【第16章 生涯学習推進方策についての答申】
わが町には,教育問題を協議するために「○○町教育問題審議会」が不定期に設置されます。メンバーは教育委員長に委嘱され,構成は審議内容によって変動します。任期は一応2年となっています。教育委員長より諮問があり,任期中の節目(年度末など)に答申をすることになっています。
中央公民館が老朽化したために,新しい施設を建て替えすることとなりました。国庫補助の関係で「生涯学習センター」という名目で実現し,平成16年10月に開館することができました。それに先立ち,「生涯学習センター」の建設に当たって,その論理的背景としての「生涯学習推進構想」などの策定が未着手のままになっていることから,町行政としての生涯学習に対する取り組みの一貫性を疑われるという危惧がありました。
そこで,急遽,生涯学習の推進方策について諮問すべく教育問題審議会が開設されました。一年半の期間の中で,5回の会議という悠長な審議を経て,17年3月に答申をすることができました。審議会の会長として答申を作成しましたが,十分な考察ができたとは言えない答申であったことを反省しています。踏み込むべき論点が残されていますが,それは今後の具体的な活動の中で模索されていくべきものであろうと考えています。
ここでは,今の時点で辿り着いたものとして,「諮問と答申」を掲載しておくことにします。今後の考察の参考に供することにします。
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【諮 問】
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平成15年11月14日
○○町教育問題審議会会長 様
○○町教育委員会
委員長 ○○ ○○
○○町における生涯学習の推進方策について(諮問)
標記につきましては,平成3年4月に文部省から「生涯学習モデル町」の指定を受け,対応してまいりました。現在,本町における生涯学習は,社会教育課を中心に各団体の自主的な運営を支援する形で推進しており,一定の成果を上げてきているところであります。
その後,およそ12年の経過を見ていますが,本町におきましても○○フォーラムや○○ドーム等,生涯学習関係施設もいろいろ充実してまいりました。
さらに平成16年10月には,新しく「生涯学習センター」がオープンする予定であります。そこで,それらを十分に生かした新しい時代に相応しい○○町独自の生涯学習推進方策を新たに求めていきたいと考えています。
つきましては,下記のことを諮問いたしますので,ご審議をよろしくお願いいたします。
記
(1) ○○町における「生涯学習推進構想」について
(2) 「生涯学習推進方策」について
(3) 具体的学習需要の内容について
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【答 申】
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平成17年3月7日
○○町教育委員会
教育委員長 ○○ ○○ 様
○○町教育問題審議会
会長 ○○ ○○
○○町における生涯学習の推進方策について(最終答申)
平成15年11月14日付けで諮問を受けました標記のことについて,審議を重ねてまいりましたが,その最終の結果を下記の通りに答申いたします。
記
本審議会は,教育委員会からの諮問に答える立場にあり,答申内容は諮問に適うための制限を受ける。すなわち,生涯学習の推進は町の施策に直接に絡んでいるものであり,最終的な結論にまで踏み込むことは控えるべきと考える。したがって,本答申では,生涯学習の推進に向けて必要且つ可能な方策を示唆することとした。
教育委員会においては,関係機関と本答申を核とした協議を進めて,町民の生涯学習が十分に保障されるための具体的な施策を確実に実行されるように切に願うものである。
1.○○町における「生涯学習推進構想」について
生涯学習センター(サンレイク○○○)が平成16年秋に完成し,○○町の生涯学習関連施設はほぼ必要な陣容を整えてきた。このようなハード面の充実はソフト面の整備と相まって最大限の効力が発揮されるはずである。
町民によるあらゆる分野にわたる生涯学習が「ゆとりある生活空間都市○○○」というまちづくりの将来像に導かれるとき,生涯学習によるまちづくりが完成する。生涯学習はそれ自体が目的ではなく,また個人の幸せに留まらず,町民全体の豊かさを目的にするものである。そのためには,町民による自発的な実践活動を導きつつ統合化することを図る「○○町生涯学習推進構想」が不可欠である。
