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【指導者の説明責任?】
指導者は組織の活力を見分ける指標が必要です。それは同時に指導の仕方そのものを決めることになります。指導には,ついてこいとぐいぐい引っ張っていくタイプと,一丸となって動いていく組織に載っかっていくタイプがあります。時と場合に応じて相応しい指導がなされればいいのですが,どちらか一方だけでは継続的な組織活動はできません。組織が組織として動いていることは常に大事な要件です。
NHKテレビで,日露戦争時の日本海海戦の作戦参謀について取り上げた番組がありました。連合艦隊がバルティック艦隊の進路を遮るように回り込んでT字態勢に入ろうとしたとき,バルティック艦隊が進路を変更して逃れようとしました。本隊は行き過ぎてしまい反転しても間に合わなくなったとき,後続の艦隊が独自に進路を離脱し,バルティック艦隊の進路の前に回り込んでいきました。そのまま旗艦の進路について行ったら,作戦は失敗していたそうです。
作戦参謀は決戦前の会議で,作戦の意味を全員がしっかりと理解するように説明をしていました。一糸乱れないように全体として動けることが大事ですが,同時に部分も作戦の意味通りに動けることを徹底して教育していました。だからこそ,不測の事態に直面したとき,部分が独自の判断をし,全体の動きを修正できたのです。作戦全体の中で各人が今何を為すべきか,その理解が組織活動の要諦です。
組織の活力を生み出すもの,それは全員が組織活動の目的を自分のものとして理解していることです。言われて動いている組織は組織であることによるメリットが半減します。組織活動には多様な要素が絡み想定は完全ではありません。状況の変化に瞬時に対応していかないと,チャンスを掴み損ねます。いちいち指示を伺って行動していては,間に合いません。各人が直面する小さな変化に即応できるからこそ,全体の活動は成功に向かっていきます。
指導者はともすれば指図することで組織を動かそうとします。それが手っ取り早いからです。全員に活動の目的を理解させるのは余計なこと,つまりそんな手間暇を掛けても無用であると思っています。しかしながら,それはメンバーを信頼することから外れることであり,メンバーの力の発揮を封じることになります。何のために動くのか分からないままでは,全力を傾注できません。組織の活力を引き出すのは一人の指導者ではなく,メンバー全員なのです。その点を弁えない限り,本当の指導者にはなれません。
指導者の説明責任とは,活動全体のイメージを明らかにすることです。そうすれば,細部はメンバー各人の持ち場での判断に任せることができます。それが気持ちを一つにするということです。かつて日本企業が強かった頃には,それが当たり前でした。最近の企業は大きくなって,管理指導が強まったために,組織の力は貧弱になってきました。言われたことをしていればいいという組織になってきたからです。情報化社会になったことで管理が行き届くようになったことの副作用が,全体イメージの共有化を阻んでいます。説明責任の中味を勘違いしないように気をつけることが,今の指導者には求められています。
(2005年02月25日)
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