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鹿殺し(1993GW)・後編


流氷に覆われたオホーツク

下山

 いつまでもここに居たって仕方が無い。
とりあえず斜里側に下る事に。
まさか鹿が再登場しやしないかヒヤヒヤしながら、幾つかのコーナーをクリア。
バイクも全く問題は無さそうだ。
徐々に速度を上げ、ゲロ寒いけど楽しい北海道ツーリングの感覚が戻ってくる。
トホホなタンクのヘコミはどうしようもないけれど、心のヘコミは徐々に収まってきたようだ。
程なく、神の子池の入口に到着。
テレビなどで報道されて有名になった、スーパー透明度の高い池である。
そこへの道はダートだったけど、ベッコリタンクには恐いものはない。
「今更コケたって、それが何だと言うのだ!!」
妙に強気に舞い上がり、オラオラズリズリと残雪のダートを突き進むのであった。

 再び山を下り、緑という集落に入る。
無事に人間界に戻って来たと一安心、心にも余裕が出てきたぞぉ!!
ふと見掛けた駐在所に立ち寄る事にする。
国立公園内で鹿を傷つけたから、いちおう報告するツモリなのだ。
「すいませ〜ん。鹿と事故ったんですけどぉ」
「なんだって?鹿はどうなった?」
「生きてました。走って逃げていきました。」
「そうか、それは良かった。」
「良かったって・・人間の方も心配しとくれよう!!」
「だって平気だったんだろ?だからここに居るんだろ?」
「ま・まぁ・・。で、届か何かを出す必要は無いんですか?」
「んなもんイラナイよ。もし鹿が死んでたとしてもな。」
「し・死んでてもですかぁ??」
「ああ。死体を持ち帰ってくれば、そこいらで買ってくれるよ。」

 何と言う事だ!!
トドメを刺してやれば良かったのだ。
そうすれば、タンク代になったかも知れないではないか!!
でも、果してバイクに積めたものだろうか。
ムリヤリ積めたとしたら、対向するバイクはさぞや驚くであろう。
「おっ、バイクだ。んじゃピースサインでも・・」
などと前を良く見ると
「ウゲゲゲゲ!!背中からピースが4本も!!阿修羅じゃぁ!!」
なんてことになりかねない。
鹿の足はもともとピースなのだ。


温泉治療

 流氷めざしての北上はひとまずオアズケにし、温泉を目指す事に。
目指すはオンネトー。
恐らく凍結しているだろうけど、それがまた神秘的であると聞いた事もある。
そりならば、ココロのキズを癒しに行くのじゃぁ!!
 ゲロ寒&ゲロ霧の阿寒湖畔を走り抜け、オンネトーのすぐ手前の野中温泉YHに到着。
まずは湯治場風のひなびた風呂場で体を温め、目指すはオンネトーから1Km程歩いた所にある湯の滝なのだ。
全面凍結のオンネトーを半周し、雪を踏みしめながら滝を目指す。
 おおっ!!見えてきた!!。
決して大きな滝ではないけれど、天然の露天風呂から滝が落ち、滝壷も天然の露天風呂になっているのだ。
さすがに滝壷は湯温が低く、とても入れる状態ではない。
『ナンタラカンタラという貴重な鉱物が発掘されました。だから上の湯船には入らないでね』などとカンバンが出ているけれど、かまっちゃいられない!!
オラオラと崖を登り、湯船に飛び込む。
湯船から遠く見渡せる大雪連峰の山々は純白で、なにかヒマラヤを思わせる神々しさである。
いやぁゴクラクゴクラク・・
と言う程ゴクラクでは無かった!!
やはりこちらの湯船もぬるいのだ。
果して湯船から出る事が出来るのだろうか・・
などと、真剣に悩まざるを得ないのであった。
 大いなる勇気を奮い立たせて風呂から出れば、いつのまにか滝壷あたりに憎っくき鹿が居るではないか!!
まさか裏摩周にいた鹿であるわけが無いけれど、無性に怒りが込み上げる
「キ・キッサマァ!!よくもしゃあしゃあと現れやがったなぁ!」
「おっ!なんだなんだ!!上の風呂に入っていやがったか。ニンゲンのクセに看板が読めなかったらしいなぁ」
こにくたらしそうにメンチを切って来る鹿!!
「にゃ・にゃにおぅ!この馬鹿野郎!!じゃなかった、鹿野郎!!」
思わず、雪玉などを投げつけてしまう、哀れな八つ当たりニンゲンなのであった。


