back to top page/back to ホンの感想
凍える島(近藤史恵)
ねむりねずみ(近藤史恵)
殺意の集う夜/人格転移の殺人/完全無欠の名探偵(西澤保彦)
新解さんの謎(赤瀬川原平)
愛その他の悪霊について(G・ガルシア=マルケス)
聖域(篠田節子)
シスターズ(P・ブース)
流しのしたの骨(江國香織)
大誘拐(天藤真)
正月十一日、鏡殺し(歌野昌午)
第八の地獄(S・エリン)
野獣死すべし(N・ブレイク)
聖と俗と(F・ケラーマン)
豊饒の地(F・ケラーマン)
僕らの夏(村山由佳)
ふだん着のイスタンブール案内(細川直子)
月長石(W・コリンズ)
さむけ(R・マクドナルド)
自殺室(C・ウールリッチ)
ドンナ・アンナ(島田雅彦)
明るい部屋(R・バルト)
(その他ひとくち感想)
日の名残り(カズオ・イシグロ)
浮世の画家(カズオ・イシグロ)
アニマル・ロジック(山田詠美)
冷たい水の中の小さな太陽(F・サガン)
肉体の悪魔(R・ラディゲ)
ドルジェル伯の舞踏会(R・ラディゲ)
きみのためにできること(村山由佳)
落下する夕方(江國香織)
***ネタバレ気味***
ホリー・ガーデン(江國香織)
都の子(江國香織)
泣かない子供(江國香織)
尾形亀之助詩集
中原中也詩集
エリュアール詩集
*内容紹介
男女8人で、離れ小島へ旅行。それぞれの胸の内には、なにものかを秘めて。
*感想
とても古典的な展開の殺人事件にどろどろした恋愛話が重なるというよくありそうな話ですが、一気読みしました。殺人の理由も、なかなか考えさせますね。難しいです、こういうのは。物語中でもそうだったように同じような立場の人間じゃないと真相はわからなかったんじゃないかと思います。
さて、少し気になっていた表記なのですが、ひらがなの割合がかなり多く漢字で書けるところもそうしている、という感じが、最初はちょっとカンに触ってました。けれど、全部読み終えてから再びページをめくってみると、この文体とこの内容は実にぴったり合っているのではないかと思えてきました。決して早口ではない、ゆっくりしたスピードで、なま暖かく会話している人々。きっと本当の会話というものは、漢字ではなく、こんな風なのじゃないかな、なんて思ってもみました。
結構気に入ったので、他の作品も読んでみるつもりです。他の作品もひらがな多いのか気になるし。
*内容紹介
歌舞伎役者の銀弥が言葉を思い出せなくなる症状に陥る。彼は妻の一子が自分以外の人物に心を寄せていることを知っているのか? もしかしたら、それ故の精神的なものか? また、歌舞伎役者、半四郎が舞台に立っている間、見学に来ていた婚約者が殺されるという事件が発生。2つの謎はどう絡み合ってゆくのか。
*感想
『凍える島』よりも読み易くなりましたね。ただ、(いい意味で)力が入ってるなと思えたのは、『凍える島』でした。内容を理解しやすいのは『ねむりねずみ』かなとも思いますし、どっちが好みかと聞かれるとちょっと困る。結論を言うと、あまりわざとらしいやりとりもなく、素直に楽しめました。終わりがちょっと安易かな、とは思いましたけど。その他収穫だと思ったのは、探偵役の二人がキュートだということ。
さて、芸術家、あるいは天才とは一緒になれないな(確かに私はなれないけど)と思いました。苦しいでしょうね。向こうは絶対的にこっちを向いてくれないでしょうから。カタチのないものに惹かれてる人には勝てないです。
犯人のようなことをした人って、どこかの小説か何かでもいたような気がしました。かなしい一生ですね、傍観者側からみると。
西澤保彦『人格転移の殺人』講談社ノベルス 1996
西澤保彦『完全無欠の名探偵』講談社ノベルス 1995
*感想
『殺意の集う夜』は、めまぐるしく展開して、大変なことが起きている割にぜーんぜん深刻じゃなくて、あれよあれよという間に死体の山ができる。こんな偶然は絶対に起きないだろうという、見事な作り話なんだけど、展開の早さに乗って楽しめました。
『人格転移の殺人』は、合わなかったみたいです。私の頭には理解できなかったのでした(^^; 入れ替わり入れ替わりでわけわかんなくなってしまったんです、つまりは。