生涯学習センターの機能を最大限に発揮することが期待されている今ほど,生涯学習推進構想の策定が望まれているときはない。○○町生涯学習推進本部は早急な取り組みを開始する責任を負っていると考えられる。
もちろん,構想の後には,「基本計画」,「実施計画」の策定がなされるべきである。
なお,推進構想の策定に当たっては,以下のことが考慮されることを望むものである。
(1) 生涯学習の概念の共通理解
未だに推進構想が策定されていない背景には,「生涯学習によるまちづくり」という言葉が具体的なイメージを描けないままに放置されてきたことに起因する停滞がある。先ず生涯学習概念の再構築をした上で,「ゆとりある生活空間都市○○○」という将来像を目的としたまちづくりの基本計画に適った学習機能のあり方と効果を具体的に提示する。
(2) まちづくりに適う組織の整備
生涯学習は町民が行う活動であることを共通認識し,行政が目指すまちづくりと町民自らが参画するまちづくりが,生涯学習という縁でつながり協働できる仕組みを構築し,継続的なまちづくり機能が発揮できる組織のあり方,およびその構成員が果たすべき役割を明示する。
(3) 連携機能の整備
生涯学習は町民の暮らし全般に関わる学びであり,したがって行政のあらゆる分野につながる課題が対象となる。行政組織は専門性が求められるために縦割り構造を採っているが,町民の関心の持ち方は関連した横のつながりに向くものである。そこで学習活動の行政による支援については,連携機能の整備が必須となる。横断的な活動ができる組織の整備と充実を目指す。
(4) 学習の体系化
行政による啓発等の学習機会は,現状では各課独自で実施されている。それぞれが独立になされていては,学習の広がりや深まりを期待することはできない。町の生涯学習として体系化(例えば学習領域マップ作成など)し,連携と積み上げの効果が発揮できるような計画を提供する。
(5) 町民参画の保障
生涯学習は町民が獲得した権利であり,学習活動を自ら選択し実行できることが肝要である。学びの自発性が発揮できるときに創造的な実践が生まれ出て,ひいてはまちの活性化につながる。町民が参画できる機能を備えた組織を設置・整備する。
(6) 構想の具体化を図る推進基本計画
構想はあくまでも総体をなぞるものであり,具体的な学習活動の推進はさらに細部にわたる基本計画・作業計画があって実現できるものである。構想と基本計画は対になっていなければ意味がないという認識を持って今後の推進を図る。
(7) 行政と町民を融合する生涯学習活動
町民による生涯学習活動を行政が支援するというシステムは,行政と町民が一体となってまちづくりをするという大命題の実現に資するものである。その関連を見るために「まちづくり計画」と町民の学びとの対応を図1−1に例示しておく。
2.「生涯学習推進方策」について
本審議会では,「生涯学習推進方策」の大要を協議した結果,推進体制の整備,あるべき組織役割,業務内容,効率的運営方策などについて提案することとした。
推進方策は,生涯学習を実践する者と支援する者とが共通の目標理念の下で,有機的に連携できる体制を整え,確実な活動のできる運営がなされるための指針である。
本審議会では,○○町の生涯学習を推進する方策として以下のことを提案する。
1.生涯学習推進の機構・組織のあり方
生涯学習センター(サンレイク○○○)を○○町における生涯学習活動の支援センターと位置付けて,機能的な運営を可能とする新しい総合的な推進体制の整備が急務である。実現に向けた検討と協議のために,図2−1に体制の概要を示しておく。
(1) 生涯学習推進本部の再構築
生涯学習センターを設置した○○町の目的は,生涯学習によるまちづくりである。生涯学習活動を総合的な構想の下に推進するために,平成4年から「生涯学習推進本部」が置かれている。町の将来のあり方にも関わることであり,町長部局が関わる構成でなければならない。
ところで,従来の推進本部の構成は行政側と町民側の代表をくまなく網羅する意図が働いて適正な規模を越えていることから,会議の開催といった実働が重くなってしまったというデメリットを抱えている。組織は身軽でなければ実効的ではないので,メンバーを行政部門と教育部門の代表までに縮小して,名実共に本部とすることにする。この本部は行政サイドの性格を帯びているので,組織上次に述べる生涯学習推進委員会の上に置かれるものとする。
(2) 生涯学習推進委員会の責務
生涯学習センターが条例に基づき担う事業として,施設の利用を図るほかに,情報の収集及び提供,調査研究及び啓発,指導者等の人材育成,活動の支援促進及び相談,文化,教養のための講演会,講座,研修会,展示会等の開催がある。
