back to top page/back to ホンの感想
チューリップの誕生日(楡井亜木子)
睡眠口座(C・ウールリッチ)
バックステージ・パス(楡井亜木子)
風の裏側(M・パヴィチ)
月の影 影の海(小野不由美)
東京に暮す(K・サンソム)
風の海 迷宮の岸(小野不由美)
風の万里 黎明の空(小野不由美)
東の海神 西の蒼海(小野不由美)
図南の翼(小野不由美)
贖いの日(F・ケラーマン)
絵本を抱えて部屋のすみへ(江國香織)
いじめの時間(江國香織ほか)
八月の舟(樋口有介)
4U(山田詠美)
フェアリーボーイ(堀田あけみ)
青銅の基督(長与善郎)
聖女伝説(多和田葉子)
落穂拾い、聖アンデルセン(小山清)
内面のノンフィクション(山田詠美)
パラオ・レノン(小檜山博)
タイム・リープ(高畑京一郎)
その時がきた(山本夏彦)
アラブの電話(村上政彦)
棺の中の悦楽(山田風太郎)
クリス・クロス(高畑京一郎)
彼女が死んだ夜(西澤保彦)
われはロボット(I・アシモフ)
厨子家の悪霊(山田風太郎)
不夜城(馳星周)
湿原(加賀乙彦)
ポプラの秋(湯本香樹実)
スケーターワルツ(加賀乙彦)
シブミ(トレヴェニアン)
猫の舌に釘をうて(都筑道夫)
ほんとに、このままするっと『夜が闇のうちに』に入っていってしまうんですね。久々にキリリとした「青春」を読んだなぁという気分。クリアじゃないんだけど好みだなあ。
コーネル・ウールリッチ
妹尾韶夫訳『睡眠口座』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#296 1956
Cornel Woolrich, DORMANT ACCOUNT AND OTHER STORIES
収録作品
「ハミング・バード帰る」 HUMMING BIRD COMES HOME
「睡眠口座」 DORMANT ACCOUNT
「マネキンさん今晩は」 MEET ME BY THE MANNEQUIN
「小切手と花と弾丸と」 DEAD SHOT
「耳飾り」 THE EARING
備考: "甘い、ものがなしい雰囲気と、それを生かす技巧が冴えているものを" 選んだという短編集。
*内容紹介/感想
ウールリッチの短編集には、家族との愛 (大げさかな) を絡めたものがわりとあるんですね。それから対極にある人たちが協力しちゃうやつや、「目が見えない」というのもわりと好きなテーマなんでしょうか。
「ハミング・バード帰る」は、凶悪犯として家に逃げてきた息子と目の見えない母親の話。息子にこれ以上犯罪を犯して欲しくない母親ですが、息子は仲間も連れてきてますし、自分は目が見えない。さて。最後はどんでん返し。目が見えなくて良かったね(?)
「睡眠口座」、15年も取りにこられないまま、眠っている口座を取りにきて下さいとの新聞広告を、公園暮らしの男がたまたま見つけ。だめもとで名乗りをあげるがうまいこといってしまい、大金が転がり込んでしまう。だが、本人が生きている可能性は否めない。そして、命を狙われはじめ。読後感の良い "協力もの" 。情けは人のためならず。
「マネキンさん今晩は」、家出したっきりの姉を、いきなり尋ねて驚かそうとした妹。しかし、姉の働いていた場所は、悪の巣窟だった。見てはいけないものを見てしまった彼女の命が危ない。姉は妹のため奮闘。姉妹愛って感じの話ですね。最後にほほえましい「オマケ」付きなのがいい。こういう「オマケ」も多い気がするな。
「小切手と花と弾丸と」、小悪人が罠によって極悪人に仕立てあげられそうになるのを、刑事が協力して真実をさぐっていくもの。本筋よりも、最後のオチが効いてるなあ。
「耳飾り」、これは感想を言うとネタバレになりそうだから言いませんが、ヒロインには「お疲れさまでした&良かったね」と言ってあげたいですね。(中ごろからもしや、とは思うのですが)読み終わって「おお」と声をもらしてしまった。非常に好きな話。
