*** 子育ち12章 ***
 

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「第 32-09 章」


『子育ちは 子どもの時を 通りつつ』


【助言32-09:子どもの興味をそらすのはやめましょう】

 ■子育て12助言■
『子育ち第9助言』
〜将来の心配を言えば鬼が笑う〜

 子どもは子どもの世界を生きています。大人の世界とは違う世界なので,大人の世界ではトンチンカンな言動をすることになります。大人の洋服を着ても用をなさないのと同じです。子どもは子どもの世界を生きることで身の丈にあった育ちをしていきます。家庭は大人の世界と子どもの世界が同居する世界だと弁えて,無理矢理子どもを引きずり回さないようにして下さい。

 4歳と2歳の姉妹が,ぬいぐるみと病院ごっこをしています。長女が「あっ,キティちゃんがケガをしてます。血が出てるーっ。早く救急車を呼んで下さい」と言うのに,次女は「きゅーっ きゅーっ しゃーっ」と返しています。ママは陰で「いち いち きゅー」とつぶやきながら,幼い姉妹に119を教えたら,本当に電話をしてしまうかもしれないと恐れていました。そこで,本当のことはもうしばらくお預けにすることにしました。「ごめんね」。

 生兵法は大けがの元。幼い子どもは正確な知識を間違いなく使いこなせるとは限りません。使えるようになるまで教えないという選択も大切です。救急車を呼ぶことが分かっていれば十分です。子どもの関心に全部きちんと応える必要はありません。年齢に相応しい対応をすればいいでしょう。子どもは遊びと実生活を区別しようとはしません。遊びの世界にいる子どもは,現実をディフォルメしているので,細かいところは不正確でもいいでしょう。気にすることはありません。

 3歳くらいの女の子が,ママに叱られています。ママはどうやら本気です。「きちんとママにお話できるようになるまで,トイレに入ってなさい!」と言われて,トイレに押しこまれてしまいました。数分の後,トイレから出てきました。「きちんとママに話せる?」と聞かれた女の子は大きくうなずき,「あのね,あるところに蛙の親子がいてね・・・」。ママはビックリしましたが,やがて気がつきました。女の子は必死になってママにしてあげる「お話」を考えてきたのです。

 賢明なママはもう事態をすっかりお分かりですね。ママはどうしてこんなオイタをしたのか説明しなさいと言うつもりでした。しかし,説明という言葉は幼子には通じません。そこで「お話をしなさい」と分かるように言い換えました。ところが,幼子の知っている「お話をする」という言葉は,文字通りにお話をすることでしかありません。伝えたつもりが伝わっていなかったのです。子どもの関心事は,オイタの言い訳などではなくて,ママにお話ができるうれしさなのです。

 まだ「す」と「し」がちゃんと発音できない2歳の女の子がいます。毎晩ママが読み聞かせている童話を得意げにマネて,「むかしむかしあるところに,おじいさんとおばあさんがしんでいましたー。おーしまい」と言って明るく喜んでいます。その後に「さ行」の猛特訓を受けている理由までは理解していません。「住んでいます」が「死んでいます」では,意味が大違いです。間違いにも程というものがあり,ママの慌てぶりは分かりますね。

 ひらがなだけでかかれたぶんしょうはとてもよみづらくはありませんか。かんじをしらないようじのことばのせかいはこのようなせかいなのです。すんでいますとしんでいますのあいだにはそれほどおおきなちがいはかんじられません。ましてやしんでいるということばがなんのことかわからないのですからいっこうにきになりません。むかしばなしのえほんをいめーじしながらことばをかさねることにかんしんをもっているのにままはかんけいないことをさせようとしているとおもうでしょうね。でもはなすばあいはひらがなのおとをはっするだけなのでいっそうせいかくなはつおんがひつようになります。おつかれさま。

 お父さんが散髪を終えて家に帰っってきました。3歳の息子がパパの頭を見て「お父さん,散髪してきたん? 飴ちゃんもらえた?」と聞いてきました。もらえなかったと答えると,「お父さん,あかんたれやなぁ…」と言われてしまいました。息子が行っている散髪屋は,かしこく散髪ができたら飴ちゃんをくれるみたいです。お父さんはちょっぴり残念な気分にさせられていました。あなただったら,そんな息子の関心にどんな言葉をつないでやりますか?