しかしながら,現在,それらの事業を遂行するために必要と想定されるスタッフはセンター内に配置されてはいない。その背景には,生涯学習の支援は行政総掛かりで行うという前提があって,センターにつながる実働的な組織が想定されていたはずである。その位置にある組織は,平成4年に設置された行政各課を網羅した「生涯学習推進委員会」のほかにはない。
この委員会がどのように機能するかが,生涯学習に向けた行政の意気込みを町民に示すことになる。したがって,推進本部及び推進委員会の事務局は町長部局(企画課)が担当することが筋であると衆議一致したところである。
(3) 生涯学習推進町民会議(仮称)の新設
生涯学習センターの設置目的である「生涯学習活動の支援の促進」については,行政側からの一方的な働きかけだけで成立するものではない。町民側からの情報提供や要望の提示などが必要になり,そのための組織が設けられていなければならない。したがって,新たな組織として,町民の学習実践者から構成される調整・立案機関として「生涯学習推進町民会議(仮称)」を設置することとする。なお,事務局は社会教育課が担当するのが適切である。
また,生涯学習センターの運営等について協議をする立場を与えることが考えられる。他の各施設にはそれぞれ運営等についての協議組織(例えば,図書館協議会など)が在ることと符合させることは自然である。さらには,町民の意向を運営に反映させる正式の道筋を確保することは,町民への信頼を示す大事な手だてである。
(4) 当面の体制と将来に向けた課題
前述の生涯学習推進本部は最終決定機関としての機能を持つために,具体的で綿密な審議には馴染まないことが予想される。したがって,そのための新しい専門組織(例えば生涯学習審議会)を設置し,定常的な審議を重ねる体制づくりが望まれる。
しかしながら,推進組織ネットワークの効率的な運営を図る上では,組織数は少ない方がよいという判断もまた可能である。そこで当分の間は,推進本部の諮問機関として企画や評価などを行う機能を「生涯学習推進町民会議」に付託することにする。したがって,推進町民会議は推進本部からの諮問に答申し,また建議をできるものとする。
(5) 生涯学習センターの他の部局・施設との関係
生涯学習センターは施設としては,○○○ドーム,○○フォーラム,歴史資料館,福祉センター,健康センター,各学校施設等と,町民による学習の場の提供を分かち合う役割を担っていることは明らかである。生涯学習センター以外の施設は,それぞれ専門とする領域が限定された学習活動を支援している中で,さしあたっては生涯学習センターは文化的活動に対する場の提供が期待されているところである。
しかしながら,さらに今後町民の要望するであろう学習領域の多様さに応え,また行政総掛かりによる学習支援を一本化できる機関は,生涯学習活動の推進における要であり,生涯学習センターがその機能を担うものと規定されていることを確認しておく。特に,町民の側に立った学習支援を実現するためには,行政の縦割りによる窓口をそのまま町民に向けるのではなく,学習の入口を一つにすることが前提になるという認識で事を進めるべきである。その意味で他部局・施設との密接な連携の確立が不可欠である。
ところで,このような生涯学習センターに課せられている役割を誰が担うかという現実的な問題がある。現在生涯学習センターに常駐しているスタッフは,貸部屋受付やイベント補助,管理などの日常的な業務を行っており,学習の推進に資する諸方策を実践できるスタッフは足りているとは言い難い。早急に生涯学習の推進を担当する人材の配置が望まれる。
2.各推進組織の担う役割
推進を行うのは人であり,その役割は効率性を達成するために組織的に遂行されなければならない。したがって,個々の組織が果たすべき役割分担について提案しておく。
【生涯学習推進本部】
従来の本部構成員を縮小し、行政主体の組織とする。この点については,既設の要綱の変更は必要ではない。
本部が機能しづらいのは具体的な作業役割が認知されていないことも一因であると思慮される。そこで,本部の担う役割を,設置要綱第2条に規定されている本部における協議事項の内容を整理することによって,以下のように再確認しておくこととする。
(1) 企画調整・基本方針策定について
この協議については,協議組織として新設する生涯学習推進町民会議への諮問によるものとする。具体的には,推進構想や基本計画,実施計画を諮問する。
