*****《地域の教育力》*****

【2.地域性:ネットワーク化?】


 地域づくりとは,誰がつくるのでしょうか? 地域に住む人であり,人が知り合うことが地域づくりの第一の基本形となります。

(1) 目標:「知り合い」の確保
 ○情報化社会
 現在の社会を特徴付けるタームの一つが情報化社会です。この新しい社会はまだ始まったばかりですから,あちらこちらに気になることがあります。たくさんの情報があるとは言っても身の回りにある情報を良く見てみると,週刊誌によるゴシップ,新開のスポーツ記事,政治の内幕,経済の国際化,タモリ・さんま・とんねるず…など,遥かな世界のことばかりです。隣の人のことよりもタレントの私生活についての方が良く知っています。地域の人や物事についてどれほどの情報があるでしょうか。
 例えば,隣人の名前,家族,地域の役員の名前,校長先生の名前の他,地域の人数などが頭に入っているでしょうか? さらには,豊富な情報といっても視聴覚情報に片寄っていて,温もりが伝わる触れ合う情報がほとんどありません。地域情報を豊かにしなければなりません。

 ○地域内の移動
 買い物,集会,行事等に出掛けるときに車を利用することが多くなっています。これでは人との出会い・語らいができません。道すがらの語らいが人と人とを結び付ける機会になります。歩くときは地域の狭い路地を辿るでしょう。家の庭に咲いている季節の花の香を嗅ぐことによって地域の佇まいを感じ,「横丁」の生活を垣間見ることが地域を知るということです。


(2) 対策:地域情報網と出会いの場:「口と足を動かせ」
 ○地域にある各種の組織
 地域にある組織が重複しており,互いに閉鎖的になっています。子どもに関係する組織はいくつあるでしょうか。そしてそれぞれの組織が他の組織には無関係に活動を進めています。子どもや親のぶんどり合戦を演じ,地域をまとめようとする一方で地域のまとまりを壊しています。これでは地域のための組織とは言えません。各組織がもっとお互いの活動に関心を持って,地域全体の活動としてのまとまりを図らなければなりません。
 そのためには地域情報誌の発行が一つの方策です。市町村には広報誌がありますが,内容および発行回数の点で十分ではありません。機関誌を持っている組織では組織内の情報だけではなく,地域全体の情報を掲載するのも一つの方法です。子どもの様子,親の苦労,学校の動き等を,地域の皆が知っているように工夫をしてみましょう。情報を分かち合うことにもっと力を注がねばなりません。
 情報で最も気をつけることは,マスコミ情報だけに頼らないことです。例えば,少子高齢化は,自分の地域ではどうなのか,核家族化はどうなのか,自分たちのことは自分で調べなければ誰も教えてはくれません。
 また,各団体が協力して防犯マップづくり,通学路の点検,交通量の調査,空き家・空き地の管理,看板ポスターの取り替え,放置自転車の回収など,知っておくべきことを自分の足で集める活動が必要です。
 最後に一つ。折り込みのチラシでもカラーであることを思えば,情報に対する手間とお金の掛け方が足りません。

 ○家の構造が閉鎖的
 地域の家はブロック塀に囲まれ,家を訪ねるのに敷居が高くなっています。おまけに縁側がないために,ちょっとお茶でも飲んで行きませんかという気軽な行き来もしにくくなっています。やはり玄関からリビングまでの距離は遠いと感じられます。家の造りが出会いの場としては不適当なものになっています。地域に開かれていないということです。
 例えば,110番の家でありながら,門が閉じています。玄関から「ごめんください」と訪ねるような構えではとっさの役には立ちません。ですから,せめて人の垣根をなくすために,意図的に出会いの場・機会を増やす努力をしなければなりません。例えば,組織活動の開放をして誰でも自由に参加出来るように,あるいは家族で楽しめるように組織行事の共催などを取り入れることが考えられます。