同じバンドに属する、6人のメンバーの恋物語の連作。わがままな女の子とつき合ってばかりいる、アリスという男の人の言葉。「とんでもない我侭を言われるたびに、思うんだ。きっと、すごく淋しいんだって。どうしようもなくなってて、俺に当たりでもしないと収まらないんだって」、くー。あと好みなのは、「零時間」という話かな。けど、楡井さんの書くものって、「いきなり終わる」印象のものが多くて、「えっ、そ、それで? それから?その後は?」って、つい聞きたくなっちゃう。その後がないのがつらいところで、消化不良気味。その宙ぶらりん感が心地よかったりもするのですが。
ミロラド・パヴィチ
青木純子訳『風の裏側 ヘーローとレアンドロスの物語』東京創元社 1995
Milorad Pavic', UNUTRAS~NJA STRANA VETRA, 1991
*感想
内容はともかく、この本の装丁が変わっています。真ん中から半分に分かれて一方の表紙から読み始めると中の水色の紙で一つの話は終わり。で、次にはひっくり返してもう片方側からまた読み始めるようになってます。だから、真ん中まで読むとそのあとは、字が逆さま、ちょうど本をひっくり返した感じになってます。このつくりって、めんどくさくなかったんだろうか? 見事に、入口と出口の区別のない本に仕上がってます。内容は、ギリシャ神話の「ヘーローとレアンドロス」という悲恋話を下敷きに、現代の科学専攻の女子大生ヘーローと、17世紀の青年石工レアンドロスの話に仕立てているのだけど、ホント、内容紹介にもあるように「詩的謎の謎の数々」だらけで、私は、ぼーっとしながら読み終えてしまいました。なんかこう暗示的なものにまみれてしまっていて、頭の中はハテナ状態でした。著者には他に『ハザール事典』という事典形式をとった物語がありますけど、これも難しそうです。それには男性版と女性版があって、違いはというと、中の数行だけ。そこだけ色が違っています。私は女性版の方を持っていますが、未読です。
*感想
とりあえず、「お試し」と思って、『月の影 影の海』上下のみ買ってきましたが、上巻が終わりそうになるところで、続きを買える分だけ買ってきました。陽子もまあ、大変でしたね。いきなりさらわれたと思ったら、自分で自分の身を守らなきゃいけなくなって。怪物を切るなんて、夢の中でもゴメンなのに、かわいそうに。目の前でホラーが繰り広げられているようなものだもんねえ。と、血の苦手な私は、そんなとこがひたすらかわいそうに思ったのですが、しばらくすると慣れたようなんで、半信半疑。生きる為には慣れていくもの?
と、枝葉はともかく、人に何回か裏切られたら次もまた裏切られるって思うよねえ、確かに。でも、下巻で肉体的にも精神的にも救われて良かった。「信じるから裏切られるのだから、最初から信じることをしない」(どこかに書いてあったかな)っていうのは、強いことなのか、弱いことなのか。裏切られてもその度強くなって、いつか、って思うことのほうが前向き、かな?
キャサリン・サンソム『東京に暮す
−1928−1936−』岩波文庫 1994
Katharine Sansom, LIVING IN TOKYO, 1937
*内容紹介(表紙折り返しより)
イギリスの外交官である夫ジョージ・サンソムの赴任に伴って来日したキャサリン・サンソム(1883-1981)
が、昭和初期の東京の街と人々の暮しを軽妙な筆致で描いた日本印象記。庶民の姿が暖かいまなざしで描かれ、ほのぼのとした人間観察記になっている。
*感想
これはねー、良かったですよ。今現在の私の目にうつる日本、この本を読んだことでわかった70年前の日本、そして当時のイギリス女性がどのように日本を見ていたか、3つの視点で楽しめた気がします。今と変わってないところ、変わってしまったところ、それぞれに感慨深いものがありますがかつての日本がこの通りなのだとしたら、情緒あふれる素敵な国ですね。日本を見る目がとても暖かいので、嬉しい。加えて、お辞儀の分析はじめ、観察の鋭さにも驚かされます。
