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御所掛野郎(1995GW・東北)

右がワタクシのTW

「GWにはバイクで北海道」
そんな行動が3年ばかり続いていた。
寒ささえ耐えれば、夏とは違った楽しみも満載なのだ。
この年もソレを心待ちにしていた矢先、無情にも舞い込んできたのはGW前半の出勤命令。
しかも山形への出張だったりする。
そ・そんなぁ・・・・
ううむ、ココでアッサリとクジける訳にはいかない。
一旦北海道に上陸し、出張期間だけ(飛行機などを利用して)山形に向かう作戦も真剣に考えた。
しかし、それは余りにもアホらしいので断念。
それならば目的地を東北に変更し、山形でのシゴトが終り次第、そのままツーリングに突入しようではないか。
そんな訳で、フル装備のバイクで山形出張に向かう事になったのだ。


出発!

山形でのシゴトの前日 バイクにテントやナベカマ類を積み込んで東北道を走る。
誰が見ても出張に向かうサラリーマンには見えまい。
でも、翌日からは山形での仕事が待っている。
「お願い! 今日だけは旅のライダーでいさせて!!」
と言う訳で、林道にだって入っちゃうのだ。
さっそく、栃木県と福島県の境目の峠を越える安ヶ森林道に。
快適に峠を登り詰め、いよいよここから「みちのく」だとカンゲキした矢先・・・
ゲゲゲゲ!!
み・見てはイケナイものを見てしまった。
雪崩の残骸の様な雪が、完全に道を塞いでいやがるぅ!!!


行くっきゃ無し!

もともとキッチリ予定などたてず、行き当たりばったりタイプのワタクシ。
いつもなら引き返して、今日の宿泊予定地を変えちゃうところだけど、今日は何としてでも山形まで辿り着かねばならない。
「ええいっ! 明日は仕事だからこそアタックだぁ!!」
なんかヘンな理論だけど、とにかくイキオイで行っちゃうのだ。

比較的に積雪量の少ない、崖ギリギリの所を進む。
もし滑ったら、白骨死体になるまで誰とも会えないだろう。
ヨタヨタと突破して更に進むと、同じような第二弾、第三弾の雪崩の跡が次々と登場してきやがった。
(これはホントはキケンな行動だったりする。下りアタックで進めなくなった場合、戻ろうとしても登れるとは限らないのだ)


ショック!

結局、何とか気合で突破して会津側へ抜ける事が出来た。
「嗚呼! 仕事の為にはキケンを省みない愛社精神!」
なんか歪んだ考え方だけど、とにかく越えちゃったのだから仕方が無い。
喜多方でラーメンなどを食い、次に目指したのは福島県と山形県の境目の大峠越えのダート国道。
しかしソコでは道路工事のオヤジに追い返され、仕方なくトンネルをくぐっって夕暮れの米沢に。
あまり贅沢ばかりする訳にも行かずに「米沢牛」は断念し、上ノ山の公衆温泉経由で山形のビジネスホテルに転がり込む。
さすがにテントから客先に通う訳には行かないのでホテルを取った訳だけど、宿泊費は会社持ちなのだから痛くも痒くもない。
でも、気分だけはキャンプを楽しみたい。
ホテルの室内で自炊してしまうのだ。
キャンプ用具を取り出し、ホテルのチンケな浴衣を着て持参のコメを磨ぐ。
しばらく馴染ませ、いよいよメシを炊こうと思ったら・・・・・
な・なんてこったいっ!!
ストーブ(キャンプ用のコンロ)を、見事に忘れてきてしまったのだ。


凡カレー

これはまいった。
まいったけれど仕方が無い。
仕事が終ったら山形市内のホームセンターにでも行って、安いやつでも買うとしよう。
でも、研いじゃったコメはどうしよう。
残念ながら捨てるしかなく、ホテルの便所にでも流しちまうかと考え・・・・・
「ダ・ダメだぁ!! ニポン国民として生まれ、コメを食って育ってきた人間として、そんなバチあたりなマネはオラには出来ねぇだぁ!」
などと思いとどまる。

ダメもとでランタン(キャンプ用のガス灯)の出力を最強にし、研いだコメを入れたコッヘルを乗せてみる。
かなり時間がかかりながらも沸騰し、ホテルの絨毯の上に吹き零れがたれ始めてきた。
待つ事30分・・・・・
おおっ、なんだかキチンと炊けてしまった。
「やったぁ! やれば出来る。美味しいゴハンの炊きあがり!」
オカズは非常用のレトルトカレーを、浴室の熱湯にさらし続ける事10分で完成した。
「キャンプ気分」とは程遠くなってしまったものの、とにかく食えるモノが出来上がったのだから喜ばねばなるまい。


ただいま出張中!

