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【第13章 社会教育計画書の説明について】
社会教育計画書の説明? どういうことでしょうか? 前にも書いておきましたが,わが町では毎年6月,その年度の社会教育計画書を一堂に集めた関係者に配布した上で,社会教育委員が説明するという会合を実施しています。委員として計画書を立案した責任を果たすという意味づけがあります。その説明のスタイルは特に定まっておりません。昨年は,大幅な改訂を行ったという節目から,適当な区切り毎に複数の委員が交代で説明を行いました。今年度は小幅な修正だけでしたので,会長が単独で説明するように決しました。他の委員に説明を押し付けてきたツケを払うことになりました。
今年はわが町に中央公民館を建て替えることになった新施設が完成します。その機会を捉えて,生涯学習の推進を図ろうという具体的行動が動き始めています。その顛末については何らかの結果が出た後,いずれここでお伝えできるでしょう。とにかく,この背景と社会教育計画書の説明とをリンクせざるを得ない事情があります。というのは,この説明のなされる会合は生涯学習研修会と銘打たれた行事なのです。「生涯学習研修会の席上で,どうして社会教育計画書が説明されるのか?」。一つの悩ましい疑問を抱えながら,これまでなんとなくやり過ごしてきました。社会教育と生涯学習のつながりは? 無関係ではないのですが,同一でもありません。その整理ができないままに放置されてきたために,生涯学習活動が今ひとつ盛り上りに欠けるという印象が拭えません。
生涯学習と社会教育が出会う得難い場所で発言の機会を与えられたのは,何かを語れと言う天の采配なのでしょう。計画書の内容を説明するよりも,もやもやした曖昧さを払拭することに傾注しようと思っています。その草稿を以下に作ってみます。
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社会教育と生涯学習
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社会教育計画書の説明をする前に,生涯学習と社会教育の関係について整理をしておこうと思います。生涯学習研修会の席で,なぜ社会教育計画書の説明がなされるのかということをはっきりしておきたいからです。
まず,教育と学習の関係です。学校という範疇で考えると,教育は先生や行政が担う役割,学習は児童や生徒が担う役割です。つまり,教育と学習は逆の立場にあって向き合っているものです。ところで,教育といえば教育委員会の領分ですが,市や町の教育委員会は学校教育として幼稚園を含めた小中学校の義務教育までを管掌しています。高校や大学は県や国により開校され,市や町は関与できません。そこで,児童生徒以上の市町民の「教育」については,「社会教育」という形式で関わらざるを得ないことになります。
一方,15歳以上の市町民の「学習」に対しては,その場所と機会を市町行政が支援することによって,「生涯学習」という形でなされるべきであると考えられています。その支援の一環が社会教育であり,生涯学習の一部を担っています。しかし,生涯学習の広がりは教育という形式からはみ出していきます。教育による学習では適応できなくなったという認識が,生涯学習の基本にあります。そこから,町ぐるみの学習という形式への転換が求められることになってきたわけです。
イメージをつくるために,○○町の生涯学習とは「○○町生涯大学」という枠組みで考えた方がいいでしょう。ここで言う大学とは,文字通り学ぶところであり,教えるところではありません。形式的には,町長さんは生涯大学の学長であり,行政職員は教職員,自治公民館は学級に相当します。館長他の役員は担任であり,住民が学級生です。自治区を越えた全校的学習として,スポーツや文化の団体活動があり,部活動に相当します。生涯大学として大切なことは,各人が自由に学ぶことができて,その機能が保証されているということです。
生涯大学においては,生涯学習によるまちづくりという理念が想定されています。海の資源を利用している漁業は,川を通して山の緑の恩恵を受けています。海を守るためには,山を守らなければならないという事例をご存じでしょう。同じように,町を活性化するためには,人を育てなければなりません。逆に言えば,人づくりを疎かにしている町には,明日の活力は得られないということです。なぜなら町を興しているのは住民という人だからです。したがって,「○○町生涯大学」は,人づくりというカリキュラムを整えることによって,結果的に町の活力をつくりだすことを目指していることになるのです。
町が目指す住みやすさや利便性は,一方で犯罪の誘導路にもなり,安心が脅かされることもあります。犯罪は人が起こします。人づくりは犯罪を生まないまちづくりにつながり,防犯という面にも効果が期待されます。また,社会的弱者である幼児や高齢者に関わる福祉面でも,助け合いというあたたかな関与が不可欠です。よい町は住む人の手で作り出されるものであり,町の価値はそこに生きている人の生き方に拠るという理念がしっかりと周知され定着すべきです。一例を挙げると,献血が盛んな町は非行が少ないという傾向が見られます。逆に他人には構っていられないという無関心が,町を寂れさせていきます。
