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●「父と母という字ができたときの意味は?」
パパもママも,その起こりはおそらく幼児の言葉であったろう。くちびるを使うパとマ(パ行とマ行だけが唇を閉じてから発声する)とは,子どもに最も発音しやすい。幼児は一族の中の大きい男をパパと呼び,乳で育ててくれる女性をママといった。
父の字は斧の原字であって,手に石斧を持った形である。その父を,父親という意味に用いるのは,いったいどうしたことであろうか。これは,いわゆる仮借的用法(当て字)の顕著な一例である。太古の中国語で,成人の男を”pa”といい,その語を表すための当て字として,発音がよく似た父という字を借用したのである。
母という字は,女の字とほとんど同じ形であるが,ただ母の方には,胸の両脇にオッパイがはっきりと描かれている。母親は子どもを産み,乳で育て上げることに情熱をもやす。そこで育児のシンボルとしてのオッパイを,とくに強調して描いたのが,この母という字である。
妊という字の核心はその右側(壬)で,糸巻きの棒に糸を巻いて,その腹がふっくらとふくれた姿である。そして女性が赤ちゃんをはらんでお腹をふくらませることを,「女+壬」を組み合わせた妊の字で書き表した。
娠の字の右側の辰は,貝の姿である。カギ型に開いた貝がペラペラした足をのぞかせた形である。柔らかい貝の足はペラペラと振れて動く。さて胎児が成長して7,8ヶ月ともなると,時おりピクピクと胎動する。その胎児の振動する感じを娠というのである。
「女へんの漢字」:藤堂明保著・角川文庫
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