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鹿殺し(1993GW)・前編
遠足前夜
時刻は午前2時。
4時起床の予定だったけど、んもぉ寝ちゃいられない!!
心は果てしなくウキウキなのだ。
速攻で身支度を整え、Shadowに荷物を積み込んで出発!!
目指すは新潟、そこからフェリーで小樽へ。
バイクでは2度目の、そして2年ぶりの北海道なのだぁ!!!
深夜の関越道をひた走る。
時はGW、まだまだ寒さが身に凍みる。
赤城高原SAでウドンを食って暖をとり、なぜかトラックの運ちゃんに励まされ・・
越後湯沢あたりでやっと空が白んできたと思ったら、いきなりの通り雨攻撃に身を凍えさせられ・・
それでも難なく新潟港に到着!!
待ち受ける北の大地を走る喜びに比べれば、多少の寒さなんか何でも無いのだ!!!。
もっとも、上越国境を越えたあたりで表示されていた6℃という気温は、道内滞在中には一度たりとも越える事が無かったアリガタイ暖かさであった事を、後にイヤと言う程知る事となる。
手続きを済ませ、ワクワクと乗船を待つ。
満席との事だったけど、バイクは僅か4台(1台は無人で、実質ライダー3人ですな)と少なく、それでも少数精鋭で無理矢理盛り上る事を誓い合っていると・・
「はぁい!バイク1台、まず乗船して」
待ってました!!とばかりに、真っ先にフェリーに向う。
このタイヤで次に踏みしめるのは、待ちに待った北海道の大地だぁ!!
などと意味も無くコーフンしながらタラップを駆け上がり、いよいよ船内に。
手を振って待ち構えている係りのオジサン、北海道までヨロシクねぇ!
「だぁめだよう!!勝手に入って来ちゃ!!」
な・なんですとぉ???そげなバカなぁ・・
地上のオジサンと船内のオジサンのトランシーバーによる激しい口論をオロオロと聞き、結局、一旦降ろされる事に。
嗚呼、また新潟の大地を踏み締める事になるとは・・
黙走
夜明け前の小樽港に。
船がかなり揺れ、少数精鋭盛り上り部隊はアッサリとお開きになったので睡眠時間は十分なハズだったけど、なじぇだか異常に寝不足感なのだ。
でも待ちに待った北海道だし、上陸しちゃえば気合が出る!
いったるでぇ!!!熱いぜぇ!!!!って・・
明け方の薄明かりの中に浮かび上がる山々は、キッチリと雪に覆われているではないか!!
ホントはゲロ寒いぜぇ・・
天気は晴れ。
羊蹄山の脇を走り抜け、洞爺湖を半周し、地球岬に辿り着いた頃には幾分温かくなってくる。
まあ、カラダが寒さに慣れてきただけだとも言う。
次なる目的地である襟裳岬を目指す。
苫小牧に至る国道を淡々と走るのだが、なんともキモチイイのだ。
「風景が素晴らしい」とか「何気に気分が良い」とか、そういう意味の気持ち良さではない。
バイクで一人で走っているので、ヘンな意味でのキモチヨサでも当然無い。
寝不足であり、何気に暖かみを感じ、適度な交通量でクルマの後ろを等速で、しかも延々と直線区間を走っている・・
そう。
「このままではヤバイ!!アブナイ!!」系のキモチヨサなのだ。
イケンイケンと思い続けるうちに、あたりは出ている訳の無い霧に包まれ・・
「ヴォオ〜ン!!!」
激しいクラクションの音!!
一気に現実社会に引き戻される。
うげぇ!!超目の前に迫り来るダンプ!!
見事に反対車線を走っていたのだ。
一気に目が覚める。
死ぬとこだったよう!!
ナウマン進攻
襟裳岬の午後3時。
気が付けば10時間も走っているではないか!!