特に「樹木と庭師」の章はすばらしい。「庭や木の所有者はわたしたちではなく、庭師なのだ」というのを展開させた、「日本の庭師バンザイ論」です。庭師って素晴らしいっ、と思ってしまう。そういえば、電通(?)から庭師に転職した人がいましたっけ? ともあれ、この「樹木と庭師」の章だけでも読んでいただけると、嬉しいなあ。個人的な好みですけどね。
小野不由美『風の海 迷宮の岸』上・下 講談社X文庫 1993
*感想
泰麒のかわいいこと、かわいいこと。『月の影 影の海』よりも楽しんで読みました。話がとてもシンプルで、いいですね。麒麟としての悩みが、ひしひし伝わってきて、「がんばれー」と応援してしまう。
性格の全く違う景麒とのやりとりも、面白かった。目に浮かぶようで。もっと優しくしてあげてよー、と景麒に文句を言いたくなったり。
指令を初めて持てた時には、「おお、やったー」と嬉しかったし。「天命」がどういうものなのか、こちら側にも明確にわかっていないため、彼の王選びが間違っていないのか、最後の最後までドキドキさせられました。
小野不由美『風の万里 黎明の空』上・下 講談社X文庫 1994
*感想
内容がとても濃かったです。それぞれの苦しみや悩みを持つ、女の子3人の成長物語ですね。つき合いが長い分、陽子に比重を置いてしまうんですが、王であること、というのは、大変なことですね。それも、少し前は日本の女子高生だったんですから。メインの女の子3人が同世代で、16、17ですから、それくらいの年代の子が読んだら、私以上にハマりそうです。
それから、ちらっと登場の、恭国の珠晶、小気味良くて気に入りました。個人的には景麒はちとクールすぎるんで、陽子がかわいそー、と思ってしまってます。
最後あたりは、水戸黄門ばりの勧善懲悪で、私はとーってもスッキリしました。いやー、慶国のその後が早く読みたいよー。
*感想
雁の尚隆と六太のコンビには、あまり入り込めませんでした。魅力があまりわからなかった、というのかなあ。加えて、更夜という男の子を不憫だと思うこともできず、誰にも感情移入できなかったんでしょうね。
斡由が民を思う気持ちと、尚隆の民を思う気持ちの差が、読みどころだったかな。んー、つまらないわけじゃないんですが、あまりスカッとしない読後感でした。
*感想
あーあ、読み終わっちゃった。『風の万里 黎明の空』で、ちらりと出てきた珠晶の物語です。その時には、その小気味良いところがいいな、と思ったんですけど、今回ずっとつき合ってみると、こりゃ一筋縄ではいかない子だなという感じでした。彼女の言ってることもわかるんだけど、最初の頃は頑丘の言っていることのほうが、わかる気がしました。でも、だんだん、お互いがお互いを理解していくのと同時に、彼女が成長してゆく過程は良かったです。この子が死んだら物語はおしまいだから、なんて思ってはいたものの、やはり、ハラハラドキドキしちゃいましたね。
ところで、『月の影 影の海』の最後の方によれば、泰麒、泰王の行方が知れない、となってるけど、どうなってるんだろう?
十二国記は、それぞれが少しずつ重なり合って、少しずつ謎が含まれてて、そうやって気を持たせるところがにくいなー。ほんと、続きが早く読みたいです。気になるのは、やっぱり、陽子のいる慶国かなあ。
フェイ・ケラーマン 高橋恭美子訳『贖いの日』創元推理文庫
1997
Faye Kellerman, DAY OF ATONEMENT, 1991
*内容紹介(とびらより)
リナとの新婚旅行で西海岸を離れ、デッカー刑事はニューヨークの一廓を訪れた。正統派ユダヤ教徒が住まうその地域を選んだのはリナの亡父(注:これは、亡夫の間違いですな)の家族と新年祭を過ごすためだったが、現れた年配の女性客の姿を見て息をのむ。十五の年に自分を産み落とし、養子にだして以来音沙汰のなかった、実の母親であったからだ。−−そして前触れもなく、彼女の孫息子が消えた。不安にむしばまれていく家族を前にして、デッカーは異郷で困難承知の調査に取り組む。生きとし生けるものの痛みと矛盾、優しさを一身に引き受けた生身の男の苦闘に、心が揺れる第四弾。
