*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【社会教育の進む道?】

 社会教育は何を目指しているのか,常に自問しています。今社会が何を求めているかということも大事ですが,もう一段上をいくというか,今の社会に必要なものは何かという選択をしたいと思っています。もちろん,いずれにしても結果は同じになるかもしれませんが,主体的な選択をすることが委員の役割と考えています。
 手がかりとして,全国社会教育研究大会の主題を振り返ってみます。

  平成10年度:日本のよさを生かした個性ある人づくり・まちづくり
  平成11年度:21世紀へつなぐ生涯学習社会の構築をめざして
  平成12年度:21世紀における社会教育を求めて
  平成13年度:青少年がたくましく育つ地域づくりを目指して
  平成14年度:共に生きる地域社会と家庭の創造をめざして
  平成15年度:時代の変化に対応した新しい地域社会の創造をめざして
  平成16年度:求められた社会教育の原点から今を考える
  平成17年度:新しい地域づくりのための社会教育を考える
  平成18年度:一人一人が学習成果を生かし、主体的に地域づくりに参画する社会をめざして
  平成19年度:新しい公共づくりに貢献する社会教育の役割
  平成20年度:住民の社会貢献活動及び地域再生と社会教育の役割(予定)

 主題の流れを一望すると,「地域づくり」というキーワードが浮かんできます。何故地域づくりなのでしょうか? 地域を作ることは目的ではなくて手段であるはずです。それでは,目的は何なのでしょうか? それは社会教育がめざす目的でもあり,一言で言えば,社会を構成する人々の「幸せな生き方」です。
 今の世間を概観するとき,人の生き方にほころびがあるのではないかという直感が委員の中にわき上がっています。そのほころびが何なのか,どうすれば改善できるのかという推論を巡らした結果が「地域づくり」という道の選択です。作ろうとしている地域には何があるのでしょうか? 人の生き方は文化として現れ意識されます。その文化は地域という場に寄り添うものです。そして文化は人から人へ,つまり高齢者から若年者に伝達されてきたものです。
 時代を特徴付ける情報化や国際化は,文明世界のことであり,人の生きる環境を規定しますが,それは間接的に文化に影響を及ぼしています。暮らしの態様を変化させることで,生きる感覚を概念的世界に近づけようとします。文明という人為の世界が,人の感性を操ろうとしています。端的に言えば,人間らしさが失われようとしているのであり,文化が置き去りにされているのです。だからこそ,地域づくりであり,地域再生を目指そうという気運が生まれてきたということができます。地域にあるはずの文化を確かなものにするために,人の多様なつながりを作る活動を進めようとしています。
 目を地方ブロックや県内の研究大会に向けると,人をつなげる具体的な活動として健全育成というテーマが主流になっているようです。育成は地域で取り組みやすい身近なテーマであり,誰もが参入しやすいものです。ただ,社会教育活動としては実際上それ以外の適当なテーマが見つからないとか,他の活動は難しいという事情もあるのかもしれませんが,いささか健全育成に片寄りすぎているという感は否めません。健全育成の活動が核となり,人のつながりがより広くなっていくような展開を考えていく時期が来ているようです。
 「社教情報」のNo.58,巻頭言に香川県協議会の清國祐二会長が述べているように,高度消費社会の中では人々は創造的活動を他者に委託し自らは権利を主張する個人的消費者となっています。創造者であることが人のつながりを促すことを思い起こせば,地域づくりが目指すことは"共助"というキーワードに収斂していきます。自助,公助という枠組みでは公助一辺倒に陥った社会に自助を均衡させることが必須であり,そのためにも,中間的な共助という活動を手がかりに意識の転換を図ることが不可欠となります。「幸せな生き方」,それは与えられるものではなく,自らが創造するものであるという原則を再認識しておかなければなりません。
(2008年03月31日)