 ■事業の出席率
 事業の主催者は皆「出席してくれない!」という悩みを持っています。その気持も分 かりますが,評価は「3」(3割,3%,千三つ)で行なうことを勧めます。例えば,会員制の組織では3割の参加が上限です。人のつながりが薄くなるにつれて十分の一ずつ参加率は低下するものです。それ以上の参加率は特別であり,どこか無理をしているはずです。たとえ正しくかつ素晴らしいことであっても,「3」という割合以上の参加は危険であるとさえ言えます。皆が一つになることの恐ろしさを忘れてはなりません。
 「和」という言葉が良く使われますが,和ということは皆同じであるということではありません。お互いにいくつかの違いを認め合いながら折り合いを付けていくことです。無理に参加を押しつけて参加しないことが和を乱すと考えては,かえって和を乱していることになります。組織はいつも大きな心で人を包んでいなければなりません。


(3) 効果:受ける恩恵
 ○荒れる学校
 学校が荒れると授業参観が増えます。現状を公開することで,生徒がおとなしくなる効果があるからです。生徒にとっては自分の振舞が地域の人たちに知れ渡ることがブレーキの役割を果たすことになります。匿名性を拭い去ることが地域の教育力を発揮する必要条件なのです。どこの誰ということを皆が知っていることが大切なのです。

 ○親の後ろ姿
 親の働く姿が家庭にはないということが危惧されています。働くということを職場での仕事だけに限定してはいないでしょうか。働くとは「人の傍で動く」と書き,端を楽にする「ハタラク」と読みます。仕事だけが働くということではありません。家庭でも地域でも働くことは出来ます。地域は皆のために働くという点で,本当の働く姿を見せられる場です。
 例えば地域の活動に一所悪命になっている親の姿は,〔働くこと〕=〔金のため〕という短絡的な考え方を改めさせるきっかけになります。「お父さん,頑張ってるね!」という思いが伝わるでしょう。自分だけのためではない行動が働くという姿であり,その行動への感謝の証が「報酬」につながります。もちろん報酬は金銭とは限らず,言葉・気持だけかも知れません。家庭はわがまま,会社・学校は競争,働く場は地域しかないことを再確認したいものです。

 ○子どもを見る目
 親が子どもを見る場合に,いくつかの見方があります。まず同級生との比較をする見方があります。同級生ですからたいした違いはないのですが,その違いしか見ないために過大な違いと錯覚してしまいがちです。次は大人の目から見る見方です。大人に比べれば子どもは駄目な所ばかりです。子どもの姿を過少に見ることになります。いずれの見方も子どもを見ていないと言えます。
 子どもを正しく見る物差しを持っていないから,誤った判断をしてしまいます。子どもを見る物差しは「異年齢集団」です。一年前の我が子,一年後の我が子の姿が,地域の子ども集団の中に見えるはずです。子どもたちの集団の中で我が子を見なければ,子どもの姿は見えません。

 ○騒音という迷惑
 隣人とのトラブルの一つに,騒音があります。もちろんお互いに気を付けなければならないことではありますが,少し神経過敏な所もあるのではないかと思えます。隣同士が知らない間柄で普段の行き来がない場合に,問題がこじれてしまうようです。知らない間柄であるために,一方は遠慮がなく,他方は殺気立つようなことがあるのではないでしょうか。もしお互いに知り合いであれば,多少の遠慮と我慢が働くはずです。

 ○近所の子に注意
 近所の子に注意をすると,逆に親から文句を言われたり睨まれたりすることがあると聞きます。そんな時,きまって「そんな親がいるから」という所に落ち着いてしまいます。それでは何も解決しません。人を非難することで話を閉じてしまうのは,責任逃れに過ぎない,卑怯なことです。大人であれば,もう少し踏み込んだ考え方をして欲しいものです。文句を言う親を責める代りに,もしお互いにもっと知り合っていれば事態は変わっていただろう,付き合いを深めるようにするにはどうしたら?と,打開策に向かうように考えるべきでしょう。知り合うことが地域の第一要件です。