1246年 (寛元4年 丙午)
 
 

3月3日 壬辰 甚雨暴風
  入道大納言家還御す。走湯山より直に御下向なり。風雨の煩いに依って暁更に及ぶと。
 

3月8日 丁酉
  渡辺海賊の同類柴江刑部の丞源綱法師、本職摂津の国榎上庄南方下司名田の事、領家
  方より収公するの由、源綱入道これを申すに依って、今日その沙汰有り。賊跡たるの
  上は、関東より地頭を補せらるべきの処、領家自由の所行謂われ無きの趣、咎め仰せ
  らるべきの旨治定すと。[追って給人の沙汰有るべしと。]
 

3月12日 辛丑
  臨時の評定を行わる。有間左衛門の尉朝澄進し置く懸物の押書、明石左近将監兼綱の
  奉行として沙汰有り。串山郷の事なり。彼の郷は、朝澄一期の後伝領すべきの旨、本
  主養母尼遺言せしむの上は、朝澄の押書を置かるべきの由、越中七郎左衛門次郎政員
  これを訴え申すと雖も、その沙汰に能わずと。また肥前の国御家人安徳三郎右馬の允
  政康所領の事、舎兄政尚・政家の例に任せ、所職並びに安堵の下文を除くの外の私領、
  肥前の国三根西郷の内刀延名三分の一を召し上ぐべきの由、越前兵庫の助奉行す。
 

3月13日 壬寅
  信濃の国善光寺供養なり。大蔵卿法印良信導師たり。名越故遠江入道生西の賢息等遺
  言を受けるに依って、大檀越としてこの土会を成すと。勧進上人親基と。
 

3月14日 [葉黄記]
  申の斜めに及び参院す。御使として入道殿(東山殿)に参る。條々申し合わさるる事
  有り。
  一、関東申次 年来の重事、入道殿下これを仰せ遣わさる。
    「五月以後の事変、大相国関東申次を勤むべし。然れば他院司直に仰せ遣わすに
     及ばず。禅定殿下伝え仰せらるるの時ハ、細々の事毎度御伝奏然るべからず。
     仍って院司直に仰すべきの由沙汰有りき」
    後鳥羽院の御時、坊門内府並びに入道相国等一向これを申し次ぐ。奉行院司等の
    御教書、各々彼の申次人に遣わしをはんぬ。今度院中の儀に就いて、時議有り、
    先日子細を関東に仰せ合わさる。件の返事到来し、一昨日入道殿これを進せらる。
    大納言入道(頼経)の御返事なり(御名行賀、改名か)。去る六日の状なり。秘
    事重事は入道殿下伝え仰せらるべし。僧俗官等の事ハ摂政に申すべし。雑務に於
    いては、奉行院司直に院宣を書き下すべきの由なり。奉行と謂うは定嗣の事なり。
    (略)尤も職事弁官奉行の事、関東に仰せらるべき事、猶定嗣書くべし。院宣と。
    職事等関東に仰せらるべき事ヲハ、状を以て申し入るべきの由定嗣に触るべきな
    り。この由奏しをはんぬ。然るべきの由仰せ有り。
  一、三山並びに今熊野検校の事
    故僧正(良尊)前の大僧正(道慶)に譲るべきの由これを申さる。関東に仰せ合
    わさるるの処、道慶の事殊に身上の事を相憑むなり。仍って是非を申し難きの由
    これを申さる。これに就いて仰せに云く、三山の事桜井宮(覺仁親王)これを所
    望す。然れども道慶僧正関東頻りに引級の気有り。随ってまたその仁の為御計有
    るべきか。
 

3月18日 丁未
  讃岐の国御家人籐左衛門の尉海賊を搦め進す事、彼の国守護人三浦能登の前司光村代
  官注し申すの間、六波羅また執り申さる。仍って沙汰有り。神妙の趣殊に御感に及ぶ
  の由仰せ含むべきの旨、六波羅に仰せらると。
 

3月20日 己酉
  臨時の評定有り。市河次郎左衛門の尉強盗・海賊等を搦め進す賞の事、度々高名に及
  びをはんぬ。御感有るの由御教書を賜うべし。且つは御恩の沙汰の時、注文に載せ加
  え申せらるべき旨と。
 

3月21日 庚戌
  武州御病悩の事有り。頗る危急の間、所療・逆修等の儀に及ぶと。
 

3月23日 壬子
  武州の御方に於いて深秘の御沙汰等有りと。その後執権を舎弟大夫将監時頼朝臣に譲
  り奉らる。これ存命その恃み無きの上、両息未だ幼稚の間、始終の牢籠を止めんが為、
・ 上の御計たるべきの由、真実御意より趣くと。左親衛即ち領状を申さると。
 

3月24日 癸丑 天晴
  京都の使者参着す。去る月十三日新帝閑院に遷幸す。御移徙の儀なりと。
 

3月25日 甲寅 雨降る
  左親衛将軍家並びに入道大納言家の両御所に参らる。執権を相続するの由、賀し申せ
  しめ給うに依ってなり。
 

3月26日 乙卯 雨下る
  左親衛執権たるに依って、今日評定を始行せしめ給う。その衆皆列すてえり。
 

3月27日 丙辰 雨降る
  武州素懐の事、内々大殿の御方に申し入れらると。
 

3月30日 己未
  評定。甲斐の国一宮権の祝守村申す、鷹狩りを停止せらるるに依って、人々供税の鳥
  を対捍するの由の事沙汰を経らる。供祭の事は免許せらるの旨、摂津の前司師員朝臣
  に仰せ出さる。