,意外といけることが分かったはずです。

 情報を手に入れるためには体験ほど確実な手法はありません。ためらいは情報が揃っていないから生じます。大人がしてみせることで大丈夫そうだと思わせることができたら,ためらいの壁はかなり低くなります。ためらいは自分で越えるべきものですから,決して代わってやってはいけません。


 【質問12-11:ママ,あのね。ママはボクのためらいに気付いてる?】

   ●答は?・・・もちろん,「イエス」ですよね!?

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