さしあたっては,各組織が滞りなく稼働できるように,規則や予算,人的配置などを整えることが最優先の課題である。○○町の学習施設は整備されてきて,今後は町民による利用の促進に向けた運用面の整備が図られるべき段階を迎えている。例えば,学校を学習の場として開放することに対する措置なども必要である。
また,学習体制の網から漏れる個人の学習をどう保障するかという点については,行政でなければ対応できないことであるという責任の自覚が望まれる。その上で推進・支援・連携体制の整備は推進本部が責任を持つ課題である。
(2) 情報収集・調査研究
この協議については,生涯学習に関する広報の発行(季刊,年報)および各課による学習事業及び分館活動の紹介等の報告書に基づき実施する。この取りまとめは企画課において行うものとする。調査研究については,生涯学習町民意識調査のような中期的に継続すべき調査を,関連する各課の共同によって企画するものとする。
(3) 啓発普及
この協議については,社会教育関係団体等による学習活動のまとめである「学びのガイド」の発行により実施する。団体活動の啓発による学習機会情報の提供の一環であり,その取りまとめは社会教育課において行うものとする。
(4) その他
この協議については,「生涯学習研修会」の企画,推進委員会からの定期報告,推進の評価などについて行うものとする。
なお,本部委員は次の通りとし,庶務は企画課・社会教育課で務める。
(図2−2を参照)
町長,助役,教育長,役場課長代表
町議会代表,区長代表
教育委員会代表,社会教育委員会代表,体育指導員代表,学校代表
学識経験者 (以上11名)
【生涯学習推進委員会】
委員会については,構成を行政機構の改変にしたがって修正する以外は,目的,所管事項等従来どおりとする。ただし,設置要綱第2条による協議事項について,以下に例示されるような課題が契機となることを確認しておくこととする。行政としての生涯学習への取り組みが町民に実感されるのは,この委員会の実効的な働きに掛かっている。
(1) 地域等への生涯学習の推進について
この協議については,地域,職場,団体別に各部会(行政課に拠る専門部会)が実施する学習支援や機会を調査集約する準備作業が先ずやるべきことである。その上でどのような機会が不足しているかが見えてくるはずである。例えば,時期の集中や内容の重複などを避ける調整機能を発揮することが連携機関として期待される。また,特に,一部会一出前講座の開設に向けた協議が待たれている。
(2) 推進指導者の養成について
この協議については,行政協力者である自治区役員や組合長,各部会に関連する団体指導者向けの組織運営マニュアル・手引き書などの作成,指導者向けの生涯学習研修会の開催を行うものとする。
(3) 推進のための情報収集について
この協議については,各部会が関係・把握する学習情報の報告を整理すると共に,町民に向けた案内として相応しい方法を考案するものとする。ポスターの行政区内掲示の推進やホームページへの掲載を定常化することなどが期待される。
(4) その他について
この協議については,時宜を得た学習課題について,関係部会の連携のもとでプロジェクトチームを組むなどの臨機応変な協議活動が望まれている。
【生涯学習センター】
生涯学習センターは行政による生涯学習支援の窓口としての役割を担っている。したがって,推進委員会の協議が町民に向けて具体化される現場と位置づけられる。
設置条例第5条によるセンターの事業は,以下に付記する例にならって執行されることを確認することとする。
(1) 生涯学習に関する情報の収集及び提供に関すること
この事業については,情報の入手経路を行政ルートと町民・民間ルートに大別し,企画課による推進委員会からの報告と社会教育課による町民会議からの報告を受けて行われるものとする。
(2) 生涯学習に関する調査研究及び啓発に関すること
この事業については,推進本部が企画実施した意識調査の結果を町民に啓発することや,内外他機関による学習調査の収集と整理,さらには,町民会議から寄せられる各団体による学習機会の概要と参加数をデータベース化し生涯学習年報として発行することなどによって行うものとする。
(3) 生涯学習に関する指導者等の人材育成に関すること
この事業については,各分野からの講師情報を収集・整理して検索できる体制を整えることや,○○町人材登録メンバーの指導力向上及び各生涯学習団体の運営力向上のための研修などを定期的に行うものとする。
(4) 生涯学習活動の支援促進及び相談に関すること
この事業については,町民各団体による学習活動を共催や連携などにより支援することや,学習プログラムなどの企画立案に関する相談を受ける体制を構築することなどによって行うものとする。
