*** 子育ち12章 ***
 

Welcome to Bear's Home-Page
「第 7-08 章」


『手作りに 込めた心が あったかい』


 ■はじめに

 渡る世間は鬼ばかり。人の心に住む鬼が放し飼いになって,自分の心に素直になっていると錯覚する向きが目立ちます。保険金をねらっての犯行が出てくるのは,氷山の一角です。氷の心は世情を冷え込ませます。降るのは無垢な涙です。何が起こるか分からない,不安はふくらみます。

 ものごとを暗い方に考えていると,滅入るばかりです。世の中は捨てたものではありません。なにより,傍らには希望の命が着実に育っているのです。親心からあふれる温もりが,オアシスになって,輪が広がっていきます。ほんのちょっぴり心配なのは,その親心が閉じこもりがちなことです。大人が文字通り大きな人になってくれればいいのですが・・・。

 寒いときは寄り添えばいいのです。心が冷えてきたら,温かな心にそっと寄り添ってみましょう。困ったときは,近くにいる人に助けてと声を掛ければ,きっと力になってくれます。助けを必要としている人が現れたら,温かい心のお裾分けをする本能が自然に目覚めるからです。

 子どもを可愛いと思うのは,育ちを手伝ってというメッセージを親は感じているからです。温かい気持ちを呼び覚まされます。そこで我が子だけが可愛いと限定したとき,大きな人になり損ねます。我が子が可愛いと思うのは当たり前です。その気持ちをよその子にまで広げられるかどうかが問題です。我が子は100%可愛い,よその子は60%可愛い,それで十分です。

 我が子へは熱い思い,よその子には温かい思い,それが世間を温める火種なのです。今家庭が魔法瓶になって,周りに熱を逃がさないようにしています。これでは世間は温まりません。自分のつくりだした温もりをケチって守っていては,世間の風は冷え切っていきます。温もりを窓から逃がしてください。



【質問7-08:あなたの家庭では,パパの仕事を見せていますか?】

 《「パパの仕事」という意味について,説明が必要ですね!》


 〇何に気を配ればいいのでしょうか?

 ある会社のトップ交代を報じているテレビニュースを見ているとき,抱負を語るコメントが耳にとまりました。「これまでは出る杭は打たれると言われてきましたが,今では出ない杭は抜かれて捨てられる」という言葉です。厳しい業界の雰囲気を示しています。

 杭を抜いて捨てるのは一体誰でしょうか? それは消費者です。神様であるお客様は移り気で薄情で容赦なく無慈悲なのです。そこに仕事人の苦労があります。目新しく,便利で,安くて,豪華で,可愛くて,丈夫で,簡単で,おもしろく,美味しく,豊かで,軽くて,きれいで,優しく,・・・,きりがありません。どのポイントで出る杭になるか,それを見極めるのはたいへんです。

 仕事のたいへんさはさておいて,気にしておきたいことは,杭を支える大地のことです。軟弱な地盤に打たれた杭は役に立ちません。しっかりした地盤とは,信頼関係です。この杭は信用できる,それは杭を支えている基盤への信用です。それがなければ,どんな杭も見向きもされません。

 大手企業が不正をはたらき,信頼を損なった事例は未だに後を絶ちません。一部の人が自ら信用を捨て去ったときの被害は甚大です。ちょっとぐらい,誰もがしている,そんな気のゆるみが金に目がくらんだときに出てきます。99回本当のことを言っていても,1回の嘘で信用は帳消しになります。数十年の積み上げが,土台の小さな弱点のせいで倒壊します。

 仕事に手抜きは禁物です。手抜きとはごまかすことであり,ちょっとぐらいという甘えから手を染めていきます。自分を信用できないような仕事は絶対にしてはいけません。頭では分かっていてもついしてしまう,その弱さを封じ込める厳しさを,子どもに相伝しておいてください。

・・・手抜き仕事を絶対にしないという自負心が信頼をつなぎ止めます。・・・


 〇親の仕事?

 子どもたちは学校の授業でお仕事のことを学ぶ機会があります。ママのお仕事は? 「ご飯をつくってくれる」,「汚れた洋服を洗ってくれる」,「弟の世話をしている」,「お掃除をしている」。一通り出尽くすと,「うちのママはお掃除しないで,拾って回っている」といった展開になることもあります。恐いですね?

