*****《ある町の社会教育委員の活動》*****

【第21章 子育ち12基礎力の提言】

 前号の社会教育計画書の説明の稿で,以下のことを表明しておきました。

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 次に,重点目標ですが,7つの分野に分けて,19年度の目標を掲げてあります。

●青少年教育について

  子どもに見られる諸問題の背景には養育環境の対応の遅れがあります。子どもの育ち
  は親の責任であると考え,地域の親として養育に真摯に取り組む義務を果たし,さら
  に地域の大人たちが子育て支援をすることにより健全な○○の子どもを育てます。
   ◎子育てに関するアピールをまとめて,広く周知を図ります。

 町のあちこちで○○町の子どもを育てます,ということがうたわれていますが,どのような子どもかというイメージが共通理解されていません。このような状況では,家庭・学校・地域の連携は進めようがありません。この基本的な課題に対する活動を今年度皆さんとご一緒に進めていきたいと考えております。
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 「子育てに関するアピール」,それをどのような子どもに育って欲しいかという具体的な形でまとめて,広く提案する活動を進めると約束しました。約束は守らなければなりません。以下のような「提言」をまとめてみましたので,再録しておきます。

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平成19年度 社会教育委員の会 提言

『○○の子育ち12の基礎力』

【提言の趣旨】
 ○○町教育委員会では毎年度社会教育活動の指針として社会教育計画書を提示されておられます。その中で,青少年教育の重点目標に
「子育てに関するアピールをまとめて,広く周知を図ります」
と掲げられています。この目標は,子どもたちの育成に関わる家庭・学校・地域の大人がそれぞれに目指している子ども像を総合的に整理することにより連携した子育てが行われることを期待して策定されました。○○の子どもを育てるという目的は,どのような子どもに育って欲しいのかを共通理解することにより可能であると考えられるからです。
 平成18年5月に政府の再チャレンジ推進会議で「社会人12の基礎力」がまとめられました。社会人は子どもたちの育ちの目標であると考えると,育ちにおいても目指す基礎力があるはずです。そこで,○○の子どもたちに育ちの過程で獲得して欲しい基礎力を精選することにより期待される子ども像を構築することにしました。

【提言の構造】
 子育てに関するアピールをまとめるに当たり,最も留意した点は,アピールの全体がしっかりとした構造を備えているということです。恣意的に羅列されているとしか見えないものであっては,指針としての信頼性は期待できないからです。例えば,社会人12の基礎力に関する報告書を読んでも,なぜ12なのかという最も重要な点についての考察が見あたりません。いろいろな基礎力を挙げていき,類別していくと12項目になったということでしかないようです。簡単に言えば,13や14番目は考えなくてもよいのかという疑問に対して答えられないのです。
 子育てに関わる者が不安になる原因は,今の子育てで何か重大な手抜かりがないかという漠然とした迷いです。その迷いを払拭するためには,子どもの育ちについての全体像を把握できることが求められます。そのような現状に応えるためにも,基礎と言う以上,必要最小限のものを網羅しているという保証がなされなければなりません。そのことが同時に,全体像を明らかにすることになります。
 子どもの育ちについて概観することから始めます。物事を考える基本は適切な疑問を設定することですが,最も基本的な疑問は5W1Hの6つの疑問です。誰が育つのか,どこで育つのか,いつ育つのか,何が育つのか,なぜ育つのか,どのように育つのかということに答えていけばよいことになります。それぞれの育ちに結びつく基礎力を選定していけば6つの力が決まります。これは子ども個人の育ちに関わる基礎力となります。
 さらに,人は社会的動物であるということ,大人になるということは社会人になることと考えれば,その基本としての人間関係は子育ちの中に組み込まれているはずです。子どもは人の中で育つということに着目すれば,上記の6基礎力とペアになる6つの基礎力を想定しなければなりません。すなわち6×2=12の基礎力が必須の力となります。

