*** 子育ち12章 ***
 

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「第 6-03 章」


『ママの愚痴 聞かされ育つ 子が悲し』


 ■はじめに

 ここ数年,成人式の様子がテレビのテーマになっています。大人になりたくない子どもが悪あがきをしている積もりなのでしょう。成熟年齢が昔に比べて7掛けになっているので,20歳は14歳,中学生相当です。30歳で21歳相当,成人になると考えていればいいようです。

 それにしても,式典という行事形態が廃れているのも事実です。小中学校での式典が厳粛さを失い,楽しさを前面に出してきた成果です。楽しくなければ意味がないという選択をしてきたわけです。堅苦しい挨拶を嫌うことが人間的であるという常識を作ってしまったようです。

 堅苦しさとは挨拶にあるのではなく,聞く方が勝手に感じているという面を忘れています。まじめであることをマジと茶化し笑いものにする性根が普通になっていることとも軌を一にします。最近は人としての深みが感じられなくなったという舞台監督の言葉も,おもしろおかしい生き方への警鐘でしょう。

 自分の気に入った話しか聞けない幼稚さは,人の話を聞く力が失われてきたということです。聞けないからお互いが孤独になり,いつも話し足りないという飢餓感に苛まれ,携帯メールにすがっていきます。話をしっかりと受け止めてもらえたという実感があれば,満腹して別れていることができるはずです。



【質問6-03:あなたのお子さんは,聞き耳を立てていますか?】

 《「聞き耳」という意味について,説明が必要ですね!》


 〇何時つき合うのでしょうか?

 都会に住む親子には,公園デビューという通過儀礼があります。はじめて出会う人たちとどうすればおつきあいできるようになるのか?,そんな悩みを抱えているママもいらっしゃるかもしれません。案ずるより産むが易しなので,自然に任せることが一番です。何が自然かといえば,とにかくにこやかに会釈をし,その場にただ顔を出し続ければいいのです。チャンスはすぐに訪れます。

 昔から聞き上手が話し上手と言われています。人は誰しも話したいという気持ちを持っています。「あの人はおしゃべりが好きなんだから・・・」という声を聞くことがありますが,そう話してくれる人も結構おしゃべりな方のようです。こちらが話したくても話させてくれないという不満の表明です。

 社交界にはじめてデビューすることになって心配していたうら若い娘さんが,前の晩に父親に「私はどんな話をすればいいの?」と尋ねました。「あなたは何も話さなくていいんだよ。ただ黙って笑顔で話を聞いていなさい」。教えられたとおりに,娘はかわいい笑顔でみんなの話をひたすら聞くだけでした。やがて,その娘は社交界で最も話が上手だと評判になって,華になっていったそうです。

 人の話に耳を傾けて,適当な質問をはさみ,頷きを返していると,相手は十分に話ができます。そうすれば,こちらを必ず「あなたって,話し上手ね」と感じるようになります。不思議なことなのですが,自分の話がちゃんとできたという成就感が相手を好ましく感じさせるようです。

 数人で話している輪のそばでただ黙って聞いていれば,やがて話し手はこちらに向かって話しかけるようになっていきます。話は聞き手に向かうのが自然だからです。ママが聞き上手になれば,子どももよその親子のお話を聞くことを覚えます。

・・・聞き役になることができたとき,自然なつきあいが始まります。・・・


 〇苦い言葉?

 おませな女の子が登場して大人をドギマギさせる台詞を言うCMフィルムがあります。身近でも,幼い子どもがおじさんが使うような言葉,「一応」とか「兎に角」などを使ってみせるときがありますね。どこでそんな言葉を覚えてきたのかと驚かされます。子どもの言葉の吸収力はすごいものです。

 赤ちゃん時代に周りにあるものを手当たり次第に口に入れていましたね。もう一人の子どもが誕生して第二の母乳である言葉を摂取している時期は,やはり耳に聞こえてくる言葉を手当たり次第に口にしているのです(第二の母乳については前にお話ししていましたし,第70号でも再度触れる予定です)。

 テレビの悪い言葉(?)を覚えてしまうことを気になさっているママがおられるかもしれませんが,それほど気にしないでください。悪い言葉も知っておかなければなりません。どんな言葉が悪い言葉か,見本を持っていないと,判別することができないからです。大切なことは,知っていても使わないということです。

