***** 《中学生を持つ親のための12章》 *****

【第1章 あなたのお子さんは,自分で考えていますか?】

《中学生になると》

 中学生になると,子どもたちは急に息苦しさを感じるのが普通です。小学校時代には子どもの世界に住み,ある程度ゆったりした生活をしていますが,中学生になると暮らしの世界が社会的な領域に広がり,大人によって指導される世界へ入っていくからです。
 中学校にいけば校則という抑制が加えられます。校則は社会生活上にルールが存在することを教えるものです。中学生にとっては窮屈なものとして受け止められます。
 ところで中学生時期は,心の離乳期であると言われます。その実際の行為が親や先生といった大人たちのはめた枠から抜け出そうとする形をとって現れます。そのときの自由と束縛の衝突によって,自己と社会の対比に直面し,社会の中の自分という自我意識に目覚めます。
 ところが最近,大人からの干渉的な働きかけに対して,「やむおえない」とか「その方がいい」といった大人任せの中学生が増えています。管理や干渉の生活に慣らされ,「おかしいな」,「どうしてかな」と疑問を感じないということが問題なのです。心の離乳期であり反抗期である中学生が大人の干渉を簡単に受け入れることは,自分で考える態度や習慣が育っていないからです。これが一般に言われる「指示待ち人間」の姿です。
 小学生までは大人の指示的言葉を素直に受け入れることで育ちますが,中学生になると大人の指導を一度は拒否することで自分で考える段階を経て,納得したうえで受け入れようとします。納得するという自覚作用が中学生の自立には必要です。こうして社会の中の自分を育て上げていきます。
 21世紀を生きる子どもたちを取り囲むものは間違いなく情報の渦です。数多い情報の中から状況を判断し正しい選択ができる経験を,今から蓄えておくことが重要です。そのためには物事の選択と決定権を,できるだけ子どもに持たせることが大切です。子どもが選択に迷ったり,決定を誤っているときは助言の援助を与えることが,大人の役割です。
 親の言うことに反発するのは,自分で考えようとしていることの現れなのです。

《調査結果から》

 自分で考えることが日常の暮らしの中で発揮される例として,遅刻をしないということを取り上げてみます。遅刻をしないためには自己管理が必要だからです。遅刻を全くしないという中学生は50%です。10年前の同じ調査では75%でしたから,大きく減少しています。一方,親が子どもを起こす割合は父親が21%,母親が66%で,ほとんどの親が子どもを起こしています。ほんの一例に過ぎませんが,これでは子どもの自己管理能力は育ちません。
 自分で考えるようになるためには,自分を大事にしようという思いがなければなりません。親は子どもにプライドを持たせようとしているでしょうか。父母ともに60%の親がそうしていると回答しています。また学年が進むにつれてその割合は増えていますが,十分ではないようです。
 例えば自転車の乗り方を見ていますと,自分を大事にしているとは思えません。無灯火が多く,歩行者に与える危険に思いを寄せず,自動車から受ける危険にも無頓着です。また自転車に名前を記していないものが目につきますが,名前を表に出すことをためらうかのようです。このような姿は自分を大切にすることとは反しています。みんながしているからというのではなく,自分のことは自分で考えようとすることが,プライドを持つことにつながるはずです。
 次に自主性という面について親子の評価を見てみます。81%の中学生が自分で判断し行動をしていると,高い自己評価をしています。一方親に子どもの自主性(自分で判断し行動する)があるかどうかを問うと,あると答えた母親が73%,父親が69%と,厳しい評価をしています。中学生と親とで約10ポイントの差が生じているのは,中学生の評価基準と親の要求水準との食い違いがあるからだと思われます。いつも自分で判断し行動しているという中学生と,大いに自主性があるという親が,学年とともに増加していることは望ましい傾向です。ところで,自分で判断し行動をしていない中学生が2割いるということは,親の養育態度に干渉的な面が強くなかったかという反省を促します。
 幼児期から少年期,青年期へと子どもの発達段階に応じて親のしつけや対応も成長し続けなければなりません。自分で考え行動する自主性を持った子どもに育てるには,干渉による働きかけを控え,子どもの成長に合わせて自分で判断する機会を多く体験させることが大切です。

《親子関係の中で》

 中学生時期は自立への育ちの大事な時期です。自立には二つの面があります。一つは身体の自立です。親はさまざまなできごとや物事に子どもが対応できるような健康な体を作ってやる必要があります。丈夫な身体を持っていれば,たくましく生きる財産になります。
 もう一つは心の自立,精神的な自立です。これは例えば我慢する,役割を果たす,やり通すといった,自分の甘えを抑え込む力を備えることから始まります。その上で自分で考えようとする子どもが,自立に向かって育つ子どもです。
 自分で考えることをしない子どもは,指示待ち人間あるいは許可願い人間になっていきます。このような子どもは集中力を保てずに,すぐにペチャペチャと話し出したり,姿勢が崩れるという弱さを持っています。
 自分で考える習慣を持った子どもに育てるためには,親は子どもが何か尋ねてきたときにすぐには解答を与えず,「あなたはどう思うのか」と考えを引き出してやるようにすることが大切です。そのときにたとえ間違っていても,子どもの答えを頭ごなしに否定しないように注意すべきです。また親のほうから相談を持ちかけることもよいでしょう。問題をどのように考えたらよいのかという考え方を親に学ぶことができますし,さらにたとえ十分な返事ができなくても,相談を受けたということが喜びになります。
 親子の関係が常に親が優位で子どもが従うという関係では,自主性は育ちません。親が「するな」とか「だめ」という抑圧に片寄るのではなく,「やってみよう」と意識的に子どもに任せる姿勢をとることが大切です。指導と干渉は指示するという形式がよく似ているので,気をつけなければなりません。指導とは指示をしますがその指示に従うかどうかは子どもに任せることで,干渉とは子どもに任せずに親が決めつけてしまうことです。子どもに任せているかどうかが決め手です。