【基礎力の一次選定】
1.誰が育つのか?
 「誰が育つのか」という課題視点に対して,「もう一人の自分」という自我を想定します。自分を意識世界で支配しているもう一人の自分です。我を忘れるという時の忘れる自我です。心神耗弱という場合の心神です。自我が人としての存在になると考えます。自我の確立が人として「必要な要件」であり,育ちの本体になります。
 自我の確立を表す具体的な力として,「1.決断する力」を選定することにします。社会人基礎力における「主体性(物事に進んで取り組む力)」は自ら決断することで発揮されるものです。
 また,人は社会で生きるという宿命が課せられています。自分一人では生きられないという条件の下では,自他の認知が人として「十分な要件」となり,育ちの課題になります。
 自他を対等に意識できる現れとして,「2.交際する力」を選定します。社会人基礎力における「働きかける力(他人に働きかけ巻き込む力)」は他人を認めることが基盤にあります。
 こうして,必要かつ十分な二つの要件の対が揃うことになります。

2.どこで育つのか?
 「どこで育つのか」という課題視点に対して,「安心できる居場所」という育ちの場を想定します。安心しているから,人は自分を成長させます。不安になれば閉じこもり,育ちが閉塞します。人とのつながりが途絶えたとき,生きる力は衰退します。家族や会社といった帰属意識というつながり感,それを居所の確保と考えると,人として「必要な要件」であり,育ちの場となります。
 居所の確保を表す具体的な力として,「3.安心する力」を選定します。社会人基礎力における「柔軟性(意見の違いや立場の違いを理解する力)」は自らが安定した状態にあることで派生するものです。
 また,自他の友好的なつながりが社会の基盤であることから,共存の認証が人として「十分な要件」となり,育ちの課題になります。
 共存することが生きていく場であると認める現れとして,「4.信頼する力」を選定します。社会人基礎力における「情況把握力(自分と周囲との関係性を理解する力)」は関係性を信頼の目で理解することと解釈することができます。

3.いつ育つのか?
 「いつ育つのか」という課題視点に対して,「言語の獲得」という摂取物を想定します。人は言葉を獲得して人になるということです。はじめに言葉ありきというわけです。物事を考える,感じる,人としての営みは言葉を介して行われています。もう一人の自分は言葉を覚えたときに,育っていくと考えます。自分に名前がついたとき,もう一人の自分は自分を意識化することができます。言語の獲得が人として「必要な要件」であり,育ちの糧になります。
 言語の獲得を確認する力として,「5.表現する力」を選定します。社会人基礎力における「発信力(自分の意見をわかりやすく伝える力)」は直結することになります。
 また,言語は人間関係を築くコミュニケーションの手段でもあり,生きていく上で不可欠なあらゆる概念の共通理解が人として「十分な要件」となり,育ちの課題になります。独りよがりの表現や捨て台詞は何の共感も得られなくて,意味が伝わりません。
 諸概念を共通して構築するために必要な力として,「6.理解する力」を選定します。社会人基礎力における「傾聴力(相手の意見を丁寧に聴く力)」は理解しようとするときに自然に発揮されるものです。

4.何が育つのか?
 「何が育つのか」という課題視点に対して,「可能性の発掘」という能力開発を想定します。人は動物であり,行動を通して生きています。持ち合わせている能力を使うことが生きることになります。思っているだけ,するつもりだけでは何もしていないのと同じなのです。能力を発揮することが,人として「必要な要件」であり,育ちの意味になります。
 能力の発揮を促す手だてとして,「7.実行する力」を選定します。社会人基礎力においても「実行力(目的を設定し確実に行動する力)」がそのまま通用しています。
 また,能力を自分勝手な目的に使うことは許されません。社会的に適正であり,有意義な発揮が求められます。社会には,能力を使うに当たり,目的としての価値観が真善美などの形で共通化されています。価値の正しい選択が人として「十分な要件」となり,育ちの目標になります。
 社会で生きていく上での核になるものを獲得しているという意味で,「8.尊重する力」を選定しておきます。社会人基礎力における「規律性(社会のルールや人との約束を守る力)」はより具体的な指標となっています。

5.なぜ育つのか?
 「なぜ育つのか」という課題視点に対して,「希望の持続」という成長願望を想定します。人は明日は良くなるという展望を持たなければ,日々の生きる張り合いが感じられません。明日が真っ暗という閉ざされた状況では生きることの意味は失われます。もう一人の自分が明日の自分を明るいものと信じられるときに,今日の苦労を耐えることができます。明日があるという思いを背景にして現実を直視することが人として「必要な要件」であり,育ちが促されることになります。
 現実を直視できる力の現れとして,「9.忍耐する力」を選定します。社会人基礎力における「ストレス対応力(ストレスの発生源に対応する力)」は忍耐力の次に現れる高次の段階と見なすことができます。
 また,明るい明日という思いが漠然としたものでもある程度の効果がありますが,長続きはしません。実現可能性という条件の満たされていることが大事になります。単なる夢であってはいけないのです。さらには,人と協力するという社会力の助けも仰がなければなりません。明確な形の将来への展望が人として「十分な要件」となり,育ちの目的になります。
 孤独ではもたらされない将来への展望を基盤とする,「10.期待する力」を選定することができます。社会人基礎力における「創造力(新しい価値を生み出す力)」は明日を期待する力によって促進されます。