*感想
あーあ、待ちに待ったのに、読み終わってしまいました。登場人物紹介のところで”リナ・ミリアム・デッカー”というのを見ると、ちょっと感慨深いものがありますね。
結婚してからの2人も、あまり変わりはないんですが、お互いがお互いを心配のあまり、リナは助けようとするし、デッカーはそれではリナが危険にさらされるからといって、リナが関わるのを好まない。「心配だから」で、縛りあっちゃってる。でも、そこはそれ、仲の良い二人のことですから、「ごちそうさま」って感じです。
デッカーは実の母親に会ってしまい、しかも、彼女には子供たちがいたわけで、血のつながった兄弟とも会ってしまうわけです。でも、それは二人とリナの間だけの秘密。そんな精神的葛藤の中で事件が起きて、事件自体にもショックを受けて、おまけにリナがしゃしゃりでてくる。デッカー、精神的にも肉体的にもお疲れさまでした。
失踪したデッカーの甥にあたる男の子の心理が、息詰まるようでした。また、宗教を持つことって強いな、とも思いましたね。事件後の彼が心配ではありますが。
ちと気になるところもあったのですが、保留にしときます。最後は、じんとして涙腺緩んでしまいました。
いろいろな絵本のブックガイド兼エッセイです。欲しくなっちゃいますねー。もし私に子供ができたら、自分の読みたいやつを、子供にかこつけて買いそう。でも、こう思ってると、子供は本が好きじゃなかったりするのかも。絵本ってゆたかですね。子供に戻って読みたいなあ。
*内容紹介/感想
江國香織、大岡玲、角田光代、野中柊、湯本香樹実、柳美里、稲葉真弓による、「いじめ」をテーマにした短編集。いじめる側、いじめられる側、両方にまたがる人、傍観者、いろいろな視点で物語が編まれています。「いじめられるだけに終わらない」と、反逆しはじめたところで終わるものもあり、うわー、この先はどうなったのーと気になったり、結末だけを見ると衝撃的なものもあったり。心の暗い部分をのぞいた気持ちですが、わりあいあっさり仕上げてあるものが多く、それが逆に、こわいな、と思わせているのかもしれません。
江國香織が入っていたので買ったのですが、彼女のものはシンプルめですね。ちなみに、湯本香樹実の書いたものが「衝撃的な結末」。この人の書いた、『夏の庭』というのは、いいですよ。
高校生である、ぼく(研一)のある夏の日々が描かれています。ミステリではありません。じりじりとした夏の淡々とした毎日。登場人物のそれぞれは、お互い距離的に近くにいながらも、少し離れて自分を見つめているみたい。最後あたりで、どうして 「八月の舟」 なのか、理解できたときには、ああ、いい題名だなあと思いました。唯一の失敗は、涼しい環境でこれを読んでしまったこと。これは、外に出て、8月のカンカン照りつける太陽を感じながら、日陰のベンチに座って読む本です。夏を感じて読む本です。
収録作品
「眠りの材料」「ファミリー・アフェア」「血止め草式」「男に向かない職業」「天国の右の手」「高貴な腐蝕」「紅指し指」「メサイアのレシピ」
*感想
うーん、どうしてかなあー、すごく楽しみにして読んだのに、なにも残っていないのです。『アニマル・ロジック』の衝撃からまだ抜けられていないのかも。言い過ぎかもしれないけど、習作のような感じさえ受けてしまった。文章が輝いていない、魅力がない、ともかく「らしくない」作品集というのが印象です。こういうサラリとした感じのほうが好きな人もいるのかもしれませんが。
堀田あけみ『フェアリーボーイ』河出文庫 1992(1989)
血のつながらない弟に恋した少女の約10年の心の軌跡。少女(まさ子)側から気持ちが描かれているので、弟である冬星の気持ちがこちらにもわからず、やきもきしてしまった。受けとめてくれる男の人の出現が、あったほうがよかったのか、ないほうが良かったのか。でも、終盤は思っったよりあっけなかったー。
