***** 《中学生を持つ親のための12章》 *****

【第2章 あなたのお子さんは,人の目を気にしますか?】

《中学生になると》

 身体的に急激に成長する時期です。しかし,精神的には不安定です。自分の身体や異性の問題,進路や家庭の問題を含め,人の言動が気になる世代です。常に周囲の視線を気にしながらプレッシャーを受けて生活している子どもも多いのです。
 人の言動が気になるということは,自分のことが気になっているということです。自分に対して関心がありながら自分を見るための尺度が確立していないので,自分のことが分からないでいるからです。したがって,人が自分のことをどう見ているのか知りたくて仕方ないわけです。つまり,自分はみんなと同じでありたいという思いと,みんなとは違っていたいという思いの間を揺れ動きます。みんなの中での自分を見つけることで,自分を発見していきます。
 このような不安定な世代の子どもは,親や友人からの評価に左右されやすい状態にあります。例えば評価の結果によってはその評価した人に好意的になったり,あるいは逆に敵対心を抱いたりすることがあります。また親からの評価を受けるとき,きょうだいや同級生との比較であったら,その相対評価自体を拒否しようとするあまり,きょうだい仲にヒビが入ってしまうこともあります。
 子どもは自分のことを知りたがっています。その子どものことを一番知っているのは親です。親にとって子どもがどれほど大切な存在であるかを,親は子どもにしっかりと伝えることが大切です。子どもは自分の存在が誰かにとって良いもの,美しいもの,正しいものであることを発見したいと願っています。ですから子どもを評価するときにはプラスの評価を忘れないようにして下さい。マイナスの評価が子どもを発奮させるのは,子どもが自信を持っているときだけであり,中学生にはまだ無理な注文です。まず自分を信じられるという自信を与えることが先です。昔から言われている「叱るよりほめて育てよ」という言葉は,今も十分に通用します。
 ところで,親と子どもの評価尺度が異なることもあります。例えば流行に関しては大人と若者の感性がぶつかります。流行に添うことで若者みんなと同じであると主張し,大人とは違うと誇示しようとします。そうすることで自分のアイデンティティらしいものを持てるからです。個性を完成し主張できるまでの最初のステップが始まったと,余裕を持って見守ってやって下さい。
 人の目を気にすることは,自分を客観的に自覚しようということの現れなのです。

《調査結果から》

 自分のことを知るためには,自分を離れた視点を持たなければなりません。他人の目,客観的な目で,みんなの中の自分を見直すということです。
 異性への関心を通して,男である自分,女である自分という認識を獲得します。異性への関心がある中学生は58%で,男女別では男子が51%,女子が66%,学年別では学年とともに50%から68%に増えていきます。女子の関心の高さが特徴的です。
 みんなと同じでありたいという思いが現れる流行への関心については,65%が関心を持ち,男子は58%,女子は71%と差が見られます。また服装髪形について関心のある中学生は75%で,男子は65%,女子は87%です。自分が人にどのように見られるかということへの関心が高いことが分かります。さらに身近な友の目を気にする中学生が68%いることは,同年齢集団の常識に敏感になっていることを表しています。
 子どもの服装髪形への親の対応については,厳しく注意する親は,父親で34%,母親で32%であり,10年前の調査より父母とも10ポイント以上減っています。子どもらしい自己主張に門戸が開かれていると言えるます。
 前にも述べましたが,中学生はよその子やきょうだいといった特定の人との比較を嫌がります。他の子との比較を親はどの程度しているのでしょうか。比較する父親は28%,母親は46%で母親に多くなっています。ただ小学生の場合と比べると両親ともに10ポイント以上少なくなっています。特定の人との比較は客観的なものとは違うものですから説得力がありません。子どもに反発されるだけです。
 中学生になると自分をいろいろな面から見ようとしています。その一つが人の目から見た自分です。また自分を内面的に見たときには悩みという形をとります。悩みは自分との直面です。つらい自己発見のはずです。悩みがないという中学生は18%です。多くの中学生が悩んでいます。悩んでいる子どもを温かく見守ってあげて下さい。

《親子関係の中で》

 今教育のあり方が大きく変わろうとしてしています。これまでの知識や偏差値を重視しがちな教育から,個性や豊かな心を重視する教育への転換です。
 子どもたちは仲間内では雄弁ですが,人前で少しあらたまったときには自分の意見や考えを述べることを嫌がります。その原因の一つは自分の考えを客観的に吟味する訓練をしていないことにあります。例えば,試験の解答を当たり・はずれとしかとらえていません。自分の考えに自信が持てないからです。客観的に見るということは,自分の中に他人の目を持つということであり,そうすることで人前に考えを披露する準備ができ,自信を持って発表できます。
 もう一つは自分を表に押し出そうという意欲が弱いということです。そこには私たちの風土として「横並びの文化性」が影響しています。それは社会的に認知されている一定の枠の中に入っていれば安心であるという考えです。周りがするように,あるいは人並みであれば間違いないという文化性は,人と同じでなければという抑制として自分を縛るようになります。このことが個性的であるより画一的であるように働きかけてしまいます。
 創造性豊かな子どもを育てるためには,個性的であることを推奨しなければなりません。子どもが育つ過程は自分を外に向かって出していくことにほかなりません。中学生の時期に自分を出せないままにしておくことは,育ちを抑え込むことと同じです。画一性の具体的な現れが規則です。融通性のないということが価値観の硬直化を生み,個性を封じ込めてしまいます。これまでの教育やしつけの中に潜む見えない枠組みを少し解放することが求められています。そのためには子どもの意見を信頼されている親が受け入れることから始めてみましょう。親が客観性を保証してやることで子どもは自信がつきます。その際に親は判定者として子どもに完全さを求めてはいけません。程々のところで良しとする余裕は,親しか持てないからです。
 人の目を気にするということは,仲間集団の常識という客観性を身につけようとしていることです。人の目という尺度で自分を見直そうという訓練が始まっているのです。ただ友人や社会の目は善し悪しの差が大きいので,中学生には苛酷でもあります。そこに親の愛情によるいやしが必要になります。親は子どもの良き理解者,良き励まし屋,良き相談相手であることです。
 人の目の中で親の目だけは好意的であると信じ込ませることが子どもの自立にとって大事なことです。