*** 子育ち12章 ***
 

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「第 6-04 章」


『声に出し 乾いた文字に 潤いを』


 ■はじめに

 子どもの頃の思い出として,紙芝居を楽しみにしていた頃がありました。毎日決まった時間にやってくる紙芝居のおじさんを待って,小さな神社の階段のところに集まったものです。お小遣いで水飴やするめを買って,階段に並んで座り,4巻の紙芝居を見て聞いたものです。

 紙芝居は数枚の絵しかありません。それでも語りによって場面が動いていきます。さっとめくられる場面,半分だけ開かれる場面,ゆっくりと変わっていく場面,声の調子も重なって,ハラハラどきどきしたものです。

 やがて電気紙芝居と呼ばれていたテレビの普及で,すっかり廃れてしまいました。落語や漫才,講談といった話芸も日常から遠ざかっていきました。耳で聞く言葉,それを書き留めたものが文字による言葉です。耳で聞いても目で読んでも,同じ言葉なのです。美しい文章とは,読んで心地よい文章です。

 声に出す言葉には響きとリズムがあり,適切な間(ma)を含むことで,共鳴します。何が共鳴するのでしょうか? 脳の神経伝達回路に心地よい共鳴が起こるとき,感動や驚き,納得や確信のパルスが発信するようです。

 文字を目でしか読まなくなったら,きっと言葉の力は十分には発揮されていないでしょう。声を出して読むことが少なくなった学校教育は,言葉に命を吹き込むことを疎かにしてきたようです。最近の言葉の軽さをもたらしたのは,案外そのあたりかもしれません。



【質問6-04:あなたのお子さんは,文字に関心を持っていますか?】

 《「文字に関心」という意味について,説明が必要ですね!》


 〇何時つき合うのでしょうか?

 このマガジンのマスターは「モリのクマさん」と自称しています。格別の意図はありませんが,いわゆる匿名です。匿名の者はどうしても信頼性に不安がつきまといます。一応の安心をするためには,住所氏名が明らかであるという条件が必要です。携帯電話の出会い系サイトが盛んなようですが,匿名の世界に無防備に入り込む危機管理力は心配です。

 若者からの電話では「○○くん,いますか」と始まります。「どちら様ですか?」と問わなければなりません。まず自分の名前を名乗るのが礼儀ということを知りません。中には,こんな子もいました。「どちら様ですか?」と問うと,それには答えず,「こちらがいるかいないか尋ねているのですから,まずそれに答えてください」と迫ってきます。「お答えするかしないかは,そちらがどなたかが分からないと決められません」と応じると,「結構です」と切れます。何かの勧誘なのでしょうが,人とのつきあい方がお粗末です。

 お年頃の娘を持つ父親の決まり文句は「どこの馬の骨が」でした。まず相手を認知するためには,住所氏名が明らかでなければなりません。どこの誰かが分かったときに,つきあいが始まります。契約などでも住民票などの証明が求められますが,確認される内容は同じことです。住所不定は怪しいと疑われますよね。

 地域にいる人は住所は明らかですから,あとは名前を知ればいいわけです。家々の表札に名前が書いてあります。表札は尋ねてくる人への目印として掲げてあると思われているでしょうが,実は地域への自己紹介の機能も果たしているのです。名前の字はとても大事な情報です。名もない雑草だと思うから無慈悲に抜けますが,それぞれの名前を知った草なら抜きにくくなったりします。名を知ることで情というものが生まれるからです。

・・・つきあいが始まるきっかけは,名前を知り合えたときです。・・・


 〇読めた?

 電車に座っている子どもが窓から見える看板の字を読んでいます。ひらがなだけを読むので,意味をなさないこともあります。それでも字が読めることは子どもにはとてもうれしいことです。字を読むことでたとえ意味は分からなくても何か伝わってくるからです。自分が環境からメッセージを受け取れることが楽しいのです。

 当たり前のことですが,字は人が書くものです。ですから,字が読めるということは,人からの情報を認知することであり,人と仲間になれることなのです。立場を変えれば,自分が人であるという資格になります。大げさにいえば,人間社会に住むパスポートを手に入れることに相当します。

 本を読み聞かせていると,やがて幼児は話を丸暗記してしまいます。一人で絵本を開いて,覚えた話をまるで読んでいるように声に出すことがあります。そのときに子どもは絵本の字が自分の語っている言葉とつながっていることを楽しんでいます。字とは話す言葉なのだという確認をしているのです。