6.どのように育つか?
 「どのように育つのか」という課題視点に対して,「失敗の克服」という成長原則を想定します。人は失敗体験を通して自らの潜在能力を発揮させることができます。失敗を真摯に受け止め,未熟なところを見極めるという反省を経て,人は前に踏み出すことができます。さらに,失敗することで失敗の程度が見えるので,対処を考えることができます。失敗をしていないと,何が起こるか分からないという不安が膨らみ,臆病になります。失敗の発見が人として「必要な要件」であり,育ちの出発になります。
 失敗から学ぶべき課題を見いだす力として,「11.分析する力」を選定します。社会人基礎力における「課題発見力(現状分析し目的や課題を明らかにする力)」は事象分析の副産物と考えることができます。
 また,失敗の原因が見えると,なすべき課題も明らかになりますが,だからといってその解決への対処がすんなりと進むとは限りません。課題は見えても,どうすればいいのかが分からないことが普通です。失敗を乗り越えてきた先輩諸氏から受け継ぐ学習を経て実践に移すことが「十分な要件」となり,育ちのあらゆる課題に対する仕上げになります。
 学習を実践に向けるための力として,「12.挑戦する力」を選定します。社会人基礎力における「計画力(課題解決のプロセスを明らかにし準備する力)」は挑戦のシナリオ作成と捉えることができます。

 どの課題視点についても,自我(奇数項)と自他(偶数項)をベースにしたペアの行動指標を取り上げることができました。6W1Hの課題視点と必要十分という対を組み合わせることにより,育ちを12の視点から総合的に理解することができます。
 社会人12の基礎力との間にそれなりに対応が見られるということは,全くの偶然ですが,基礎力の具体的な選択に対する傍証になっていると考えることができます。

 以上は,基礎力策定のために予め想定した仮定モデルです。このモデルをベースにしながら,衆知を凝集する手続きを進め,よりよいものに作り上げていくことが必要です。

【基礎力の集約】
 子どもたちに求められる力を広範囲に収集することが,なされるべき次のステップです。まとめという作業を実施するためには,先ず素材をぬかりなく集めておかなければなりません。
 その手段として,日頃子どもたちと関わりを持っている方々,社会活動を推進している方々に,今の子どもたちに欠けている力,あるいは次世代を担う子どもたちに期待する力を提案していただく作業を実施することにしました。
 ○○町の社会教育関係団体等の役員の方々にお願いをして,ワークショップを開催し,KJ法による集約を行ってみました。真剣且つお互いに触発されての協議から提出された「○○する力」を仮定モデルに従って類別した結果が以下のものです。

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【平成19年8月 社会教育関係団体等連絡会議 協議結果分析まとめ】
※協議テーマ「子ども育成12基礎力」の提案:「○○する力」

1.決断する力
 ・判断力,決断力 ・決断力をつける力 ・人に追従しない力(人もしている?)
 ・自分の身体は自分で管理する力 ・早寝早起き朝ご飯を守る力,寝る力

2.交際する力
 ・あいさつができる力,あいさつする力 ・あいさつする力,人と仲良くする力
 ・相手の立場に立って考える力 ・異学年とつきあう力(協調性のない親も)
 ・思いやりを持つ力,相手を思う力,人のことを思いやる力
 ・感謝する力(アリガトウが言えない)

3.安心する力
 ・外に出て遊ぶ力 ・素直になる力 ・相談する力

4.信頼する力
 ・信頼する力 ・受けた恩を返せる力,他人を思いやる力,痛みを知る力
 ・人に優しく自分に厳しくする力 ・人間関係力 ・地域活動に参加する力
 ・協力する力 ・協力する力(嫌いなことも)