フェリーが早朝着というのも考え物ですな・・
と思うのならば、さっさと宿に転がり込んで寝てしまえばいいのだけれど、切角だからと言うボンビー根性丸出しで、今日は池田まで辿り着かねばならない。
けっこう距離が有るし、眠さが復活しつつある。
それならば、絶対にイネムリなど出来ない道を走れば良いのだ。
ツーリングマップ(ツーリングマップルの前身。この頃はマップルは存在していない)に燦然と輝く『道内最長のダート国道』の文字、いわゆるナウマン国道を突き進むのだ!!!!。
オン車で、しかもアメリカンでのダート走行。
どうだ!!こりならばイネムリのしようが無いに違いないではないか。
広尾の街で給油し、いよいよダートに。
それなりに整備されたダートだとは思われるものの、一応そこいらのタクシーの運ちゃんに聞いてみる。
「どんな道ですか?」
「良い道だよ」
「どの程度に良い道ですか?」
「だから良い道だって!!」
サッパリ判らないよう。
いざ突入してみれば、いかにも舗装したてのハイウエイ状の道!!
ときおり見え隠れする旧道ダートと絡み合いながら、あっという間に終ってしまった!!
確かに、『良い道』以外に表現しようが無かったよう!!
な・なんだぁ・・
池田にて
本日のお宿である池田YHに。
到着して始めて判ったのだけれど、なんとも風変わりなYHではないか。
・ こじんまりとした、ペンション風。
・ 旅好きの若(?)夫婦がオーナー。しょっちゅう海外に旅立ってしまうため、長期休業に注意。
・ 素泊まり不可。宿泊者全員での夕食タイムを大切にしている。
・ そこで全員で記念撮影。再訪した時に見る楽しみがある。
・ グループでの宿泊不可。身内で固まってしまうから。
などなど。
受け止め方は人それぞれだろうけど、ワタクシは何気に居心地良さを感じたのだ。
この日のライダーは2名で、クルマで来ていたシトに便乗させてもらって十勝川温泉に。
ゴクラクゴクラク!!!
露天風呂でのルービは最高!!。
翌日に待っている不幸の前兆など全く感じる事も無く、シヤワセなひとときは過ぎていくのであった。
運命の朝を迎える。
もちろん本人は本日の不幸な出来事を知るよしも無く、ノンビリと朝のニュースなどを見入る。
『斜里沖で、ロシア船が流氷に閉じ込められている。砕氷船の救助待ち』
な・なんですとぉ?
流氷ですとぉ??
オホーツクの流氷は何度か眺めた事があるけれど、まさかGWの時期に流氷が接岸とは!!
網走あたりの海岸に打ち寄せられた、一塊の流氷に観光バスが群がり
「さぁ!!これが流氷(の残骸)ですよぉ!!」
などと言う光景とは全く違うのだ!!
ロシア船ですぞぉ!!
砕氷船に救助要請ですぞぉ!!
しかも、海岸から良く見える近さらしい。
こりは見物ではないか。
まさか冬の網走名物『がりんこ号』のような、チンケな観光砕氷船が救助に向っている訳ではあるまい。
そんなオフザケな船が向ったら、帝国ロシアが黙っちゃいるまい。
エリツィンだってプリマコフだってラスプーチンだってツタンカーメンだって怒っちゃうぞぉ!!
一部訳が判らないメンツが混じっちゃうほど怒るのだ。
という事は、マトモな砕氷船の出番ですな。
そんな作業風景など、一般庶民を続けている限りめったに見れる物じゃないではないか!!!
進路変更!!
オホーツクを目指すのじゃぁぁぁ!!!
鹿殺し
いったん東進し、養老牛温泉の「からまつの湯」に漬って体を温める。
これから向う、更なるゲロ寒地帯に備える為である。
次なる目標は裏摩周の展望台、そしていよいよオホーツクへ!!
快調にワインディングを駆け登るSHADOW1100。
道の両脇に雪が出現するものの、路面は全く問題なし。
程なく、裏摩周の展望台に。
おおっ!!昨晩一緒だったシトが居るではないか!!
十勝川温泉に便乗させてくれたクルマのヌシである。
「こんちは」「また会いましたね」
しばし話し込み、その人は一足先に斜里側に降りていく。
「よぉしっ。いっちょう追い上げてさしあげようかねぇ・・・」
このスケベ心がマズかった!!(TWなら、絶対にムリだけど)
下りのコーナーを、8〜90Km位で駆け降りる。
イン側がブラインドとなったコーナーに入ると・・・・・
ウゲゲゲゲゲゲ!!!