バイクや荷物はホテルに置きっぱなしにして、客先へはタクシーで通う。
そんな日が3日程過ぎ、いよいよ仕事の最終日。
今日のシゴトが終わり次第、そのまま東北ツーリングの始まりなのだ。
という事は、ホテルをチェックアウトし、フル装備のバイクで客先に行かなければならない。
まあ、先方だって基本的には連休中で、エラい人は出てこないだろう。

客先に到着。
荷物を降ろす訳にはいかないので、路上駐車は避けたい。
守衛小屋に行き、守衛さんに交渉してみる。
「すいません。今日はバイクで来ちゃったんですが、敷地内に置いてもいいですか?」
「いいよ。社員用の駐輪場にでも入れといてね」
アッサリとお許しがでて、バイクを押して入り込む。
デカ荷物のバイクを見て、明らかに驚きの表情を見せる守衛。
「ど・どうしたの? ソレはナニ?」
「まあ、イロイロと事情がありまして・・・・」


ホントの出発!

夕方、やっと釈放され、晴れて自由の身に。
ツツガムシに脅えながらも、最上川の河原にテントを張って寝る。
そして翌朝、小国から三面川沿いへのショートカット林道を抜ければ、念願の朝日スーパー林道が待っている。
ハズだったのに・・・
スーパー林道へ続く道との合流地点の直前でダム工事が行われていて、三面川を渡る橋が無いのだ。
ほんの数十m先の川向こうに行く為には、小国まで戻って村上経由で数十キロも迂回しなければならないとは。
これはどうしようもないけれど、何とも勿体無い。
諦らめきれずに、そこいらへんを見苦しく徘徊すると・・・
おおっ。
少し下流に、超旧式・人間専用・四国かづら橋仕様の吊り橋を発見した。
吊り橋の前後には大きな段差も無く、無理矢理バイクで渡れない事もなさそうだ。
またまた白骨化の恐怖を懸けて、なんとか渡りきったのに・・・・・
肝心の朝日スーパーが、「猿田川キャンプ場付近から先、積雪の為通行止」だった。
雪が有るのは承知の上だけど、キッチリとゲートで閉鎖されている。
すり抜けられそうなゲートの隙間は登山客のクルマに塞がれ、今度こそ完敗・・・・


運命の田沢湖

北上するに連れ、夜の寒さが五臓六腑から海綿体にまでしみわたる。
鳥海山では氷点下に震え、田沢湖スーパー林道も積雪にスタックして引き返す。
そして田沢湖キャンプ場に。
このキャンプ場で出会ったのはカタナ乗り『みちのく兄貴』、そして同じTWに乗る『八九朗』で、3人で酒を酌み交わす。
八九朗はハンパじゃない温泉フリークだった。
彼は、ただ入湯数が多いだけではない。
バイクや山スキーを駆使して、雪山の中の露天風呂でさえ制覇してしまうなど、その機動力は凄まじいのだ。
そんな彼によって、後に『ざ・TW組』に引き入れられる事になる。

みちのく兄貴は八戸の人で、このキャンプ場には何度も来ているらしい。
(以下、標準語に翻訳)
「夏に、大勢でここでキャンプ宴会したらよう、一人が酔っ払って、『素っ裸で田沢湖一周するっ!』 って言うんだよ。
マジで全裸になってバイクに跨ったんだけど、エンジンもかけずにそのまますぐに戻って来たから、それでウケ狙いのギャグは終ったかと思ったんだ。
そしたら『オフ車だから、ハダシだとステップが痛い』 つって、ブーツだけ履いて走っていっちゃった。
後で聞いたら、半周した辺りで我に返ったけど、もう行くも帰るも同じだったってさぁ」

翌朝の最低気温は0度まで下がり、体中がヒエヒエとなる。
これは温泉に浸かって暖まるしか無い。
その候補は 「玉川温泉」か「御所掛温泉」で、温泉フリークの勧めに従って御所掛温泉に決めたのが、運命の分かれ道だった。

みちのく兄貴、ワタクシ、八九朗の3ショット(田沢湖)

やられた!