(5) 文化,教養のための講演会,講座,研修会,展示会等の開催に関すること
この事業については,行政主催のものはもちろんであるが,町民主催に掛かり難いものを取り入れることで,全体の調和を図る企画が望まれている。
【生涯学習推進町民会議】
生涯学習は町民が主体となるべき活動であり,その意義を明確にするためには町民主体の組織を新設することが不可欠である。
この生涯学習推進町民会議に関しては,要綱の形式までに協議を進めていないので,ここでは期待される概要を列記するに留めることにする。本答申の提出の後,具体的な設置要綱が策定されることを願っている。
《目的》
生涯学習によるまちづくりを町民のサイドから推進するための総合的な諸策を審議するとともに,町民の生涯学習への意欲を喚起し,豊かな町民を目指す活動を提起し,町民自らによるまちづくりを具体化するため,町民をつなぐ学習活動の推進を目的とする。
《委員構成》
社会教育との連携もあるので社会教育委員代表,地域の生涯学習に関わる分館主事代 表,各世代の代表として青年代表,婦人代表,老人代表,団体から体育団体代表,文化団体代表,青少年育成環境に関わる育成会代表,家庭教育に関わるPTA代表,一般町民の代表(若干名とし,他領域を含むものとする)及び学識経験者とする。
(図2−2を参照)
《審議・協議事項》
推進本部からの諮問へ答申,推進のための本部への建議,並びに学習活動の評価と検証といった総合的な審議をする。一方で,生涯学習の実務者の集まりという特長を生かして,町民の学習意欲や希望などに関する情報の交換,学習内容やレベルの調整,学習成果の活用について協議する。その協議内容については,推進本部に報告することを義務化する。特に,町民に身近な自治公民館や小学校区を単位とした学習組織の立ち上げが今後の中期的な目標として継続的に取り組まれるべきである。
《会議等》
会議は最低でも5月,9月,1月の年3回開くものとする。なお,答申等に向けて小委員会を適宜開催できるとする。
3.生涯学習の体系
生涯学習は町民一人一人が自らの選択で行う自主的な活動である。一人の個人が生涯に出会う学習の総体を概観することは,推進方策を網羅する大切な道標となるはずである。
以下に,想定され得る分類指標を提示するので,「実施計画」の立案段階で「○○町生涯学習プログラム」を企画する際に参照されることを期待する。
(1) 学習者
学習者の最も基本的な属性は性別と年齢である。学習については性差をことさらに意識する必要はないが,健康上の学びについては若干の配慮があり得る。年齢による分類は大きな意味を持っていることは明らかである。
時間系列=[幼少年期,青年期,壮年期,高齢期]
学習者は社会的な役割を背負いながら生きており,その任に相応しい学習を迫られている。その学習者の状況を適切に捉えた学習テーマの設定が推進上の要となる。
社会系列=[個人,家庭(夫婦・親子),職場,地域]
(2) 学習環境
学習を行う環境は,単に場所ではなくて,学習を支援する機能と雰囲気が備わっていなくてはならない。資料の揃った図書館や資料館といった公的施設,学習機器の充実した学校施設,運動用具の整った体育施設や運動場,学習目的の営業施設がある。本来貸室であるセンターや自治公民館については,学習形態に対応できるような機器の用意や利便性などが必要であり,十分な財政的支援が必須である。
(3) 学習時間
学習者が自らの学習に振り向ける自由な時間は,実際的にはかなり制限されている。学習時間を仮に2時間としても往復の時間と準備後片づけなどを勘案すると所要時間は4時間程度になる。したがって,学習に使われる時間の選択は,平日,土・日曜日といった曜日のほかに,午前,午後,夜間といった時間帯に分けることができる。企画者は同じ学習機会を時間帯をずらして並行して実施するといった学習者の選択幅を広げる工夫などが求められる。
(4) 学習課題
学習の課題は前述した学習者の属性に依存して多様になる。系列により課題を分類化することもでき,生涯学習の総体を把握すると同時に,何が足りないかを見極める見取り図としても利用される。(図2−3参照)
個別の課題については,初歩的な入門から専門的な学習までの組織化されたキャリアにつながるものや,趣味,スポーツ,文化,暮らしなどに関わる学びなどがある。どのような課題の学びであっても,その苦しい過程が人としての育ちを促すものであるという共通理解が大事である。
(5) 学習目的
何のために学習をするのかという問については,人それぞれに解答を出せばいいのであるが,健康のため,生き甲斐を求めて,あるいは自己能力の開発を目指してといった取り組んでいる課題に沿った目的を自覚できることが望ましい。
