*****《ある町の社会教育委員の活動》*****

【第17章 社会教育委員研修会の趣旨】

 1市7町からなる地区の社会教育委員連絡協議会で,毎年研修会を開催しています。地区の会長として,研修会を主催していますが,趣旨の設定が一つの役割になります。趣旨などは毎年似たり寄ったりであり,さして関心を集めるものではありません。サッと目を通すだけで忘れ去られていきます。
 趣旨を設定する際には一応過去のものを参照しますが,遡ってみているとほとんど変わっていないという印象を受けます。同じ目的になるのは避けられないとしても,切り口は変えていくほうが新鮮味が出てくるのではないかと感じます。趣旨にはものの見方を提案するという役割があるのではと考えて,一年に一度の機会を有効に使う試みをしています。その一端を記録しておくことにします。

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【趣  旨】

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《平成12年度》

 今日,社会の急激な変化に対応して人々が生きがいのある充実した人生を送るため,生涯学習社会の実現が求められています。そのためには生涯学習推進体制の整備が必要であり,行政はもとより家庭・学校・地域社会の機能を見直し,総合的に整備充実することが必要です。
 そこで○○地区の社会教育委員及び関係者が一堂に会し,各市町におけるまちづくりの現状や生涯学習推進上の社会教育委員の役割等について研究協議することにより,生涯学習のまちづくりと社会教育の活性化に資することを目的としてこの研修会を開催します。

《平成13年度》

 今日,社会の急激な変化に対応して人々が生きがいのある充実した人生を送るため,生涯学習社会の実現が求められています。この気運は成人に限られるものではなく,青少年においてもさまざまな問題行動を通して生涯学習社会における養育を訴えていると思われます。
 これらの切実な希求に応えるためには,行政はもとより家庭・学校・地域社会の機能を見直し,成人と青少年を総合的に視野に入れた生涯学習推進体制の整備充実が急務です。
 そこで○○地区の社会教育委員及び関係者が一堂に会し,各市町におけるまちづくりの現状や生涯学習推進上の社会教育委員の役割等について研究協議することにより,生涯学習のまちづくり構想の策定と社会教育の活性化に資することを目的としてこの研修会を開催します。

《平成14年度》

 今日,社会の急激な変化が進んでいる中で,人々は生きがいのある充実した人生設計を立てるために,生涯学習社会の実現を求めています。この気運は一般成人に留まらず,青少年においてもさまざまな問題行動という形で生涯学習社会における養育を訴えていると思われます。
 これらの切実な希求に応えるためには,家庭・学校・地域社会の機能を見直し,成人と青少年を総合的に視野に入れた生涯学習推進体制の整備充実が急務です。折しも完全学校週五日制が始まり,地域の教育力を契機とした地域自治活動の向上が注目すべき課題となっています。
 そこで○○地区の社会教育委員及び関係者が一堂に会し,各市町におけるまちづくりの現状や生涯学習推進上の社会教育委員の役割について研究協議することにより,生涯学習のまちづくり構想を踏まえた社会教育の活性化に資することを目的としてこの研修会を開催します。

《平成15年度》

 社会の構造がグローバル化する中で,人々の生き方は内部から揺さぶられています。新しい生き方をみずから見いだすために生涯学習への期待はますます大きくなっています。その豊かな活力を支援し励まし,まちづくりに結びつけることが社会教育委員の果たすべき役割です。
 人々の暮らしの場は家庭であり,そこでは青少年の健全な養育活動があります。近隣との融和は地域を形成し,そこには地縁という共同活動があります。その先に心温かなまちが生まれます。このような基本構想を実現することが,子どもからお年寄りまでの幸せを招く道だと思われます。
 そこで○○地区の社会教育委員及び関係者が一堂に会し,各市町におけるまちづくりの構想や実践活動について研究協議することにより,生涯学習のまちづくりに向けた社会教育の活性化を図ることを目的としてこの研修会を開催します。

《平成16年度》

 豊かな社会と語るときに,満足させていただける社会を思い描いているとしたら,社会資産の有限さを見落としていることになります。地球の資源が有限であるのと同じで,社会資産も有限であるはずです。参画やスローライフ,ユニバーサルデザインという言葉が湧きだした背景には,豊かな社会は一人ひとりが創造するものではなかったのかという価値観の修復機能が働いています。
 社会教育は,社会から個人に向けて豊かさを引き出すのではなくて,個人から社会に豊かさを注ぎ込むという社会力を育てることを目的にします。そのために生涯学習が手段になり,地域の活性化が目標になり,まちの温もりが実りになるという道筋が想定されます。
 そこで○○地区の社会教育委員及び関係者が一堂に会し,生き生きとした社会教育実践を支えている人々に目を向けて,社会の豊かさの方程式を解くことを目的としてこの研修会を開催します。

