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1992年の感想

199119930105


凶区の爪(竹本健治)
ダック・コール(稲見一良)
ヴァルドマアル氏の病症の真相(E・A・ポオ)
悪夢のバカンス(S・コンラン)
キドリントンから消えた娘(C・デクスター)
ウッドストック行き最終バス(C・デクスター)
異邦の騎士(島田荘司)
闇の中の少女(J・ソール
黒猫館の殺人(綾辻行人)
暗闇へのワルツ(W・アイリッシュ)
夏への扉(R・A・ハインライン)
謎の物語(紀田順一郎)
虚無への供物(中井英夫)

竹本健治『凶区の爪』光文社カッパ・ノベルス 1992

*内容紹介
地方の旧家で、伝説に基づいて起こった連続殺人。

*感想
これが『匣の中の失楽』を書いた人? この本から「竹本健治」を読んだ人はここ止まりでおわっちゃうんじゃないだろうか。次を読もうとは、あんまり思わないかも。『匣の中の失楽』のあの、めくるめくような陶酔感は得られない。

読み易い普通の推理小説と思えばいいと思います。最後になって私たち読者が知らなかった事がわかるっていう私のいちばん嫌いなパターンが使われてたのが残念。動機に関わる人間関係の心理描写については、まあ面白い。ちょっと複雑だから。

92/2/9


稲見一良『ダック・コール』早川書房 1991

収録作品
「望遠」「パッセンジャー」「密猟志願」「ホイッパー・ウィル」「波の枕」「デコイとブンタ」

*内容紹介
6つの短編集。全て鳥の絡んでくる話。

「望遠」、「撮らなければいけないもの」と「自分の撮りたいもの」若者はどちらを選んだか
「パッセンジャー」、森の中で経験した信じがたい出来事
「密猟志願」、鳥の狩猟をはじめたばかりの中年男が、東京近郊の山中で密漁の天才少年と出会う。パチンコで見事にハトを射止める少年と狩猟に新たな生きがいを見い出していく男が企てる一大犯罪計画をさわやかに描きあげる。(帯より引用)
「ホイッパー・ウィル」、(どうも、話が合わなかったのでパスした。)
「波の枕」、船の火事で海に投げ出された青年。漂流中の動物たちとの交流
「デコイとブンタ」、少年(実は秘密あり)とデコイとの交流をデコイの視点から描く

*感想
これはミステリじゃないでしょうね。キーワードは、自然、出逢い、別れ、夢、かな。文章はちょっととっつきにくいけど、著者の、鳥や自然への愛情が痛いほど伝わってくる。 「プロローグ」 「モノローグ」 「エピローグ」 も良い。作品中、作者自身がちらちら見え隠れする。

特に第三話がいい。これを読めただけでも、もうけものだと思った。解説にある「余りにも年の離れた二人が互いを一個の男と認めて」いるのは、男の人だから絵になるのかな。ちょっと「ニュー・シネマ・パラダイス」のトトとアルフレードみたい。この第三話の最後のセリフにじわ〜、ぽろっです。

92/2/16


エドガー・アラン・ポオ 小泉一郎訳「ヴァルドマアル氏の病歴の真相」『ポオ小説全集4』創元推理文庫 1974
Edgar Allan Poe, THE FACTS IN THE CASE OF MR VALDEMAR, 1945

*内容紹介
臨終の人に催眠術を施したらどうなるでしょうか、という実験。催眠術はかかるでしょうか。問いに対して答え
(反応)は、あるでしょうか。7ヶ月間睡眠状態は続けておきました。さて、最後はどういう結末でしょう?

*感想
これが読みたくて『ポオ小説全集4』を買ってしまったのです。たいして怖くはないです。でも、夜、一人で読みましょう。

92/2/1


シャーリー・コンラン 山本やよい訳『悪夢のバカンス』上・下 新潮文庫 1991
Shirley Conran, SAVAGES , 1987

*内容紹介(上巻裏表紙より)
アラフラ海に浮かぶリゾート・アイランド、パウイ。アメリカの鉱山会社ネクサスの最高幹部は、毎年恒例のバカンスに、夫人同伴でこの地を訪れた。が、政情不安なこの島にクーデターが発生、重役たちは射殺され、それを目撃した妻たち5人は、未開のジャングルに逃げ込んだ---。上流階級の女たちは、未開のジャングルで生き残ることができるか? 迫真の大型サバイバル・ストーリー。

*感想
う〜ん、これはほんとにすごい! 上下だったのでもっとかかるかと思ったのに、するっと読めてしまった。だってやっぱりやめられないんだな。これが。私の苦手な場面もあるにはあったけど、そんなのは、全然気にならないくらい面白かった。この本を離れて現実に戻ると、「私ってなーんてのほほんと幸せなんだろう、神様、ありがとう」と言いたくなってしまった。私も、いざとなったら殺せるんだろうか。血が怖いなんて言ってられないっていうのは、本を読んでよくわかったけどね。とにかく、大きな花丸をあげてしまおう!