5.表現する力
 ・発信する力,自分の思ったことを表現する力 ・話(自分の意見)をする力
 ・自分の考えを相手に分かりやすく伝える力
 ・他人とは違うことを表現する力,個性を表現できる力,表現する力
 ・発言できる力,本当のことを話せる力 ・感動する力

6.理解する力
 ・人の話を理解する力,人の話を聞く力 ・コミュニケーション力
 ・分かり合える力 ・人の話をよく聞く力 ・読書する力 ・想像する力
 ・想像する力 ・考える力,自分で考えて実行する力

7.実行する力
 ・実行する力 ・自ら行動する力,落ち着いて行動する力
 ・実行する力,思ったこと言ったことをすぐに行動できる力 ・遊ぶ力

8.尊重する力
 ・善し悪しを判断する力 ・人を愛せる力,人を楽しくさせる力
 ・ものを大切にする力 ・ルールを守る力 ・尊敬する力 ・人を敬う力

9.忍耐する力
 ・忍耐する力,耐える力,我慢する力 ・前向きに考えられる力
 ・自分のことは自分で最後までがんばっていく力 ・粗食に耐える力(好き嫌い)
 ・我慢する力(寒暖,空腹,かっこよさ悪さ,わがまま)

10.期待する力
 ・夢に突き進む力,大志を持って貫く力,極める力 ・夢を追う力
 ・時間を掛けて物事を成し遂げる力 ・最後までやり遂げる力,目標を達成する力
 ・生きる力 ・創造する力

11.分析する力
 ・失敗してもよいという力 ・過ちは素直に認め反省する力 ・負ける力

12.挑戦する力
 ・学習する力 ・探求する力 ・計画する力 ・挑戦する力 ・努力する力
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 きわめて短時間の作業であったため,あらゆる力が出そろったとはいえないかもしれませんが,基礎力を選ぶために必要なものは最低限得ることができたと思われます。
 協議で提案された「○○する力」をモデルに従って分類してみると,それほど大きな違和感もなく,収まっているように見えます。したがって,12基礎力としてモデルで想定した基礎力を採用することにします。

【県社会教育委員の会議による提案との整合性】
 福岡県社会教育委員の会議では,平成16年に「子どもの体験活動の充実方策について」〜体験活動の質と量の高まりを目指して〜という提言をしています。その中で,体験活動を通して育むべき資質として,次のことが示されています。

 (1)人間関係能力:他人と協調したり,コミュニケーションを図る力
 (2)基本的生活習慣・技能:日常生活を営む上で必要な基本的な習慣や生活技能
 (3)自主性・自立性:自ら進んで物事に取り組む態度や自己を抑制する力
 (4)耐性や体力:困難を乗り越える我慢強さや健康・体力
 (5)役割意識や責任感:自らの役割を認識し,責任を持って成し遂げる能力
 (6)思いやりの心:人に対する優しさ,他人を大切にする気持ち

 さらに,「自己肯定感」や「自己有用感」を獲得させ,「自分に誇りと自信を持つ子ども」を育てることが大切ですと示唆されています。
 これらの資質は,体験活動というフィルターを通して選び抜かれた資質であり,子どもの育成全般にわたるものでないという了解のもとで,子育ち12基礎力との対照をしておくことにします。

 @人間関係能力について
  この項については,「2.交際する力」や「5.表現する力」が対応します。
 A基本的生活習慣・技能について
  この項については,「3.安心する力」や「4.信頼する力」の帰結として現れます。
 B自主性・自立性について
  この項については,「1.決断する力」や「7.実行する力」の応用になります。
 C耐性や体力について
  この項については,「9.忍耐する力」が対応します。
 D役割意識や責任感について
  この項については,「4.信頼する力」や「6.理解する力」,「9.忍耐する力」から
  育まれる複合的な資質と見なすことができます。
 E思いやりの心について
  この項については,「4.信頼する力」や「8.尊重する力」の応用になります。

 以上のように,基礎力は資質の素材に当たるものであり,基礎力の複合した発揮として,具体的な望ましい資質が現れてくると考えなければなりません。だからこそ,基礎力と名付けてあるのです。体験活動の意味づけとして,基礎力による分析も可能になります。
 逆に考えれば,基礎力の具体的な育成には,体験活動はかなりの効果が期待できることになります。施策としては,一つの流れに乗るものと見なさなければなりません。
 そこで,県の提言書で資質を育むものとして例示されている活動を,基礎力の分類に沿って整理し直しておくことにします。