『完全無欠の名探偵』では、探偵のような、推理する特定の人間は出てこないわけですが、自分のその能力を引き出されてしまう人物が出てきて新鮮でした。ただ、その推理はあくまでも彼らの頭の中で行われた推理であって、真実のようにみえるけれど、それが事実であるとも書かれていない。けれど、そんなことはどうでもよくてその当事者本人自らが推理を展開していく内容は大変面白かった。
一部で有名な(現在進行形)、三省堂の『新明解国語辞典』の中の面白い説明のコトバを取り出して分析したりしている内容ほか。私が知っていたのは「恋愛」「ばか」「動物園」くらいかなあ。確かに「恋愛」は、文学的な香りのする説明です。ちなみに1冊のうち後半は別の内容です。新明解ファンならずとも結構楽しめると思います。たぶん。
G・ガルシア=マルケス
旦敬介訳『愛その他の悪霊について』新潮社 1996
G. Garci'a Ma'rquez, DEL AMOR Y OTROS DEMONIOS, 1996
*内容紹介(帯裏より)
十二月の最初の日曜日、十二歳になる侯爵のひとり娘シエルバ・マリアは、市場で、額に白い斑点のある灰色の犬に咬まれた。背丈よりも長い髪の野性の少女は、やがて狂乱する。狂犬病なのか、悪魔にとり憑かれたのか。抑圧された世界に蠢く人々の欝屈した葛藤を、独特の豊饒なエピソードで描いた、十八世紀半ば、ラテンアメリカ植民地時代のカルタヘーナの物語。
*感想
この物語の豊饒さを前にして、自分の言葉の陳腐さが情けなくなり、感想なんて書けない、と半ばあきらめています。
いいものを読みました。今の私たちの生活からは全く想像もできないような精神が抑圧された時代の話です。かすかな救いが見えたかに思えると、あっという間に吹き消されてしまいます。
この中でシエルバ・マリアが、愛はすべてを可能にするというのは本当なのか、と聞き、父親が 「本当だよ」「でも信じないでおいた方がいいかもしれない」と答える場面があります。物語の中で、愛は物理的に救いになっていません。むしろ、裏目となって出てきてしまっている、と言ってもいいかもしれません。「愛」なんて、軽々しく使えない、とこんなに実感したのは初めて(?)です。確かに日常でも使いませんけどね。
今年、私の中で印象に残った本の上位になるでしょう。
*内容紹介
文芸部に異動になった実藤は、会社をやめた篠原の私物入りダンボールの中から、かなり昔のものと思われる小説「聖域」の原稿を見つける。内容に心惹かれるものを感じた彼は、未完成のその原稿を完成させるべく作者をさがしだそうとするが、作者と関わりのあった人は、そんなことは忘れるよう、彼に諭すのだった。
*感想
亡くなった人、特にその人を大切に思っていたのなら、会いたいという気持ちは尚更強く持っているものでしょう。しかし、悔いが残っていたり、今でも会いたくて仕方のない人とは、会わない方が良いのかもしれません。現実にはありえない話ですが、もし会える機会があったとしてです。この本を読みながら、そんなことを思ってしまいました。
また、私は、別れた彼(彼女)と「もう二度と会わない」というのは、それぞれにとって相手は死んだ(ちょっと強い言い方ですけれど)、というのと同義であると思っています。ですから、忘れたいのだったら、やっぱり会わない方が良いのでしょうね。実際に会えた場合に混乱するようでは、自分が苦しくなるだけでしょう。
話はずれますが、当時どんなに嫌な思いをしたとしても、その時相手を好きであったことを否定したくはないですね。つまり、「どうしてあんな人好きだったのだろう」というような。今でも好きというのは大いに結構と思います。反対に、忘れられない、一生好きでいるべき、くらいに思っています。
パット・ブース 尾島恵子訳『シスターズ』集英社
1996
Pat Booth, SYSTERS, 1996
*内容紹介
今や売れっ子作家のジュリーは、その昔、母親が妊娠したのを激怒し、自分も腹いせに妊娠してしまう(父親のことがとても好きだった)。その結果自分には妹ができたが、自分自身の子供は死産ということに。それから20年後、たずねて来た妹ジェーンを見てあの時の憎しみが再び。腹いせにと、レズビアンの写真家に紹介したり、いろいろ邪魔をしかけるのだった。
*感想
久々の失敗。中を読むと、著名なスターをもじったような名前がちらほらなので、この辺に詳しい人ならそういうところで楽しめるかも。どうせ邪魔をするなら、もっと抜き差しならぬ絶体絶命状態を期待(?)したのだが、結構簡単に色気で斬りかえす、って感じがちょっとイヤだったのかもしれない。加えて、唯一期待していた伏線の結末も、やっぱりの予想通りに終わり、残念だった。
