『子育ちは 持ちつ持たれつ 信じ合い』
■子育ち基礎力概要■
『子育ちの第4基礎力』
この号で取り上げる社会人12基礎力は「情況把握力」です。その内容は,「自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力」で,「例えば,チームで仕事をするとき、自分がどのような役割を果たすべきかを理解する」と表されています。社会は分担することで成り立っています。持ち分があるということです。個々が持っている得意な能力がお互いに結びつくためには,つなぎという重なりのある関係でなければなりません。バラバラに分離していては用をなさないのです。
子育て羅針盤では,子育ちの第4基礎力を「共に生きるためにお互いを信じる力」と考えています。共に生きるとは,それが自分にとって都合がいいからとか楽だからという打算ではなく,皆で一緒に生きる方がより大きく豊かな生き方ができるというお互いの信頼によるものです。自他の友好的な関係が社会の基盤であると理解し,その関係を作り維持していくためには,状況を的確に把握する力が育たなければなりません。
人との関係には,昔から性悪説と性善説の二つの見方があります。人を見たら泥棒と思えとか,渡る世間は鬼ばかりということわざが前者です。捨てる神あれば拾う神ありは,後者です。いずれも言われているほど極端ではないにしても,それらしいという場面に出会うことがあります。一見の人を信用するかどうか,気を遣いますが,社会は一応信用することから始まっています。その関係を一層深めて信頼にまで高めるには,いくつかの確認ができる状況把握力が求められます。
地域に対して無関心な人がいます。地域の安全を享受していながら,それが誰かの働きで維持されているという,つながりに思い至りません。車からゴミを放り投げる大人もいます。玄関前を犬のトイレにする飼い主もいます。人の迷惑などお構いなしという無恥は,共存という社会の仕組みを理解できていないためです。社会人とは,自分の周りにいる見ず知らずの人とのつながりに敬意を払う気遣いのできる人なのです。
現在の社会は分業によって成り立っています。ゴミは袋に入れて出しておけば,消えていきます。出されたゴミがどうなるのか,知ったことではありません。自分には関係ないし,それを知った所でどうということもない,そう考える引きこもりが無意識の無責任となります。ゴミ袋に竹串を無造作に入れておくと,収集する人が怪我をします。ゴミの処理費用は巡り巡って自分の懐から天引きされています。生活の一つ一つは大きな社会的関係の中にあることを弁える力が品格です。
【指針28-04:育ちには,共存を納得し信頼する力が十分な要件です!】
■子育ち支援メモ■
『多様な間合い』
通学合宿という体験事業があります。子どもたちが共同して数日間を暮らしながら,通学するという事業です。「ごはんは?」と言えば,食べられる家庭とは違って,自分たちの手で用意をしなければなりません。普段ごはんが食べられるのは,お母さんが面倒な炊事をしてくれているからと,納得する機会になります。自分と周りがどうつながっているのか,周りの人のお陰であるという共存の信頼関係を身に染みて理解できます。かわいい子には旅をさせよ,それはとても大事なことです。
人は社会的な生き物という定義付けがあります。平たくいえば,群れを作りたがるということです。何のために群れを? 群れになると力が強大になるということですが,外敵に対する恐れが背後にあります。この心理を逆用して,自分の群れを作ろうという魂胆が現れます。外敵らしい者を想定することで仲間の結束を生み出そうとする企みです。いじめはその典型です。誰かを寄って集っていじめる,いじめ仲間という結束は恐怖によるつながりです。卑怯な共存です。
差別やハラスメントは無くさなければならないことですが,100%の人格形成が難しいのでしょうか,なかなか消滅しません。関係性が強くて束縛になっているようなときに,起こりやすくなっています。「嫌なら,関係を絶てばいい」という方法が封じられている場合に,強者のエゴが腐れていきます。風通しがわるいからです。子どもの世界も,園や学校でしか人間関係がないと,つらいことになります。たくさんの関係を持つことは,腐敗を防ぐ意味でも大切なのです。
人との関係には深浅の度合いがあります。いない方がいい人,いてもいい人,いなければならない人,いて欲しい人。周りの人それぞれをどう思っているか,同時に周りの人からどう思われているか,それが一致していればいいのですが,とかくすれ違うものです。ストーカーなどはすれ違いの極みです。もちろん自分の都合のいいように思いこむ方が間違っているのですが,そう思いこませてしまう無頓着も気をつけなければなりません。関係の間合いを見極める感性を育てておきましょう。
情けは人のためならず。若い人の中には,情けをかけると甘やかすことになりその人のためにならないと解釈する者がいるそうです。側に居合わせる人に情けをかけると,その好意は人のつながりを巡って,結局は自分に向かって返ってくるという意味です。他者から情けをもらうのではなく,自分から情けを掛け合うことで,社会の優しさが維持されているという社会の仕組みへの信頼が,人間関係を豊かにしてくれます。
本を読まなくなった傾向と同期して,学力が衰退しているように思います。言葉の力が知恵の摂取と密接に関連しているからです。言葉を知らないことは無知と同義なのです。言葉,その表現としての文字は人間の営み,心象,生き方を意識の世界に翻訳する大事な記号です。言葉を操ることによって,もう一人の自分は自分という生きているハードを制御するソフトを手にすることができています。文章というプログラムが人生という機能を発揮させていると考えることができます。
厚生労働省の研究班が,幼児期に親と一緒に好きな童謡などを歌う機会が少ないと,小学生になってから「あまり頑張れない」と感じる傾向がある,という調査結果をまとめています。親子の触れ合いが,子どもの成長によい影響を与える証だということのようです。歌を覚える,それは詩となっている言葉と感性を結びつける大切な仕組みです。言葉は母国語というように,母親からもう一人の子どもに口伝される大事な第二の母乳なのです。
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