【教育基本法と社会教育?】
月刊社会教育の5月号(No.731)では,教育基本法改正(→全文)と今後の社会教育という特集が組まれて,論評が掲載されています。一通り目を通してみました。
今後,社会教育法についても改正が続くのでしょうが,理念としての基本法について,新しいイメージを作っておくときです。触発を受けて,自分なりの整理をしておくことにします。
第2条には,達成すべき教育の目標が掲げられています。文章を解体し,教育が目指す人物像として,(1)何を尊重するのか,(2)その実現のためにはどのような能力・資質が必要なのか,(3)さらにどのような具体的行動が期待されるのか,という分け直しをしてみます。ここでは,分ける作業にとどめ,教育論としての考察は後日に回します。
(1)尊重すること
・個人の価値
・勤労
・正義と責任
・男女の平等
・自他の敬愛と協力
・生命
・自然
・伝統と文化
・我が国と郷土
・他国
(2)培うべき能力・資質
・幅広い知識と教養
・豊かな情操と道徳心
・健やかな身体
・創造性
・主体性
・公共の精神
・自主及び自立の精神
(3)期待される具体的態度・行動
・真理を求める
・社会形成に参画,発展に寄与
・環境の保全に寄与
・国際社会の平和と発展に寄与
第3条には,生涯学習の理念が述べられています。文章を(1)学習の目的,(2)学習の機会,(3)学習の活用,という3つに分けてみます。
(1)目的
自己の人格を磨き,豊かな人生を送る
(2)機会
あらゆる機会と場所で学習できる
(3)活用
成果を生かすことのできる社会の実現
第3項を学習者の立場になって読めば,成果を社会に向けて発揮するときに,その学習は生涯学習となるということです。従来の趣味や教養の学習と一線を画す条件が社会への寄与にあり,この点で生涯学習は社会教育と密接な関連を持つことになります。ともすれば学習は個人的な営みであるというイメージに引きずられ,受益者という学習者意識が強く,社会的な関わりや寄与が薄くなっていました。生涯学習は学習の成果を生かすことのできる社会づくりを目指すということが理念なのです。
第10条では,家庭教育が掲げられています。まず,「父母その他の保護者は,その子の教育について第一義的責任を有するものである」と確認がなされています。つまり,義務教育を含め公教育は,第二義的な責任を有するということになります。学校にお任せという誤った意識を払拭しなければ,子どもに対する教育は成り立たないという現状認識があるようです。
さらに家庭で行われるべき教育の内容として,「生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに,自立心を育成し,心身の調和のとれた発達を図る」と示されています。例えば,生活習慣の中には,先生の話をじっと聞き取るといった学習態度なども入っているはずです。
第12条に,社会教育について書かれていますが,国及び地方公共団体に対する「個人の要望や社会の要請にこたえ,社会において行われる教育」の奨励と振興の責務がうたわれているのみです。社会教育がこたえるべき教育内容は,個人の要望や社会の要請となっており,前者が生涯学習に対応するもの,後者の社会の要請が社会教育が主として対応するものと見なすこともできます。
社会にとって必要な学習課題を発掘・提供し,その成果を社会の発展につなげることのできる機構づくりが,当面する社会教育の役割になります。ただし,生涯学習と社会教育を単純に区分けすることは,その立場が違うという点を勘案すれば,適切ではありません。
第13条では,学校,家庭及び地域住民等の相互の連携協力が述べられています。「それぞれの役割と責任を自覚するとともに,相互の連携及び協力に努める」ために,これまでも社会教育は大きな働きかけをしてきました。条項として掲げられたことで,その重要さが明確にされたということです。社会教育の活動というよりも,国の教育に関わる重大な活動という位置づけがされたことになります。
以上,社会教育に関わる条項のみに触れてきましたが,家庭教育や地域との連携など,従来社会教育分野で主な教育課題であったことが,独立的に教育基本法に取り込まれています。家庭や地域の教育力が教育基本法の一翼になりました。
社会教育の諸活動が変わる必要はないようであり,一層の推進に向けた後ろ盾が強くなったということです。教育における社会教育の意義が再構築されたと前向きに考えておきましょう。
(2007年05月16日)