とある家族の風景、生活を描写しているだけなんだけど、魅力的な家族たちです。父を会社に送り出すと化粧をし、帰ってくる前に化粧を落とす母、つきあいはじめて、そろそろかな、と頃合を見計らって「そろそろ肉体関係をもちましょう」と彼に持ちかける "こと子" などなど。やっぱり彼女の書くものは好きだなぁ。
*感想
うん、いいねぇ。ところどころそう思いながら読み終えました。気持ち良く読み終える、というものから少々遠ざかっていたので新鮮でした。ただ、映画をみたことがあったので、あらかじめ内容を知っていたというのが唯一残念なところです。
こんなにもほんわりと、楽しく、時にはホロリとさせながら、しかもトリックには舌を巻いてしまう。自分の希望を満たしつつ、その他の懸念事項もまとめて面倒みちゃおーという、すごい計画&トリックです。お金のことも犯行も、スケール大きいし。
何と言っても、誘拐された、とし子刀自が賢く、かわいらしく、愛すべき人。魅力的。こういうおばあちゃんになりたいね〜。
収録作品
「盗聴」「逃亡者 大河内清秀」「猫部屋の亡者」「記憶の囚人」「美神崩壊」「プラットホームのカオス」「正月十一日、鏡殺し」
*感想
彼の作品は『長い家の殺人』一作しか読んでおらず、おまけに面白かった記憶がなかったものですから、買おうとは思ってなかったんですけど。ところが。
内容紹介も読まずに買ったんで、短編ということも知らなかったわけですが、いや〜期待しなかったせいか、割に楽しめたんです、これが。読み易いものばかりで、しかし、ちょいとひねってある。かなり素直なヒネリなんで、物足りない人もいるでしょうけど。こういうほどほど感もたまにはいいかなぁ、と。
スタンリイ・エリン 小笠原豊樹訳『第八の地獄』ハヤカワ文庫HM
1976
Stanley Ellin, THE EIGHTH CIRCLE, 1958
*内容紹介(背表紙より)
一通の投書に端を発したニューヨーク警察内部の汚職摘発は、一介の平巡査ランディーンをもその渦中に巻きこんだ。彼は無実を主張したが、状況はあくまでも不利に傾きつつあった。私立探偵社の社長マレイ・カークは、弁護士の強い説得と被告の恋人ルースの美貌に心を動かされ、この事件の調査にあたることを決意した。しかし新事実は一向に得られなかった--マレイ自身がある手掛りをつかむまでは。
*感想
最初読むのに苦しみましたが、なんのなんの、動き始めてからは俄然面白くなりました。苦しんでいたのは、私が良く読むものと、ちょっと異なる傾向、雰囲気を感じていたからなのでしょうか。私が頭の中に描いている”ハードボイルド”というイメージとも、もちろんガチガチの本格でもない。エリン自身は「日本語版への序文」の中にこう書いています。
(前文略)(私立探偵という職業を指して)いずれにしろ、生活の手段としては奇妙な職業であり、たいていの人にすぐいやな顔をされる商売であることは間違いない。ここに一人の男がいる。かれは、小説のなかのロマンチックな私立探偵ではなくて、私たちと似たり寄ったりの人間であり、たとえこの職業において大いに成功することがあっても、鏡のなかの自分自身を見つめるときには、答よりもむしろ質問が湧きあがり、庭をながめるときには、バラよりもむしろ棘を見てしまう。この小説は、その男の物語である。
男の「有罪」の証拠を見つけて、彼の婚約者の女性を自分の方に向かせようとするのが仕事を引き受けたかなり大きな動機というのは、不純だけど、強いパワーにはなるよなあ。その彼女がとーってもつれなくて、全然向きそうにないからまた燃えるんだよね。素直でよろしいって感じ。そんなところばかりを読んでいたわけではないんだけど、やっぱり結末は気になりました。
事件自体も帳簿の記載を解読していくところが面白かったり、ハラハラドキドキする場面もあり、楽しめました。全体がカラッとしてます。内容は普通の男の人の生活、たまたまその職業が私立探偵だったというような感じです。だから逆に珍しく思えました。いわゆる”ヒーロー”じゃないんですね。
どうして法月綸太郎がこの本を好きなのか。この中の私立探偵が特別っぽくなく、普通なところに惹かれたんだろうか?
