10月1日 壬午 晴
卯の刻将軍家泰綱の家より還御す。今日大慈寺供養なり。当寺の本堂・丈六堂・新阿
弥陀堂・釈迦堂・三重塔・鐘楼堂等悉く修理を加えらる。荘厳の美殆ど古跡に軼ぐ。
曼陀羅供大阿闍梨は三位僧正頼兼・職衆三十口。御願文の草は給料廣範、清書は左大
臣法印厳恵、御諷誦文(相州の御名字を載せらる)の草は廣範、清書は和泉の前司行
方。当日の会場行事参河の前司教隆眞人(布衣・下括り)・刑部権の少輔政茂(束帯)
等、未明に寺門に参りこれを奉行す。庭上の池の南河、釈迦堂向かいより丈六堂向か
いに至るまで、東西行に幔を引き、南門の内に当たり幔門を開く。また西は釈迦堂西
角より池河に至り、東は丈六堂東角より池河に至り、各々南北行に幔を引く。各々幔
の中央に幔門を開く。今日供養の堂塔皆幔中たり。また仏前東の間の池河に当たり、
御誦経幄を立つ。幔門並びに池橋の上より仏前階の際に至るまで筵道を敷く。堂中門
毎に彩幡華鬘を懸け、仏供燈明を備う。仏前西の間は大阿闍梨の座(高麗端)と為す。
東の間より東北に折れ大阿闍梨平讃衆の座と為す。北の間より東に折れ自余職衆の座
と為す。また三井流大阿闍梨たるの時、散花の机を立てず。堂に童子の座を敷かずと。
仍って今日その式を守り、西廊内に御聴聞所(繧ケン縁畳三枚)を儲く。近習の女房
少々兼ねて参候す。然れども御息所未だ御座さざるの間、几帳帷を出さるるに及ばず。
東廊内に執権の御聴聞所を構う。丈六堂の卯酉廊内に御布施取り公卿・殿上人の座(公
卿は高麗、殿上人は紫)を敷く。同じく中間廊に諸大夫の座(紫縁)を設く。巳の刻
将軍家(御束帯、御帯劔)御出で。
供奉人の行列
先陣の随兵(二行)
武田の五郎三郎政綱 小笠原の十郎行長
長井の太郎時秀 下野の七郎経綱
遠江の次郎時通 畠山上野の三郎国氏
武蔵の五郎時忠 備前の三郎長頼
陸奥の七郎業時 新相模の三郎時村
遠江の七郎時基 陸奥の六郎義政
御車
隠岐次郎左衛門の尉時清 善次郎左衛門の尉康有 山内三郎左衛門の尉通廉
肥後六郎左衛門の尉時景 大見肥後四郎兵衛の尉行定 同五郎忠景
小泉左衛門四郎頼行 梶原上野の三郎景氏 筑前の五郎行重
平賀の新三郎惟時 善左衛門次郎盛村 太宰肥後の三郎為成
各々直垂を着し帯劔、御車の左右に列歩す
御調度 武藤次郎左衛門の尉頼泰
御後(布衣) (御劔役)
武蔵の前司朝直 尾張の前司時章 中務権大輔家氏
越後の守實時 刑部少輔教時 下野の前司泰綱
武蔵左近大夫将監時仲 相模式部大夫時廣 秋田城の介泰盛
越後右馬の助時親 民部権大輔時隆 遠江右馬の助清時
丹後の守頼景 出羽の前司長村 和泉の前司行方
太宰権の小貳景頼 上総の介長泰 大隅の前司親員
石見の前司能行 伊賀の前司時家 周防の守忠綱
日向の守祐泰 備後の前司康持 伊豆太郎左衛門の尉實保
式部太郎左衛門の尉光政 武籐三郎左衛門の尉頼胤 鎌田三郎左衛門の尉義長
鎌田次郎兵衛の尉行俊
後陣の随兵
三浦遠江三郎左衛門の尉泰盛 長江の八郎景泰 千葉の介頼胤
城四郎左衛門の尉時盛 上野五郎左衛門の尉重光 阿曽沼の小次郎光綱
三浦遠江十郎左衛門の尉頼連 常陸次郎兵衛の尉行雄 河越の次郎経重
武藤右近将監兼頼 風早の太郎常康 小田左衛門の尉時知