道路の中央に立ち止まったままの鹿!!!
思わず鹿と目が合った瞬間!!
全く見事に正面衝突。
ゴロンゴロンと路面を転がりながら、はるか前方にはバイクが滑って行くのが見える。
「嗚呼!滑るバイクは、なじぇにここまでセツなさを感じさせてくれるのだろうか・・」
などと考えながら、起き上がった途端にイキオイで再び転がる。
道路中央に倒れたままのSHADOW。
体育座り風のワタクシを挟んで反対側に、やはり倒れたままの鹿。
あたり一面は鹿の毛だらけである。
脳震盪でもおこしていたのだろうか。
やがて鹿はユックリと起き上がり、路肩に移動すると
「このやろう!!痛てぇじゃねぇか!!きをつけろ!!」
と言った雰囲気で、こちらにメンチをきりやがる!!
「にゃ・にゃにおう!!ケーサツ呼ぼうじゃねぇか!ケーサツ!」
「上等だぁ!!そっちがケーサツなら、こっちはクマ呼ぶぞぉ!」
「そ・そりは・・・・」
そんな会話がなされる訳はなく、程なく鹿はヤブの中に走り去る。
しかし、マジでクマはヤバすぎるぅ!!!
果して、これからどうなるのだぁ!!!
【一口メモ】
GWの北海道は、まだ冬と春の端境期である。
雪は道路の周辺から溶け始めるので、そこいらの草を狙って鹿などが道端に出現するのだ。
要注意ですぞぉ!!!
鹿は、威嚇して相手を逃亡させようとしたりもするそうなので、面白がって走る鹿にバイクで並走したら、いきなり体当たりされたヤツも居るのです。
クルマでも注意!!跳ねられた鹿がフロントガラスから飛び込んで来て、運転手が死亡する事故もあるそうです。
国立公園内で鹿を殺したりすると罰せられますが、交通事故の場合は不問だそうな。
その場合、鹿の死体も自由にして良いそうで、一体5〜6万円で売れるそうです。
斜里や足寄あたりで、「鹿買います」なる看板も見掛けました。
黄昏
いつまでも呆然とたたずんでいる訳にはいくまい。
重い腰をあげ、まずはバイクを起こさねば。
ヨッコラショ・・・
斜里側から登ってきたトラックが停止する。
「どうした?なんかあったんか?」
「し・鹿とぶつかりましたぁ・・・」
「ほ〜ぉ。ここいらじゃよくあるんだよ。大丈夫か?手ぇ貸すか?」
「大丈夫です。ほっといてください。」
「バカ言うでないっ。バイクは大丈夫かって聞いてんだ。もし動かなかったら、ここからどうするツモリだぁ!!」
「は・はぁ・・・」
「街までかなりの距離が有るんだぞ。クマに食われたいかぁ?あ〜ん?」
「イ・イヤですよう!!!」
トラックのオッチャンに見守られながら、被害状況を確認する。
・鹿とぶつかったと思われる、フロントフェンダーがベッコリ。
・タンクがベッコリ。ガソリンの漏れは無し。
・ステップやウインカーなどに擦り傷。
・曲がったフロントフォークは、その場で人力で補正。
・人間は、ジャケットに擦り傷、Gパンが破れてちょっぴり流血程度。
・荷物にも擦り傷。
よくもまぁ、この程度で済んだ物である。
オフ車が転倒のダメージに強いのは当然ながら、アメリカ製のアメリカンもなかなか打たれ強いではないか!!!
エンジンも難なくかかり、
「大丈夫です。自力で走れます。」
「そうか。気をつけてな。」
ふたたび独りっきりになる。
道路一面に散りばめられていた鹿の毛も、いつのまにか風に飛ばされてポツリポツリと残骸を残すのみとなっている。
ちょこっと摘み上げてみると、見かけによらず、物すごく剛毛であることを始めて知る。
知った所で何の意味にもならないけれど。
「ハァ〜・・・・・」
もう東京に帰ろうか・・・・
などと不意に思ったりしながら、徐々に傾き始めていく5月の裏摩周の太陽を見上げる。