平成11年(し)第155号

決   定

申  立  人    奥  西     勝
 上記の者に対する殺人、同未遂被告事件の確定判決に対する再審請求事件について、平成11年9月10日名古屋高等裁判所がした再審請求棄却決定に対する異議申立て棄却決定に対し、特別抗告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主    文
本件控訴を棄却する。

理    由
本件抗告の趣意は、憲法違反、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違
反、事実誤認の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
 なお、所論は、確定判決の事実認定に供された証拠及び第5次再審請求までに提出された証拠に新証拠である中西實蔵作成のノート(以下「中西ノート」 という。)
を加えれば、申立人に10分間の犯行機会があったとする確定判決の認定には、合理的な疑いが生じるというので、この点について、職権で判断を加える。
 中西實蔵は、本件犯行当時所轄の名張警察署長であった者であるが、同人が当時
作成した中西ノートには、坂峰富子が捜査官に対して、本件犯行当日、同女が申立人の後を追って奥西楢雄方を出てから、石原房子と途中で出会い、共に本件犯行現場の公民館に行ったと述べた旨の記載がある。 他方、 本件犯行発生直後の捜査段階、確定裁判の公判段階及び再審請求審の審理段階における坂峰の供述は、いずれ
も、奥西楢雄方から申立人の後を追って公民館へ行った後、奥西楢雄方に雑巾を取りに戻り、再び奥西楢雄方から公民館に向かった時に、途中で石原と出会って共に公民館に行ったのであり、それゆえ、坂峰が奥西楢雄方に雑巾を取りに戻るため公民館を出てから再び公民館に到着するまでの約10分間、申立人が1人で公民館にいたというものである。これによれば、中西ノートの上記記載は、坂峰の上記供述のうち、同女が奥西楢雄方を出てから途中で石原と出会って共に公民館に行ったのが2回目の公民館行きの時であるという点を弾劾する性質を有するものと認められる。しかしながら、坂峰の上記供述は、本件犯行発生直後の捜査段階から確定裁判の公判段階、再審請求審の審理段階を通じて一貫したものである上、 石原、 新矢了、井岡百合子等の関係者の供述とも符合していて、信用性が高いものと認められる。これに対し、中西ノートの上記記載は、上記関係者の供述と符合しないものである上、その記載形式からしても、中西自身が坂峰から直接聞いたものではなく、捜査の過程で他の捜査官から伝え聞いた情報を記載したもので、その正確性について坂峰本人に対する確認手続も経ていないと推認されるから、坂峰の上記供述と比較して証拠価値が乏しいものといわざるを得ない。また、所論が指摘する中西ノートのその余の記載も、証拠価値が乏しく、坂峰の上記供述を弾劾するに足りるものとはいえない。このように、新証拠である中西ノートを考慮に入れても、坂峰の上記供述の証明力は、何ら減殺されるものではないというべきである。
 以上によれば、坂峰の上記供述に加えて石原等の関係者の供述をもとに、申立人に10分間の犯行機会があったとした確定判決の認定には、合理的な疑いが生じる余地がないというべきであるから、その余の点について論じるまでもなく、中西ノートが刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらないとした原々決定及びこれを是認した原決定の判断は、正当である。
 よって、同法434条、426条1項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
平成14年4月8日
  最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官     町   田       顕
裁判官     井   嶋   一   友
裁判官     藤   井   正   雄
裁判官     深   澤   武   久
裁判官     横   尾   和   子


・決定文
・全国ネットワークの声明
・法務大臣宛 特別抗告棄却に抗議と要請書
・法務大臣宛 刑の執行をしないよう求める要請書
・抗議ハガキを集中しよう!


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