『座右の銘 ママに尋ねて 無視される』
■はじめに
子どもを育てていると,「こんな時はどうすればいいのか?」と迷います。
皆目分からない場合と,どちらがいいのかを決めかねる場合とがあります。
自分の親はどうしてくれたかを思い出せれば,同じようにできるはずです。
だからといって,自分の育ちをこと細かに思い出せるものではありません。
この「子育て羅針盤」は,それを思い出すお手伝いをしようとしています。
皆さんがどんな風に育てられてきたのかを,再現できたらと思っています。
雨の日にぼんやり外を眺めていて,ふと寂しさに襲われることがあります。
「お母さん」とつぶやいたとき,お母さんの笑顔が浮かんできたでしょう。
子どもに笑顔の自分を思い出してもらえるように,微笑みを忘れないこと。
親になってはじめて,自分の親の思いが胸にじ〜んと迫ってくるはずです。
親と同じ思いをしてこそ,親への感謝と親への本当の孝行が始まるのです。
子どもを育てることで親になるとは,自分の親を追体験することなのです。
【質問5-03:あなたのお子さんは,正しい言葉づかいをしていますか?】
《「正しい言葉づかい」という意味について,説明が必要ですね!》
○いつ育つのでしょうか?
今回のテーマは,「いつ育っているのか」という2番目の問題です。そんなことは普段あまり考えたことはないでしょう。いつ育つと聞かれても,毎日ちょっとずつと答えるしかありませんね。目の前にいる子どもは確かにその通りです。つまり,身体は日々確実に育っています。
ところで,「体ばかり大きくなっても,いつまでも子どもなんだから」と親は思うものです。その子どもはどうして身体と一緒に育たないのでしょうか? 別の育ちをしているからです。別のという意味については再来週号で触れることにして,この号では,いわゆる知恵がつく育ちとはどういうものかを考えましょう。
最近の子どもたちがすぐキレルのは,自分の気持ちを表現する適切な言葉を知らないからです。ムカツクというたった一言に頼っているから,きれてしまいます。その前の段階の小さなイライラを言葉で小出しにしていれば,爆発してキレルまで溜め込まなくて済みます。思いを表す言葉を何重にも持ち合わせていることは,あらゆる場合に大事なことです。創造性,積極性,感受性や正義感なども,それに相応しい言葉を身につけているかどうかに依存しています。
私たち人類は言葉を持ったときに,ヒトになりました。分かるとは分けることであり,分けるためには言葉が必要です。つまりヒトとして育つためには,言葉を獲得しなければなりません。ですから,子どもは一つの言葉を身につけたときに一つだけ育つのです。
・・・使える言葉が増える毎に,その数だけ育っていきます。・・・
〇親子の対話?
親は言いたいことをすべて子どもにぶっつけていますから,対話は充分していると思っています。子どもの方はどうでしょう。中学生とその親に対する調査をすると,親子の対話をしていると答える割合は親よりも中学生の方が20ポイントほど少なくなっていました。子どもは言われっぱなしになっていると感じているようです。どうしてズレが起こるのでしょうか?
親の話し方は「言って聞かせて,分かったわね」という上から言い渡す形で,話の中身については「禁止,命令,愚痴,小言,お説教」等のほぼ40語に限定されているという報告があります。親にとって子どもとの対話は勝負であり,親は負けられないと思ってはいないでしょうか? その証拠に親が言い負けそうになると「ゴチャゴチャ言ってないで」と一方的に対話を打ち切ります。
子どもにすれば,親との対話はほとんどの場合「ハイ」の一言で済んでしまいます。何か言いつけられて「ハイ」,叱られて「ハイ」,嫌みを言われて「ハイ」,トドメの「分かったわね」に「ハイ」。「ハイの返事は?」。こんな調子ではないですか? 「うちの子は何でも素直に”ハイ”と言えるいい子です」と,ママはご機嫌です。
これでは子どもは言葉を覚えませんし,「ハイ」の段階で育ちが止まります。「ダッテ,デモ」と思っても,それを口に出せないままに飲み込まされ続けると,やがて無口になったり,反抗的態度で表現したり,終いにはドカーンと爆発したりします。自分の意見をママに向けて言葉で話すチャンスが与えられれば親子共に分かり合えるし,何より子どもが言葉を身につける訓練ができます。言葉は使ってこそ命が通うものだからです。
・・・子どもに言葉を使わせるには,ママが耳を開くことです。・・・
〇テレビの言葉?