 字に対する関心は言葉と切り離せません。ですから,例えばひらがなを教えるときには,バラバラに教えるのではなくて,言葉と結びつけることが大切です。「い」は「いぬのい」であり,「ね」は「ねこのね」です。さらに,言葉が複数のひらがなを使って書き表されていることをゆっくりと教えながら,「いぬ」,「ねこ」と言葉としてつながりと意味を一緒にイメージさせれば記憶しやすいでしょう。

 「い」を「いぬのい」と覚えた子どもが,「いすのい」に出会ったとき,「いはいぬのい」なのにと言葉の描き出すイメージが混乱するかもしれません。表音文字であることを理解するには一つのハードルがあるので,複数の言葉を関連づけて慣れさせていきましょう。

・・・字を音として演奏できたら,言葉の調べを楽しめます。・・・


 〇表現力?

 読書をする人が減ってきたという声が聞かれます。情報がラジオによる耳からの伝達からテレビによる目からの伝達に様変わりしたせいもあるでしょう。百聞は一見に如かずと言われているように,視覚情報量は膨大で,伝達力は優れています。テキストファイルと画像ファイルのメモリー量を考えれば一目瞭然です。

 映像はクリアなイメージを与えてくれるのに,文字はイメージがかなり曖昧です。情報量が違うので仕方がありません。例えば,「机に向かっている男の人」という言葉からどのようなイメージを描かれますか? 事務机に向かっている社員,勉強机に向かっている息子,座卓に向かっているおじいちゃん,あげればいろいろ出てきますが,人それぞれに違ったイメージが描かれるはずです。イメージは読み手が作っていきます。

 昔々,あるところに・・・と始まる昔話は,時と場所を曖昧にしているから,読み手がイメージを描くことができますし,時と場所を選ばない話として成り立っています。ところが,子どもたちは,昔々とは何時のことか,あるところとはどこかと尋ねます。具体的に自分でイメージを描けないので,不安になるようです。日頃からクリアな情報だけに接しているので,曖昧さを処理する力が育っていません。

 本を読まなくなった理由は,文字から自分なりのイメージを紡ぐ力が育っていないからです。そのことは逆に考えれば,自分の思いを言葉として表現する力が弱いということです。読書によって感動する感性が育っていれば,自分の気持ちを語ることができます。特にストレスである場合は,ため込まずに適切なガス抜きもできて,暴発しないで済むはずです。

 ママと一緒にご近所を散歩をしているとき,たくさんの言葉で話しかけてください。散歩をしている犬を見たら,「尻尾を振って,きっと楽しいのね」と解説してみることもいいでしょう。テレビも子どもだけで見るのではなく,ときどきママが子どもの気持ちを言葉に翻訳することもしてみてくださいね。

・・・言葉を使う力は自分のイメージを紡ぎ出すことです。・・・


 〇大小の文字?

 文字に対する興味が出てきたとき,ママには何ができるのでしょうか? いきなりお勉強では早過ぎます。それとなく環境を整えることから始めましょう。例えば,家庭ではテレビやつくえ,れいぞうこなど,ものの名前を書いた紙を貼り付けます。子どもは自然に習い覚えていきます。

 この方法にはさらに続きがあります。その字の大きさをだんだんに小さくしていって,終いには活字の大きさにしていくと,本などにスムーズに入り込めるでしょう。子どもには大きさが違っても同じ字であるということは自明ではないからです。学ばなければなりません。

 街に出て看板の大きな字,張り紙の小さな字,色の違った字,いろんな種類の字があることに馴染ませることも,字のおもしろさに気づかせることにつながるでしょう。大人にとっては何でもないことが,はじめて字を学ぶ子どもには驚きや不思議に満ちていることを知っておいてください。

 ただあまり急がないでください。急がないとは,子どもの関心に委ねることであり,決してママの思うように教えようとしないことです。尋ねられたことに答えていくつもりでいたらいいでしょう。ママはついもうちょっとと余計なことを押しつけたくなります。子どもはそんなに急には覚えきれません。食べ過ぎると好きなものでも食傷してしまうのと同じです。

 新聞の見出しなどにも目を向けるかもしれませんね。パパが読んでいるのに割り込んで邪魔をします。一緒に読んでやってください。ただ漢字が混じると子どもには完全な言葉になりませんので,意味が読みとれずにすぐに飽きてしまうでしょう。絵本などを与えてやってくださいね。

・・・大きくても小さくても,太くても細くても同じ字なのは不思議です。・・・


 〇お絵かき?

