*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【討議という学習?】

 年に2回,8月と2月に社会教育関係団体等連絡会議を開催しています。社会教育関係団体等とは,体育協会,文化協会,青年団,空と海の会,婦人会,PTA連,子ども会育成会連,自治公民館主事会に,補助金の範疇が福祉関係団体という括りになっている老人クラブ連を特別参加とするものです。それぞれの団体が活発に活動をしていますが,町全体としての活性化に一層の結束をもたらすことを願って,連携の生まれる場として設定されました。
 発足してから数年は,お互いの活動内容を知り合うことを目標に,2月の年度末に活動報告会として開催してきました。協力や連携という誘導を試みてきましたが,独自の活動ペースを乱すことや余分の予算や事業を挟み込む余裕が見いだせないといった消極的な雰囲気に流されてきました。指導的立場のものが動かない限り,組織活動の充実化や効率化に向けた新しい試みは芽を出すことは適いません。一昨年から8月にも連絡会議を開催し,具体的な共同作業の新しい立ち上げを提案してみましたが,一部の前向きな意見が出た程度で形のある変化は起こりませんでした。

 今年は少し趣向を変えてみることにしました。各団体から3名の出席を求め,3部会に分散して討議をするという形式にしました。討議のテーマは,「健全育成推進についてできること,男女共同参画についてできること,校区コミュニティ活動についてできること」と設定しました。いくつかのねらいがあります。
 まず,出席者にとっては,討議形式にすることで意見を出しやすくなり各テーマについての相互研修になること,団体活動を基盤に町全体を考えることで自組織の立場や活動の波及効果を認識する機会になることが考えられます。
 テーマの設定については,教育活動は明日を目指すものであるという認識から,選択されたものです。明日に向かうという意欲を込めてこそ活動は生き生きとします。社会教育はまちづくり人づくりという期待がありますが,先ず人づくりでは,「健全育成」を考えます。大人にとっての明日は子どもたちだからです。子どもたちのことを考えている活動が,組織を活性化する源です。結果的には,若い参加者を巻き込む活動につながります。次に「男女共同参画」です。静かに進んできた社会変革のうねりの一つですが,ただその言葉を耳にする割には,何が問題点なのかという共通認識ができあがっているとは言えないように見受けられます。そこで,それぞれの認識を突き合わせることで,自分たちに必要な課題を見つける機会を得て欲しいということです。男と女という違いのあるものが融和できるようになることが人づくりの基本だからです。また,まちづくりでは,「校区コミュニティ」を考えます。市町村の合併という枠組みの変動があるかもしれないという状況に対して,現在の行政区毎のまとまりでは地域の独自性が保たれなくなります。そのことに加えて,地域活動の場として校区程度の規模が必要になっています。町全体では大きすぎてつながりの実感が薄くなるからです。今までになかった「校区コミュニティ」という枠組みを意識化するために,テーマとして設定しました。おそらくいろんな意見が交わされることでしょうが,皆で考えるというグループ討議が生涯学習でもあります。
 テーマについて,「できること」という縛りを加えておきました。討議では問題提起は簡単にできますが,それだけでは前進はありません。考えるという作業は,できること探しです。考えるとはどういうことか,その体験をしてもらうつもりもあります。
 3つの分散会はそれぞれ社会教育委員3名によって運営されるように設定しました。一人は記録まとめ役として,終了時に討議報告をしてもらうことになっています。社会教育委員の指導性が発揮できる機会になることを期待しています。

 この会議には教育委員にも出席をお願いしています。各討議に自由に参加して意見聴取を行っていただければと願っています。全体としては,結論を急ぐのではなく,研修の機会として捉えています。言われてするのではなく,自分で考えてする方が気合いが入ります。お互いに切磋琢磨していただければ幸いだと思っています。

・・・《報告後の会長講評》・・・
 形式を整えるために,分散会討議の報告の後,全体講評というまとめをしました。

 三つの部会では,期せずして子どもに関わる話題に収斂していったようです。健全育成部会ではもちろん子どもが主題ですが,男女共同参画でも最も身近な共同行為である子育てに関する課題と若い親を支援する中高年婦人層の連携に議論は展開していったようです。また,校区コミュニティでは,実感の薄い主題であったためか,地域の教育力という具体的なテーマに寄り添う形で討議されたようです。
 社会活動は自分のためというより,誰かのためという気持ちが意欲を持続させます。その誰かを具体的にイメージできることが活動のポイントです。子どものためにという対象の明確なイメージを持てば,楽しく活動できます。素晴らしい討議の展開だと思います。

 各団体の方が一堂に会して討議をすることは,異見を知るという機会になります。団体活動がマンネリ化する原因は同じ意見を持つものの集まりだからです。活性化は,違った観点を組織内に持ち込めるかどうかに掛かっています。今回の討議に参加して,同じテーマに対して違った意見に出会うとき,考え方の広がりと奥行きに向かう機会が得られます。異見による刺激が大事だということです。独りよがりな活動になることへのチェックの機会になる場合もあります。

 各団体は世代毎に輪切りにされています。まちづくりにおいて最も大事なものは人間社会の背骨です。世代のつながりがずれることなく機能してこそ,足腰の強いまちになります。今日の分散会のようなすべての世代を網羅した人的構成は,背骨を具体化するものであったということです。このような機会をこれからも持ち続けていきたいと考えております。

(2005年08月03日)