(6) 学習方法
知らないから学ぶという初歩から,もっと極めたいという意欲に突き動かされた学びまで,いろんな段階に応じて学べる機会があることが望ましい。形式としては,講義,講演,実習,実技など,さらに学習の次への段階として卒業試験ならぬ発表,公演など,さらには奉仕活動といった学びの還元などに進むことが期待される。学んで生かすというサイクルを自分なりに作ることができれば,生涯を通じた学びができるはずである。そのような学習の体制を作り上げなければならない。
個人的な生涯学習とまちづくりにつながる生涯学習は,それぞれに論じれば違って見えるが,例えば学習課題を共通項として並置してみると,同じ学びが個人を豊かにする一方で,町としての豊かさも育まれることが分かる。繰り返しておくが,人が育てば,その人が住む町も必然的に育つのである。
3.具体的学習需要の内容について
ここでは,町民の学習要求を具体的に把握し,整理することによって,「推進方策」との関連を探り,町民の学習権を保障できる支援の道筋を提案することとする。
本審議会では,中間答申以後,学習の現状に関する資料について検討した。すなわち,平成13年に発行された「生涯学習に関する住民意識調査報告書」をはじめとして,各課に集約されている学習活動のまとめなどを参照しながら,学習需要に関する審議を行い,以下に述べるようなまとめを得た。
1.学習内容の進展性への要望
学習活動には必然的にステップアップがある。入門から専門へという内容の深化過程である。そこで,学習需要は内容面で二極化が現れている。全く新しい学習テーマに取り組もうとする人は,入門的な学習機会を求めている。一方である程度学習を経験した人は,より深い学びの機会を欲している。生涯学習においても,学習の進展というステップを無視するわけにはいかない。
現状の教室形式の学習では,「初心者歓迎,いつでも参加できる」という好意的な勧誘が行われている。しかしながら,初心者は,経験者ばかりの集まりに途中から参加することにはかなりの心理的な負担を感じてしまうものであり,学習機会をみすみす逃すことになる。「入門」というキーワードを冠した学習機会を提供することによって,学習に気軽に参加する人の裾野を広げる手だてが必要である。気軽にということは大事である。
一方で,より高度の学習を求める人のために,専門的な学習機会の提供も考えなければならない。ただし,そこまでに向かう学習者数は減ることが想定されるので,適正な規模を確保するためには,広域的な学習の場を設けることが実際的である。近隣の市町との連携や高等教育機関との協力が必要となる。
2.学習テーマの多様性への要望
学びたいと思われている要望度の高い学習テーマは,生涯学習意識調査によると,パソコン,健康,文芸,運動,技能(英会話,料理,庭木)の順であった。趣味教養という範疇から離れた,実用的な学習テーマが求められていると思われる。この需要傾向から見えてくる学習形態は,きちんとしたカリキュラムに沿った学習というイメージである。すなわち,具体的な課題があり,そこに到達するためのちゃんとした指導が受けられるという目標の見える学習である。
生涯学習は何かの能力を身につけたいという意欲に支えられるものであると考えると,明確なゴールを持つ学習機会は,かなり魅力的なはずである。何ができるようになるかという能力開発に特化した学習機会という面では,○○町の学習機会の現状は多様性において十分とは言えない。学習目標を明確にする意図を持つことで,テーマの多様性を生み出すことができるはずである。
学習目標が見えるという点については,既存の学習の場においても,十分に配慮されることが望まれる。
3.学習成果の実効性への要望
能力は役立ててこそ価値あるものとなる。学習の成果を「機会があれば活かしたい」と考えている人が5割以上いることが調査からうかがえる。この活力を生かさなければ,学習者のみならず,町にとっても大きな損失である。
問題は「機会があれば」という点である。学習支援という言葉は,学習に誘い,学習をやり遂げるまでの関わりという意味を持つと思われがちだが,学習成果の発揮までを想定しておくべきである。もちろん,個人的に機会を見つけたり,社会的な機会提供に応じたりすることがあるとはいえ,支援体制の詰めの段階として,ボランティア活動という機会,学習指導という機会などの提供が組み込まれてこそ,生涯学習システムが完結することになる。