 あめ玉に釣られちゃって,お前さんはしっかり子どもなんだよ。でも,笑えませんね。ママだってポイントが付くからってご贔屓のお店がありますから。モノは違っていてもご褒美に釣られるのは,大人も子どもも大して変わりありません。チリも積もればの言葉通りに,おやつ代が節約できて結構です。せこいと思うかしっかりしていると見るか,どちらでも構わなければ,身につまされるときは苦笑いをしておくことです。お父さんは飴ちゃんなんか欲しくはない,と威張っても詮無いことです。

 ママが1歳半の息子を連れて外に出ていたとき,近所の人にキャンディをもらいました。ママはしつけの機会と思って「こういう時は何て言うの?」と聞きました。息子は手を差し出して「もう1個!」。「!!」。ママはそんなこと教えた覚えはありません,と呆れるやら恥ずかしいやら,ひどい目に遭わされました。自分の思いに正直な子ですが,お付き合いという面では今後のしつけ甲斐がありますね。当分の間は,笑って誤魔化すしかありません。

 今一番関心のあること,それは目の前にあるキャンディですよね。ママが言った「こういう時は」という言葉は,今このときに持っている自分の関心によると,という意味に受け取られてしまいました。ママは近所の人と子どもの今の関係を言うつもりでしたが,場の雰囲気などは読めるはずもありません。1歳半ではまだ自分と人との関係を見て取れる「もう一人の自分」は誕生していません。もう一個! それはごく自然であり,親のしつけができていないなどと思われることはありません。

 5歳の息子が数日前に頭にちょっとした怪我をしてしまいました。怪我も癒えてきたので,頭を洗ってやることにして,シャンプーをしようとしたときです。息子は怪我の痕が気になると見えて,「おかあさん,どうなってる?」と聞いてきました。「もう,かさぶたになっているから,だいじょうぶだよ」と安心させたつもりだったのですが,息子は「かさぶたって,ブタなの?」と思いもかけぬ展開になりました。子どもって,わけの分からないことを言うものです。

 かさぶた=傘を被ったブタ? どんな妖怪なんでしょう? 頭がブタになっていると想像したら,怖いですね。子どもの連想はとんでもなく飛躍しているようでいて,実はとても単純です。ぶた,だから,ブタ,なのです。かさ=傘,ぶた=ブタ,知っている言葉をつなげば,当然の帰結です。それ以外にありません。怪我の痕に関心を抱いたのは初体験でしょう。そのときでなければ出会うこともない言葉なので,意味が伝わらなくても仕方ありません。痛い体験も含めて,子どもの言葉は体験とつながって増えていきます。大笑いしてバカ扱いは控えてくださいね。




 子どもの興味や関心は,もう一人の子どもの育ちを促すサプリメントです。子ども用ですから,大人用とは違います。大人の関心を飲ませようとすることは控えた方がいいのです。もちろん,悪い関心や興味はブロックしてやらなければなりません。普段の生活の中のことは大目に見て,生活から外れていることには注意をするといった尺度を持ってみて下さい。子どもがどんな風に考えているのか,よく観察する機会として下さい。

 人には感情があります。その針が大きく振れたとき,感動がやってきます。その感動と興奮をきちんと区別するようにしつけることが大切です。子どもたちが何か面白いことがないかと捜しています。面白いこと=興奮という形にしつけられると,道を誤りやすくなります。人を貶めて興奮するといった道があるからです。子どもが感動という感情のふれをしているときには,真面目に受け止めて,そのことをきちんと印象づけて励ますようにして下さい。(以下次号)。

 ショートケーキがあるなら,ロングケーキもあるのでは? そんなことを考えたことはありませんか? shortには,短いという意味のほかに,菓子などのサクサクするという意味があります。もともとビスケット状の生地をサクッと焼き上げ,イチゴを挟んだケーキでした。日本に入ってきたとき,日本人好みにしっとりと柔らかい台のケーキに作りかえられましたが,名前はそのまま残されたのです。言葉の多義性に注意をして下さい。


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