テレビから「おはようございます」と言われて応えていますか? 完全に無視していますね。テレビの言葉は直接自分に向かっては来ません。ドラマを試聴する際は,盗み見・盗み聞きしている状態なのです。ドラマの中の食事風景,寝室風景などはよそ様の家のことなのに,それをのぞき込んで当たり前と思っています。劇場といった場なら舞台をのぞくのは非日常という歯止めがありますが,日常の中でのぞき見が定着するのは怖いことです。
赤ちゃんがテレビを見ながら声をあげて喜んでいます。自分の意思をテレビの人に伝えようとしますが,テレビは反応してくれません。やがて,話しかけても無駄だと覚えていきます。言葉に反応することができなくなり,外部からの言葉による働きかけに心を閉ざしていきます。自閉症に近い症状を呈する子どもはテレビに子守をして貰った子どもたちに多いと言われています。
子どもが不思議に思っています。悲しい事故のニュースを伝えていたアナウンサーが,次の話題に移ったら明るく笑っているのはおかしいと言います。テレビの言葉がウソだと見抜いています。なぜなら,言葉は話す人の思いを伝えるものであり,人の思いとはコロリと変わるものではないからです。もちろん大人はそのウソを承知です。でも,テレビからの言葉にさらされている子どもは,正しい言葉づかいが身につきません。
ドラマの最後に「この番組はフィクションであり・・・」という但し書きが付いています。テレビドラマを本気で信用する人がいるのだろうか,ワザワザそんなことまで断らなくても先刻承知していると,冷ややかに見ておられるでしょう。子どもはどうでしょうか? 殺されたはずの俳優さんがチャンネルを変えると,そこに元気に登場しています。人の死を考え違いします。成長すれば分かると高をくくっていますが,最初の刷り込みはこわいですよ。
・・・テレビの言葉は子どもには消化不良を起こさせます。・・・
〇おしゃべりママ?
昔から洋の東西を問わず母親はおしゃべりであるということになっているようです。どうやら神の采配で,「子どもに言葉を教える先生!」になって欲しいという訳があるからです。母国語と呼ばれているように,人は母の言葉を身につけていきます。心の育ちの母乳なのです。
ところで,ある大学の先生が「お母さんにも声変わりがある」と書いています。赤ちゃんには夫も聞いたことがないような優しい声を掛けて,気持ちを分かってあげています。ところが子どもが成長してくると,声が1オクターブ甲高くなり,「ハヤク,サッサト,チャント,キチント」と自分の気持ちをぶっつけるように声変わりをします。
お顔やお肌の手入れも大事ですが,優しく美しい言葉を使うことができれば,どんなおしゃれにもまして素敵に魅せてくれると思います! 勤めに出るようになった母親の言葉が貧しくなったことを悲しむ中学生もいました。言葉の身だしなみをおろそかにしないで下さい。老爺心ながら・・・?
言葉は基本的に口まねによって伝授されていきます。子どもの話しぶりはママそっくりです。聞いていないように見えて,子どもの耳はママの声をしっかり聞き取っています。大好きなママのようになりたいと思っているから,ママの言葉を大切に聞いているのです。チャント,キチント話してくださいね。
・・・天賦の才能を発揮して,子どもにきちんとした言葉を。・・・
〇正しい言葉づかい?
