***** 《中学生を持つ親のための12章》 *****

【第3章 あなたのお子さんは,自分の場を持ちますか?】

《中学生になると》

 社会的な生活空間を持つようになります。そのときに安全で安心のできる自分の居場所が不可欠です。ここで言う居場所とは自分の部屋といった具体的な場所のことではありません。例えば,部活動という場があります。中学生が部活動以外の時でも部員たちと共に過ごすことがよく見られます。このように居場所とは人間関係の絆が自覚できる状態のことです。自分の場とは温かい関係や相互の心のこもった会話,みんなとの活動の共有がなされている場です。決して自分一人だけの場ではありません。
 人には自分の場が必要です。まして未成熟な中学生にとっては育ちの大切な条件です。今日の生活環境は複雑多様化し,社会への適応能力がますます高度になっています。そのせいか子どもたちは「早く,しっかり,ちゃんとしなさい」と駆り立てられています。子どもにとって学校も家庭もストレスの多い状況になっています。その中で神経性胃潰瘍など成人病と言われた病気の増加やその予備軍としての肥満傾向のある生徒の増加,思春期病とまで言われる心身症や各種の症候群が見られるようになっています。そこで中学生にとっての自分の場としての家庭や地域のあり方,さらにそれへの親の関わり方が重要になります。
 中学生は塾や部活動などに時間を奪われ,家庭での触れ合いの時間が減少しています。その分自分の場を家庭の中に作りにくくなっています。子どもにとって家庭が自分の場になるためには,家庭が自分を生かせる場,存在感のある場となる必要があります。親は仕事を,子どもは勉強をという生活様式はお互いを必要としません。どちらかというとお互いが邪魔にさえなりかねません。家庭は家族が住むところです。家族とはお互いを気にしながらいたわりあうことによって結びつけられるものです。親は子どもをいつでも受け入れる態勢を保っていなければなりません。そうしなければ子どもは家庭に自分の場を見つけることができなくなります。
 自分の場を持つということは,ありのままの自分でいられる所があるということです。

《調査結果から》

 自分の場という観点から子どもにとっての家庭を考えてみましょう。
 家庭生活に対して78%の中学生が満足をしています。学年が進むにつれて多少満足している中学生の割合が減る傾向があり,居心地の悪さが現れてきているようです。しかし,10年前に比べると13ポイントの増加になっており,家庭に対する満足度は進んでいます。
 また多くの中学生が親の表情として優しい顔や笑顔を思い浮かべています。親の方も80%以上が休みの日に子どもと一緒に過ごしたいと思っていることから,共にプラスイメージでとらえていることが確かめられました。
 しかし親の表情を思い浮かべようとするとき,分からないとか疲れた顔と答える中学生も少なくなく,親が心理的に遠い存在になっていることもあるようです。特に疲れた顔というのは親の社会生活の現状の中では無理もないことかも知れません。ただ中学生からみると,親は「家庭が楽しくない,おもしろくない」と言っているように思えて,ひいては子どもも家庭にマイナスイメージを持つようになりかねません。
 それでは家庭は子どもにとってつながりの自覚がある場になっているでしょうか。例えば家の手伝いを言われたらするという中学生が56%で,指示待ちの傾向が明らかになっています。自発的に手伝いをする中学生は19%で,女子の方が多くなっています。家族意識は共同体として参画することによって生まれるので,自発的に家のことができるように親は工夫をしなければなりません。
 子どもは親に叱られたとき,家を出てしまおうかと思うことがあります。父親に対しては28%の,母親に対しては33%の中学生がそういう経験があると答えています。特に母親に対して女子が41%と高い割合になっていることが目につきます。子どもを育てる上では叱ることも必要です。叱るべきときには叱らねばなりませんが,そこにはしっかりした信頼関係が裏打ちされていなければなりません。普段の関係を温かくしておくことで,親の都合や勝手で叱られているのではない,自分のために叱ってくれると思うでしょう。

《親子関係の中で》

 子どもにとって家庭が自分の場になるためには,家族の一員として認められ,自分が必要とされ,家庭生活を家族と共に分担しているという自覚をもつことが肝要です。
 ところで,私たちはよく子どもに「お手伝いをして」と言いますが,この手伝いと分担はどう違うのでしょうか。手伝いとは,人の仕事を助けることです。分担とは,役割として認められ責任を任されることです。すなわち,自分のすることと納得して実行するのが分担,人のするべきことと思ってするのが手伝いです。することは一緒でも,する者の意識は全く違っています。したがって,幼いころには手伝いから入りますが,中学生になっても手伝いという意識のままでは困ります。
 中学生にとって,家族の一員として家の仕事を分担することは,「自分は家にとって必要な人間なのだ」という意識を養い,家族としての資格を認知されることにつながります。そのとき家庭が自分の居場所になります。
 例えば,夕食を作るとき「手伝ってね」と頼むと,その言葉を文字どおりの単なる手伝いと受け取って,言われたことを済ました後はテレビを見ているという光景が多いのではないでしょうか。手伝いとして始めても,次の仕事に自分から関与しようとすれば,そのとき分担することになります。言われた小さな役割だけに済ますことが手伝いで,いったん関わったら最後まで関わり続けるようにすることが分担です。手伝いを分担に変える工夫は「もう少しやってみよう」という前向きな思いを持たせることです。食事のときに「おいしいね」という会話が出れば,分担した喜びがわき出て,次への意欲につながります。
 日常の小さな分担を繰り返すことで自分の居場所になった家庭は,温かく思いやりにあふれたものになります。そのような家庭でこそ,厳しさが子どもに素直に受け入れられていきます。
 言葉による勉強では体験できない生きることに関われる家庭の仕事を分担し,家庭の中に自分の居場所を確保できれば,大人への成長の第一歩を力強く歩み続けることができるようになります。
 父親の積極的家庭参加という言葉が聞かれます。同じように,これからは中学生の積極的家庭参加をいかに確立するかが課題です。このことはそうあれば望ましいというものではなく,それが育ちの必須であるということです。そんなことも知らないのかといった生活能力の欠如が若い人に目立つようになりました。自分の仕事領域を家族や隣人の領域と重ねる体験を大切にしましょう。
 自分にできることを家族のために実践するチャンスが与えられれば,そこが自分の場になります。