*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【言葉の力?】

 社会教育委員の具体的な活動の一つは,さまざまな啓発活動です。メッセージを発信することで,受信した人が望ましい方向に動いてくれることを期待します。その際に最も大事なポイントは,聞き取った方がメッセージを自分のこととして受け止めてくれることです。
 言葉を発する場合に気をつけることは,「伝えた」ということと「伝わった」ということの違いです。いくら口を酸っぱくして言い募ってみても,伝わらなければただ言ったというところで足踏みしているようなものです。聞く人が自分の言葉として飲み込んでもらえるように,加工しておかなければなりません。送り手があなた自身のことですよという語りかけをすればいいのです。

 前にも書いておきましたが,最近の関心事である「学校週五日制」という言葉があります。この言葉は学校の立場にいる人が使える言葉です。地域の人や保護者にとっては,よその人の言葉なのです。月曜から金曜までが学校教育の日ですという意味です。保護者にとって大事な日は土曜日と日曜日です。それなら,「家庭週二日制」と呼ばなければなりません。学校週五日制という言葉を保護者が使おうとするから,土曜日を学校はどうするつもりかという見当違いの声があがってしまうのです。

 財団法人全日本社会教育連合会が発行している情報誌「社会教育」の7月号(2003年)に,コミュニティケア活動支援センターの佐藤修氏のインタビュー記事が掲載されています。その中で,NPOという名称に関するくだりがあります。NPOは非営利組織ということであり,利益を求めないという否定的な言葉遣いであり,後ろ向きな表現だというのです。かねてより何かしらなじめない言い方だと感じていたことが,すぱっと解き明かされた感じでした。
 組織はどんな組織であれ,何事かを目指すものです。それなのに営利を求めないという言い方は,組織名称としては如何にも曖昧です。何をする組織かという言い方がまっとうな物言いです。佐藤氏は社会にとっての利益を創出するという意味から,「SPO(Social Profit Organization)」という呼称を提唱されています。確かに前向きで積極的な呼び方の方が元気が出てくるものですし,明快なのがなによりです。

 考えれてみれば,「生涯学習」という言葉も新しく作り出された言葉であり,今や「社会教育」を飲み込もうとしています。福岡県庄内町で始まった「通学合宿」も今や全国区の言葉になりました。時代が求める雰囲気を一つの言葉に凝縮できたとき,新しい動きが可能になります。

 ところで,「学社融合」という提案が勢力を持つとき,それは学校に社会を引き込もうという意図が現れてきました。主体はあくまでも学校にあるというイメージが強く現れています。それは学社という文字順に起因します。もしも「社学融合」と言い換えれば,立場は逆転するはずです。社会が学校を引き出すという動きになるでしょう。二つの立場を合成して言葉を作るときには,その語順に気をつけなければならないようです。

 社会教育活動を進めるためには,適切な言葉を選び発信する能力が求められていますが,その上に人を動かすことのできる新鮮な言葉を創造する力も必要です。

(2003年07月06日)