備考:1993-94頃の、新潮文庫からの復刊で久々にお目見えしたもの。
*内容紹介(裏表紙より)
徳川四代将軍の頃、切支丹ではないが故に切支丹の恋人との結婚を許されない若い鋳物師、萩原裕左--鬱屈した心情を託し、彼女をモデルに聖像を造るが、それがあまりににも神々しかったため、信者と見做され処刑される。その聖像は恋人の踏み絵にも使われ。(裏表紙より)
*感想
という、かなり不条理な話。煮えきらないのは、主人公である裕左。「出来が良かったら踏めないだろう」と、恋人モニカを転ばせたい気持ちもあって踏み絵になると知りつつ聖像を造るんだけど、モニカの踏み絵に示した態度は。一番印象的だったのは、あらすじの中には出てこない、君香という裕左を愛する女性。彼女も裕左を逃がそうとしたことで踏み絵にかけられてしまうんだけど、その時のセリフが、それこそ神々しい。ふー、芸術は時に罪なんだねえ。
あらすじ説明不可能。あえて言うなら「聖人を生む運命に従いたくなくて、自分が聖女になりたい女の子の話」かなー。が、全然甘い話じゃない。一段落の終わりで突然文章が「跳ねる」。普通の頭だったら、そういう論理の展開はしないだろう、というあやしい跳ね方で、どんどん話があっちの方に行ってしまう。最初はついてゆけたんだけど、だんだん回転が早くなっちゃってねー。遊園地でこういう乗り物あったな、という感じ。聖女になりたい女の子の頭の中は、きっとこんななんだ、と思うしかなかった。
備考:1993-94頃の、新潮文庫からの復刊で久々にお目見えしたもの。
*感想
こちらも「復刊」。昭和30年に発行後、平成6年に2刷。売れなかったんでしょうかねぇ。なんでぇ? 表紙裏に’古本屋の少女との交流を何気ない筆致で描いて、瀟洒な味わいを残す「落穂拾ひ」。(以下略)’とあるように、日々の淡々とした物語が7つ。なにげなさすぎるくらい、なにげなくて、淡泊すぎるのだろうか。でも、不思議とせつなくなる読後感。こういうの、好みなんだけどなあ。
山田詠美『内面のノンフィクション』福武文庫 1994(1992)
野坂昭如、小島信夫、大島渚、井上ひさし、島田雅彦、谷川俊太郎、佐伯一麦、吉田ルイ子、瀬戸内寂聴との対談集。彼女を含めて、それぞれの人の「原点」を見られる気がして、なかなか興味深かった。「解説にかえて」、9人の山田詠美への一言を載せていて、これも個性が出ていて楽しい。
北海道で農業をしていた40近くの男の人が、東京へ出てきてアメリカ人に化けて次々に女の人をだましていく話。化け方は念入りで、外見的には大丈夫そうなんだけど、そんな怪しい英語じゃバレちゃうよお〜と、こっちはハラハラしてしまう。調子に乗って、タクシー運転手に英語で話しかけたら、ペラペラと返答されたりしてる。結末に予想がつきつつも、一気に読まされてしまった。終わり方うまい。
高畑京一郎『タイム・リープ −あしたはきのう−』メデイアワークス 1995
*内容紹介(表紙折り返しより)
鹿島翔香。高校2年の平凡な少女。ある日、彼女は昨日の記憶を喪失していることに気付く。そして、彼女の日記には、自分の筆跡で書かれた見覚えのない文章があった。”あなたは今、混乱している。若松君に相談なさい”
*感想
めちゃくちゃ面白かったです。読みだしたら一気に最後まで行ってしまいました。時間の扱い方もすごいなーと感心しましたが、翔香と和彦のやりとりが、やはり良いですね。彼の、一見クールで、いけずな態度が、なお良いのかも。読んでいて、のどがグルグルするような気恥ずかしさがあるけど、「青春」って感じでいいよなぁ。ハタから見てると、かぁぁぁ(赤面)。
「なかなか辛口で良いから読みなさいよ」と、無理矢理渡された。私、エッセイってあまり好きじゃないんだけど。随分著作が出ている人だってことも知らなかった。確かに辛口〜。おまけに難しい言葉が出てくるもんだから、辞書ひいて読んだりして。そんな私の姿を見られた日にゃあ、「まったく今の若いもんはこんな言葉も知らんのか」って言うんだろうなぁ、この人は。などと思いつつ。