《平成17年度》

 人と社会の関係を考えるとき,社会が求める人間か,人間が求める社会かという二つの道があります。かつては,社会が求める人間という考え方から教育活動が行われていました。そこには,社会は不変であるという前提がありました。しかしながら,人の意識が時代の流れで動いていくとき,社会組織の変革が求められます。特に現在のように人の意識の変化が速くて大きいと構造の手直し程度では済まなくなり,構造改革の波が現れてきます。その直感が「まちづくりは人づくりから」というスローガンとして,人が社会に優先するという考え方を打ち出しています。
 変革に直面している現在の社会教育には,人びとが求めているものを精選し集約し,社会活動の実践を促し,構造変革の力に高めるということが期待されています。そのためには,人びとにまちをつくる機会と場を提供し実績を積み上げるためのプログラムの開発が必要になります。
 そこで○○地区の社会教育委員及び関係者が一堂に会し,青少年育成という具体的な課題に向かう実践を通じて,まちづくりの喜びを人びとにもたらす方策を学ぶという目的のもとに本研修会を開催します。

《平成18年度》

 現在進行中の国際化と情報化は,普遍性や均質性を推し進め生活の豊かさをもたらしてくれました。しかしながら一方では,人間性の基盤である身近にいる多様な人びととのふれあいを希薄にしてきました。その空白にこれまでとは異質で対処の困難な問題が発生しています。
 私たち社会教育委員は,当面する課題を解決する根源は人間性を育む「地域」環境の豊かさであるとの共通認識を持ち,これまでの5年間さまざまな社会活動の事例に基づいて,現代に求められる地域像について研究協議を進めてきました。
 ○○ブロックの社会教育委員及び社会教育関係者が,地域住民の実践している諸活動を地域づくりという社会教育活動の振興目標に照らし合わせ,さらなる発展を促すための指針や方策を見出すことを目的に,この研修会を開催します。

《平成19年度》

 社会や組織・機関は時代の変遷に合わせて改革を迫られます。平成の大合併を始めとしてさまざまなレベルでの構造改革が進展している中で,その運用も前例踏襲では済まなくなっています。社会のハードが変われば,必然的にソフトも改版する必要があります。
 まちづくりに関わるハード面は行政が主体になって担っていますが,住民参加などのソフト面に対しては,社会教育による諸活動の推進が期待されています。
 現在の世情を散見するとき,生涯学習の大事な目的の一つであり,人の生き方を育む文化の伝承が滞っていることによる不条理が浮かび上がってきます。あってはならない,あるはずもないことが頻発しています。
 人として生きていく文化は地域の大人から子どもへ伝承されるべきものです。この大切な生涯学習を地域に根付かせることが社会教育に課せられた喫緊の課題と捉えて,青少年教育活動を中心に研究協議することを通して,社会教育委員の役割を共通理解するために本研修会を開催します。

《平成20年度》

 人は今,思いも及ばない規模にまで拡大した社会に生きています。日常の暮らしの隅々にまで,他郷の見ず知らずの人との間接的なつながりが多重に連なっています。社会がお互い様であるとするなら,大きな社会では人の些細な不始末の影響は甚大なものになるために,より深い品格が求められています。一方で,人が心豊かに育つためには直接的で多様な人のつながりが不可欠であり,それを満たしてくれるのが地域社会です。
 まちづくりは人づくりといわれていますが,人づくりは地域づくりからというのが社会教育の目指している目標です。人々が地域人として生きようとすることを通して社会人としての成長と飛躍が可能になることを期待しているからです。その実現のためには,地域が与えられているものではなく,一人ひとりが自らの手で作り上げるものであるという意識を涵養しつつ,具体的な行動を喚起する仕組みを整える必要があります。
 このような現状認識の下で,今,社会教育委員に求められているプランナーとしての役割を再確認するために本研修会を開催いたします。


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《今後の取り組み》
 研修会の要項に掲げる趣旨ですので,論を張るという余裕はありません。要点を述べるだけになるので,あっさりしたものになります。社会教育委員としての立脚点を提示し,そこから見える眺望は各委員の深謀に任せるのが趣旨の役割です。

 趣旨を考案する機会を持つ方は少ないと思いますが,ほんの数行の趣旨文についても,何を伝えようかと考え込んでいる者がいることを知っていただき,じっくりと読み込んで欲しいと思います。研修への参加の入口は趣旨にあるということを,趣旨を提案する立場になってやっと気がついています。研修の機会があるときには,趣旨を真剣に読んで学びの一端にしていただければと願っています。

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