5月に厚生労働省が発表した調査によると,合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に産む子どもの数)が,県下で最高となった市区町村は「我が○○町」でした。子どもを養育しやすい環境であるという証として,とてもうれしいことでした。確かによい方に向かっているのですが,近隣他県の最高値の中では最低なのです。地域支援がまだまだ十分ではないということです。暮らしにはいろんな課題があります。その課題を解決するためには,皆で考えなければなりません。その考えるという営みが,生涯学習そのものになります。任せっぱなしにするのではなく,教わるのでもなく,自ら考えて解決に動いていける自立した人が少しでも増えることが,生涯学習によるまちづくりという願いなのです。
人づくりについては,個人の資質の向上も一つの目標になります。履歴書について考えてみましょう。年齢や住所といった基礎事項の次に,まず学歴が記入されます。これが従来の教育による学習歴です。次は職歴という欄があります。職歴は,その人がどんな専門分野に携わってきたかということですが,同時にそれは「学習歴」でもあります。業務という形式によって学習をしたという意味です。営業をしてきた人は,そこで人間関係の学習をしたエキスパートです。これは教育では到達できない学習の成果です。趣味の記述も,それなりに高度な知恵と技術を学び取ったという自己申告に相当します。つまり,履歴書とは,その人の生涯学習歴とみなすことができるのです。このように,生涯学習とは,教育によるものだけではなく,職業や趣味といったあらゆる社会活動による学習を意味します。
町民が豊かな暮らしを求めて活動しようとすれば,それは自分自身や周りをよい方向に変化させることになり,そのためには学びが必須になります。生涯学習とはしてもしなくてもいいというものではなく,したいものであり,すればいい結果につながるものです。あらゆる社会的な活動はそれ自体学びであると認められるべきです。この社会的な活動を学習活動に意識的につないでいく仕組みが,社会教育の第一の役割になります。
実際的には,学習活動を保証する支援体制が必要になります。学習のオリエンテーションや学習の紹介と導入,学習の機会や場所の提供など,啓発なども含めて,行政サイドからのアプローチが求められます。その支援プログラムとしての役割が社会教育計画書の位置付けになります。町民による学習活動が自発的に自立的に動き出すために,座して待つのではなく,町の気運を浮揚し,具体的な手助けをする意義を認め合うべきです。喩えれば,料理をして食べるのは町民ですが,取りあえず食材や調理器具は用意してあげようということだと考えてください。
学習活動が目的ではありません。学習が実践活動に還元されなければ意味がありません。個人的な学習の成果が身近な社会活動,地域活動につながるようにできたら,まちづくりが実現します。そこで,その道筋を提供する働きかけが必要になり,社会教育の第二の役割になります。地域の自治活動や,ボランティア活動への案内をするという機能が求められます。
以上概観してきたように,生涯学習は町民自らの学習であり,その成果がまちづくりにつながることが期待されています。ここで,生涯学習と社会教育の関係について,まとめをしておきましょう。町でのあらゆる活動を,社会教育が生涯学習に組み直し,さらに学習の成果を社会教育が町の活動につないでいくという関係を想定することができます。生涯学習によるまちづくりという図式は,町行政と町民のあらゆる活動が社会教育という臼に持ち込まれ,生涯学習という餅つきを経て,ボランティア活動というきな粉餅を手に入れることであると理解できます。
本日ここにご参集頂いている皆様は,○○町生涯大学=Kasuya-Life-School(KLS)に関わりを持って頂いている方々です。それぞれの立場で町民の生涯学習を保証するために日頃から多大なご尽力を頂いております。あらゆる分野の方が顔を揃えて,この一年の生涯大学の運営の方向について,お手元にある社会教育計画書に沿って再確認して頂くことは,具体的な実践の意義を明らかにすることにつながり,ひいては生涯学習の推進に確かな一歩を進めることになると思われます。
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次に,○○町生涯大学の教育が今現在どのような指針を設定しているか,簡単に説明をさせて頂きます。(社会教育計画書はこちらを参照してください)。
学習活動は基本的に人と人との関わりによって生まれてくるものです。そこで,社会教育計画書では,大きく三つのステップ,「認知・互助・学習」を想定しています。先ず,人が出会って「知り合うこと」,次にお互いを支え合うために「助け合うこと」,さらにそれぞれの学習歴を交換して「学び合うこと」という,三段階を社会教育で用意することによって,社会活動から学習への転換を実現しようという意図があります。
具体的な実践活動は,この三つのステップによって構成されていると意識して頂くことによって,より深い意味を見出すことができます。活動はそれがどのような意味を持っているのかという明確なビジョンを持たなければ,形ばかりの消化行事になってしまいます。活動のポイントをしっかりと押さえておくことが,活動を活性化する基本的な要件です。簡単に言えば,何のためにこんな活動をしなくては?と迷っていては,主催者のみならず参加者も活動を生かすことができないのです。