 さて,パパのお仕事は? 「お父さんはね,ビールを飲んでいるだけ」,「何もしてないの?」,「ううん,だってお父さんは会社でお仕事をしているから,家では何にもしないって」,「会社でどんな仕事をしているの?」,「わかんない」。

 子どもたちは,いわゆるお仕事を知りません。例えば,お店に買い物に出かけることがあっても,そこではお客に向けた表の仕事しか見えません。仕事に華やかな一面があっても,それがほんのわずかな部分でしかないという全体像をつかむことはできません。

 仕事のイメージを子どもが持つためには,親の仕事から入っていくのが望ましいのです。パパやママがしている仕事と思えば,温かいまなざしで見ることができます。仕事をする者の立場に自然に立つことができます。どういう気持ちで仕事をするのかが,直に伝わってくるはずです。

 書いておいたように,子どもたちのママの仕事についての発言は,「〜してくれる」という視点です。自分の都合に関わる見方からでは,仕事をする側は見えません。親が他人との関わりで仕事をしているところを見せてやれば,親の立場になって仕事を考えることができます。学校で社会見学するだけでは,本当のところは見せてやれないということを知っておいてください。学校で学ぶことには限界があるのです。

・・・仕事の意味は,する側に立たなければ見えません。・・・


 〇チャンス?

 パパの仕事を見せる? 勤めているパパには無理なことですね。仕事場に連れて行くことはできない相談です。このように,はじめからできないと考えると,物事は解きほぐせません。まず,見せると決めてかかるのです。そうすれば,どうすればいいか,何か手はないかと,前向きに考えられます。仕事の現場では常に無理なことに挑んでいるはずです。

 パパの仕事場に,お客さんとして訪ねることができるでしょう。仕事場を外から拝見できるケースもあります。差し支えない機会があれば,直接パパと同道できるかもしれません。パパが一人で仕事をする日があればチャンスです。忘れ物を届けるという風を装う手もあるでしょう。見せる気になれば,必ず方法は見つかります。

 勤務の週日は子どもが学校だからという条件も,子どもには春,夏,冬の休みがありますし,毎週土曜日の休みもあります。可能性とは見つけようとすれば見つかるものです。あきらめるから何もできなくなります。

 休みと言えばどこかに遊びに出かけること,何となくそんな思いこみをしていませんか? 確かに休みには遊びたいと大人も思います。親がそう思っているから,土曜日の休みに子どもは遊んでしまうだろうと心配になります。休みという言葉に引きずられています。休日とは解放される日であり,自分の思い通りに時間を使える日なのです。何も遊ばなければならないとは決まっていません。

 パパの仕事を見せることに限らず,学校が休みの日は親として子どもにしてやれることを実現できる日だと考えては頂けませんか。家庭の日が増えたことは,親としてのチャンスが膨らんだと受け止めて欲しいのです。せっかくのチャンスを活かすかどうかで,子どもの未来につながる道が選ばれていきます。

・・・チャンスは自分の手でつかまなければ,逃げていきます。・・・


 〇本物?

 子どもは大人の姿を見て,マネをすることで育ちます。最も大切な見本は親です。だとすれば,親は家庭における私的な姿だけではなく,仕事をしている公的な姿も見せてやることが欠かせません。親が社会的な姿を見せてやらなくなったから,社会を怖がったり,なめたり,関係ないものと無視したりするようになっています。子どもは親に連れられて,社会に馴染んでいくのが自然です。

 汗を流し黙々と仕事をする人を,若者はダサイと思うように刷り込まれています。それは他人の目です。そこに親の姿がダブっていれば,他人事という断絶は生じないはずです。親の姿は自分の未来の姿でもあるからです。

 パパが家庭と社会の接点であるという一般的な通念があります。それは人間として生きる価値とはどういうことかを教える引率者という意味です。いま子どもが社会を覗いているのはテレビ目線です。タレントが遊んでいるバラエティを見ながら,世間は遊んで暮らせると高をくくっています。有名になりさえすればおもしろおかしく暮らせる,そんな幻想に感染します。その有名になることが希有なのですが,その見極めができないので騙されます。

 実際は遊んでいるように見えて,タレントが陰でどれほどの苦労を積み上げているかを想像できません。いつの間にかブラウン管から消えてしまう短命であることも見逃しています。いわゆる現実を見たことがない,触れたことがないから,想像するよすががない状態なのです。見たこともないものは想像できません。

 大人の凄味はつきあってみないと分からないところがあります。例えば,高校野球では守備にしろ打撃にしろ一所懸命です。ところがプロ野球では楽々とこなしています。そのすごさは野球をかじった経験のあるものだけが見ています。観客には派手なホームランしか見えません。パパがして見せたり,話して聞かせるなど,本物を見極めることの大切さを教えられるはずです。

・・・本物を見る癖をつけておかないと,自分の可能性も見落とします。・・・


 〇苦役?

