*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【役に立つ社会教育?】

 (社)全国社会教育委員連合発行の「社教連会報」第57号の巻頭に文部科学省社会教育課長三浦春政氏の提案が掲載されています。題して「役に立つ社会教育」。逼迫する財政状況の中では,世の中をよくするという目的に向かう行政活動の一環である社会教育は,本来の目的に沿った重点化がなされるべきであるという趣旨の提案です。従来のような趣味・教養の学習機会の提供にとどまらず,地域が直面する課題の解決に資する学習を経て,行政と連動した活動を生み出すべく機能すべきだということです。

 社会教育委員は,この提言をどのように受け止めたらいいのでしょうか? 振り返ってみることから始めなければなりません。社会教育委員は提言の役割が付与され,具体的な活動は行政の活動や,社会教育関係団体を通して実現されてきました。その際に確かに社会活動への啓発誘導が教育という手法に擬せられてきたということは否めません。社会教育という言葉に引きずられてしまったのです。学んで行動するという枠組みを想定し,社会教育関係団体という名称の下に,行政からの支援を向けてきました。しかしながら,団体として認知されたものは体育協会や文化協会,老人クラブや婦人会,子ども会などでした。協会団体は趣味・特技を目的活動とする組織であり,世代組織は孤立化する社会意識の中で組織率の低下に直面し,会員維持のために楽しい活動を目指さざるを得なくなり,いきおい趣味教養に活動目的を置くようになりました。団体自体が社会的な活動を目的としなくなったという変質が起こったことを明確に認識しないままに,前例を踏襲するという弊害に陥ってきました。
 公民館でも学習機会を提供するという名目で,求められるテーマの講座を設定しようとしたときに,参加層の主流である高齢者・子どものお楽しみとしての趣味にターゲットが向けられてきました。一方で,社会的必須である人権啓発の学習を行おうとしても,出席率の低迷が主催者の悩みになっている始末です。学習して欲しい人が出席しないという声はすべての学習活動に共通の課題になっています。

 趣味や教養に限定されてきた学習内容を見直し,あらゆる方面の学習を網羅できる視野を持つことが求められています。そのためには,例えば,政策提言を目的として学習する団体であっても,社会教育関係団体として認定されるようになるべきです。そういうコンセンサスづくりが社会教育委員の務めでしょう。また,最近気運が盛り上がっている福祉活動を目的とする団体が,その活動のために学習をするのであれば,当然にその教育的支援は行政としても不可欠になります。
 確かに,啓蒙的な学習から一歩進展した高度で専門的な学習の機会を求める要望も聞かれるようになってきましたが,それに応える体制が皆無です。そういう学習体制を想定してこなかったというのが現状でしょう。社会教育のイメージを越える期待を担った生涯学習というキーワードがいろんな施策や計画の中で踊っていますが,ほとんどが計画倒れになっていることは周知の事実です。

 教育から学習へと視点を変えても,それらが何事かを為すための手段・前提であるということを明確に意識することが疎かになっています。学習活動そのものが目的になっていて,何のために,何をしようとして学習するのかを脇に置いてきました。先ず暮らしに関わりのある現実性を備えた活動の目的を決めて,そのためにはどのように学習を進めるかというプロセスを考察して,そのための総合的なシステムを整備することが,これからの社会教育委員の目指すべきことになります。
(2005年11月07日)