*****《ある町の社会教育委員の活動》*****

【第14章 社会教育委員の役割について】

 地区社会教育委員連絡協議会の会長として,4回目の研修会主催です。これまでにも意識してきたことですが,研修をする上はなにがしかの意図を明確な形で持って望むことが大事です。何を学べばいいのかという目的意識を持たない学習は効果的ではないからです。

 主催者として,その意図を予め説明する責任があります。それでは,どのような形で参会者に伝えたらいいかという問題が出てきます。会長に与えられた機会を利用する他はありません。会長挨拶としては多少型破りになるかもしれませんが,意図説明をしてきました。以下は16年度の研修会で述べたものです。

 また,研修会報告書の冒頭にも,会長のお礼の言葉として,委員の役割へのメッセージを織り込んでおきましたので,採録しておきます。


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地区研修会での会長挨拶

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  【趣旨】
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1.趣  旨

 豊かな社会と語るときに,満足させていただける社会を思い描いているとしたら,社会資産の有限さを見落としていることになります。地球の資源が有限であるのと同じで,社会資源も有限であるはずです。参画やスローライフ,ユニバーサルデザインという言葉が湧きだした背景には,豊かな社会は一人ひとりが創造するものではなかったのかという価値観の修復機能が働いています。
 社会教育は,社会から個人に向けて豊かさを引き出すのではなくて,個人から社会に豊かさを注ぎ込むという社会力を育てることを目的にします。そのために生涯学習が手段になり,地域の活性化が目標になり,まちの温もりが実りになるという道筋が想定されます。
 そこで○○地区の社会教育委員及び関係者が一堂に会し,生き生きとした社会教育実践を支えている人びとに目を向けて,社会の豊かさの方程式を解くことを目的として,この研修会を開催します。

2.研究テーマ  「地域づくりを目指す社会教育委員の役割」


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  【会長挨拶】
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 平成16年度の○○地区社会教育委員研修会を開催いたしました所,皆様方にはご多忙の中にもかかわらず,ご参集下さいましたことを,主催者として感謝申し上げます。
 また,ご来賓各位には,常日頃より○○地区社会教育活動に関して多大なご支援を頂いており,さらに本日は私どもの研修会にご臨席を賜り,心よりお礼を申し上げます。

 さて,開会に当たり,今回の研修会のねらいについて,簡単に述べさせていただきます。趣旨に述べてありますように,私たち社会教育委員が取り組むべき目的は,生涯学習社会の構築によるまちづくりにいささかの寄与をすることだと考えております。

 そこで,まず,町政のトップとして実際にまちづくりを推進して来られた○○町の○○町長様に,その願いやご苦労の一端をお聞かせいただきたく,ご講演をお願いしております。まちづくりに少なからず関わる者に得難いご助言を教示していただけることと思います。
 次に,午後からの分科会では,「地域づくりを目指す社会教育委員の役割」というテーマで,研究協議を進めていただくことにしております。地域づくりという目的を達成するためには,具体的な目標を掲げなければなりません。当面する課題に取り組むことが最も相応しいことは言うまでもありません。二つの分科会で,それぞれの市町で求められる地域づくりに向けた取り組みについて事例発表をしていただきます。

 ところで,数日前から続けて,両親殺しというおぞましい凶行がいともあっさりと行われています。いずれも両親との折り合いが悪いという境遇が語られています。ニート(NEET)と呼ばれる若者が現れているそうです。学校にも行かず仕事にも就かず,何をするでもない宙ぶらりんの境遇をかこっている若者です。親にすれば「だらしない,なんとかしろ」と責めたくなるのも分かります。でも,その前にすることがあります。親子の絆をしっかりと結ぶことです。

 虐待事犯の裁判で,裁判長が被告の女性に「そんなに辛かったら,どうして実の親に相談しなかったのか」と尋ねました。「そんなことをしたら,責められだけじゃないですか」と被告の母親は答えたそうです。年配の人はことある毎に,「今時の若い親は」と責めています。でも,そんな風に責め立てたら若い親はがんばろうという気になるでしょうか? 違うというのは分かります。

 親も世間も責めることで相手を思い通りにしようとしているような気がします。まずやるべきことは,お互いの気持ちを同じにして共感することです。そのためには,お互いを理解することが必要ですが,そこに第三者の存在が欠かせません。仲裁や仲介をする役割が求められています。昔の地域で言えば,おじさんやおばさんという存在です。人をつなぐことの大事さを思い起こさなければなりません。

