《第1章  序の章》

 今,子どもたちは心の病に懸かっています。社会の激しい流れがまき散らす泥水を避ける術を知らない子どもたちが,もろに被った泥の中に埋まっています。では,子どもたちが被っている泥水とは,具体的にどんなものがあるのでしょうか。多くのものがこれまで指摘されています。受験偏差値優先の学歴社会,合理性と効率性を追求する経済社会,都市型生活による核家族化,息子と結婚したような母親の過保護,知育=成長と思い込んでいる偏向教育,自分勝手な個人主義,遊びの機械化,触れ合いの喪失,不良マスコミ,…,挙げればいくらでも出て来るようです。そしてどれもそうだろうなと思い当たり納得がいきます。しかし生活実感の上ではもう一つぴったりと来ません。それは一方で次のように感じているからです。学歴社会は社会の活性化に役立っています。合理性追求社会は大量生産を生み出し生活を豊かにしてくれました。核家族は嫁と姑の争いを無くしました。親の保護本能は自然な姿ですし,個人主義は自由のすばらしさを与えてくれました。つまりどれも両刃の剣になっています。ですから,切れすぎたり余分な所まで切り込んだりする場合に,様々な弊害を生じています。使い方が上手くないために力の入れ具合を誤っているだけで,そのもの自体を否定し去るのは行き過ぎです。