*** 子育ち12章 ***
 

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「第 3-03 章」


『親の字は 木上に立って 見ると書く』


 ■はじめに

 親たちが思うしつけの悪い子とは,どんな子どもだと思われますか?
 前にも紹介したように,最も多いのは言葉づかいの悪い子だったそうです。
 挨拶や敬語などを含めて,情報化の中で言葉の質が粗末になってきました。

 物心のついた子どもは母親から「第二の母乳」として母国語を摂取します。
 つまり,言葉を覚えたときに子どもは育っていくことができます。
 だからこそ,言葉づかいは品性といった人となりを醸し出すのです。

 言葉は他人とのコミュニケーションの道具であるばかりではありません。
 言葉によって学びが可能になり,言葉によって心の整理ができます。
 悩みや苦しみは言葉になったときに,解決への手がかりがつかめます。

 子どもを育てていると,親になったという充実感をお持ちでしょう。
 「親」という言葉を自分のものにしたとき,親になれるのです。
 人類という生物種は言葉を獲得したときから,人間になれたのです。

 身体の健康のためには,栄養のバランスを気に掛けています。
 心の健康のためには,言葉のバランスを考慮することが大事です。
 そのために,ママの母乳が豊かなものであることが望まれます。



【質問3-03:あなたは,お子さんの言葉づかいが気になりませんか?】

 《「言葉づかい」という内容について,説明が必要ですね!》


 〇いただきます?

 お年寄りは孫が可愛くて仕方がないようです。二歳の誕生日に鯛の尾頭付きで祝ってやりました。ところが,孫がその塩焼きを見て泣き出してしまいました。「この魚,目がある」というのです。

 普段は切り身のパック入りの魚しか見たことがなかったからです。切り身には生き物を食べるという実感がありません。食べることは殺すことである事実が見えにくくなっています。牛や豚,鶏に限らず野菜や果物もすべては生き物です。命を頂いているという気持ちが「いただきます」という食事前のお礼になり,「ごちそうさま」の食事後の感謝のはずです。

 命の尊さを心に刻むのに最も相応しい時期は,感性豊かな幼いときです。幼いときは一生懸命に生きていますから,生きることに敏感だからです。その意味で,おじいちゃんが孫に尾頭付きのお祝いをしたことはよい学習の機会です。ともすれば,幼い子どもには古くさいお祝い事など喜ばれないとママは考えて,それよりはハンバーグでお祝いしようとしがちでしょう。でもそれでいいのか,考えてみませんか?

・・・意味が分からねば,言葉は流れてしまいます。・・・


 〇ボディランゲージ?

 表現の学習として子どもたちに一行作文を書かせている先生がおられます。「アヤメが咲いた。となりの犬が見に来た」。きれいという言葉を使ってなくても,言外にその意味はあふれていますね。「雨が降る 今日の雨はいい音してる」。雨から音を聞く感受性を発揮して,雨を耳で観察できています。

 「おめでとうと言われ,くすぐったかった」。直接にうれしいとは言っていませんが,身体で感じている様子が見事です。もしどんな気持ちと尋ねられたら,「うれしい」と言葉で答が返ってくるでしょう。でも子どもの様子をよく見ていると,口ではうれしいと言いながら,妙に身体をくねらせていることはありませんか? ママは姿勢がしゃんとしていないことを気にしているかもしれません。くすぐったいのですから,大目に見てやって下さい。

 ママのこともよく見ていますよ。「お母さん 向こう向いたまま怒る」。子どもは自分の切なさの原因が何処にあるのか,具体的に直感しています。この作文はママの気持ちを動かすはずです。「お母さんの手冷たい,しんどいのかな」。冷たい手がふつうではないことを感じ,それを疑問に思っています。その疑問を引き出したのは,ママが大好きだということです。ママのことが心配だからです。

・・・目は耳よりもよく聞こえることがあります。・・・


 〇心変わり?

 子どもたちは本を読み聞かせてやると喜びます。ある保育園で先生が参観日に親たちにその様子を見せてあげようとしました。話がクライマックスになったとき,いつも落ち着きのない子が「オシッコ」と言い出しました。その後はガヤガヤと流れが乱されてしまいました。

 前の日まではおとなしくお話しが聞けていたのに,どうしたのでしょうか? 変わっていたのは先生の方なのです。先生が親たちに見せようという気持ちを持っていたために,子どもとの心の交流が薄くなってしまったからでした。不安定な子どもはそれに敏感に反応したのです。そして,「オシッコ」と言うことで,先生との関係を結び直そうとしました。

 ママがよその人と話していると,わざと邪魔するようにまとわりついてくることがありませんか? ママから「うるさいわね,あっちに行っておとなしく遊んでいなさい」と言われてしまいます。子どもはママとの普段の関係に何となく安心できないものを感じているからです。ママとの関係に空腹なのです。満腹していれば,ママなど見向きもしないで一人で遊びます。

・・・子どもはママに恋しています。・・・


 〇離乳語?