 口に入れて苦いものは二度と口にしなくなります。同じように,口にして叱られたり人を不快にさせるような言葉は,二度と使わなくなります。悪い言葉があることをしっかりと苦い体験にして教えることがママの気をつけるべきことなのです。「ママはその言葉を聞くと悲しくなる」というメッセージをきちんと子どもに伝えてください。

 ご近所の大人に対して子どもらしくない物言いをしたときは,きっとよい応対をしてもらえないでしょう。時には,注意されるかもしれません。子どもの口にちょっぴり苦い思いを味あわせることは良薬になります。その体験をしているかどうかは,その後の言葉遣いの善し悪しを左右します。

・・・耳は常に開いているので,閉じるのは口しかありません。・・・


 〇根付きの言葉?

 かなり大きくなるまで,間違って思いこんでいた言葉があるはずです。子どもたちはたくさん間違えます。幼稚園で先生が子どもたちに「明日はお米一合を持ってくるように」と伝えたところ,ある子どもは一合を「イチゴ」と間違えてママに話したそうです。ちゃんと聞いてないからよとママに叱られたかもしれませんね。でも,それは子どもが可哀想です。だって,一合なんて言葉は知らないからです。

 子どもは自分の知っている言葉しか聞き取れません。同音異義語があるなんて思いも寄らないでしょう。選挙カーが団地を訪れた後です。子どもたちがまねをして叫んでいます。よく聞くと「五千円,ありがとうございます」。ご声援という言葉は子どもの辞書には載っていませんものね。

 子どもは自分の周りの世界を分かろうとしています。手,足,目,耳,鼻,猫,犬,花,皿,箸,靴,車,・・・。実際に目に映るものの名前を覚えることで,世界を理解していきます。信号も,赤,黄,青という色を表す言葉を知らないと,何のことか意味不明になります。どれほど言葉をメモリーしているか,それが物事を理解する程度に関わってきます。

 子どもは聞き耳を立てて言葉を摂取していますが,日頃の世界が狭いと,どうしても言葉が少ないままで足りてしまうようになります。ママとの会話ではたくさんの言葉は必要ではなく,同時にママとの世界以外で必要な言葉を身につけられなくなります。パパと話す言葉,友だちと話す言葉,おじちゃんと話す言葉,先生と話す言葉,さらに遊びの話,スポーツの話,動物の話,いろんな世界に相応しい言葉があります。

 その場にいて,その場に相応しい言葉を聞き取ることが,意味を正確に理解するチャンスです。なまじ現場を離れて言葉だけを聞きかじっていると,勘違いが起こりやすくなります。子どもの戯言,大人の机上の空論というのも,現場を離れて意味が曖昧になった言葉を使うからです。

・・・生活の場を広くすれば,言葉の世界は豊かで深くなります。・・・


 〇連想?

 幼い子どもは犬という言葉を覚える前に「ワンワン」と表現しますね。牛は「モウモウ」,アヒルは「ガアガア」といった具合です。まず耳で聞くことによって対象を区別しています。

 胎児の時にはまだ目で見ることはできませんから,耳で聞いています。妊娠中の夫婦げんかも聞かれていたんですよ。胎教として音楽を聴かせるのは,ちゃんと聞いているからです。まず耳から外界の情報を取り入れているのです。幼いときは耳で外界を感じていると思ってください。

 ところで,ママは犬と猫を目で見た違いで言葉にできますか? 4つ足で尻尾があって・・・と言っても同じになってしまって,違いを説明するのは結構難しいものです。鳴き声なら区別は一目瞭然ならぬ一耳瞭然でしょう。

 見た情報を言葉にすることはとても高等な知識を必要とします。それを補っているのが共通体験,共感なのです。犬を見たことがある人は犬と言えば通じます。ということは,見たことがない人には通じません。もちろん「ワンワン」という鳴き声も,聞いたことがあるから通じます。

 動物園ではじめてライオンを見ると,「大きな犬」と言うかもしれません。「違う,あれはライオン」と教えたくなります。そこでワンクッションを置きましょう。「そうね,大きな犬に見えるものね。でもあれは,ライオンと言うのよ」。子どもの言葉を否定するのではなくて,認めておきます。それに新しい言葉を上書きしてやればいいのです。ライオンとは大きな犬みたいと,関連づけて覚えることができます。

・・・言葉は聞く言葉から見る言葉にヴァージョンアップします。・・・


 〇話を聞く?