【基礎力を育む体験活動内容例】
 提言からの個々の活動例については,体験活動を通して育むべき資質の番号(1)〜(6)を付記しておきました。

1.決断する力                        ・・・【自我の確立】
   (5)リーダーとしてチームをまとめる活動(自覚的活動)

2.交際する力                        ・・・【自他の認知】
   (1)多様な人との交流活動
   (1)遊びを通した異年齢集団活動

3.安心する力                        ・・・【居所の確保】

4.信頼する力                        ・・・【共存の認証】
   (1)他人と協調しながら生活する共同生活体験
   (2)家庭での手伝い
   (2)通学合宿等集団生活体験の中で、買い物、食事の準備、片づけ、掃除、洗濯な
     ど日常生活に関するすべての作業を共同で行う活動

5.表現する力                        ・・・【言語の獲得】
   (1)自分の考えを伝えたり,人の話を理解する話し合い活動

6.理解する力                        ・・・【概念の構築】
   (5)動物の飼育や植物の栽培活動

7.実行する力                        ・・・【能力の発揮】
   (6)年下の子どもの世話をする活動
   (6)保育所等で乳幼児と触れあう活動

8.尊重する力                        ・・・【価値の選択】
   (3)規律ある行動や生活が必要な目的的な集団訓練活動
   (6)地域清掃や空き缶回収、花いっぱい運動等の地域の環境保全的な活動

9.忍耐する力                        ・・・【現実の直視】
   (4)登山や長距離歩行など、体力・気力の限界に挑戦する活動
   (5)与えられた役割を最後までやり遂げる活動

10.期待する力                        ・・・【将来の展望】
   (3)自ら選択した職業体験活動
   (4)目標に向かって練習を積み重ねるスポーツ活動
   (6)福祉施設等への訪問や高齢者、障害者の支援活動

11.分析する力                        ・・・【失敗の発見】
   (4)長期キャンプ等での不自由な生活や自然の中での厳しい協働作業など困難を伴
     う活動

12.挑戦する力                        ・・・【学習の実践】
   (3)プログラムを企画する活動
   (3)子どもが創意工夫する活動

 以上の分類整理で,「3.安心する力」について該当する体験活動例が挙げられていないことは,さほど問題ではありません。他項に割り当てられた活動の中に内包されていると考えることができるからです。

 個々の体験活動を実施しようとする場合,実施主体者は子どもたちに対してどの基礎力が育ってほしいのかという目標の設定をしているはずです。年間計画による活動の組み合わせをする際には,育てようとする基礎力のバランスを図ることが大事ですが,上記のような分類整理をすることが参考になるでしょう。

【基礎力育成に向けた養育行動選択の指針】
 12基礎力の選定を終えたところで,次の作業段階を迎えます。子育ての場で12基礎力の育成を確かなものにするような実践的なアピールに整える必要があります。

1.決断する力                        ・・・【自我の確立】
  子どもが自分で判断し決断できるような指導をしましょう。
  (人に指図されるのではなく,自分のことは自分で決める子ども)
2.交際する力                        ・・・【自他の認知】
  子どもが周りの大人と仲良くできるような声かけをしましょう。
  (我が儘を抑えて,協調することで自他共に認め合う子ども)
3.安心する力                        ・・・【居所の確保】
  子どもが安心できるような笑顔の見守りをしましょう。
  (自分は気に掛けてもらっていると感じることができる子ども)
4.信頼する力                        ・・・【共存の認証】
  子どもが人を信頼できるような共同でする活動をしましょう。
  (他者との信頼関係を持つことで共存を認知できる子ども)
5.表現する力                        ・・・【言語の獲得】
  子どもが正しい言葉遣いを身につけるような対話をしましょう。
  (豊かな言語感覚を身につけることで知性を育てる子ども)
6.理解する力                        ・・・【概念の構築】
  子どもが物事の関連を理解できるような教えをしましょう。
  (言葉を交わすことを通して物事の有り様を考え理解する子ども)
7.実行する力                        ・・・【能力の発揮】
  子どもが能力を発揮したくなるような課題の提供をしましょう。
  (思うだけではなくできることをすることで自己確認をする子ども)
8.尊重する力                        ・・・【価値の選択】
  子どもが一生涯尊重し続けられるような価値の伝授をしましょう。
  (放縦に流れず,生きていく上で依拠すべきものを適確に選ぶ子ども)
9.忍耐する力                        ・・・【現実の直視】
  子どもが我慢する勇気を持てるような苦労をさせましょう。
  (不都合な局面から逃げることなく,可能性を見定める子ども)
10.期待する力                        ・・・【将来の展望】
  子どもが明日を楽しみにできるような希望の提示をしましょう。
  (今日の努力を継続することで,皆の明日が信じられる子ども)
11.分析する力                        ・・・【失敗の発見】
  子どもが失敗から立ち直れるような助言をしましょう。
  (失敗を反省し分析することで,自らの課題を自覚する子ども)
12.挑戦する力                        ・・・【学習の実践】
  子どもが能力の限界を超えられるような学習の支援をしましょう。
  (無知・弱点を学習により改善し,新たな挑戦に向かう子ども)