御所掛(ごしょがけ)温泉。
八幡平の西側に位置し、色々なタイプの風呂(泥風呂・蒸し風呂など)が売り物で、湯治場もあった。
昼頃に到着して入浴し、
「いやぁ!何はなくとも温泉ですなァ!!」
などと風呂を満喫し、さっそくルービーでも! と思ったら・・・
な・な・無いぃぃ!
脱衣籠に脱ぎ入れたGパンが無いのだ。
誰かが間違って履いていくハズもなく、いわゆる『置き引き』にヤラれてしまったに違いない。
ポケットからサイフを抜き取ったりすると目立つので、何食わぬ顔でGパンごと持っていったのだろう。
それはそれでゴモットモなアイデアには違いないけれど、そのお陰で・・・・・
サイフだけでなく、やはりポケットに入っていた免許証入れやバイクのキーも運命を共にされてしまった。
そう。
遠い空の下、バイクも動かせず、1円の金も無く、身分を証明するものさえ一切無い人間になってしまったのだ。

慌てふためき、脱衣場にいた係りのおじさんに訴える。
「ケ・ケーサツを呼んでくれぇ! ドロボーだぁ!」
「ワシに言われても・・・フロントに行ってくれ」
「そんな事いったって、パンツのままじゃ行けませんよぉ!」
おじさんは何処からとも無く浴衣を出してきてくれ、それを着てフロントへ出向いて訴える。
「判りました。でもココは山の中だから、警察が来るまでに2時間位かかるよぉ!」
何時間待たされるとしても、来て貰わなければ困る。
しかし、いざケーサツが来た時に浴衣姿ってのもマヌケなので、バイクの所へ着替えのGパンを取りに行く。
「クルマと違って、キーなんか無くたって荷物は出せるのさ」
などと負け惜しみをホザきながら、ふと我が姿を客観的に見ると・・・・
浴衣姿でバイクの荷物をゴソゴソといじっているなんて、なんだかアヤシさ100%ではないか。


ケーサツ登場!

やがて二人の刑事が登場。
フロント脇の事務所で事情聴取を受けた後、一緒に脱衣場に行くように命じられる。
現場検証を行い、写真も撮影するらしい。
「キミが脱衣カゴを置いたあたりを指さして」
記念写真ではないので笑顔という訳にもいかず、しゃがみこんだまま神妙な顔をして、そのあたりを指差す。
ポーズを変えさせられながら2〜3枚の写真を撮るうちに、次々集まる野次馬。
刑事さん、お願い! 何でもするから命令口調はヤメて!
哀れな被害者なのに、なんだか入浴客から被告人みたいに見られちゃってるよう。

これで一通りの捜査は終了したらしい。
次にやるべき事は、早くカード類をストップせねばならないのだけれど、何処に電話すればいいかが判らない。
地元版の電話帳を見ても、都市銀行の電話番号など載っていないのだ。
そもそも、電話代だって無い。
「コレ、使いなよ」
ケーサツがテレカをくれる。
それは普通のデザインのテレカではなく、同僚か誰かの結婚式の記念テレカだった。
「いいんですか? これ、大事なテレカですよね?」
「いいからいいから。早くカードを止めなきゃ心配だろう」
アリガタくソレを使い、104に掛けてみる。
しかし、その銀行に「盗難窓口」とか直接的な名称の電話番号が登録されていないと、104では判らないと言われる。
仕方が無いので銀行の代表番号を教えてもらってソコに電話し、かなりタライ回しの末に、やっと手続きが終了した。

次に解決しなければならないのは、キーの無いバイクをどうするかだ。
これはケーサツが保証人になってくれて、地元のJAFが合鍵を作ってくれる事になった。
ケーサツって、自分が被害者の時には、とっても頼もしい存在なのだ。


湯治場難民

何はともあれ一文無しじゃどうしようもなく、実家に連絡を入れて金を送ってもらう事にする。
しかし世間はGW、郵便局は休みなのだ。
「カネは送るけど、休み明けの3日後になっちゃうぞぉ!」
「親父ぃ!そんなに待てないよう。ホントはダメなんだけど、宅急便で送っとくれ!」
「判った。でもバレたらマズい事にならないかなぁ」
小心者の親父め。
旧ソ連じゃあるまいし、黙ってれば中身なんて見られる訳が無いのだ。
まさかクソ真面目な親父、宅急便の伝票に「現金」なんて書かなければ良いのだが。
とにかくとにかく、それが到着するまでの間、ここの湯治場での難民生活が始まったのだ。

フェリーの2等を思わせる大部屋は、温泉を利用した床暖房がホカホカで、居心地は良い。
しかし、ヒマでヒマで・・・・
何もやる事が無いから何度も風呂へ入る。
でも、一文無しには風呂上がりのビールも買えず、タバコの残りも少なくなってくる。
我が身の不幸を嘆きながらロビーでグッタリしていると、それを見かねたのかフロントの兄ちゃんが
「当座の金に困るだろ? これを使いなよ」
と、5千円札を手渡してくれた。
うわぁい!!有り難うごぜぇますだぁ!!
即座に売店にダッシュし、
「ビールビール」
と叫ぶと、売店のオッチャンも
「よかったね」
などとニッコリ微笑み、オツマミ用にカワキモノをサービスしてくれた。
フビンな身の上には人の情けはアリガタく、そしてこんな時でもやっぱりルービィ!!


