《第3章  子育て心温計の仕様》

 【3.2】子育て心温計の健全発育部
 右側の健全な発育部について順に説明をしていきます。

[(3)自分は他人と比べて同じか]
 友だちなどの他人との関係の中で自分の気持ちを表に出そうとするとき,その方法とか形式が他人と同質であるかどうかという基準で適否を判断します。内容が同質であるかどうかについて考える能力は未熟ですので,表に現れた形が同じであると思えたら「安心感」を持ちます。
 同じと思いまた同じでありたいと願うから礼儀を持てるようになります。朝,おはようと挨拶をしたのに相手が黙っていたらムカッとするでしょう。挨拶をした方は自分が無視されたという疎外感を持ちます。相手を自分と同じと思うからこそ挨拶をしたのに相手はそうは思っていなかったことになります。このような仕打ちは礼を失した行為として社会的に責められます。私たちが生活をしてゆく基盤は,この自分も他人も同じであるという思いであり,この同じであることに互いに気付くことが人間関係の始まりです。
 このように互いが同じという関係の中で暮らしていても,いわゆるつきあい関係を持続し維持してゆくためには,完全に自由であってはならず,まだお互いに自分を抑制しなければなりません。自分と他人が完全に同じというわけにはゆかず,どこかで必ず違いが出てきます。そしてこの違いを認めざるを得なくなります。これが我慢です。例えば順番を待つということは,人間関係の集まりである社会の秩序を維持するために必要です。「秩序感」を持たず我慢をしなければ,同じであった部分まで消失してしまいます。
 子どもの場合,「おもちゃを貸して」と言われたら,そうそういつも断ってばかりもいられません。たまには我慢して貸してあげなければなりません。この我慢を体験させるためには,親の子離れがなければなりません。大人ばかりですと何でも自分のためにやってくれる人の中にいますし,あるいは自分の意志に関係なく大人の思い通りになってしまい,次の段階へ成長が進まずわき道に逸れてしまいます。
 この礼儀と我慢,言い替えますと同じであるという安心感と,その安心感を保つ秩序を維持するために他との違いを我慢できる自制がある状態が〈共存状態〉です。