先日(2003年4月14日)ノーベル賞受賞者で高名な経済学者であるスティグリッツ教授が来日し、日本はいまや伝統的な経済政策だけでは救えない経済状況であり、また経済政策を実行できるだけの財政余力もないとして、日銀券とは別の政府紙幣を発行して財源にするべきとの説明を行った。(日本経済新聞社と日本経済研究センター主催の来日記念シンポジウム:日経新聞2003年4月30日掲載)
また、2002年12月13日付日本経済新聞の「経済教室」には日本の消費不況は巨額の赤字国債の保有による将来不安からきているとして、日銀券の印刷を財源として国債の買い入れ償却を行うべき、との理論が掲載された。
※筆者:アラン・オーエルバッハ(カルフォルニア大学バークレー校教授)、ローレンス・コトリコフ(ボストン大学教授)
中央銀行または政府による、貨幣を造幣することによる利益を造幣益(シニョレッジ)と呼ぶが、果たしてこれは経済政策として可能なのでしょうか?インフレにはならないのでしょうか?以下思考実験をしてみました。
思考実験上の仮定 |
(1)自由競争 |
上記の仮定について補足説明
(3)の「供給力過剰」について |
現在の日本の状況を念頭に置いています |
(4)「紙幣を国民に配布」 |
@小淵政権時に「商品券的なもの」を国民に配布したことがありましたが国債を財源にしたものであり、国民は商品券的なものを受取ると同時に、将来への償還負担も背負ったのであり、その意味で(造幣による)利益は発生しませんでした。ここで議論する造幣益の活用とは別物です。 Aこのホームページで述べてきたように現在の不況の原因は供給が需要を上回ると言う「消費不況」です。民間需要を喚起する意味で造幣益を国民に帰属させる試みです。 |
=思考実験=
いま同じ商品を販売する近所同士の商店Aと商店Bがあるとします。さてここで、新たに印刷された紙幣が国民に配布されて、消費者のふところは暖かくなっています。ここで商店の経営者はどう考えるでしょうか?
商品を値上げするのか? |
資本主義経済のもとでは、経済主体は自己の利益を最大化しようとします。 |
そうすると、(仮説) |
紙幣の印刷(伝統的理論ではヘリコプターマネーと言うようです。)が必ずインフレに結びつくとは思えません。 |
条件を変えると? |
上述の思考実験の中で、供給の不足「商品を問屋に追加注文してもいつ商品が届くか不明な状況」をシュミレーションしてみると次のようになります。 |
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同じく経済主体は自己の利益を最大化しようとします。したがって次の商品がいつ届くかわからないような状況の中では、今保有する在庫で最大限もうけなければなりません。必然的に商店Aも商店Bも値上げしようと考えるはずです。このような状況下では経営者は「となりの商店は値上げしないでたくさん売ってもうけるかもしれない。」などとは考えないでしょう。 |
過去の実例は? |
過去の歴史のなかでは政府が財源に困ってシニョレッジを行使したことがありました。その場合は例外なくインフレを招いていたようです。しかし、過去の実例だけで結論を下すのは科学的では有りません。おそらく過去の実例の中では当時その国の経済状況として、経済が疲弊しており、供給の体制が十分ではなかっただろう事は推測がつきます。 |
もう少し広い視野で考えると |
上述の思考実験で「供給過剰」という仮定を置きました。供給過剰ならば、少なからずデフレの状況にある可能性が強いでしょう。そのような状況で「価格が据え置き」とは、デフレのベクトルに対してインフレのベクトルを多少与えたことにより、差し引きの効果が0になって「価格が据え置かれた」と解釈することもできます。 つまり、紙幣の印刷はやはり「インフレのベクトル」として作用するものの、常に結果としてインフレになるわけでは無く、供給能力との兼ね合い等によってその結果は変わってくるものと解釈するのが妥当なのだと思われます。スティッグリッツ教授も、その発行量を適正水準に制限すれば急激なインフレは回避できるはずだ。と説明しています。 |
造幣益を行使すると、その国の通貨価値が下落したり、インフレになったりすると言う見方が有力ですが、必ずしもそうはならないのではないでしょうか?次の章では造幣益についての伝統的理論を検証したいと思います。
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