 まちづくりも同じです。まちづくりには多くの組織や人が関わっています。その人びとをつなぐことができれば,同じ目標に向けて参集してもらえれば,まちづくりは大きな前進を果たすことができます。社会教育委員の役割は,「つなぐ」というキーワードによって解き明かすことができるはずです。行政と住民,団体相互間,学校と地域など,いろんな組み合わせがあります。今日の分科会は,人をつなぐということに焦点を合わせて研修をしてくださるようにお願いいたします。

 最後になりましたが,この研修会を開催するに当たり,ご後援をいただきました○○地区社会教育振興会,ご指導をいただきます○○教育事務所,会場のご提供をいただきました○○町,事務局業務を担っていただきました○○町教育委員会,その他関係各位に対しまして,厚くお礼を申し上げます。


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《挨拶の意図》
 行政の施策は縦割りで行われますが,住民の暮らしは横割りです。その直交する流れがいろんな齟齬を生み出しています。それを解決するためには,リンクするという斜めの関係を構築する必要があります。連携や協力という言葉が普通に言われている説明語ですが,動きがイメージできません。そこで敢えて「つなぐ」という動詞を持ち込んでみようと考えました。そのほうが,動きを考えるのに都合がいいのではと感じているからです。

 異業種交流という手法は既に経済界では新しい分野を生み出しています。社会教育もさまざまな分野が独自に活動を進めています。その縦割り性を払拭することで,地域という総合的な空間機能を活発化することが可能になります。学社融合という手法も,つまるところ「つなぎ」から生み出されています。世間を活性化させるために採用した分業化が進みすぎて,地域を破壊してしまいました。そこには統合化,総合化という「つなぐ」という機能が働いていないと思慮することができます。そのことを社会教育の主な課題として位置づけることを意図したのです。


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地区研修会報告書での会長挨拶

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  【平成16年度○○地区社会教育委員研修会を終えて】
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 今年度の研修会は,「地域づくりを目指す社会教育委員の役割」というテーマを設定して開催いたしましたところ,出席された委員各位のご協力により盛会のうちに滞りなく閉会をすることができました。
 ご後援をいただいた○○地区社会教育振興会,ご支援を頂いた○○教育事務所及び各市町教育委員会,ご指導を頂いた社会教育主事の先生方には,心よりお礼を申し上げます。
 さらに,研修会の開催に向けて頂戴した○○町教育委員会のご厚意とご労苦に深く感謝を致します。

 研修会を振り返って見ますと,午前中にご講演をいただいた●●○○町長には,ご公務繁多の中にも拘わらず貴重な時間を割いて,まちづくりが直面する三位一体の改革について詳細な分析と展望についてご教示を頂きました。社会の変動に向かって行政と住民が一体となってまちづくりに邁進する必要性がひしひしと伝わって参りました。大きな波の中で社会教育委員にもより一層の役割意識が求められていると感じました。

 午後からの二つの分科会では,「総合型スポーツクラブ」及び「コミュニティづくり」という具体的な取り組みに違いはありましたが,そこには今の社会教育に期待されている共通したテーマが見受けられました。開会にあたっての挨拶の中でも述べておきましたが,住民を「つなぐ」という大きな目標を持った委員活動であるということです。
 スポーツを選手に限定する競技という範疇から住民が気軽に参加できるスポーツに展開することによって,住民をつないでいくという新しい活動,また生涯学習の推進という目標に向けたコミュニティづくりによって,住民の資質を持ち寄るシステムを立ち上げ,地域住民の間に新しいつなぎを創成しようという活動が紹介されました。

 社会教育委員は住民の活力を信じ,その活力が溢れる仕組みを考え,提示し,実現に向けての初期活動を果たす役割が期待されているということを改めて気付かされました。
 委員の方々には,それぞれ社会教育活動に関わる委員としての基本的な研修をして頂けたものと信じております。今後の委員活動の指標として頂ければ幸いです。

 ここに平成16年度研修会の報告書をお届けいたします。もう一度お目通しを頂き,再度誌上研修をしていただく縁にしてください。
 ○○地区の社会教育がますます発展するように,皆様方のさらなるご活躍を心よりお祈り申し上げます。
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《挨拶の意図》
 地区研修会報告書を地区内のすべての社会教育委員に届けています。同じ地区内の身近な市町での活動は,環境が似通っているために最も参考になるという思惑からです。もちろん経費が潤沢ではありませんので,各市町に一部の原本を送付し,委員数分のコピーをお願いするという配布の仕方です。
 研修会当日の会長挨拶は口頭で済まし再現されないので,報告書の鏡として,改めて研修のまとめという意味ですべての会員にお届けすることができます。キーワードは繰り返して与えることで定着すると考えています。その機会をしっかりとつかまえようとしたわけです。どれほどの効果があるかは読み切れませんが,やれることはやるというだけです。
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