 パパに限りません。仕事をしているママが家にいないときに一体何をしているのか,それを見ておけば子どもは安心します。仕事をしているママの姿を思い浮かべることができるからです。ママだって,学校にいる子どもの姿を思い描けるからこそ,安心して仕事に専念できているはずです。どこで何をしているか分からなければ不安になるでしょう。

 仕事をしているママの姿には,仕事のイメージも一緒にまとわりついています。教科書で学ぶ仕事は言葉や写真による形です。気概や誇り,苦労や喜びといった生身の仕事は,現場の臨場感に含まれています。それを親から学ぶことができたら,子どもは幸せです。知らず知らずのうちに身に付くものが,子どもの実力になります。頭で知っているだけではわざわざ思い起こさなければ活かされません。

 宝くじの一等が当たればこんな仕事は今すぐにでも辞めてやる,そんな声を聞きます。半分冗談なのでしょうが,半分は本心でしょう。割のいい仕事という言い方もありますね。楽して儲けたい,その成れの果てが現金を掻っ払う愚行になります。愚行というのは仕事をしていないからです。確かに闇の世界でも仕事という言葉を使うようですが,真っ当な仕事ではありません。

 仕事が楽しいといったら,贅沢であったり,どこかおかしいというのが相場です。仕事は苦役である,だからなるべくしない方がいい,それが常識かもしれません。しかしながら,食べるため,食べさせるためには仕方のない仕儀でもあります。

 その気持ち,生きることは思い通りにはならないこと,背負わなければならない荷物があること,その苦みを淡々と引き受けている親の姿を見たとき,子どもは真っ直ぐに生きる覚悟が芽生えるはずです。かつての貧しい時代に,子どもは苦労している親の姿を見て,自分が苦労を引き受けてやろうと心に刻み込んでいました。それが親として示してやれる生き様だったのです。時代の雰囲気は違っても,パターンの踏襲は一つの知恵です。

・・・子どもには苦労させたくない,虫のいい話は心を虫食いにします。・・・


 〇落とし物?

 人は支え合って生きていると口では言います。それが学校では模範答案です。現実はそうではない,オンブにダッコを狙っています。国にたかる,会社にたかる,周りの人にたかる,それが大人社会だと見抜いている風です。

 かつての青年は大人社会の腐敗を正義感から糾弾していました。だから青年の反発に対して大人は返す力を控えていました。今の若者は,大人もしているから自分たちもする権利がある,咎められる理屈は成り立たないと,逆ねじを食らわしてきます。仕事をする,それもいわゆるいい仕事についていい思いをする,そこまではいいとしても,役得を期待しているところが見え見えです。

 人の器が小さくなりました。それは育ちが幼いままに放置されてきたせいです。ノビノビと育てられてこなかったためです。細々としたことに気を取られすぎて,近視眼的にものごとを見る癖がついてしまっています。子どもは元々自分勝手です。それを大人の眼鏡で矯正してやらなければなりません。一つのやり方は苦労をするチャンスを与えてやることです。

 風のある雨降りの日です。子どもたちは膝から下をびしょぬれにしながら登校してきます。その横をすり抜けて校門に入る車が後を絶ちません。車から児童が降りてきます。親に送ってもらって登校です。その姿を傘の下からじっと見つめている一年生がいました。何を思っているのかうかがい知れませんが,いい経験を拾っています。一方で,子どもが濡れて可哀想だと近視眼的な思いやりを発揮したとき,大事な経験をこぼしてしまっています。

 人は支え合っています。そのことに気付くのは,支えがなかったときです。大事な人を失ったときにその大事さに気付くのと同じことです。パパもママも仕事で自分を支えてくれる暇がない,そんな状況に至ったときに自分にとってパパとママがどんなに支えになってくれているか,はたと気付きます。もちろん,支えてくれなかったことを恨みに感じるかもしれませんが,パパとママの仕事を知っていれば,気持ちの持って行き場を間違えることはないでしょう。

・・・支えられる側にしかなれない幼さは早く断ち切りましょう。・・・



《パパの仕事とは,自立の意味を学ぶテキストです。》

 ○独り立ちするのが育ちの目標です。そのためには心構えという土台をしっかりしたものにしておいた方が得です。ちっぽけな土台にはちっぽけな将来しか築けません。ましてや独りよがりな土台では,社会に用意されている規格品を使うことは不可能です。社会の仕組みはお互いに融通できる規格に沿って支え合いがなされています。

 仕事とは結局のところ自分の城を築く作業に他なりません。まともな仕事ができないでは,自立することはできない相談です。親のところでヤドカリ人生をおくることになります。自分だけを支えていては,自立とは言えません。支え合うことができるようになれたときに,やっと自立しているという認可が下りるのです。


 【質問7-08:あなたの家庭では,パパの仕事を見せていますか?】

   ●答は?・・・もちろん,「イエス」ですよね!?

「子育ち12章」:インデックスに進みます
「子育ち12章」:第7-07章に戻ります
「子育ち12章」:第7-09章に進みます