 わが子が赤ちゃんのときには,分かるはずもないのに言葉をかけていましたね。言葉は物心の母乳だと言い続けてきました。ものの考え方や感じ方を作り上げる総合食なのです。

 さて,言葉について話を少し進めておきましょう。母乳語は具体的ものごとを表します。ワンワンではなくて犬,机や椅子,パパやママ,ご飯ですよ,走る,座るといった日常語です。「ちゃんとして,きちんとして」といった曖昧な命令語ではありません。ところが,それだけでは済みません。離乳語に替えていかなければなりません。抽象的な物事を表す言葉を教えます。例えば,おとぎ話などからはじめるといいでしょう。

 おとぎ話では動物がしゃべります。テレビのキャラクター任せでは栄養が偏りますし,味も濃いめですから控えめにしてください。ただ,控えめにするために禁止するという手は勧められません。別の栄養豊かなものを与えれば,自然に控えられるはずです。絵本を読んで聞かせることも手軽にできることです。

 抽象的なものには,時間の概念,数字の概念,何より気持ちの表現など,いろんなものがあります。初めのうちは,子どもの気持ちをママが表現してみせる必要もあるでしょう。子どもが転んだとき,ママが「痛かったわね」と語りかけます。夕暮れ時,「パパが帰ってくる時間よ」と,時計を一緒に見ましょう。ママは子どもに向けておしゃべりであるべきです。

・・・心の栄養不良は,言葉の欠食が原因です。・・・


 〇理性語?

 若者言葉がやり玉に挙がることはしばしばです。いわく,語尾が伸びたり上がったりする。言葉を発しながら次の言葉を考えているからです。いわく,話が長々と続き,切れ目がない。考えを自分の中でまとめる作業ができていないからです。いわく,「やっぱり,とか,なんか,みたいな感じで,…」と,感覚的で曖昧な表現が多い。理性の発育が未熟な状態だからです。

 理性の発育とは,豊かな語彙を身につけていることです。言葉を操る能力が理性を醸し出します。挨拶でも決まり切った言葉だけを並べたものは,心に届かないばかりか,言語明瞭意味不明といった印象を受けます。理性が感じられません。若者が何を考えているのか分からないという声もあります。それは若者の語彙が少なすぎて,それも感性的なものに片寄っているために,理性での理解が不可能だからです。

 さらにいわく,発音が曖昧。これも若者が自分の使っている言葉の意味をきちんと理解していないからです。言葉を雄叫び程度にしか意識していません。その例が「ムカツク」でしょう。意味を伝えるよりも,一種の叫びです。若者が大人の話に耳を傾けないのは,言葉が叫びではないからです。マンガで育った世代は擬音語や擬態語といった感性語には反応できますが,意味を持った理性語は外国語のように聞こえているのかもしれません。

・・・理性語とは意味が明らかで伝達可能な語彙です。・・・


 〇しゃれた会話?

 つい昨日のことのように覚えているでしょうが,パパがママを口説いたことでしょう。好き同士であればどんな表現であっても,十分気持ちは伝わります。でも,外国人に比べると日本の男性は,女性を口説くことが上手ではないようです。普段から話を聞かせる訓練をしていないからです。聞いてもらうという気配りが働いていません。

 おしゃべりはできるのですが,しゃれた会話ができません。因みに,おしゃれの「しゃれ」とはしゃれこうべのしゃれと同じです。「さらされる」という言葉なのです。水にさらすと言えば,意味はお分かりになるでしょう。お化粧を塗ることはおしゃれとは逆の行為になると思いますが?

 スピーチなどはひどいものです。いい話を聞いたという経験はめったにありません。しゃべりが下手という問題ではありません。内容に洗練さとか新鮮さがないのです。聞いた直後に思い出せないほどのものです。話すことばかりに気を回すので,聞き手のことを疎かにします。その人の個人的な経験を知性の流れにさらして,人に分かるように言葉を選ぶ手間をかけさえすればいいのです。

 ある披露宴で,木訥な農家のおじさんが,親族としてぼそぼそと話してくれました。畑をしていると青虫は害虫です。作物の花が交配する助けをしてくれるチョウチョは益虫です。そして青虫がチョウチョになります。だから,畑の周辺には青虫のための作物を残してやっているという話でした。そこから教訓めいた話には続かず,そこで話はプツッと終わりです。でも,生活とか,生きるということに向き合う姿勢を鮮やかに切り取って見せてくれました。

・・・言葉を丁寧に紡ごうと努めれば,会話のおしゃれができます。・・・



《言葉づかいとは,意味を正確に表現し伝達しようとすることです。》

 ○「ありがとうございます」ではなく「どうも」という言葉が幅を利かせています。意味不明な言葉づかいをしているから,感謝の心が湧きません。曖昧なままではとても頭は下がりません。コミュニケーションがうまくいかないときは,言葉が通じていません。伝えたということと伝わったということは違うのです。

 【質問3-03:あなたは,お子さんの言葉づかいが気になりませんか?】

   ●答は?・・・どちらかと言えば,「ノー」ですよね!?

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