学習修了者の認定という節目を設ける工夫が意欲の喚起につながると考えられているが,大事なことは修了証に何らかの効力があるかどうかである。例えば,○○町の生涯学習システムの一環として,地域や町における活動などへの参画の際に資格として認知されるとか,より専門的な学習への進級資格のような形式を整えるといったことも考えられる。
学習成果の地域への還元という面では,最近社会的な趨勢となっているボランティア活動と生涯学習活動とリンクすることも大きな推進の方策となる。この場合には,生涯学習の先にボランティア活動があるという明確な道筋を付けることができる。
現在,○○町には福祉ボランティアと学習ボランティア(社会教育関係)の分野でさまざまな組織活動が実践されている。自然発生的なものもあれば,行政主導のものも混在している。今後のボランティア活動組織の発展を期すならば,ボランティア養成講座の設置から,その修了者による組織の立ち上げや資金等の補助の道を拓くなどの,一貫した支援も考えることができるはずである。その実現のためには,ボランティア組織の統合化や支援部局・機関の編成や専任の配置といった支援体制の整備が求められる。
4.潜在的な学習需要の掘り起こし
町民一人一人が自覚できる自己課題を持って学習に取り組むのが生涯学習であると言えるのであろう。しかしながら,学習への支援として,課題の発見を促すということも忘れてはならないことである。学びの基本は知らない自分を知ることである。学びたい,学ばなければ,という学習意欲は自分が何を知らないかを自覚することである。この課題の自覚につながるポイントをいくつか提示しておく。
(1) 学習情報の提供による掘り起こし
学習活動をしていない人が挙げる理由は,「忙しい」が最も多い。学習とは暇なときにするものというイメージがあるようだが,今後に向けてイメージチェンジを図る必要がある。次にくる理由は,「関心がない」,「いつどこでが分からない」,「参加したいものがない」と続いている。この調査結果を受けて,学習情報の提供を一層進める必要があると考えられている。網羅的に学習団体等を一覧した情報提供の仕方が普通であるが,そこにもう一つの工夫を込めておいた方がよい。「こんなことを知っていますか」,「こんなことができるようになりますよ」というメッセージである。例えば,「料理教室」だけのタイトル情報では,肝心の中味に関する情報が提供されていないということである。何が学べるのか,その具体的内容が学習者にとって最も必要な情報である。
(2) 学習アドバイザーによる掘り起こし
学びの場では,分からなければ聞けばいい,ということが言われる。ところが,実際には何をどこに聞けばいいのか分からないということがある。学習の入口でなんとなく立ち往生している人に対する適切な情報提供も必要である。行政窓口サービスにおけるワンストップ体制に類する需要への対応である。広報やホームページなどの媒体を用いた活字情報を流布させるのは,第一段階である。曖昧ながらも学びに関心を持った人に対して,より具体的な学習課題を選択できるように案内する第二段階の人的な支援が必要である。したがって,学習相談窓口の設置とアドバイザーの配置が是非とも実現されるべきである。人から人への情報こそが温かくて確実に伝わるからである。
生涯学習の課題範囲は多岐に渡るために,学習情報が散在しているのが現実である。情報の一元化を生涯学習センターの機能とする一方で,それらの情報を対面で提供できるように図ることで,需要の広がりが生まれるはずである。
さらに,情報の一元化は,その整理プロセスの中で学習課題の体系化を必然的に生み出すはずである。逆に言えば,体系的な整理をしないと一元化ができないからである。
(3) 行政情報の提供による掘り起こし
行政各課から「窓口で町民から尋ねられる質問,及び町民に啓発したい事項」についての報告を受けた結果,および相談事業の内容分類について検討を行った。日々の暮らしで出会う疑問,健康への心配,住まいの不便など,町民はどうすれば解決できるのかを行政組織に問いかけている姿がうかがえる。知って分かれば,安心して処理できるようになる。このことが生涯学習の目的なのである。
行政が業務の中で培ってきた町民の暮らしに関する知恵は,膨大なものであり,それを公開することは責務でもある。町民が知りたいことが何かを分かっていながら,座して待っているのは知恵の還元を滞らせることになる。分かっているなら,どうして教えておいてくれなかったのか,それが一般町民の声である。町民に啓発したい事柄(例えば,年金,健康,介護,環境など)を持ち合わせているなら,それを「出前講座」といった学びというルートに載せることを考えてみるべきである。