収録作品
「アラブの電話」「パラダイス」
「アラブの電話」、自分の知らないところで広まり、時に真実と異なり、しかしきわどいほど広まる「噂」とは何なのか。「噂」を操作する、’遊牧民’の話。 「パラダイス」、 「Jの会」という新興宗教の若き教祖と女の子の話。せっぱつまって刹那的。彼が追いつめられているから。2つとも、なんだか不思議な味わいの内容。
山田風太郎『棺の中の悦楽』講談社文庫(大衆文学館) 1996(1962)
*内容紹介(本書 縄田一男氏による 作品解題より)
主人公脇坂篤が、かつて思いを寄せていた女性稲葉匠子の結婚に世をはかなむところからはじまる。脇坂は彼女のために殺人まで犯したことがあり、それをネタにある官吏から、自分が出所するまで横領した公金千五百万円を預かる様に命じられていたのである。世に絶望した彼は自分の生命を官吏が出所するまでの三年と区切り、それまでの間に有り金すべてを使い、半年ずつ、六人の女と”棺の中の悦楽”を極めることを決意するのだった--。
*感想
とっかかりでやめておくつもりが、止まらなくなってしまって。半年ずつ6人の女との生活風景が、中心といえば中心。それは、女の性格も様々だったことでとても楽しめた。
でも、う〜ん、と唸ったのは、その背景となった事件二つ(篤が匠子の為に殺人を犯したこと&官吏の公金横領)の使い方。それから、篤が、匠子の為に犯した殺人は、彼女の為でありながら、彼女の名誉の為に「どうして殺人を犯したか」は、彼女に隠されているということ。
それら、最初の設定があったからこそ、最後の最後で、くるりくるりと、どんでん返しが決まってきてる。見事!
篤と六人の女たちの間に行き来したもの(お金や肉体関係、その他)と、篤と匠子の間の関わり方の違いが、最後の数行に、あまりにも鮮やかに突きつけられる。
うぅ〜、ネタバレになるから言えないのがツライ。面白く読んだことは確かです。寝なきゃいけないのに感想書いちゃったくらい。
高畑京一郎『クリス・クロス −混沌の魔王−』メディアワークス 1994
*内容紹介(表紙折り返しより)
MDB9000。 コードネームは「ギガント」。日本が総力を結集して作り上げたスーパーコンピュータである。世界最高の機能を誇るこの電子頭脳は、256人の同時プレイが可能な仮想現実型RPG「ダンジョントライアル」に投入された。その一般試写で現実さながらの仮想世界を堪能する主人公。しかし、彼を待っていたのは、身も凍るような恐怖だった。
*感想
岡嶋二人の『クラインの壺』を思い出します。「現実と仮想の区別」というテーマは一緒ですね。後味はかなり違いますが。緻密さが少し足りない気もしました。うまく言えないのです が、それぞれの「顔が見えない」ようなもどかしさがありました。ちょっと輪郭がぼやけているような、ハッキリしていないような。でも、それは単なる技術的なことかも。
ちょーっぴり、物足りなさは残るけれど、もちろん、一気に読んでしまったくらい面白さはあります。RPGを一度でもやったことのある人ならば、「本を読んでいるのにゲームをしている気分」をより味わえるでしょう。
西澤保彦『彼女が死んだ夜 −匠千暁第一の事件−』カドカワノベルズ 1996
*内容紹介(裏表紙より)
門限はなと六時! 恐怖の厳格教育で育てられた箱入り娘の女子大生、通称ハコちゃんこと浜口美緒がやっと勝ち取ったアメリカ旅行。両親がたまたま留守にして、キャンパスの仲間たちが壮行会を開いてくれた出発前夜、家に帰ると部屋に見知らぬ女性が倒れていて。撲殺らしい頭部の血。パンティストッキングに詰められた長い髪束。テーブルの下の指輪。助けを求められた男性陣がかけつけると、ハコちゃんは自分の喉にナイフをつきつけて言った。この死体を捨ててきてくれなければ、わたしは死ぬゥ!