計画書の5ページ,《具体的実践方策》から,見ていきましょう。1.青少年教育の項では,親に対する支援と児童生徒への関わりが取り上げられています。職業上の知識やOBの経験を若い人や子どもたちに様々な形で伝える方策が掲げられています。これは町民同士が「学び合う」ことです。ここで大事なことは,利用者があれば実行するという効率優先をしないことです。先ずやってみて利用者が現れるまで待ってみようという無駄をお願いしたいのです。看板を上げることで,あそこであんなことをしているという情報が発信できて,待つことで定着できます。社会活動はみんなに知られることから始まります。
次の,2.成人教育の項では,学校における学年制と同じ理由から,年齢層で区分けされています。それぞれに社会教育関係団体が活発に活動されておられます。そのしっかりとした横のつながりに,縦のつながりを組み込めば,団体の活性化が可能になります。特に,地域での活動に進んで参画をして頂ければ,異年齢層の間での連携と理解が図られ,各団体の会員の勧誘にもなります。組織を充実させるためには「知り合う」機会を増やすことです。知り合えば一緒に活動しようという気持ちも芽生えるからです。
6ページの,3.公民館活動の項では,中央公民館その後を引き継ぐ生涯学習センターによる研修などの支援と,地域公民館による活動の方向性が提示されています。今年度は特に,通学合宿が始まり,アンビシャス広場への参加も増えました。その前向きな取り組みは,とても素晴らしいことだと思います。もう一つアドバイスをするなら,これらの事業を子どもだけの事業とせずに,大人と子どもの共同活動になるように企画を進めてみてはと思います。大人と子どもが共同することは大切な「助け合い」と「学び合い」になります。
7ページの,4.社会人権教育の項では,「知り合う」,「助け合う」,「学び合う」というプロセスの成果が如実に表れてくる分野であると思われますので,社会教育の浸透が切実に待たれています。特に,児童生徒に対する命の尊さを学ばせる社会教育活動は,緊急の課題です。
また,5.社会体育活動の項では,各種体育行事が,また 6.芸術文化活動の項では,文化祭をはじめとした多様な行事が,各団体のご指導とご支援によって盛大に行われております。その活発な活動を地域にまで広げて頂ければ,心身共に健康になるための基本的な学びが普及することでしょう。特に,ドーム,フォーラム,サンレイクというハードが充実するとき,ソフト面の開発・充実が今後の課題です。粕屋町の特色を出せるような企画が望まれています。
8ページの,7.ボランティア活動の項では,豊かな町民の資質をまちづくりに生かせるような組織の整備や活動機会の提供などが,待たれています。これから皆さん方のご尽力をお願いすることが必ず出てくると思いますが,「助け合う」という形で学習の成果を生かすことの意義は,改めて申し上げるまでもないことと思います。そのときにはご協力をよろしくお願いいたします。
最後になりましたが,社会教育計画書では,社会活動を考える規模として,大きな町全体と小さな自治区の他に,もう一つ中くらいの小学校区という規模を新たに追加することが提案されています。町全体よりも小回りが利き,自治区同士の連携という枠組みが,新たな活動の可能性を産み出すことが期待されます。さしあたっては,校区の安全性の確保などを共通のテーマとして,校区という連携の形をぜひ作り上げてみてください。
社会教育計画書は,社会活動を通して生涯学習の拡大と浸透を図る指針を提案しています。現状を一歩でもよい方向に動かすために,町民はどんなことを期待しているかという声の集約でもあります。どれか一つでも普段の活動の中に組み込んで頂ければ,より多くの町民に近づいた活動になるはずです。どうぞ,関係のある部分だけで結構ですので,吟味を加えて頂くようにお願いを致します。今年度も素晴らしい活動を実践して頂けると信じて,社会教育計画書の説明を終わります。
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《コメント》
実は,今年の生涯学習研修会で,はじめて同時手話通訳をボランティアによって実施するようにしました。これまで,手話通訳ボランティアが福祉関係の分野で活動されていたことは知っていたのですが,行政の縦割りの溝に,なんとなく交流が疎遠になっていました。研修会担当者と相談して,是非にとお願いをして実現することになりました。ほとんど場数を踏んでいない手話通訳ですが,体験の場として提供したいということと,手話通訳をやっているというアピールなど,どちらにとってもメリットがあるということです。
手話通訳を引き込んだ仕掛け人が,その余波を被る羽目になりました。同時通訳をするために,予め原稿が頂けないかという申し出を受けることになったのです。適当にメモぐらいで説明をしようと思っていたのですが,原稿となるとかなり再現される形にまで書きこんでおく必要があります。通訳できる範囲で構わないと突っぱねることもできますが,せっかく依頼した手話通訳が,あまりできなかったという仕儀となっては,面白くありません。だいたい通訳できたという達成感を持ってもらわなければなりませんし,そのためにはそれなりの原稿の提供が不可欠です。また,手話通訳をしてもらうときの話し方を体験するのも一興と,楽しむことにしました。
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