ニコラス・ブレイク 永井淳訳『野獣死すべし』ハヤカワ文庫HM
1938
Nicholas Blake, THE BEAST MUST DIE, 1938
*内容紹介(背表紙より)
探偵作家フィリクス・レインは子煩悩だった。その彼が、最愛の一人息子マーティンを暴走する自動車にひき逃げされたときの気持はいかばかりだったろう。自動車は警察の調査にもかかわらずついに行方知れず、6ヶ月の月日はただ空しく過ぎてしまった。この上は、独力で犯人を探しださねばならない。フィリクス・レインは見えざる犯人に復讐を誓った!
英国の桂冠詩人、C・D・ルイスがブレイク名義で書いたこの小説は、その優れた心理的サスペンスと殺人の鋭い内面研究によってアイルズの「殺意」と並ぶ近代探偵小説の屈指の名作とされる。
*感想
読み進めながら、法月綸太郎『頼子のために』、クイーン『Yの悲劇』が頭の中を巡っていました。犯人の衝撃度、結末の付け方から言えば、どうしても『Yの悲劇』になりますが、同じかと思わせておいて、一歩ひねった点で、なかなか良く出来た仕上がりと思いました。構成も凝っていて、二重構造のいれもののようです。読後感は、法月綸太郎からいくぶん悩みを排除した(?)終わり方という印象です。法月は、相当気に入ってたんですねこれ。良くわかりました。
ちなみに『Yの悲劇』の発表は 1932 年ですからこちらのが後ですね。
さて、物語のキーとして日記が登場します。自分の気持ちや決意を文章に記してゆくという事は、冷静に考えられるようになる場合もあれば、ますますその気持ちにのめりこむ場合(いわゆる酔ってしまう状態)もあるのでしょう。消さない限り、そこに残るし。あまり筋とは関係のない話ですが。
フェイ・ケラーマン 高橋恭美子訳『聖と俗と』創元推理文庫
1993
Faye Kellerman, SACRED AND PROFANE, 1987
*内容紹介(背表紙より)
静まり返った森の一画で、二体の黒焦げの人骨が発見された。司法歯科医による鑑定の結果、かたや中流階級、かたや下層階級出身の少女の骨らしいことが判明する。おそらくはかけはなれた人生を送っていたはずのふたりの少女。それが、どうして同じ場所で、こうした最期を迎えることになったのか?