しかしとんだ難題の処理が大事件に発展して。
*感想
彼の作品は、今まで『完全無欠の名探偵』『殺意の集う夜』『人格転移の殺人』を読んでいます。これで4作目になります。どれも良かったけど、一番面白いと思いました。
事件の背景にある、それぞれの思惑がパズルのよう。そして、そのパズルのように組み合わさったところがはっきりわかったときの気持ちは快感です。一見緻密で複雑な構成なのに、推理が突飛なので、わかりやすく、面白く、混乱することもありませんでした。ともかく、構成がすごいです。感心することしきりでした。あー、面白かった。
アイザック・アシモフ 小尾芙佐訳『われはロボット』ハヤカワ文庫SF
1983
Isac Asimov, I,ROBOT, 1950
収録作品
「ロビイ」「堂々めぐり」「われ思う、ゆえに」「野うさぎを追って」「うそつき」「迷子のロボット」「逃避」「証拠」「災厄のとき」
*感想
何はともあれ、SFにジャンル分けされたものを読み終えることができて嬉しかったです。最初の「ロビイ」が読み易かったのが、すいすい読み進められた原因かもしれません。
読みながら思ったのは、「随分人間くさいロボットたちだなー」ということでした。怒ったり、迷ったり、悲しそうだったり、ロボットに表情はないんだろうけど、 "表情" を思い浮かべることができるくらい。
好きだったのは、「ロビイ」(ほのぼのしてていい)、「われ思う、ゆえに」(この回のロボットの小憎らしいこと!うぬぬぅ)、「迷子のロボット」(見つけるまでの過程に興味津々)かな。
収録作品
「厨子家の悪霊」「殺人喜劇MW」「旅の獅子舞」「天誅」「眼中の悪魔」「虚像淫楽」「死者の呼び声」
素直に「面白かったー」と思える内容でした。内容もさることながら、どんでん返しや構成の妙を楽しむことができました。気に入ったのは、「眼中の悪魔」「虚像淫楽」「死者の呼び声」かな。山田風太郎のこういう心理的なやつ、もっと読みたくなりました。
でも、何故か「天誅」が、やけに印象的なんですよねー。読んだ人にはわかってもらえると思いますが。
*感想
救いのない話を読みたかったので、読みました。私にとっては、全てが予想通りの展開でした。こういう結末でしかありえないだろうと思えるような。
血も涙もない、しかし妙なところで義理がある世界の話。これはたまたま主人公を健一にして、その視点から世界を見た、というふうに思ってます。 彼がハーフであろうとなかろうと、物語の味付けにはなっていても、あまり関係はないんでしょう。この世界の中で生きている人々は、みな健一と同じような考えでいるんじゃないかと。微妙なバランスでなんとか保っているように見える世界。そのバランスがひとたび崩れそうになれば、生きるか死ぬかのハードな選択を迫られるのはしょうがないのでしょう。そして、彼はまだ死にたくなかったんですね。だからああいう展開。
夏美と健一って、合わせ鏡ですね、全くの。だから、ぎりぎりまでひっぱってった二人のあの関係、結末には、納得してます。それに、あの時点でなくてはならないとも思いました。
人間関係の持ちつ持たれつ的なバランスは興味深かったし、全く水面から浮かび上がらない潜水みたいな物語、って印象ですね。続編も読みたいです。大ボスがまだ生きてるし。
不謹慎な言い方をすれば、とても面白く読みました。私って冷血人間?
*内容紹介/感想
無実の罪で捕まった男女2人の過去と現在。『不夜城』の前にこれを読んだばっかりで、なんだか人の気持ちの暗い面に多く接してしまったような。でも、こちらは、後味の良い話なので、大丈夫です。重かったわりには、一気に読めてしまいました。他の作品も読みたくなります。
*内容紹介
父を亡くした6つの千秋は、母とともにポプラの木のあるアパートへ引っ越した。そして、あるきっかけから、大家のおばあさんとの交流が始まる。おばあさんは死んだら死者に手紙を届けることができる、という。死んだ父親に手紙を書くようになる千秋。18年後の現在、おばあさんのお葬式で、「気休め」だと思っていたその約束の真実がわかる。
*感想
まだ1年は終わりじゃないけど、今年のベストワンになる気がする。10章からは、ずっと泣き通しで疲れてしまった。ちなみに程度はというと、しゃくりあげ状態。本でここまで泣いたのって、なに以来だろ?