路次の儀、永福寺供養の時、右大将家法華堂の前に於いて、三位中将家御駕を税かれ、
供奉人下馬せしむと雖も、今度はその礼有るべからざるの由、兼日これを定めらる。
次いで寺の南門に到り、御車を税き下り御う。右近大夫佐房御榻を役す。土御門中納
言・花山院宰相中将並びに殿上人等、予め寺門の外に参候す。これ公卿・殿上人騎馬
にて供奉すべきの由沙汰有りと雖も、公卿騎馬にて親王に供奉すること、先規分明な
らざるの間その儀を止めらる。殿上人に於いてはその難有るべからずと雖も、この儀
たらば、公卿乗車し扈従すべし。而るに関東の儀は、御車の外これを聴されざるに依
って、皆威儀の供奉を止めらる。仍って此の如しと(右丞相御拝賀の御例不吉に依っ
て信用せざるか)。次いで先陣の随兵門に入り池の西河に外居す。漸く入御するの後、
後陣の随兵また同東池の南河に列す。次いで池橋並びに筵道を経て本堂西廊東の階等
に及び簾中に入御す。この間黄門参進し、御劔・笏を賜う。供奉の五位・六位御聴聞
所の南庭(床子を用ゆ)に祇候す。次いで公卿・殿上人筵道を経て堂前の座に着す。
これより前、近衛司・侍従等位階を乱し諸大夫の上に在るべきの由これを論ず。而る
に今日は位次に任すべきの由、近衛の将等自称す。これ則ち政茂奉行を為すの間、法
会に於いて違乱を成すべからざるが故か。位次の如きは、佐房(少輔左近大夫)・公
敦(坊城少将)・政茂(刑部少輔、今日奉行)・公連(六條侍従)・雅有(二條侍従)
なり。大夫判官泰清(朱紋)・上野判官廣綱(白襖)寺門を警固す。午の一点大阿闍
梨三位僧正頼兼南門外橋の下に到るの際、手輿(退紅の仕丁六人これを舁く)を遣わ
しこれに移乗せしむ。幔門に到るの際、執綱越中の前司頼業・長門の前司時朝、執蓋
小山太郎左衛門の尉等役に従う。また堂中に在る職衆、悉く筵道に行き向かい、鐘を
打ち鉢を突き頌讃す。
職衆
(寺宰相)法印権大僧都清尊 (寺宮内卿)法印権大僧都房源
(寺大輔)法印権大僧都尊遍 (寺土佐)権少僧都實性
(寺大夫)権少僧都聖尊 (寺卿)権少僧都長尊
(山伊豫)権少僧都性圓 権少僧都兼伊 権少僧都定賢
権少僧都増慶 権律師経厳 権律師長性
(寺治部卿)権律師頼承 (寺)権律師隆禅 権律師慶尊 阿闍梨尊栄
大法師定西 大法師頼圓 大法師静禅 大法師定範
(寺大輔)阿闍梨頼宴 内供奉弁盛 大法師圓海 阿闍梨眞知
阿闍梨頼珍 大法師頼珍 大法師良慶 大法師快舜
大法師性舜 大法師常照 阿闍梨兼朝
大阿闍梨上堂。御誦経・鐘並びに法用訖わるの後、御布施を大阿闍梨に引かる。錦の
被物並びに加布施の御劔(顕方卿両度これを取る)。
大阿闍梨の御布施、
法服一具(革鞋在り)・横被一帖・水精念珠一連(銀の打枝に在り)・上童装束二
具・童装束四具・被物三十重(錦一重・織物九重・綾二十重)・錦の裹物一(綾十
具を納む)・精好絹三十疋・白綾三十疋・色々の綾三十疋・顕文紗三十疋・唐綾三
十段・計帳三十段・縫筋三十段・紫染物三十段・紫村濃三十段・紺村濃三十段・染
付三十段・巻絹三十疋・帖絹三十疋・地白綾三十段・浅黄染綾三十端・染物三十端
・色皮三十枚(已上漆箱に納れ、組を付けこれを結ぶ)・白布三十段・藍摺三十段
・紺布三十段、已上。絲三百両・香三百両・綿三百両・御馬十疋・供米二十石、
