『お手本が あって育ちの 道しるべ』
■はじめに
前章では,子どもの今が大切ですよと書いておきました。
今は弱くて,できなくて,不器用でいいんだと大目に見ましょう。
でも,そのままでは困りますというママの思いも当然です。
育ちは熟すプロセスによって力を蓄えていきます。
ある日突然立っちをし,思いがけないときに歩き始めましたね。
能力の育ちは坂道を上るように進むのではなく,ジャンプします。
今を大切にするとは,子どもの中で満を持している育ちを見守ることです。
その上で,もう一つ親がしなければならないことがあります。
それは何なのかについて,この章で考えておくことにしましょう。
子どもには育ちたいという本能的な欲求が備わっています。
でも,どのように育てばいいのかという目標は持ちあわせていません。
それを教えるのが親の役目なのです。
古いお話しですが,狼に育てられた少年は四つ足で走っていたそうです。
親が二本足で歩いているから,子どもは真似て歩こうとするのです。
育ちの目標がなければ,育ちの力は発揮しようがありませんね。
【質問2-10:あなたは,お子さんにお手本を見せていますか?】
《「お手本」という内容について,説明が必要ですね!》
〇行かさなければ?
子どもが成長するにつれて,子どもの環境が変わっていきます。赤ちゃんのときはベッドの上,歩き始めると部屋の中から家の周り,近くの公園へと外に向かって広がります。やがて家とは違った場所で長い時間を過ごすような状況に放り込まれます。そのとき子どもが最も不安になるのが,ママがそばにいないということです。
子どもをだっこしているとママの胸でおとなしくしていますが,やがてママの手から離れようとします。子どもはママの胸から勇気というエネルギーを補給してもらって,満タンになったら走り出そうとします。ただし,走り出すためには必要なものがあります。それはあそこに行きたいという目標です。赤ちゃんのとき,ふっと目についたオモチャで遊びたいとママから離れて行ったことを思い出してください。
幼稚園や保育所に出かけるときに,行きたがらないときがあります。そんなときは,まずママの胸で一日分のエネルギーをたっぷりと補給してやることです。次に,楽しいことを一つでいいですから見つけてやってください。行けば楽しいことがあるという目標を持たせることです。○○ちゃんと遊べるよとか,美味しいお菓子とか,優しい先生とか,どんなことでもいいのです。ママが学校に通っていたとき,授業は嫌でも,休み時間や給食など,何かを楽しみにしていたはずです?
ママは今日一日どんな気持ちで過ごしておられますか? あれもしなければ,これもしなければ,ああ忙しい! 今日のお楽しみがありますか? 今日は私の好きなおかずにしようというちゃっかりお楽しみ,今日は好きなテレビ番組があるというお楽しみ,今日はパパに甘えるという秘かなお楽しみ,今日はバーゲンショッピングという浮き浮きお楽しみ,他愛のないことでも楽しみを見つけていれば,しなければということがあっても苦にならなくなるはずです。ママが自分の楽しみを見つける癖をつけていれば,子どもにも伝染するでしょう。
・・・明るいママとは,ちっちゃな楽しみを持てる人です。・・・
〇そんなことは知ってる?
幼い頃は親の真似をして何でもやってみようとします。アニメのヒーローの真似も上手ですね。見たままの動きをやってみて,自分の力を試しています。だんだんと込み入った動作になってくると,思うようにできなくなってきます。できないことがあるという自分の弱さを知ります。そのことと同時に,できる人として親という目標が意識されるようになり,じっくりと親を見るようになります。
親は子どもに弱さを悟らせ,それを温かく見守り,自分のようにやってごらんと手本を見せる役を務めなければなりません。絵を学ぶとき,巨匠の絵を真似しますね。巨匠の絵を見るから自分の未熟さを思い知らされ,巨匠の絵という見本があるからどうすればいいのかが分かります。
ところで,子どもはやがて頭で考えるようになります。何でも見て知ってるという段階になります。つまり,言葉だけの仮想空間に遊ぶようになります。ゲームに夢中になるのも,その時期です。そのときが大人としての親の出番です。暮らしの作業を親に代わってやってみるというチャンスを与えることです。
ママがしていることを見ていますから,よく知っています。さらに知っていれば自分にもできるという錯覚を持ってしまいます。例えばご飯を炊くのは,お米を炊飯器に入れてスイッチポンだと知っています。でもそれだけでは美味しいごはんはできませんね。へたに米を洗うと覚えていると,洗剤で洗ってしまいます。自分でやってみれば,本当には何も知らなかったことを納得するでしょう。知っていることとできることの間には大きな溝があります。
・・・暮らしを通して,親の実力を見せつけてやってください。・・・
〇大人になりたくない?