92/2/2


コリン・デクスター 大庭忠男訳『キドリントンから消えた娘』ハヤカワ文庫HM 1989
Colin Dexter, LAST SEEN WEARING , 1976

*感想
物語は「3年前行方不明になった当時17歳の少女の消息は?」というものです。愉快なのは、出てくる証拠や事実の量と比較して、モース警部の推理があまりにも先へ先へといってしまうこと。私としては「おいおい、ちょっと待ってってば。そこまで言うのか?」ってな感じです

でも、考えてみれば、私たちが推理小説を読む時ってモース警部に似てるのかもしれないですね。ある事実から、いろいろ想像して推理を立ててみる。その試行錯誤の状況を、モース警部はそのまま本の中でやってくれるわけです。

モース警部と一緒にめまぐるしい論理の渦に巻き込まれるのも面白いです。探せばいそうな身近な感じで、女の人に対してもフツーにどきどき(わくわく?)してしまうモースおじさん。なかなか憎めない人です。

真相がいつわかるのかについては本当に最後の最後までわかりません。

92/3/1


コリン・デクスター 大庭忠男訳『ウッドストック行き最終バス』ハヤカワ文庫HM 1988
Colin Dexter, LAST BUS TO WOODSTOCK , 1975

*内容紹介
コリン・デクスターの1作目。ウッドストック行きのバスを待つ娘2人がなかなかバスが来ないのでヒッチハイクをする事にした。ところが翌朝、娘のうち1人が死体となって発見され、もう1人は名乗りでない。どうして名乗りでないのか? 犯人は? 動機は?

*感想
2作目の『キドリントンから消えた娘』より好きですね。『キドリントン〜』は、もっと論理の展開がめまぐるしいけど、こちらのがそう言った点では馴染み易い。そんなにひねりがあるとか、そういった内容ではないけど、いい意味で「現代的な本格推理」という感じがする。日本の綾辻行人などの「新本格」の設定が「いかにも」の大時代的な設定をしているのに対して対象的だと思う(そういったのはもちろん好きですが)。

『キドリントン〜』でもそうだったけど、最初の「プレリュード」(となっている)においてちょっとした伏線が張られる。読者に予感を植え付けるというか、感じさせるというか。「この名無しの人物は一体誰なんだろう?」というところに読者を持っていき、その人物について考えるのがメイン・テーマとなる。

モース警部、こちらの『ウッドストック〜』での方がなぜだか魅力的。どうしてなのかな。ちょこっと(と言えるかどうか)絡んでくる恋愛状態のモース警部はなかなか愛すべき存在です。この恋愛の要素が 『ウッドストック〜』における重要な味付けとなっていると思う。ちょっぴり切ないこの幕切れには、「恋愛物」が結構好きな私は高得点を上げてしまう。この幕切れから始まる物語っていうのも、どこかにありそうな、なさそうな。

92/3/2


島田荘司『異邦の騎士』講談社文庫 1991(1988)

*感想
一言「これを読まずして御手洗ものは語れないっ」 ま、私なんて語っちゃってましたけど。今までこれを読まずにとっといたのは馬鹿だったなあと。御手洗と石岡の出逢い(プラスα)、という点で特別の位置づけをしなきゃあならないとは思う。

これは、デビュー作となった『占星術殺人事件』よりも前に書かれたもの。私は、現在出ている島田荘司の御手洗ものの中でこれを最後に読む事になってしまいました。どうなんだろう、御手洗ものとしてこれを最初に読むのと『占星術〜』『斜め屋敷〜』などから読むのじゃあう〜む(意味あって唸る)。これってトリック的にものすごいって訳じゃないけど、泣かせるんですよね。う〜ん、これを読んだ後で、石岡が登場して御手洗のことを語る描写を読み返したら、うるうるしちゃいそうだ。