 お子さんが字に関心を持ち始めると,ママは書けるようになることを願うでしょう。でも,焦らないでください。まず読めることからじっくりと始めていけばいいのです。書くまでにはまだまだ準備が必要です。お絵かきを楽しむことで,線や丸を描けるように訓練しなければなりません。

 子どもは文字を絵として認識します。筆順や長短などはかなり難しい約束事だからです。きれいな字を見せておけば自然とバランスのとれた字のイメージを記憶するので,書けるようになったときもすぐに上手になります。

 子どもは文字を絵と見立てていると言いましたが,このことに着目して,ひらがなよりも漢字を読めるようにした方がよいという学者もいます。特に漢字は文字そのものが意味を持つ表意文字ですから,理解し易いというわけです。例えば,「山」は山の絵とイメージが重なりやすいですね。

 暮らしの知恵として,「危」という字を「あぶない」と教えておくことも大切です。この字は注意の看板には必ず書かれているので,それが「危険」と書かれていても,あぶないということが理解できます。学校で習うまで待っていては,危険です。あぶないという意味の記号として,しっかり覚えさせておいてください。

 描くことに慣れさせるために,ペンや紙を身近に置いておくのも,時期を見計らって実行してください。ただあまり聞き分けのない時期では,部屋中が落書きだらけになるので大変ですよ。外に出て,砂の上に小枝で模様を描くような形で楽しませるのもいいでしょう。あまりお勉強の形にこだわらずに,要は線や丸の形をイメージ通りに描く手首の微妙な運びを習得することです。

・・・文字は線画であることを忘れないでください。・・・


 〇いくつ?

 文字と言えば,特殊な文字があります。数字ですね。お子さんがお風呂にはいると,十まで数えなさいと言われているかもしれませんね。数字と言えば,すぐにこの1から10までの順序数を連想されることでしょう。でも,これは意外と大変なのです。「お嬢ちゃん,いくつ?」,「三つ」とかわいく答えていても,本人は何のことやら分かっていません。単位である1年という概念を持ち得ないのですから。

 電話番号が通常は7桁です。数字の並びを覚えるには,これくらいが限度です。携帯電話の番号は11桁ですから自局を思い出すのに苦労します。はじめて数字に直面する子どもにとって,1から10までは,10桁の数字を覚えることになります。

 1,2,3・・・という順序が何を意味するのか,一つずつ増えていることに対応させて理解させることが先です。何か適当なものを並べて,1個が1,二つが2,・・・と具体的な量としてイメージを作ってやります。5が一つ多くなると6,という具合です。紙に大好きなキャラクタを数だけ描いてやったり,お菓子の数で見せてやったり,いろんなやり方で数が何かを単位としていることを例示してやることができるでしょう。

 量の数字が大きさの順序に並べられたとき,1から10に並びます。ただ,順序数はカレンダーや時計,月刊誌の号数など,至る所に見えています。それに馴染むようでしたら,それでもいいでしょう。

 パパの車のナンバーも覚えておけば役に立ちます。お家の電話番号も,見えるところに書いておいてください。案外,迷子になったとき役に立ったりして。トランプ遊びの7並べや,ババ抜きなども数字遊びとして楽しめたらいいですね。ただし,パパはときどき負けてやって下さいね。

・・・数の理解は何を「1という単位にするか」ということです。・・・



《文字に関心とは,人間世界への興味の現れです。》

 ○子どもは身近なものに関心を示します。文字への関心も,パパやママが文字のある環境で暮らしていれば,自然と生まれます。ことさら子どもだけによかれと思うと,どうしても押しつけが出てきてしまいます。まず文字の豊かな環境を作って,そこに少しだけ,絵本のような子ども用の補助を忍ばせておく,その程度から始めて下さい。急ぐと文字が嫌いになったりしますので。

 この号では文字に触れ始める頃に焦点を絞りました。読み書きの初歩を終了した小学生段階では,そのまま語彙を増やしていくことに加えて,言葉のつなぎ方をマスタするコースに入ります。すなわち,「文章」を読み書き,理解し表現することです。これについては,いずれまたお話しできるでしょう。


 【質問6-04:あなたのお子さんは,文字に関心を持っていますか?】

   ●答は?・・・もちろん,「イエス」ですよね!?

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