ママゴトでお父さん役は人気がありません。なぜって,外で働いて家では疲れてばかりの姿しか見えません。ポチになります。エサをもらって,寝ていればいいのですから楽チンです。女の子はお姉ちゃん役になります。おしゃれしていればいいのですから楽しそうです。
子どもにとって親はなりたい見本ではないようです。自分が大人になっても子どもは要らないと思っている子どもがいます。なぜなら,自分という子どもが家の王様で,大人である親が仕えているのですから。
親は大人であり,子どもの将来の姿です。自分は親のようになると思ったとき,なりたいと思わせなければなりません。もしも親に大人としての楽しい姿がなければ,子どもは大人になることを拒否し,今が最高と思い,育ちを停止するかもしれません。
子どもたちは親を尊敬すると言います。その理由は自分を苦労して育ててくれたからだそうです。実のところは感謝なのですが,自分にはとてもできないと考えているから,尊敬にすり替わっています。親が大人としての姿を見せてこなかったためです。
・・・子どもの心に,大人としての生き方を残しましょう。・・・
〇できる子?
親にとって子どもは一つの芸術作品かもしれません。あからさまに意識してはいないでしょうが,無垢の素材を完全なものに仕上げようとします。子どもに夢を託す気持ちとはそういうことです。しつけによって人という作品を創造しているようです。
彫刻をするときの荒削りの段階では,余裕が大切です。人物像であれば,鼻や耳は大きめに,口や目は小さめにしておきます。最初から鼻をちょうどの大きさにしておくと,後で全体の仕上げになって大きくすることができないからです。
子どもを期待通りに育てようとしてきっちり育てていると,成長するにつれてあちこちで身動き取れなくなります。今を完全にすることは,後になって選択肢を無くすことになります。しつけについては枠をあまり窮屈にしないことが大切です。真面目な子に育て過ぎると,子ども自身が身動きできない束縛に悩みます。
親自身は,自分を人として100点満点だとは思っていないでしょう。到らない点もあるが,まあ60点程度であればいいのではと自分ながら納得しているはずです。60点だから,子育てという課題に取り組んで,80点になろうとしています。ママだって大いに失敗しています。だからこそ,大人への成長に子連れで努力しているのではないでしょうか?
・・・できる親・子のレッテルは,後で重荷になります。・・・
〇この子がいるばっかりに?
結婚するとき,幸せになろうねと約束しませんでしたか? 今は結婚時に家財道具一式と舅姑二式が揃っています。結婚後は,減らすしかやることがありません。姑は要らない,夫も要らない,子どもも少なく,ついには離婚で清々するというワイドショーの風物もあります。幸せになるための結婚は,家庭にちょっとした何かが起こると,たとえば子どもが素直に言うことを聞いてくれないといったつまずきによって,いっぺんに不幸なものに変わります。こんなはずではなかった?
昔の結婚は,違っていました。この人となら一緒に苦労してもいいという思いの結果でした。はじめから何もありません。ですから,ちょっとした連れ合いの思いやりがうれしく,幸せになれます。子育てでも,二人の子どもだから可愛くて,たとえ手を取られて思い通りに家事が進まなくても,ちょっとした子どもの笑い声に幸せな気分を感じられました。
中東では,子どものしつけは石に爪で刻みをつけるようなものという言葉があるそうです。雨だれが石に穴を開けるといったことに似ています。根気の要ることなのです。苦労するから幸せが手に入ります。余計なものを捨て去って清々しても,それは幸せの種を棄てているだけです。
ママが子どもを幸せな結婚生活,あるいは自分の人生に水を差す重荷と思えば,子育ては不幸の宝庫です。ほとんど親の思い通りには運ばないからです。親がそう思っていたら子どもは敏感に感じ取り,そんな親にはなりたくないと育ちを親に逆らう方向に進めるでしょう。
・・・子どもは親の結婚観や養育観を刷り込まれていきます。・・・
《お手本とは,人として幸せに生きる姿をみせてやることです。》
○飢餓の地で,少ない食料を赤ちゃんに与えて母が飢えるか,母が生き延びて赤ん坊を飢えさせるかという辛い選択があります。後者が選ばれているそうです。日本でも,出産時のトラブルに際して母体保護が優先されています。無事に生まれてきたら,せめてママの方が少しばかり譲ってみるのもいいのかもしれません。子どもは素晴らしいプレゼントを抱いてママの所に生まれて来たのですから,それを受け取れるママになってください。
【質問2-10:あなたは,お子さんにお手本を見せていますか?】
●答は?・・・もちろん「
イエス」ですよね!?