【アピールとしての留意点】
 アピールすべき12基礎力の骨子が決まったところで,次の課題は具体的なアピール方法を策定することです。そのためにいくつかの要件を明らかにしておく必要があります。

(1)アピールの対象
 先ずは誰に向けてアピールするかという対象を決めなければ,形を作ることができません。新教育基本法では,
 (家庭教育)第十条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を
           有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付け
           させるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発
           達を図るよう努めるものとする。
と,親の責任が記述されています。このことを明確にアピールすることも大事な意味を持ちます。したがって,親に向けたアピールとすることにします。

(2)基礎力の意味
 基礎力は,子どもの望ましい資質を構成する素材です。個々の基礎力だけでも資質となりますが,数多くの資質は基礎力の複合したものとして現れると考えるべきです。この点については既に県社会教育委員の会議による提言との整合性の項で触れておきました。
 社会教育委員の会議で12基礎力が始めて提案されたとき,最も根源的な疑問が提示されました。その疑問に答えることで,基礎力の意味を改めて説明しておくことにします。

疑問:「1.決断する力」で自分のことは自分で決める子どもとされているが,子どもはわがままであり,それを認めなければならないのか?
説明:決断したことが周りの者に受け入れ可能であったかどうかは二次的なことで,大事なことは指図されるのではなく,自分のことは自分で決めることができるという自己決定能力が人間として持つべき基礎力である。その上で,「2.交際する力」で協調することで自他共に認め合う子どもとされていることから,決断の際に他者への配慮が組み込まれることで,わがままは封じ込められることになるはずである。その際に,今は我慢した方がいいと決める力が必要になってくる。
 すなわち,二つの基礎力が重なることで,望ましい資質が現れてくるのである。逆に言えば,様々な期待される資質は12基礎力に分解してみることにより,支援のポイントが見えてくるはずである。

 アピールに際しては,個々の項が独立しているのではなく,あくまでも12の基礎力が相互に連なっていることを示すためにも,「12基礎力」という呼称をすることが大切になります。

(3)暮らしの場面に埋め込まれた子育ち支援
 親は子育てに専念しているわけではなく,日常の暮らしの中で子どもと関わっていることを前提にしておく必要があります。ことさらに「家庭の教育力」といった大層なイメージを押しつけるのではなく,ごく自然な親子関係を通した子育てでよいという安心感を持ってもらうことをねらいとします。そうしないと長続きしませんし,新しい特別なことを求めてもほとんど受け付けてもらえないからです。
 日頃親子の間でありそうな関わりに焦点を当てて,気づきを促すことができたら,子育ては望ましい方向に導くことができるはずです。
 そこで,先に例示した「養育行動選択の指針」に沿って,より具体的な形のアピールを以下のように結論づけることにしました。子育て場面の留意点を上段に,その改善が行われたときに子育ち場面で期待される子ども像を下段に挙げています。

