***** 《ボランティアの窓》 *****

【言葉を引き取り,重ねていっていますか?】

《第04章》

 人は言葉によってどれほど救われることでしょう。朝の元気な「おはようございます」の声で,一日がさわやかに明けていきます。もし挨拶に答えてもらえないと,気分が落ち込んでしまいます。人を結びつける言葉づかいが,ボランティアには必要な素養になります。

 商社勤めの独身男性が知的な会話の出来る女性に惹かれていました。音楽や美術の造詣が深く,つきあいのパーティに同伴しても,とても魅力的に振る舞える女性でした。ところが付合っていてなぜか落着かないのです。ある夕暮れ,綺麗な夕焼を二人で見ていたとき,男性が夕焼けの美しさを語っても,女性からは相づちがなかったのです。やがて男性はその女性と別れ,別の人と結婚しました。

 似たようなことは夫婦の間でもあります。夕食の時,奥様に「美味しい?」と尋ねられても,返事をしないご亭主です。何度も聞き返すと,「うるさい,不味くないから食ってるんだ」とめんどくさそうです。夫婦をしていても,気持ちはつながっていません。「寒いですね」と話しかけて,「そう」とか,「冬だからね」と答えられたら,プツンと切れてしまいます。小さな気持ちのすれ違いが積もりつもれば破綻への道をまっしぐらです。

 気持ちを通わせる会話は簡単です。言葉を重ねればいいのです。「きれいだね」には「きれいですね」,「美味しい?」には「美味しいよ」で済みます。「暑いですね」には「暑いですね」,「寒いね」には「寒いですね」と会話は始まります。

 ボランティア活動でも,形として言葉を重ねることから入りますが,もう一つ気をつけておくことがあります。それは相手の気持ちをしっかりと受け止めるということです。何か不安そうにしていたら,「大丈夫ですか?」と尋ねるのではなくて,「大丈夫ですよ」と引き受けることです。どこか痛そうにしていたら,「痛みますか?」と聞くのではなくて,「痛みますね」と受け取ってあげてください。単なる言葉にすぎませんが,気持ちを分かちあうことができたら,それだけでずいぶん楽になるものです。たとえ相手が言葉で表現しなくても,相手が言うであろう言葉を重ねるようにして下さい。