92/3/29


ジョン・ソール 公手成幸訳 『闇の中の少女』扶桑社ミステリー 1991
John Saul, SECOND CHILD , 1990

*内容紹介
実の母親と義父の元で暮らしていたテリィは、火事により身寄りをなくす。が、実の父親に引き取られ、実の父親、義母、異母妹のメリッサと共に生活する事になる。
メリッサの母親は、実の娘メリッサが自分の望むような子でないので、彼女を虐待している。メリッサは、そんなとき心の中に住む「ダーシィ」という架空の少女に助けを求めている。
テリィは、外見とは裏腹に恐ろしい心を持った少女だった。父親の愛情が自分よりもメリッサにある事を妬み、テリィを陥れようと策略を練る。その為に「ダーシィ」の存在や母親がメリッサを嫌っている事を利用したのだった。

                   ポリィ===== チャールズ=====フィリス
            (前妻)   |          |
                 テリィ       メリッサ

*感想
父親の優しいのが救いにはなってたけど、どうしてまあ実の娘をこんなにも愛せないものなのだろうと思った。可愛くない実の娘の代わりに、やって来たテリィを、それはそれはいたく気に入って可愛がるのだ。前妻の娘だというのに、ここまで可愛がれるものなのかと不思議だった。

テリィというのも相当な「ワル」で、悪知恵の働く事ったら。しっかし、あそこまでやると、もはや「悪知恵」なんて言葉では表現してはいけませんね。外見に惑わされちゃいけないって事かな。でも、可愛い子の言う事って信じやすいんだろうなあ。

救いのある(?)結末でほっとした。読み始めたらやめられませんよ。一言。罪の意識は誰にでもあるものなのね。それが結局キーになるのかな?

92/4/9


綾辻行人『黒猫館の殺人』講談社ノベルス 1992

*内容紹介
「館シリーズ」6作目。記憶喪失の老人が、推理作家のもとへ自分の書いたと思われる手記を見せる。それには、約1年前の、ある殺人事件の記録が書かれていたのだった。果たしてそれは、事実だったのか、それとも創作なのか?

*感想
すらすら読めるけど、読んだそばからもう、忘れていきそうな内容です。薄っぺら。 「長年温存してきたアイデア」だったということですが、凝っているのはわかるけど、外れてるんじゃないかな。トリックがうんぬんと細かく分析する程の魅力は持てなかった。

92/4/16


ウィリアム・アイリッシュ 高橋豊訳『暗闇へのワルツ』ハヤカワ文庫HM 1976
William Irish, WALTS INTO DARKNESS, 1947

*内容紹介
文通相手の女性と結婚する事になったルイス。到着の日、迎えに行った彼の前に現れたのは、送ってもらった写真とは全く違う人物だった。しかし彼女の美しさと言葉を信用し、疑問を差し挟む余地もなく彼らは結婚する。だが、彼女は本当に文通相手の彼女なのか? 生活していく課程で露呈してゆく本性はいったい?

*感想
中身がギッシリです。「悪女」の魅力がたっぷり。惹かれていく過程も、泥沼に陥っていく過程も見ていて「いたしかたないのかも」って思える。自分の愛した女が悪い女とわかっていても、どうしようもなく惹かれてしまうルイス。彼女によって彼の運命が文字通り狂っていくのを私たちは読み進めて行くだけ。

全編なだらかに下降してゆく坂のように思っていたら、実はもう既に戻れない所へ来てしまっていた、あるいは大きな穴の中に入り込んでいた。ルイスの状況ってそんなです。でも、彼女を愛しているが故に彼女を信じてしまい、また一歩戻れない道へ足を進めてしまう彼。

アイリッシュなら、『幻の女』より私はこれを推しますね。これ、もっと読まれていいはず。「推理」ものではないのですが、ホントに久々にいい「恋愛もの」を読んだ気がします。

92/4/25


ロバート・A・ハインライン 福島正実訳『夏への扉』ハヤカワ文庫SF 1979
Robert A. Heinlein, THE DOOR INTO SUMMER, 1957

*内容紹介
婚約者と親友に裏切られた主人公。「冷凍睡眠」により30年後の未来へ到着。自分の発明したものが進化した形で存在しており、かつての婚約者(裏切り者)は醜い姿で目の前に現れる。唯一気がかりだった少女の行方もわからない。30年後の世界の中で腑に落ちない部分を解明する為に、主人公はタイム・マシンに乗って過去へ遡る。