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【○○の子どもの12基礎力】

1.先回りをするのではなく子どもに任せるようにすれば,
     自ら考え決断することができる子どもに育ちます!・・・・(自我の確立)
2.支配しようとするのではなく子どもと真っ直ぐに向き合うようにすれば,
     他を慈しみ交際することができる子どもに育ちます!・・・(自他の認知)
3.見張るのではなく子どもを笑顔で見守るようにすれば,
     落ち着き安心することができる子どもに育ちます!・・・・(居所の確保)
4.邪魔にするのではなく子どもと協働して暮らすようにすれば,
     他を信頼することができる子どもに育ちます!・・・・・・(共存の認証)
5.問い詰めたり急かせるのではなく子どもの話を聞くようにすれば,
     思いを表現することができる子どもに育ちます!・・・・・(言語の獲得)
6.テレビに依存するのではなく子どもと直に話して共感するようにすれば,
     美しい言葉を理解することができる子どもに育ちます!・・(概念の構築)
7.未熟さを叱るのではなく子どもができたことをほめるようにすれば,
     気持ちよく実行することができる子どもに育ちます!・・・(能力の発揮)
8.ありがとうと言わせるよりも子どもにありがとうと言うようにすれば,
     優しい心を尊重することができる子どもに育ちます!・・・(価値の選択)
9.今すぐにこだわるのではなく子どもに待つ楽しさを教えるようにすれば,
     忍耐することができる子どもに育ちます!・・・・・・・・(現実の直視)
10.心配を押しつけるのではなく子どもの育ちを信じるようにすれば,
     明日の幸せを期待することができる子どもに育ちます!・・(将来の展望)
11.結果を急ぐのではなく子どものがんばりを認めるようにすれば,
     失敗を振り返り分析することができる子どもに育ちます!・(失敗の発見)
12.手を貸すのではなく子どもにしてみせるようにすれば,
     目標を見つけ挑戦することができる子どもに育ちます!・・(学習の実践)

 上記のアピールを委員の会議(平成19年11月21日)に付議した所,いくつかのコメントがなされました。

 ・12項目の単純羅列は,重たい,多いというイメージを与えるのでは?
  グループ分けをして,整理した方が受け入れやすくなると思うが。
 ・「**ではなく**すれば」という表現は簡潔であるが,直截ではなく,きつい。
  もう少し柔らかく直に訴える表現にした方がいいのでは。
 ・12基礎力を提示する意図は?,それが必要なのか?
  何をしようとしているのかを,まず示すことも必要では。

 以上のような受け止め方を念頭に置いて,今一度,提言の趣旨などを再確認し,納得の得られやすいアピールの仕方を考えることにします。

 この提案を行うに当たっては,「子どもに身につけて欲しい力は何か」,その整理をして啓発をすることを所期の目的としていました。目標とされる「健全な子ども」といっても,具体的にどんな子どもなのかというイメージが共通理解されていなかった現状を切り拓きたいという願いからです。
 子育てに携わるものは,日々の営みが何を目標にしているかという明確な認識を持っていなければなりません。向かう所を意識していなければ,子育てが場当たり的になって,とりとめなくなりかねません。なによりも,親や大人からの関わりが子どもの育ちに沿わなくなっては意味がありません。
 先ずは目的をきちんと手短に説明し,個々の基礎力を項目として掲げることによって際だたせる工夫をしておくべきでした。
 基礎力を提言することが目的であるので,その力の具体的な育成については養育関係者に任せた方がいいのかもしれません。しかし,広くアピールするという形を取ろうとすると,具体的な養育行動を例示することが必要となります。
 アピールの明瞭さという点で,整理不十分であったということです。その反省を込めてアピール第2版を作成することにしました。

【12基礎力を目指す○○の子ども】

 私たちが育成しようとしている○○の子ども像を具体的にイメージする指標として,子どもたちが目指すべき12基礎力を選びました。この12基礎力は,将来子どもが社会人になって必要となる力につながっていくものです。家庭・地域・学校における健全育成活動が目標とする子どもの資質の参考にしてください。

1.自分で考えて決断することができる子ども  【決断する力:自我の確立】
  ○子どもが自分でしたいと思うように,子どもに任せて待ちましょう。
  □子どもが自分で気付き考え判断するように,子どもを導きましょう。
  ●もし大人があれこれ細かく指導しすぎると,子どもは考える機会を奪われます。

2.他人を慈しみ交際することができる子ども  【交際する力:自他の認知】
  ○思いやりを引き出すように,子どもと人として対等に接しましょう。
  □友達と楽しく触れあえるように,子どもに気配りをしつけましょう。
  ●もし大人が自分の都合を押しつけると,子どもは自分のわがままを正当化します。

3.居所を見つけ安心することができる子ども  【安心する力:居所の確保】
  ○見守られていると信じられるように,子どもを笑顔で受け入れましょう。
  □温かなつながりを確かめられるように,子どもを抱きしめてやりましょう。
  ●もし大人が叱る目をしていると,子どもの心は不安でいっぱいになります。