おばあさんから、「引き出しに預かった手紙がいっぱいになったとき私は死ぬよ」と言われていたため、なるべく書かないようにしようと決心する千秋、それでもついつい書いてしまう手紙の内容、その辺はまだ前哨戦。おばあさんのお葬式の場面からは、もう耐えられない。おねがいもうやめてこれいじょうなかせないで状態。
一度おばあさんが倒れた時にとった千秋の行動や、その「結果」も、いい話だったし、18年前、千秋経由でおばあさんへ預けた、母から死んだ父への手紙の内容にも、ずきずきさせられた。「手紙というのは(中略)何かに運ばれていってこそ、書いた者の心がほんとうに解き放たれるもの」(p.302) 書くだけじゃ癒されないんだな。
現時点でボロボロ状態の千秋が、おばあさんのお葬式をきっかけに、昔を回想し、どう思うようになったかまでちゃんとフォローしてある。
亡くなった人への気持ちって、とても痛い。
ものすごくいい話だった。あーあ、陳腐な感想しか書けない自分がうらめしい。
*内容紹介/感想
スケート選手の美也子は、減量をきっかけに精神のバランスもくずし、拒食症に陥る。その始まりから、自分を取り戻すまで。性格も体型も全く逆の男性、長坂とのやりとりが面白かった。この結末の先は、多分、大丈夫な方向だと思うんだけど、ちょっと気になるなぁ。著者の加賀さんは、まだスケートやってるのかな。
トレヴェニアン 菊池光訳『シブミ』上・下
ハヤカワ文庫NV 1987
Trevanian, SHIBUMI, 1979
*内容紹介(上巻 裏表紙より)
アラブ過激派を狙うユダヤ人報復グループの若者二人が、ローマ空港で虐殺された。指令を発したのはアラブ諸国と結んで石油利権を支配し、CIAをも傘下に収める巨大組織<マザー・カンパニイ>。だがグループの一人、ハンナがからくも生き延び、バスク地方に住む孤高の男に救いの手を求めた−−ニコライ・ヘル、<シブミ>を体得した暗殺者に! 日本の心を身につけた男の波瀾の半生と、巨大組織との死闘を描く冒険巨篇。
*感想
囲碁を身につけた殺し屋の話なんて、シブイじゃないかと思って読み始めたのですが、私の場合は、やはりそういう精神的なものに目がいってしまいました。つまり「巨大組織との死闘」は、はっきりいえばどうでもよくなってしまって、”ニッコ”の過去、日本での生活には特に興味を持ってしまったというわけです。
”ニッコ”が、日本的精神の影響を一番初めに受けたのが岸川将軍から。その彼が捕虜になっているところに出かけていって、何かできることはないかと考えた末、おこなったこと。これってほんとに、「日本的」。その時の会話が、囲碁用語に即してなされていて、「うっわ〜」と唸ってしまいました。だって、直接的な会話じゃないのに通じちゃってるんですよ。作者って、「過去の日本」贔屓なんですねえ。
物語自体は、もっと派手でドンパチやるのかと思っていたんですが、どちらかというと頭脳戦という感じ。なかなかにシブイ作品のように思いました。
しかし、「碁とチェスの関係は、哲学と複式簿記の関係と同じだ」だって。カッコよすぎるよね。ちなみに囲碁ソフトは、まだまだ人間からすると弱い相手らしいですが。
都筑道夫『猫の舌に釘をうて』講談社文庫(大衆文学館) 1997(1961)
備考:「三重露出」がカップリングされてます。
*内容紹介
「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そしてどうやら、被害者にもなりそうだ。」で始まる、淡路瑛一の日記。彼は、ずっと好きだった有紀子が結婚し、相手の男が憎くてならない。が、殺意を押さえ、疑似的な行為で気持ちを紛らそうとする。行きつけの喫茶店に行ったおり、後藤という男の隣に陣取り、有紀子宅からせしめた風邪薬を毒薬に見立て、彼のコーヒーカップの中へ。これで気持ちは収まるはずだった。が、その直後、後藤が本当に死んでしまった! 有紀子が飲むはずだった薬に毒が? それに、これでは自分が犯人にされてしまう。
*感想
今は読めるようになりましたが、これが品切れだったなんて、許せないことですね〜。
この瑛一の日記が都筑道夫の『猫の舌に釘をうて』の束見本の中に書かれたもの、という設定も面白いし、生きています。冒頭の一行(一人三役)を読むと、ジャプリゾの『シンデレラの罠』か? なんて思うのですが、全く異なる味付けです。
本格の香りがプンプンなのに、えっ、うっそ、すごいっ! の読後感。うまく騙されたなぁ。私にとっては久々だったトリック。新鮮だ〜。ばんざーい。
97/9/25