『子育ちは 頼られること うれしくて』
■子育ち12イメージ■
『子育ち第4指標』
子どもの居場所であり,育ちの場である温かな人間関係を持つことが,第3の指標でした。ところで,人とのつながりといっても,ただ知り合っている,遊び仲間といった程度のつながりだけでは十分ではありません。深いつながりを持つことが大切です。深いとは? それは共に生きていること,喜怒哀楽を共有できることと言うことができます。面白いことだけでつながるのは,心が通う間柄ではありません。親友を得るためには,苦い体験を共有することも必要になります。
長崎で事件を起こした11歳の少女に対する家裁の書類に,「自分の欲求や感情を受け止めてくれる他者がいるという基本的な安心感が希薄だった」と記述されていたそうです。安心感の失われることが社会的に許されない行為を生み出す可能性を示唆しています。特に,大事なことは負の感情を受け止めてくれる人の存在です。苦しいときにこそ,寂しいときにこそ,そばにいてくれる人,そういう人に包まれていれば,子どもは道を踏み外すことはありません。
「あんな人だとは思わなかった」。人間関係には時として裏切られるということがあるようです。そんなとき相手の変容を責めたくなります。そして縁切りとなり,繰り返すごとに,つきあう人が少なくなっていきます。それはあまりよい流れではありません。相手の人が変わったのではなく,自分が思っていた相手のイメージが間違っていたのです。他人のことは分からないものなので,自分の勝手な思いこみであったということです。思い直して,新しいイメージを作ればいいのです。新しい形のつきあいが始まります。
ある役職に就いた人は,当初はどことなく板についていないように見えますが,しばらくすると役職にふさわしい風貌を漂わせるようになります。子どもも同じです。新一年生はランドセルが借り物のようですが,数ヶ月すると1年生らしくなってきます。どことなく頼りなげであったママも,今ではしっかりママさんになっています。自分は○○であるともう一人の自分が自覚するとき,社会的に認知されている立場に自分を適合させることによって居場所を獲得できるようになります。
つながりを表す絆という漢字は,半分の糸と書きます。お互いが差し出した糸が絡み合うとき,つながりが結ばれます。独り相撲ではないのです。お互いに相手を必要としている五分五分の関係がつながりです。子どもは母親を必要としています。そこでもう一人の子どもが,母親も子どもを必要としているということを分かると,そこに安心できる居場所を見つけることが出来ます。子どもを受け止めるだけではなく,子どもに手伝いなどの形で頼ってみるようにすれば,信頼関係が育まれます。
【指針30-04:共存を願って信頼することができる子ども!】
■子育ち支援メモ■
『お互い様という経験をさせましょう』
お里が知れるという言葉があります。育った環境が,お人柄を彩るからです。園や学校,更には塾やクラブといった環境を選ぶことが,親にとっての問題になっています。よい環境を選ぶことが子育ちには大事であるからということです。そのことは間違いないのですが,選択の基準に注意しなければなりません。ともすればサービスがよいということで選ばれがちだからです。子どもがお客様になっている環境は育ちにはマイナスになります。普通の環境であることで十分です。
不登校になる子どもたちの多くは,クラスメートや先生との相性の悪さを語ってくれます。学校という環境が居場所ではなくなっているのですが,その要は人間関係です。よく聞いていると,自分のことを分かってくれない,ちやほやしてくれないといった自己中心な言い訳が出てきます。居心地のよい居場所を他人が提供してくれないということです。人間関係は五分と五分であるというお互い様の経験が不足しているので,相手の都合である五分を自分への反感であると勘違いしているのです。
人間関係は鏡に似ています。自分が相手を嫌いになれば,相手も素っ気ない対応をしてくるものです。その素っ気ない対応が印象に残るので,嫌いになった理由は相手にあると思いこむようになります。自分のことは気付かなくて,棚に上げてしまうのです。人間関係を決めているのは,自分の方です。もう一人の自分が動かすことの出来るのは自分だけだからです。相手は思うようにならないのです。そのことを弁えるために,幼いうちに小さな諍いを経験して学ぶことが必要になります。
帰属意識というものも,居場所の自覚になります。大人も社会的な組織に入っているとき,安心することが出来ます。何処にも属していないと,自分の存在感がなく,落ち着かない気分になります。子どもにも,帰属意識を持たせてやるようにしましょう。○○家をはじめとして,○○園,○○学校,更には○○子ども会,○○チーム,○○クラブといった組織の一員という意識があると,信頼関係の輪の中にいる自分を認知することがが出来ます。仲間がいるという安心感が得られます。
正しい居場所の観念を持つようにならないと,社会生活に入ることが難しくなります。勤めるようになっても,自分には合わない仕事であるという理由で辞める若者がいます。仕事の方を自分に合わせようとしています。仕事に自分を合わせていくことが本来の姿です。求めるのではなく,求められている自分になることが社会化です。仕事を引き受けることの出来る自分が求められているのです。自分を生かすというのは,自分を共同可能な形に変えていくことでもあるのです。この育ちが今の若者には特に不足していました。共同する体験をしっかりと与えるようにしましょう。
子どもが社会を安心できる居場所であると認めるのは,人間関係の中にある信頼を通してであるというのが,第4の指標でした。その人間関係を組み上げているのが言語です。人としてのあらゆることが言語という記号によって可能になっています。もう一人の自分は言葉を取り込むことで知恵を獲得していきます。その知恵が自分に向かうとき,もう一人の自分は自分を理解し他者を理解し,社会で自分を生かすソフトを作り上げていくことが出来ます。(以下次号)
今,子どもたちを取り巻く社会環境は,商業圏に取り込まれつつあります。子どもたちがお客様であり,親の財布を開かせる目標になっています。子どもの育ちを支援するという触書を付けることで,良いものであるというイメージを売り込んできます。教育費という家計項目がありますが,そこだけが子育てではありません。生活のすべてを通して養育は行われています。普段の親子の対話も立派な子育て行為なのです。気持ちの豊かさがよい環境になります。
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