4.共存を願って信頼することができる子ども  【信頼する力:共存の認証】
  ○共に生きていると感じられるように,子どもに役割を与えて頼ってみましょう。
  □信じ合える素晴らしさを知るように,子どもに愛情物語を読み聞かせましょう。
  ●もし大人が邪魔な扱いをしていると,子どもは自分の世界に閉じこもります。

5.思いを正しく表現することができる子ども  【表現する力:言語の獲得】
  ○人に向けてきちんと話せるように,子どもに向き合って対話をしましょう。
  □相手に伝わる文章で話せるように,子どもに言葉の順序を教えましょう。
  ●もし大人が急かせたりしていると,子どもは単語で話すようになります。

6.美しい言葉を理解することができる子ども  【理解する力:概念の構築】
  ○きれいな言葉を覚えられるように,子どもと望ましい物事に共感しましょう。
  □抽象的な言葉が分かるように,子どもの経験に沿ったたとえ話をしましょう。
  ●もし大人がテレビに依存していると,子どもは言葉を軽んじるようになります。

7.能力を発揮し実行することができる子ども  【実行する力:能力の発揮】
  ○言うだけではなく実行できるように,子どもが行動できたことをほめましょう。
  □できる喜びに目覚めるように,子どもに身体を動かす遊びをさせましょう。
  ●もし大人が学力だけを見ていると,子どもは生きるための能力を出し渋ります。

8.優しい心情を尊重することができる子ども  【尊重する力:価値の選択】
  ○優しさを価値あるものとするように,子どもにありがとうと言いましょう。
  □人の考えや意見を大切にするように,子どもに公正な考え方を示しましょう。
  ●もし大人が余計な役割を避けていると,子どもは自分だけを大事にします。

9.現実を直視し忍耐することができる子ども  【忍耐する力:現実の直視】
  ○時の流れを考えられるように,子どもに待つことの楽しさを教えましょう。
  □がんばってみようかなと思うように,子どもにもう少しの継続を促しましょう。
  ●もし大人が手間を惜しんでいると,子どもは楽な道を選ぶようになります。

10.明日の幸せを期待することができる子ども  【期待する力:将来の展望】
  ○今の苦難を乗り越えられるように,子どもに明るい明日を見つけさせましょう。
  □夢を持ち続けられるように,子どもの今日の一歩を認めてやりましょう。
  ●もし大人が心配ばかり押しつけると,子どもは明日がないと思いこみます。

11.失敗を反省し分析することができる子ども  【分析する力:失敗の発見】
  ○失敗しても逃げないように,子どもを励ましながら振り返らせましょう。
  □問題を前にたじろがないように,子どもにできることを探させましょう。
  ●もし大人が未熟さを叱ってばかりいると,子どもは臆病になり育ちを止めます。

12.課題を学習し挑戦することができる子ども  【挑戦する力:学習の実践】
  ○お手本を習って学びをするように,子どもにしてみせるようにしましょう。
  □達成感を経験するように,子どもに合った小さな挑戦をさせましょう。
  ●もし大人が結果重視をしていると,子どもは試行する勇気を封じ込めます。

 この12基礎力による子どもの姿は,すべて揃って一人の子どもになります。それぞれに示している養育指針は代表的なものとして例示してありますので,実際の局面に応じて具体的な対応を工夫してください。この子ども像が皆様の養育活動を考える縁になることができたら幸いです。
                    
                            《○○町社会教育委員の会》

【提言の結び】

 ○○の子どもに備わって欲しい12の基礎力を選び,アピールの形で整理をしました。日常の具体的な局面での養育に際して12の項目を生かしてもらえれば,過不足のない子育ちをするものと思います。
 子どもの養育に迷いが生じたとき,養育事業を計画するとき,教育指標を策定するときなど,全体のバランスを考える手がかりとして使うこともできるはずです。
 さらに,アピールは凝縮したものとせざるを得ない宿命を帯びていますので,深く広く具体化していただかなければなりません。それがなされたとき,○○町の大事な指標として定着するものと信じます。

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 以上の提言を,書式を整えた上で,12月に定例となっている教育委員と社会教育委員の合同会議の席で提案することにしています。その際,12項目からなる子育てアピールをチラシ形式にまとめて添付する予定です。この提言がどのように扱われるか,しっかりと見届けていくことにします。
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