1193年 (建久4年 癸丑)
 
 

3月1日 戊辰
  若公万寿、由比の浦に於いて小笠懸を射給う。結城の七郎朝光これを扶持し奉る。
 

3月2日 己巳
  東大寺造営料米の事、殊に精誠の沙汰を致すべきの旨、周防の国の地頭に仰せらると。
 

3月3日 庚午
  鶴岡の法会将軍家御参り。舞楽例の如し。但し当宮の別当・供僧等・門弟並びに御家
  人の子息等舞童たるなり。
 

3月4日 辛未
  来十三日は法皇の御周関なり。仍って千僧を供養せらるるの間、当日に臨んで各々参
  上すべきの由、寺々に触れ仰せらる。俊兼これを奉行す。
   若宮・勝長寿院・永福寺・伊豆山・箱根山・高麗寺・大山寺・観音寺
 

3月9日 丙子
  那須の太郎光助下野の国北條の内一村を拝領す。これ来月那須野に於いて御野遊有る
  べきの間、その経営の為これを充て行わると。

[皇帝紀抄]
  蓮花王院の中に法皇周忌の御法事の奉為に建立する一堂供養なり。丈六の阿弥陀三尊
  並びに不動尊等これを安置す。
 

3月12日 己卯
  江間殿伊豆の国より帰参せらる。この間病気に依って在国すと。
 

3月13日 庚辰
  旧院御一廻の忌辰を迎え、御佛事を修せらる。千僧供養なり。御布施は口別に白布二
  端・藍摺一端・象牙一袋なり。武蔵の守義信行事たり。その儀宿老僧十人を定められ
  頭と為す所なり。仍って各々百僧を相具し便宜の道場を点ず。饗禄等を沙汰せんが為
  に百口毎に二人の奉行を相副えらると。
  一方の頭(百僧これに従う) 若宮の別当法眼
    奉行は 大和の守重廣      大夫屬入道善信
  一方の頭(百僧これに従う) 法橋行慈
    奉行は 主計の允行政      堀の籐太
  一方の頭(百僧これに従う) 法眼慈仁
    奉行は 筑後の守俊兼      廣田の次郎
  一方の頭(百僧これに従う) 法眼厳耀
    奉行は 法橋昌寛        中四郎惟重
  一方の頭(百僧これに従う) 法眼定豪
    奉行は 民部の丞盛時      小中太光家
  一方の頭(百僧これに従う) 密蔵房賢□
    奉行は 左近将監能直      前の武者所宗経
  一方の頭(百僧これに従う) 阿闍梨行実
    奉行は 籐判官代邦通      九郎籐次
  一方の頭(百僧これに従う) 阿闍梨義慶
    奉行は 比企の籐内朝宗     玄番の助成長
  一方の頭(百僧これに従う) 阿闍梨求佛
    奉行は 足立左衛門の尉遠元   法橋成尋
  一方の頭(百僧これに従う) 阿闍梨専光
    奉行は 善隼人の佐康清     前の右馬の允宗長
 

3月14日 辛巳
  東大寺修造の事、文覺上人播磨の国を知行し奉行せしむべきの由、将軍家計らい申さ
  しめ給うと。これ則ちその功未だ成らざるが故なり。
 

3月15日 壬午
  近日那須野の御狩り有るべきに依って、藍澤に構えらるる所の屋形等、宿次人夫を以
  て下野の国に壊し渡すと。
 

3月16日 癸未
  平家の与党越中の次郎兵衛の尉盛継以下、近国に隠居するの由風聞有り。早く追討す
  べきの由、兵衛の尉基清に仰せらると。
 

3月21日 戊子
  旧院一廻の程は、諸国に狩猟を禁ぜられ、日数すでに馳せ過ぎをはんぬ。仍って将軍
  家、下野の国那須野・信濃の国三原等の狩倉を覧玉わんが為に今日進発し給う。去る
  比より狩猟に馴れるの輩を召し聚めらるる所なり。その中弓馬に達せしめ、また御隔
  心無きの族二十二人を撰ばれ、各々弓箭を帯せしむ。その外は縦え万騎に及ぶと雖も、
  弓箭を帯せず、蹈馬衆たるべきの由定めらると。所謂二十二人は、
    江間の四郎      武田の五郎       加々美の次郎
    里見の太郎      小山の七郎       下河邊の庄司
    三浦左衛門の尉    和田左衛門の尉     千葉の小太郎
    榛谷の四郎      諏訪の太郎       葛西兵衛の尉
    望月の太郎      藤澤の次郎              渋谷の次郎
    佐々木の三郎     梶原左衛門の尉     工藤の小次郎
    新田の四郎      狩野の介        宇佐美の三郎
    土屋兵衛の尉
 

3月25日 壬辰
  武蔵の国入間野に於いて追鳥狩り有り。藤澤の次郎清親百発百中の芸を施し、獲雉五
  ・獲鶴二十五の名を揚ぐ。将軍家御感の余り、駕し給う所の御馬(一郎と号す)を賜
  い、自らこれを引かしめ給う。これ曩祖将軍貞任を征し給うの後、春に野遊有り。清
  原の武則一箭を以て両翼を獲る。時に将軍自ら馬を引き給うと。その例を思し食さる
  るか。彼の賈氏は皐に行き婦女の情を和す。この清親は野に出で主人の感を預かる。
  弓馬の眉目、射鳥の興遊を極めをはんぬ。