黄昏のJAF

夕方、JAFがやって来る。
器用にキーシリンダーを外してカギの番号を確認し、該当するキーの土台をクルマのシガレットに繋いだDC24V仕様のグラインダーで削り始める。
こちらは全くヒマなので、JAFの手慣れた作業を見守っているのだけれど・・・
2個作ってくれたキーうちの1個が、どうしても合わない。
エンジンはかけられても、燃料タンクを開ける事が出来ず、何度削り直してもダメなのだ。
みちのくの山中、次第にあたりは暗くなり、徐々に冷え込みが厳しくなってきた。
かじかんだ手を息で温めて、必死の形相でハナミズを垂らしながら頑張るJAF。
こちらもいたたまれなくなり、思わず歩み寄る。
「1個あれば良いですよ!」
しかし、後に代金は2個分シッカリと取られたのだった。


食う寝る出す

とりあえず、全ての段取りがついた今、あとは待つだけである。
そうなると、生きる為には食わなければならない。
湯治場には自炊設備もあり、もともとキャンプの旅なので、コメは持ってるし食器類もある。
オカズは非常用のフリカケだけなのが寂しいけれど、それは仕方あるまい。
その時・・・・
「ドロボーのお客さん、ゴハンの支度ができましたよぉ!」
おおっ、何と言う事だ。
メシまで食わせてくれるとは。
連れて行かれたのは調理場のスミッコのテーブルで、従業員と一緒に質素な晩飯を頂く。
質素といったってフリカケメシよりは遥かに上等で、その内容には異存も文句も無い。
でも・・
「ドロボーのお客さん」はやめてくれぇ!
せ・せめて「ドロボーにやられたお客さん」でお願いいたしますぅ!

さすがに晩飯時のビールはガマンする。
メシが終わっても従業員には仕事が待っている訳だし、そんな状態で一人で呑む訳にはいかない。
あくまでもカワイソウな被害者を演じ続けなければ、お情けの御飯のオカズも変わってしまうかもしれないし。



さらば御所掛

温泉に浸かり、ゴロゴロとヒルネをする時が過ぎ・・・・・・・
ついに宅急便到着の日がやってきた。
到着の知らせを受けて、住み慣れた湯治場から本館のホテルのロビーまで、 自分でバイクで受け取りに行く。
なんだか久しぶりにバイクに乗る感覚で、ココロも弾む。
小心者の親父は、本の中にカネを挟んで、無用な偽装工作を施していた。
でも、表紙に「カネは中に挟んであります」などと書いてあるので、何の偽装にもなっていない。
従業員の皆様に挨拶し、フロントの兄ちゃんに5000円を返す。
「宿泊費? 受け取る訳にはいきません」
との事だったけど、 強引に置いてくる事にした。
まあ、一泊分が僅か1000円だから安いもんだ。

その後、山を降りて鹿角市内に出向いてJAFにキーの代金を払い、その足で鹿角警察に顔を出す。
丁度、御所掛で世話になった刑事も居た。
「お蔭様で東京に帰れます。お世話になりました」
「おお、わざわざ顔を見せに来てくれたのか。帰り道、気を付けてな」
「ところで、あのぉ・・・・」
「何だべ?言ってみれ!!」
「一応、免許不携帯じゃないですか。乗って帰っても良いんですか?もし、途中で捕まったら・・・」
「う〜ん。オレの口からは良いとは言えないが。ホレッ!捕まったらこの名刺を見せろ!そしてオレに電話するように言え!」

お守り的な名刺を貰い、一路東京を目指す。
何から何までトラブリ続きだった今回のツーリング。
ココから先は残金節約の為に、下道ばかりの長い長ぁい2泊3日の帰り道だった。

【その後】

結局、免許証入れだけは、八幡平のスキー場に投げ捨ててあるのを旅行者が発見し、観光協会経由で送り返されてきた。
「落とし物」と解釈したらしく、拾い主にお礼を言うようにとの一文と、観光パンフレットまで同封された書留めだった。
盗難届を出していたので、鹿角警察に見つかった件を一報入れると・・・
どうやら拾い主の秋田市の教師は、(恐らく形だけだろうけれど)取り調べを受けてしまったらしい。
申し訳ないんで、「いかにも東京!」といった絵柄のテレカを、拾い主宛に数枚送った。
その後の反応は何も無い。


【追記:2007/6/10】

タイトル及び文中の温泉名は間違っております。恥ずかしながら、今頃になって気がつきました。
【誤】御所掛温泉
【正】後生掛温泉
みちのくわらし】へ
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