夕食後,パパが「オーイ,お茶」と偉そうに言ってます。ママはいつもでしたら「ハーイ」と答えているのですが,言葉の先生として目覚めてしまったので,今日は違います。「お茶がどうかしましたか!」。ママは何がお気に召さなかったのでしょうか? パパは「お茶」という言葉をその辺に放り出しています。「捨て台詞」です。聞く方はわざわざ拾いに行かなければなりません。誰に向かって言っているのか頓着しない言葉づかいは失礼だからです。
言葉は「誰に向かって」発しているのかを,明確に表現しなければ不誠実になります。「あなたに向かって」が「オーイ」,「お茶を入れてくれるように頼んでいること」が「お茶」では,聞く方の事情などお構いなしの甘え・無礼さ丸出しです。二人だけの家庭ならまだしも,子どもが見ているところでは要注意です。キチント文章にして「正しく」話す癖を付けることが望まれます。せめて,「ママ,そっちが終わったらボクにお茶を一杯入れてくれないか?」と問いかけて欲しいとは思いませんか?
正しい言葉づかいとは相手に向けてきちんと言うことです。言葉に向きを持たせるしつけができていないから,敬語が使えません。人間関係を橋渡しする言葉づかいは相手を意識することが基本なのです。言葉づかいを叱るとき,「誰に向かって言っているのか!」と言うのも当然です。
日常会話を「単語」で済ませるような言語生活では,自分の思いをまき散らすことしかできません。「お腹空いた」と子どもが言います。放っておいてください。お腹が空いたのは子どもの勝手です。もしママが即座に「そこにお菓子があるでしょ」と答えてしまうと,正しい言葉づかいから逸脱することになります。放っておけない気分なら,「そう,お腹空いたの」とだけ真っ直ぐに受け止めてやって下さい。
・・・正しい言葉づかいとは,言葉を相手に向けることです。・・・
〇知恵のスイッチ!
人は言葉という工具によって脳の配線を連結し,物事を考え理解する回路を組み上げ,物心がついて人間らしくなっていきます。目に見えない抽象語,思いやり,勇気,正義なども,話をする中で意味がはっきりしてくることで分かるようになります。
言葉を覚えるといっても,辞書を丸暗記すればいいというものではありません。暮らしの中での言葉でなければ意味を取り違えます。例えば,贈収賄事件で●億円という金額が報道されますが,暮らしの中では千円単位が通常なので,桁が違って実感を伴いません。ものすごく大きい額らしいという感想です。事件を起こした人は庶民感覚と外れた世界にいるから,程度を越えてしまいます。日常的にどんな言葉を使っているか,その言葉でヒトの行いが紡ぎ出されます。
赤ちゃんは「ほらママよ」と言葉を掛けられるからママを認識できるようになります。かわいい手で肩を叩いてくれたとき,「優しいのね」と言ってやれば,優しさとはこういうことだと分かります。パパが休憩の後で「もうひとがんばり」と言うことで,ガンバルとは続けることだと知ります。
一昔前には無かった「セクハラ」という言葉を知ったときから,歯止めの意識が具体化できるようになりました。子どもにはなるべく早く「危」の字と意味を覚えさせておくことです。学校で教わるときまで待っていては遅すぎます。危険告知の立て看板が幼児でも分かるようになります。知恵は言葉というスイッチが必要なのです。
・・・生活言語が正しければ,真っ当に生きられます。・・・
《正しい言葉づかいとは,お互いに分かり合えることです。》
○心優しい子は優しい言葉を使える子どもです。ママはわが子には案外とぞんざいな言葉を浴びせることがあります。わが子だから何を言っても構わないと
気を抜いています。でも,子どもはそのまんまを手本として覚えていきます。ちょっとは先生らしくしてくださいね? 子どもの言葉づかいの良し悪しは社
会や学校のせいではなくて,ママのせいですから・・・。
【質問5-03:あなたのお子さんは,正しい言葉づかいをしていますか?】
●答は?・・・どちらかと言えば,「
イエス」ですよね!?