 ママの心配の一つに,言葉を話さないということがあります。口数が少ないという悩みです。言葉を話すためには,まず聞く能力がしっかりしていないといけません。ですから,特別に言葉が出ないときは,聴覚の病気が疑われるのです。

 ママは話すことに心を奪われて,聞くしつけが疎かになっていませんか? いっぱい食べて早く大きくなりなさいと言われて育った体験をお持ちでしょう。言葉も同じで,いっぱい聞いて早くしゃべるようになりなさいと育ててやってください。十分に聞いていれば,心配することはありません。

 コミュニケーションの基本は,言葉をつながったものとして理解することです。平たく言えば,単語をたくさん知っていても,それだけではコミュニケーションの力にはなりません。文章としてつながった形になったとき,伝達可能になります。

 人の話を黙って聞くというしつけは,文章として聞き取る訓練なのです。今の子どもたちはその能力が十分に育てられていません。気が向いた瞬間しか言葉を聞き取っていないので,いわゆるちゃんと聞くことができません。ですから,学校の先生のお話が聞き取れなくて,何を言っているのか分からないということになります。

 家庭では単語で用がたせます。外に出るとそうはいきませんね。ちゃんとした文章が交わされています。言葉はつないでこそ役に立つのだという見本を子どもに聞かせることが大事なのです。言葉をつなぐことができたら,洞察力や論理的な思考が自然と身に付くようになります。因みに,本を読む習慣は,言葉のつながりによって情景が組み立てられていることを,話のおもしろさに引かれて,学んでいることになります。

・・・言葉を教えるのではなく,話を教えてください。・・・


 〇同じ立場?

 ママがよその方とお話をしているとき,後ろに隠れるように寄り添っている子どもはじっと聞き耳を立てています。「ママは一体何を話しているのだろう?」。自分に話しているときと違って優しい声をしてるとか,知らない言葉がたくさん出てくるとか,相手の方との間の取り方などを学んでいます。

 ところで,下の子は手が掛からないと感じているママがおられるでしょう。ママはどうしても上の子にしつけの言葉をかけます。それを下の子はそばで聞いています。子ども同士ですから上の子の立場でママの言葉を聞いています。こうしたらママに叱られるということを日頃から予習しています。ママが言う前にその対策をしているので,下の子の方があれこれ言わなくて済みます。

 子どもに本を読み聞かせるとき,向き合うよりも並んで聞かせた方がいいようです。同じ目線で見ることで言葉が自分の言葉に聞こえるからです。何か注意をしたりアドバイスをするときも,並んで話した方が効き目があります。向き合うと相手の存在が圧迫感を与えるので,言葉を聞く集中力が減殺されてしまいます。

 確かにコミュニケーションでは,目は口ほどにものを言い表情からの情報収集も大切ですが,ケースバイケースです。説得の場では,こちらの意志を伝えるのが目的ではなくて,言葉を届けることで相手の心に変化を期待しているはずです。それなら純粋に気持ちを揺さぶる言葉だけが伝わればいいはずです。

 人が変化するとか,考え直す際に最も大事にしていることは,「自分が決めた」ということです。「あの一言が自分の生き方を決めた」ということですが,それを誰が言ったということにはそれほど意味はありません。大好きな人の言葉は素直に聞けるという条件はありますが・・・。

 後ろ姿で育てるということは,後ろにいる子どもに聞かせることでもあるのです。おんぶされていればママと同じ向きですから,ママの発する言葉がよい見本になります。「今日の風は冷たいわね」という言葉が,ママと同じように北風が顔に当たるので共感できます。ダッコされているとそれができません。

・・・同じ立場での言葉が,育ちには滋養になります。・・・



《聞き耳とは,知恵の扉の鍵になります。》

 ○ママはご自分の国語辞典をお持ちですか? お子さんには勉強のために買って与えたけど・・・? ところで,国語辞典に載っている言葉を全部は知りませんね。それでも小説は読めます。図書館にはたくさんの本があります。その本の言葉をバラバラにして集めたものが辞書です。つまり,いろんな本は辞書一冊の言葉に過ぎません。言葉がどうつながっているかが大事な価値なのです。著作権は言葉の並べ方に与えられています。

 【質問6-03:あなたのお子さんは,聞き耳を立てていますか?】

   ●答は?・・・もちろん,「イエス」ですよね!?

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