*感想
『水の戒律』を読んでから、ほっぽっといた私はバカだった。『水の戒律』は、思わぬめっけものという感じだったけど、格段に面白くなっている。面白いとはいえ、ほんとに気の滅入る事件ではあったけれど。
月並みな言い方だけれど、こんな事件が許されていいわけ? デッカーが上司の言いつけを守らずに、最後まで決着をつけたかった気持ちはわかる。事件を解決してゆく過程において出会う人々とデッカーとの交流もその人々の一言一言が重い。自分の娘とウリ二つの売春婦の情報屋キキとのやりとりには胸がしめつけられた。「1週間後に会おう」という電話のやりとりを、不吉な予感を持って読んだ人は多いと思う。
殺された少女のうち一人は、みんなに愛され、恋人ともうまくいっていて、いわゆるいい子だったのに、魅力がアダになって事件に巻き込まれてしまった格好。そういう子だったのでなおさら悔しい。
いかにもアメリカ的な印象を受けたのだけど、同じ題材をP・D・ジェイムズが描いたらどんなだろう?と想像してしまった。もっともっと後味が悪くなるかな。
しかし、リナってあんなにガミガミ屋だったっけ。私から見たら、全然魅力的じゃないんだけど。デッカーがリナにそんなに惹かれる理由が今一つわからない。宗教って人の生き方だと思うから、おいそれと入れないものだと思うし、デッカーとリナとのやりとりを見ていると、どうもデッカーの肩を持ちたくなってしまうのだ。
フェイ・ケラーマン 高橋恭美子訳
『豊饒の地』上・下 創元推理文庫1995
Faye Kellerman, MILK AND HONEY, 1990
*内容紹介
深夜、シーソーで遊ぶ幼児を見つけたデッカー。彼女はパジャマ姿で、しかも血がついていた。しかし、その周辺には彼女のことを知る人もいない。翌朝になっても何の連絡もない。彼女の母親に何かあったのか? 同時にまた、デッカーは、自分の旧友エイベルに売春婦に暴行を加えたという容疑がかかっていることを知る。
*感想
私の印象度からいうと『聖と俗と』の方が強い。『聖と俗と』での、デッカーとリナとの関係が緊張感があって好きだったし、デッカーの苦悩がひしひしと伝わってきたし、事件に関わる背景の陰鬱さが忘れられなかった。『豊饒の地』だけを見ていると、二人の関係はただの恋人どうしみたいにも見える。もちろん、これからどうなってゆくのかの興味は相変わらずあるけれど。
事件そのものは、これまたやりきれなかったけれど、印象に残っているのは、後半でのデッカーとエイベルのやりとり。真実はどうだったのかわからない過去に対しての、お互い消せないでいる「思い出」はあまりにも重い。エイベルを見ていて痛々しくてならなかった。また、それに関連してのデッカーとラビとのやり取りも興味深かった。私はラビを、最初の頃は頭の堅い人くらいにしか思っていなかったけれど、今までのデッカーとのやり取りを聞いていくうちに、宗教に対しても自分に対しても無理をしていない人だという気がした。敬虔なんだけれど、柔軟、そんな印象。それから、マージは、言葉のセンスが最高。いい女だなぁと思う。
村山由佳『僕らの夏 おいしいコーヒーのいれ方U』集英社ジャンプジェイブックス 1996
集英社から出している単行本は、デビュー作の 『天使の卵』 以外あまり評価してないけど、見限れなくてついつい読んでしまう。 ジャンブジェイブックスから出している3冊の物語の方が生き生きと書かれているように思う。主人公の恋は不器用なほうが感情移入できるなー。
老後はトルコで暮らそうと思っているので(笑)、参考までに。実は学生時代にトルコ40日+エジプト10日の一人旅をしてました。トルコは30日の予定が、居心地良すぎて延びてしまい、離れたくなくて泣きました。旅行者として滞在するのと、実際そこで生活をするのって違うことなんだろうけど、私が自由の身(おおげさ)であれば彼女みたいに飛びこんじゃって帰ってこないかもしれない。
ウィルキー・コリンズ 中村能三訳『月長石』創元推理文庫
1962
Wilkie Collins, THE MOONSTONE, 1868
*感想
長かった「月長石」の呪縛から放たれた感じ。やたら時間がかかってしまった気がする。現代的なテンポでない、と感じたからだろうか。