*感想
SFは基本的にダメな私ですが、これなら大丈夫。こういうとけこみ易い内容ならばどんどん読めますね。これが書かれたのは1957年。1957年にとって2000年は遠い未来で、この本のような世界が展開されているのではと思ったのでしょうが、今現在の1992年から考えると、2000年になってもここに描かれている世界は実現しないでしょう。

ハインラインの作品はこれが初めて。最後のほうを読むと彼は「未来志向」なんだな、と感じる。フィニィが「過去」をノスタルジックに描くのに比べて対照的だな、と思いました。とは言え、ハインラインの他の本を読んでいないので他の本ではどうかわからないけど。

ちょこちょこと細かい伏線が張り巡らされていて、楽しめます。「時間のパラドックス」について考えるよりも、内容を楽しむほうに心が引きつけられる本ですね。「逢えるのかな、逢えないのかな」って。ねこ好きの人にも合っているみたい。「世のなべての猫好きにこの本を捧げる」となっているくらいだし。ねこに興味を持っていない人もねこが好きになりそうです。

92/8/15


紀田順一郎編『謎の物語』筑摩書房(ちくまプリマーブックス51) 1991

収録作品
F・R・ストックトン「女か虎か」、C・モフェット「謎のカード」、B・ペロウン「穴のあいた記憶」、D・ブッツァーティ「なにかが起こった」、小泉八雲「茶わんの中」、N・ホーソーン「ヒギンボタム氏の災難」、木々高太郎「新月」、上田秋成「青頭巾」、W・デ・ラ・メア「なぞ」、稲垣足穂「チョコレット」、H・ジェイコブズ「おもちゃ」

*内容紹介/感想
いろいろな「謎」を含んだ物語ばかりを十一ほど編集めたものです。(「はじめに」より)

「新月」、心理的ミステリだそうですが、発表当時いろいろな論議があったと書かれているとおり、確かに深くてわかりにくい作品に思います。でも、その分魅力的。作者はその後「月蝕」という解決編も書いたそうです。

「謎のカード」、ある人がパリに旅行中、カフェで女の人に一枚のカードを渡される。しかし彼はフランス語が読めない為、ホテルのフロントでそれを見せ、読んでもらおうとした。これが不幸のはじまり。支配人はカードを見るなり「ホテルをおひきとりいただきましょう」。その後、どの人に見せても災難にあうばかり(災難というには、あまりにもむごい運命)。彼はいったいどうなるのか?カードには何が書いてあったのか?

「なにかが起こった」、道ゆく人が、いっせいに一つの方向を眺めていて、それが何であるか、何が起こっているのか、あなただけが知らない。たまに経験することでしょうが、これはそのもっともおそろしい状況なのです。(p.75)

「穴のあいた記憶」、作家が、すばらしい密室アイデアを思いついた夜、車にはねられそのショックでアイデアを忘れてしまった。その時一緒にいた男の人を捜し求めるが、名乗りでない。アイデアを盗むつもりなのだろうか? ある夜ひとり密室で新聞を読んでいた作家は、ある記事を読んだその瞬間真実を知る。この話はすごく怖かったです。夜、静かな部屋で一人で読むと最高。

11編のうち全部が全部面白いというわけではありませんが、ここに挙げたものはどれもおすすめです。なかなか深いですよん。

92/8/24


中井英夫『虚無への供物』講談社文庫 1974(1964)

*感想
この本が「『推理小説』ではない」と言われるわけがよくわかった。以前「哲学的な終わり」と聞いたことがあったのですが、その通りでした。好き嫌いがわかれるかもしれませんが、私は気に入りました。

全体が「推理小説への揶揄」っぽくなっている。犯人が割れるころあたりの、だだだだーっとたたみかけるように進んでいくところが好きです。「悲劇的終焉」へ向かってなだれ込んでいくようです。

『匣の中の失楽』の時にも感じたけど、これなんだよな、という感じです。推理小説読んでいて物足りなかったものが書かれている。推理って論理的に解明されるもの、って固定観念があるけど、実際は「小説のように」すっきりとうまく説明できるものじゃないですよね。偶然が重なって運命のようになっていって絡まって解けなくなってゆく。そういう部分を忘れてはいませんか? と思い出させてくれます。

92/11/19


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