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【第11章 あなたのお子さんは,反省ができていますか?】
《中学生になると》
日常的なことでは大人と対等に話ができます。またパソコンなどの電化機器の扱い方については親を越えているところもあります。情報化社会の中でいわゆる知識は豊富ですが,ただ知っているという段階に止まっています。例えばリンゴの皮を剥くにはナイフを使えばよいということを知っています。ところが実際にはうまくできません。知っていてもできないことがある場面にぶつかります。勉強は予習復習をすればできるようになることは知っていても,実際にはできません。できない自分を見つけたとき,挫折感を味わいます。
未熟な自分を認めたくない場合,周りの状況の不備を言い立てます。親が見ているテレビの音がうるさいから勉強できないとか,指導者の言い方が気に入らないとか,自分を被害者に見立てます。もっと極端になると「もう止めた」と逃避します。成長とは未熟さを認めることから始まるものです。育ちは外に原因を見つけることではなく,自分の中の弱さを反省することから始まります。
中学生の弱さに対する考え方に二つの特徴があります。一つは弱さを無視することです。例えば試験の解答を当たり外れの回答と勘違いしています。外れても意に介さずにあっさり忘れ去ります。もう一つは弱さを欠点と思いこんでいます。そのため失敗することを恐れ,自分から手を出そうとしません。弱いものをいじめるのも,弱さが否定されるべきものという思い込みが皆の中にあるからです。
弱さに気づく機会は,できる者とできない者が出会うときです。親には難無くできるのに子どもの自分にはできないとか,先輩がしていることが自分にはできないといった経験をたくさんする必要があります。そうすれば自分の弱さが当たり前になります。さらに同級生の中で捜し出される小さな弱さは,先輩や大人との間に現れる大きな弱さに比べれば取るに足らない,つまりみんな弱いんだという気分が出てくるでしょう。弱さを意味のあるものとして意識することが,成長への飛躍にとって不可欠な要素です。
弱さや失敗を反省につなげられることが,成長というプロセスを進めることになります。
《調査結果から》
中学生が自分の限界を意識させられるのは,勉強するときです。学校の勉強で分からないことがよくあるという中学生は29%,ときどきある中学生は55%です。合わせて83%の中学生が分からないことがあるという結果は,どう考えたらいいのでしょうか。すぐに思いつくことは,学校の勉強の内容が難し過ぎるのではとか,進み方が早過ぎてついていけないのではということでしょう。それも当たっているでしょうが,それだけでもないようです。勉強が分からないことがよくあるという中学生の割合は,学年別に見ると,2年生が34%で最も高くなっています。一方で勉強のやる気がある中学生の割合は2年生で最も低くなっています。7割の親は子どもの成績に最も影響するものとして本人の努力を上げていますが,2年生のときが最も大事な養育の時期です。
中学生は前に前に進もうとします。そのためにやりっ放しという場合が多くなります。反省とは一旦停止することですから中学生には気の進まないことでしょうが,この時期に身につけさせるべき大切な資質です。子どもが宿題や手伝いを忘れていたら必ず注意をする親は,父親が27%,母親が42%です。したいことがあっても,したくないことでも,やるべきことをきちんと仕上げる姿勢を厳しくしつけることが求められます。
使った物の後始末をしなかった場合に厳しく叱る親は,父親38%,母親41%です。10年前に比べると厳しく叱る父親の割合が減ってきています。父親は男子の方に,母親は女子の方に厳しいようです。後始末とは自分のしたことを整理することですから,前に進むことに逆行するように見えます。例えばドアを開けて外に出ようとするとき,ドアをきちんと閉めるのは出る行為を邪魔します。しかし,後始末は次の行動への入り口になることの方が多いようです。後始末をしていないとかえって手間取ってしまいます。反省は失敗の後始末をしようということですから,後始末のしつけの大事さは明らかです。勉強ができるようになるためには,玄関で履き物の整理ができるようになることです。
中学生の時期はしつけの仕上げの時期です。年齢に相応しい養育上の課題があります。親は養育者として十分な気配りをしなければなりませんが,そのためにはしつけについて学ぶことが必要になるでしょう。しつけに関する情報を手に入れようとしている親は,父親で19%,母親で55%です。学年別でみると父母とも多少増えています。また小学生の親と比べると少ないようです。しつけの自信を持っている親が必ずしも多いわけではありませんから,もう一頑張りが望まれます。
《親子関係の中で》
失敗することは恥ずかしいことです。失敗しないようにしたいと思います。しかし育ちの現場では失敗は必要なことです。ものごとに失敗するとき,その失敗の直前まではできていたことになります。失敗したとき自分の能力の最大限を発揮しています。子どもは失敗することで,自分の力が分かります。失敗をしないと力の限界を知ることができません。親にとっても子どもの成長の程度が見えなくなります。失敗を踏み台にする反省ができるようになって,同じ失敗を克服でき,次への成長が可能になります。
子育ての最も重要な問題点は,親の過保護であると指摘されています。そこで過保護をやめようとすると放任という心配が出てきます。やはり保護は必要です。ここで過保護と保護の区別を明らかにしておかなければなりません。そのキーワードは失敗させることです。子どもが失敗しないように先回りをしてしまうのが過保護です。学校に遅刻しないように起こし,忘れ物をしないように注意し,不満を抱かないように世話をすることなどです。子どもが失敗することを親がじっと我慢できるときに,過保護から逃れられます。ただ失敗が回復不能な結果にならないように歯止めを掛けることは忘れてはなりません。それが保護です。子どもに始めての経験となるようなちょっとした用事を依頼してみてください。失敗しても,何処までできたかを親子共に確認できます。そのためには子どもをじっと見守ってやらなければなりません。
子どもには親の励ましが何より必要です。でも多くの場合にそれは叱るという形をとります。失敗したときに叱ります。叱咤激励という言葉どおりのようです。親が子どもを叱るとき,何を叱ればよいのでしょうか。失敗したということを叱ってはいませんか。それでは子どもを追い詰めます。失敗を隠したり,失敗から逃げようとしたり,失敗に負けてしまうことを叱らねばなりません。失敗してもどうということはない,失敗してよいと言うことが励ましです。くよくよするな,ただし反省をしなさい,それが子どもを育てる激励です。
親は子どもが健全に育つことを願っています。健全とはあらゆることを間違いなくこなすことではなく,小さな間違いのうちに気づく力のことです。それはたくさんの間違いを経験することによって身につきます。育ちの途上で失敗や間違いの体験をしていないと,気が付くのが遅れますし,立ち直る知恵もないので完全に倒れてしまいます。親自身が反省の連続で育ってきたことを思い出してください。
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