町民が抱えている疑問や問題を共有しようという学びが提供されれば,そんなことがあるんだという新鮮な課題意識を持つことができるようになるはずである。
5.支援者から学習者への要望
(1) 自主的活動
自主的な学習活動が生涯学習であるとすれば,推進のための支援は,学習者の自立を促すことも欠かせないことである。いつまでもどこまでも支えるというわけにはいかない。学習が広がる一方で支援者の負担が増加するのでは,推進支援システムは破綻する。
例えば,各種団体活動が行政区レベルで行われる場合,行政区事業になりすますといったことが起こっている。自治公民館活動の中に紛れ込むのである。それぞれに事情があることでもあり厳密な区分けを急ぐこともないが,せめて自分たちの活動であるという主体性を持って取り組む気運が育って欲しいものである。
(2) 学びの対価
また,学習支援ということの中には,公的な資金補助もある。生涯学習活動は自らの意思で行うものであると考えるなら,自らの裁量で賄うべきであり,補助には自ずから限度が設けられてしかるべきである。学習の実りが個人に帰することと見なせば,第一義的には受益者負担が妥当である。学びには授業料がいるという理解も自立的学びの要件である。ただし,学習成果を○○町民として発揮するような場合には,その受益者としての町がそれなりの支援をするのは当然である。
(3) 学び合う
学習グループの育成にあたっては,行政の手で立ち上げから運営までを支援することだけではなく,学習組織づくりを学ぶという講座を開設すべきである。いわゆる指導者の養成である。手始めに,団体の役員や自治公民館主事を対象とする組織運営についての学習機会を設け,そこから○○町での組織づくりのノウハウを蓄積してはどうであろう。
また,町内に在住の各方面のエキスパートを捜し出して,少人数の学習グループ(5人〜10人)に派遣できるような仕組みを充実させて,お互いに学び合うという学習形式を定着させるための支援も一層推進した方がよい。さらには異業種の談話会なども,効果的で気楽な学習の場となりうるはずで,縁結び的な支援も考えられてよい。さしあたっては現在の人材派遣登録制度の広範な活用が取り組むべき課題である。
町民が自ら学びを生み出す力を持たなければ,生涯学習は生涯教育に逆戻りしてしまうことになる。
6.今後の学習需要の把握について
推進方策や計画を考える場合,町民の意向に則ったものにすることが効果を生む根源であり,さまざまなデータが不可欠である。データは年次系列で揃えられてこそ,価値が生まれる。生涯学習の推進に必要なデータが今後継続して整えられることを希望しておく。
・5年次毎の町民意識調査
・毎年度の各団体や公民館での学習事績のまとめ
(日時・テーマ・参加数・費用など)
・毎年度の各施設・部局での町民参加学習・行事のまとめ
・その他のデータ類
○○町における生涯学習の歩みが着実にまちづくりに向けて進展するための方策を,真摯に討議をしてきました。答申として支援システムのあり方を提示していますが,○○町にとって望ましいあり方は,行政当局と町民の協働による今後の具体的な実践の中で整えられていくものと考えます。
本答申に込められたささやかな期待をくみ取っていただき,町民の学習活動に対してなお一層の支援を実現して下さることを審議会委員一同は心より願っております。
最終答申 以上
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《今後の取り組み》
以上の答申における第一義的な目標は,現在の機構をとにかく稼働することにおかれています。したがって,組織の設置条例に謳われている機能を再確認し,具体的に何をすればいいのか,それは生涯学習の推進上どういう意味があるのかという点を明らかにすることが必要でした。生涯学習の推進のためには,まだまだ整備と充実をすべき点が多々あります。本答申は,設置されている機構が動きさえすれば,残された課題を考察し解決することができるはずであるという期待を残しています。
最も訴えておきたかったことは,誰が推進するのかという自己責任の自覚です。無為であることが過失であるという時流を読み取る感性が働かなければ,今後ますます高まっていく地方自治への動きから脱落するのは目に見えています。生涯学習という活動は,自分の暮らしのみならず,自分たちの暮らしの総体である地方の行く末に関わっています。人びとは生涯学習をしているつもりですが,その意識は必然的に自分たちのまちづくりへとつながっているということです。
今後の展開がどのように進むか,答申をした者として見守っていくつもりです。結果が見えてきたら,改めて報告するつもりです。