***** 《中学生を持つ親のための12章》 *****

【第4章 あなたのお子さんは,つながりを持ちますか?】

《中学生になると》

 心の友を求めるようになります。小学生のころは家が近いとか席が隣だということで友達になり,気軽に遊ぶことができます。ところが中学生になると,一緒に遊ぶだけでなく親に言えない悩みを打ち明けたり,自分の将来や夢について相談できる心の友を求めるようになります。つまり,心理的なつながりを作り出そうと願うようになります。
 家族に対しても同様です。例えば,小学生のころは家庭内のことを親が話していても,自分には関係ないような様子で遊んでいます。しかし,中学生まで成長してくると,話の中に割り込み自分の考えを言い,自分も関わろうとします。そんなとき親は「この子も成長したな」と思うはずです。
 このように中学生になると,心理的離乳という形で親子のつながりをいったん断ち切ったうえで,改めて主体的なつながりを持とうとします。
 ところで,現代社会においては少子化と核家族化,子どもの転校を避けるための単身赴任の増加などの傾向があり,家庭を取り巻く状況は大きく変化しています。また,低年齢児の世話は祖父母や保育施設に委託され,小学生になると習い事や塾に通ったりという傾向が強まる中で,子どもはますます家族と関わりの少ない環境で成長しています。
 社会的生活の中で出会う悔しいことや辛いこと,また喜びやうれしいことを共有できるつながりがあるとき,精神的な安定が得られます。気持ちのうえで誰もそばにいないというのは辛いことですし,どうしても気持ちが閉じこもってしまい,外に向かって育つという意欲が生まれません。温かいつながりは,何よりも家庭から作られるものです。感受性の強いこの時期に,自分にはどんなときでも親がついていてくれるという信頼感は子どもの行動に強く影響します。
 親子のつながりだけではなく,親同士のつながりも大切です。もしも自分のせいで親同士が不仲になっていると知ったら,いたたまれなくなり親にとって自分は望まれない存在ではないかと疑ってしまいます。つまり,家族全員の円満なつながりが大切です。
 きょうだい関係が望みにくい少子化の中で,地域でのつながりの重要性が高まっています。一口につながりと言っても親しさの度合いによって多様なつながりを経験しなければ有効ではありません。家族には甘えられますが,友人には多少の抑制をしなければなりません。大人には十分な気配りが必要になります。間合いの取り方は経験によってしか体得できません。
 感受性の強いこの時期に,自分にはどんなときでも親や家族とのつながりが壊れないという信頼は子どもの行動に強く影響します。

《調査結果から》

 友達とのつながりを見てみます。お互いに理解し心を打ち明けて話せる親友がいるのは78%の中学生です。また困っていることや悩みを相談する相手としては友だちが57%と半数を越え,その割合は学年が上がると増加しています。親や先生に話さないことでも親友には相談する傾向が明らかです。
 しかし,一見すると友だちとのつながりは良い状況であると言えますが,11%の中学生は親友がずっといないと答え,学年が進むと増加する傾向にあります。さらに休日を家で何となくゴロゴロ過ごしている中学生は男子では13%ですが女子は25%と多くなっており,また1年生の11%から3年生の25%へと増えています。学年が進むにつれて孤独になっていく傾向もあるようです。
 安心の場所に関して,一番ほっとする場所は60%の中学生が自分の部屋,22%が家族と一緒にいる部屋と答えています。家人とのつながりが気重になっているようです。また男女別では,ほっとする部屋が自分の部屋は男子,家族と一緒の部屋は女子の方が多くなっています。
 生きていくうえでなくてはならない信頼関係の種は親子関係です。父親を信頼している中学生は男子86%,女子は77%です。母親に対しては男女とも85%です。父親と女子の相性の悪さが少し見えています。
 一方で,親からのつながりはどうなっているでしょうか。中学生をパートナーとして対等につきあっていく姿として,家の相談を持ちかける親は父親が39%,母親が64%で,10年前と比べるとどちらも10ポイントほど減っています。また一緒に食事をすることは最も基本的な結び付きの確認行為ですが,夕食に揃うという父親が42%,母親が50%です。現在の社会状況の下では,親子の暮らしのリズムが食い違ってしまうことは避けられないのかもしれません。ただこの割合が10年前より10ポイント以上増えていることはうれしいことです。
 しつけをするには信頼がなければなりません。子どもから信頼されていると思っている父親は80%,母親は89%です。親を信頼している中学生の割合とほぼ一致していますが,この数字は親子なんですからもっと多くなくてはならないものです。さらにお互いに信頼を持てない親子が他の誰かと信頼関係に入れるように,漏れのないネットワークを用意することが望まれます。

《親子関係の中で》

 中学生にとって,人とのつながりは心の安定と発達に欠くことのできないものですが,現代社会のパーソナル化した環境においてはその実現が危ぶまれます。
 ところで,子離れが勧められる一方で,放任してはいけないとも言われます。ここで見守りと放任の違いを考えておきましょう。見守りとは後ろからついて歩く愛視の行為で,教育的配慮と発達段階をわきまえて手を出さないことを言います。放任とは背中を向けて歩く無視のような行為で,保護者が本来行うべき最小限の指導を放棄してしまっていることです。すなわち,保護者がいざというときには手を差し伸べる態勢にあるのが見守りであり,そのような待ちの態勢にないのが放任です。
 例えば,中学生は成績のことや進路のことなどの悩みや辛さを背負っています。一方,親は勉強のことは分からないからと学校や塾に任せて安心してしまいがちです。これが放任です。親子のつながりはものごとを解決していくだけの間柄ではありません。子どもが悩みながらも頑張っているときに,それが分かっている,そばに付いているというサインを出し続けることが見守りです。子どもが疲れきって「お母さん」と呼びかけてきたとき,「なーに」と笑顔を向けてやることです。その後で「なにか用ね」と問い詰めないで下さい。いつでも待っているだけでいいのです。よく見守っていれば,子どもは落ち着きますし,自分から親に心を開いてくるはずです。子どもにとって,見守りは「見られる安心」で,放任は「見られぬ不安」と言うことができます。
 さて人とのつながりはどのように作られていくのでしょうか。それは人を信頼できるかどうかに深く関わっています。この信頼関係は,まず家庭の中で育まれます。つながりの最初のお手本は,最も身近な両親のつながりです。異性という違いを越えたつながりが,つながりの何たるかを分かりやすく示します。精神的に不安定な時期にある中学生にとって,円満な両親とのつながりや家族とのつながりのベースとなっている信頼関係を実感することが大切です。そこで人との信頼関係の安らかさを学び取ります。
 次に,より複雑な信頼関係の持ち方は,社会参加によって作られます。青年期にかけて仲間集団における友人関係は,親子関係とは違った関係を学ぶために極めて大切です。この時期にできるかぎり幅広く異年齢の人と交流することによって,人を信じるだけではなく,人に信じられる喜びを得ることができます。
 心の世界が発達してくるにつれて,人生の意義や将来の生活設計を話し合ったり考えたりする準備が整ってきます。家庭や学校には存在しない多様なつながりの体験を,地域社会での活動参加によって得ることができます。
 親子関係とは,親であり子であるということだけによる深い関係であり,よい子でなければ縁が切れるというようなものではないことを,親子で再確認すべきです。