御加布施は銀劔一腰(錦の袋に入る)・砂金百両。
御布施取り
土御門中納言顕方卿 花山院宰相中将長雅卿 仁和寺三位顕氏卿
二條三位教定卿 刑部卿宗教卿 一條中将能基朝臣
一條前の少将能清朝臣 中御門中将公寛朝臣 中御門少将實齊朝臣
中御門侍従宗世 坊城少将公敦 六條侍従公連
二條侍従雅有 少輔左近大夫佐房 刑部少輔政茂
駿河新大夫俊定 前の近江の守季實 押立蔵人大夫資能
伊達左衛門蔵人親長 長井判官代泰茂
職衆御布施は、口別に青鳬一万五千疋・八木十果。
御諷誦物は奥布百段。次いで御布施等を撒く。常例は御馬を牽かるるの後これを撒く
べきか。然れども別の仰せに依って此の如しと。次いで御馬を牽かる。幔門を入り堂
前に引き立つ。上童等これを請け取る。
御馬十疋(鞍を置く)
一、鹿毛(前の武州進) 鞍(相州禅室御所進)
引手 肥後次郎左衛門の尉為時 同三郎左衛門の尉
二、河原毛(相州禅室御進) 鞍(足利の三郎進)
引手 隠岐三郎左衛門の尉行景 同四郎行兼
三、鹿毛(武州進) 鞍(城の介進)
引手 一宮善左衛門の尉康長 善五郎左衛門の尉康家
四、鹿毛(奥州禅門進) 鞍(相州進)
引手 周防三郎左衛門の尉忠行 同四郎左衛門の尉忠泰
五、黒駮(相州進) 鞍(奥禅門進)
引手 薩摩七郎左衛門の尉祐能 同十郎祐廣
六、栗毛(城の介進) 鞍(武州進)
引手 大須賀新左衛門の尉朝氏 同四郎
七、栗毛(足利の三郎進) 鞍(筑前入道進)
引手 筑前次郎左衛門の尉行頼 同五郎行重
八、鹿毛(前の尾州進) 鞍(前の武州進)
引手 大曽彌上総左衛門の尉長経 同二郎左衛門の尉義泰
九、黒(筑前入道進) 鞍(長井の太郎進)
引手 土肥次郎兵衛の尉朝平 同四郎實綱
十、栗毛(長井の太郎進) 鞍(前の尾州進)
引手 塩谷周防四郎兵衛の尉泰朝 同五郎親時
還御薄暮に及ぶの間、塔辻の辺より松明を取る。
10月13日 甲午 天晴、夜に入り雷電霹靂終夜に及ぶ
今暁甲斐の太郎時秀・大曽彌上総の前司長泰等使節として上洛す。山門・園城寺両門
確執の事に依ってなり。遠江十郎左衛門の尉頼連内々の御使として進発す。法の如く
鞭を揚ぐ。定めて両人より進むか。
10月15日 丙申 朝雨降る、夕甚雨雷鳴、丑の刻地震
今日雨の隙を以て、御所の南庭に於いて相撲を覧る。相州・武州・前の武州等簀子に
候せらる。見物の輩堵の如し。時の壮観なり。
相撲
一番 左 伊豫の三郎 右 中次
二番 左 伊豫の五郎 右 小野の四郎
三番 左 荒作の三郎 右 平次郎
四番 左 平三郎 右 安藤の三郎
五番 左 萩薗の彌太郎 右 四郎太郎
10月16日 丁酉 晴
月蝕正見す(四分)。御祈りは松殿法印良基。この間築地の修理、方忌の沙汰無し。
何様の次第たるやの由、将軍家直に御身固め当番の陰陽師為親に尋ね仰せらる。而る
に先々然る如き御沙汰無きの旨これを申す。また仰せて云く、先例に依るべからず。
京都に於いてこの沙汰有り。早く注進すべし。丈数二十七丈の内たらば、郭内の御所
と雖も移し御うべしと。仍って為親南面は憚り無し。東方二十七丈の内、西対を移し
御うべきの由これを勘じ申すと。
10月26日 丁未 晴
前の備後の守従五位上三善朝臣康持卒す(年五十二)。