最初の最初、ダイヤがなくなるまでで、挫折の誘惑にとらわれた。ただ、紛失してからは、これは一筋縄ではいかないな、と思い始め、謎にひきこまれていった。物語は一貫して「誰がダイヤを盗んだか」という単純な謎なんだけど、人間関係がいろいろ絡んでくるから面白くなってきたわけ。
いきなりそういう推理にもっていくのかーっていうのも見られ、それをまた実験しちゃったりするのも新鮮な展開だった。古典なくせに斬新。
複数の人が手記を書くという体裁で物語が成り立っているのも、今でこそありがちだけど、個性的な人が多かったので、視点が変わるのをより楽しめた。ほんとに思い出しても笑えるくらいの人がいるんだ。
ああ、でもこういう結末にしちゃうんだなぁ、ふぅん、ほぉ。『月長石』って古典なんだけど現代的で、現実的なのにおとぎ話、いろいろな面を持つ不思議な小説でした。
読んで良かった。長年の迷いがなくなりました。
ロス・マクドナルド 小笠原豊樹訳『さむけ』ハヤカワ文庫HM
1976
Ross MacDonald, THE CHILL, 1963
*内容紹介(背表紙より)
実直そうな青年アレックスは、茫然自失の状態だった。新婚旅行の初日に新妻のドリーが失踪したというのだ。アーチャーは見るに見かねて調査を開始した。ほどなくドリーの居所はつかめたが、彼女は夫の許へ帰るつもりはないという。数日後アレックスを訪ねたアーチャーが見たものは、裂けたブラウスを身にまとい、血まみれの両手を振りかざし狂乱するドリーの姿だった
*感想
ロス・マクドナルドで読んでいるのは、『ウィチャリー家の女』とこれの2作だけ。全体から受ける霧の湿り気のような雰囲気は変わらないなと思う。アーチャーというひとは、私立探偵としての強いカラーをあまり感じさせないな、と思う。
事件そのものは、上記の”内容”なんて本当にとっかかりで、人から人へと話を聞いてまわるうちにどんどん深くなってゆく。「まさかね」と頭に浮かんだ推理が本当に当たるとは思わなかった。だって恐ろしい結末だもの。
コーネル・ウールリッチ 稲葉由紀訳『自殺室』
ヤカワ・ポケット・ミステリ#753 1963
Cornell Woolrich, EYES THAT WATCH YOU
収録作品
「殺しの足音」「眼」「913号室の謎/自殺室」「913号室/殺人室」
*内容紹介(裏表紙より)
ホテル・聖アンセルム913号室は、人呼んで 「自殺室」 という。その呼び名のごとく913号室に泊まった客は、その夜のうちに必ず自殺してしまうのである。なぜ、この部屋の泊まり客が急に自殺する気になるか、その理由はだれにもわからない。その日も913号室に一人の泊まり客があった。その客は、最近婚約発表したばかりの、野心と希望にもえているまだうら若い青年だった。が翌朝、この青年もまた913号室のすべての客と同じ運命をたどっていた! この事件を最後に、913号室には一人の泊まり客もなくなった。そして、一年の歳月が流れ去りある日、この913号室にひさしぶりの客が泊まった。その客は、913号室の謎をひそかに調査しつづけてきたホテルの探偵、ストライカーである。彼は、なんの手がかりもつかめないのに業を煮やし、ついにみずから913号室に泊まる決心をしたのだった!
*感想
この「913号室の謎」は、結構大胆なトリックでした。しかし、それよりも「眼」という作品がいい。
全身付随で動くことも、しゃべることもできないおばあさん。唯一息子と目の合図でもって”会話”ができるのが救いです。しかし、ある日、息子の奥さんが息子を殺そうとしていることを聞いてしまい、しかし何もできない!という状態に陥ります。息子を助けたいのに何にもできないもどかしさにハラハラ。彼女は目に涙をためて頑張ったりするんですが。すごく優しい息子だからこそ、こっちとしても助けたいんだけど、それじゃあ事件になりません。
はてさて、息子とだけ”会話”のできた彼女、復讐を決意してからがまた読みどころ。うん、これはいいです〜。ああ、ほとんどあらすじになってしまった。
SMAPの稲垣くんと島田雅彦の対談が雑誌上であって、急に読みたくなって。ふっふっふ、私はこういうめちゃくちゃなやつって大好き。続けて『僕は模造人間』『預言者の名前』も読んでしまう。
ロラン・バルト 花輪光訳『明るい部屋』みすず書房
1985
Roland Barthes, LA SHAMBRE CLAIRE. NOTE SUR LAPHOTOGRAPHIE, 1980
最近、マニュアルカメラを始めてみたいと思ってたりします。全く何にもわからないけれど、カメラにまかせず自分でいじくってみたいっていうのがあるんですね。ニコンのF3が欲しいんですけど結構高い。というわけで、7年くらい前に読んだ”写真についての覚書”が急に読みたくなり探して買いました。2、3軒あたるハメになりました。2部に分かれていますが、後半の、亡くなった母親の思い出とからめて語る写真論はいい。彼の『恋愛のディスクール』というのも美しい本です。
96/5/31
カズオ・イシグロ『日の名残り』(中公文庫)にひどく感動、ひきつづき『浮世の画家』(同左)も読む。ミステリは読んでいなくて、一番最近は、山田詠美の『アニマル・ロジック』(新潮社)を読んで、とてもとても感動していたところ。彼女に手紙を書きたくなってしまったくらい。書いてないけど。
96/12/10
11−12月は何を読んでいたかというと三島由紀夫、江國香織の新作と未読もの、あとは不倫もの。サガンの『冷たい水の中の小さな太陽』(新潮文庫)、ラディゲ『肉体の悪魔』『ドルジェル伯の舞踏会』(新潮文庫)などね。村山由佳
『きみのためにできること』(集英社 1996)もあった。
江國香織『落下する夕方』(角川書店)『ホリー・ガーデン』(新潮社)は私のバイブルとなりました。『都の子』(文化出版局)は普通のエッセイですが、『泣かない子供』(大和書房)というエッセイは大笑いできます。彼女の書くものは、どんどん面白くなってゆく気がする。追いかけたい人です。女性向きかもしれないけど、『落下する夕方』を読んで面白かったからと遡って読んだ男性もいましたし。『落下する夕方』は吉本ばななチックでしたね。
***以下、『落下する夕方』の、ネタバレ気味感想***
『落下する夕方』は、彼女の作品の中で、初めて強烈に「死」を感じたので印象的でした。自分でも、どうして惹かれるのかわからないんですが、梨果と華子のはちゃめちゃな生活が、二人にとってかけがえのないものになっていくところ、時々見せる華子の本音、全体的にふわふわと暖かいのに、本当はとても孤独で透明な感じのする雰囲気が好きなのかな。華子が梨果に「私は会いたかったわ」と言うところなんて、はっとしてしまいました。私がこれをはじめて読み終わったときは「華子になりたい」と思ったのと、あと、不思議と梨果がうらやましかった。私には起こり得ないであろう体験をした彼女が。変な話、華子のような子に振り回されてみたい、って。あの二人の生活はとてつもなく奇妙なんだけど、こちらから見るとひどくきらめいて見えたんです。女の子との共同生活が、男の人とのそれよりも楽しそうに見えたんだな。それから、自分は絶対華子にはなれないだろうから、憧れのようなものを持ったのかもしれない。彼女が自殺したのは、「留まる」ってことを知らなかったのに、留まりそうになってる自分がこわかったのかなあ、なんて。それで永遠に去ってしまった。でも、結局は、 ずっと残る印象を植え付けてしまってる。('98秋公開した同名映画の感想)
『冷たい水の中の小さな太陽』がモチーフにしたという、ポール・エリュアールの詩が最高にいい。ラディゲ『肉体の悪魔』はすごかったですね。濃厚な蜜のようだ。三島が嫉妬したというの、わかります。見事です。『ドルジェル〜』は、堀口大學訳じゃないとだめ、なんてことも聞いたりしたけど(講談社文芸文庫に入ってる)。
江國香織の影響で尾形亀之助という人の詩集を買ってしまった(『尾形亀之助詩集』思潮社現代詩文庫)けど、ふっっしぎーな内容です、はい。去年は初めて詩集を買った年でもあったのだな。中原中也(『中原中也詩集』白鳳社)、ポール・エリュアール(『エリュアール詩集』思潮社)も買ったんだもんねえ。私らしくもないですが、どうしちゃったんでしょ。しかし、詩集を買うってなんか恥ずかしいですね。
コンタックスのS2bという完全マニュアルカメラで遊んでいます。「アサヒカメラ」とか「カメラマン」なんかも買ってたりして。