オホーツクへ

 ショートカットのダートでカネラン峠を越え、陸別・留辺蕊などの街を通過して一気にオホーツク海側の街である湧別に出る。
左手の指でCの字を作り、グワッとヒキツッた感じに開いた形のサロマ湖。
その人差し指を突き進み、オホーツク海とサロマ湖を一気に観察しようとの作戦なのだ。
 完全に全面凍結しているサロマ湖は、まるでただの雪原の様相である。
一方オホーツク海は、沖合いにちょっぴり海面が覗くだけの氷のガレ場地帯。
海岸線には冷蔵庫くらいの氷塊がゴロゴロしている。
人差し指の先端に当たる場所のキャンプ場にたたずみ、なんともシュールな光景に見入る。
それにしても寒く、密かに狙っていた「流氷で水割り計画」どころではない。
一気に海沿いに下り、斜里方向を目指す事にする。
そこにはロシア船が待っているハズなのだ。
 流氷見物は接岸時期か離岸時期が面白いとされている。
完全に張り詰めてしまうと、ただの雪原にしか見えないので面白味に欠けるからだそうである。
そういう意味では、適度に海面を望む事が出来るこの光景はまずまずと言えるではないか。
過去にも流氷を見た事はあるけれど、まさかバイクで見られるとは夢にも思わなかったので、感激しながらハナミズをすすって走る。
 夕刻の網走の街を通過。
街中のあちこちで見掛けるロシア人(?)が、まるで異国を走っているような感じにさせてくれつつも、『カニ大安売り』などと、なぜか水着の怪しげなオネェチャンが描かれた看板に、再び日本に引き戻される。
再び、氷に閉ざされた海沿いを走り抜け、浜小清水YHに転がり込む。
すぐ隣りの「原生亭温泉」なるコーラ色の温泉に浸かって、やっと人心地・・
ふぅ。
昨日から連泊していた男によれば
「ロシア船は、今日の昼間に救助された。ずっと見ていたけど面白かった」
そうな。
一歩遅かった!!!
く・くそぉ!!!
流氷どおしがギシギシと擦れ合う音を聞きながら、なぜかUNO大会に明け暮れる夜が更けていく。

流氷と朝日


アイスピック

 次は知床を目指さねばならない。
前回は雪で通行止だった知床峠を通過する為なのだ。
この道、毎年GW直前に開通されるものの、降れば通行止・除雪しては再開通を繰り返しているのだ。
観光客誘致目的とはいえ、この時期の開通には無理があるようで、行ってみなければ通れるか判らない出たとこ勝負の道なのだけれど、果して今回は・・
山のテッペンまで続くように見えるスーパー直線国道を延々と走り続け、いよいよ知床半島へ!!
交通情報の看板が!!!
『知床峠・通行止』
ガァァァァン!!!またダメだぁ!!!
 なんのこれしき!そのまま前進!ウトロの街を越えて知床五湖へ。
雪に覆われた五湖を巡るものの、まるで雪中行軍!!
用意の良いシトはゴム長を履いている程なのだ。
これじゃ峠を走れる訳が無いと納得させられながら、グッタリと地面を見下ろせば、雪を割って流れる水辺にはミズバショウ。
いいねぇ。

 小雪の舞う根北峠から迂回して、再び半島をさかのぼって羅臼の街に。
羅臼YHに荷物を預けて更に先端を目指す。
海岸っぺりの磯に沸く天然露天風呂・セセキ温泉を目指すのだ。
「セセキに行くって?バケツ貸したげるから持ってきなよ」
これはYHのおばちゃん。
「バケツですかぁ?何の為にぃ?」
「あそこは満潮んときは水没して入れないんだよ。この時間は入れるけど、バケツで海水汲んで埋めなきゃ熱くて入れないよう」
な・なんとも凄まじい温泉ではないか!!
楽しみだぁ!!
地の果ての雰囲気が漂うセセキに到着。
おおっ!!あれがウワサの温泉だぁ!
柵も脱衣場も何も無く、先客であるライダー達がテトラポットの影でゴソゴソとパンツを脱いでいる。
こりまたイイねぇ!!
 バケツなど必用ではなかった。
オホーツク海ほどでは無いけれど、こちらも海は流氷の天下なのだ。
海面と氷原が半々くらいの割合で広がっている。
股間を隠して波打ち際まで凍え歩き、ブロック大の流氷のカタマリを抱えて来て湯船に投げ込むのだ。
氷を抱えている時は股間を隠す事は出来ないけれど、どうせ寒さで縮まっているから大丈夫!!
などとBAKA喜びしあいながら、目の前の国後島まで続く氷の道を眺める。
まさに、氷原に突き刺さった知床半島。
まったくイイねぇ!!

 湯上がりと同時に降り出した雨、凍てつく氷雨なのだ。
しまった!カッパは荷物と共にYHだぁ!!
手元にあるのはタオルとバケツといった戦力外なヤツラのみ。
覚悟を決めて走るしか無い。
全身ビッショリの凍えた体を、羅臼の熊の湯で暖める。
冷えた体には熱いこと熱いこと!!
でも、まずまずイイねぇ!!
 同宿者は2名、なんとダイビングに来た連中なのだ。
ダイビングのデカ荷物を抱えて現れた姿は沖縄あたりにでも似合いそうだけど、寒さに震えながら共にストーブを囲む。
やっぱりここは北海道なのだ。
「流氷の妖精」とか言う、例のコウモリだかミミズクだかに似た生き物が、流氷の下の海中で泳ぐ姿が観察出来たとのこと。
そ・そりは面白そうだけど・・ゲロ寒そう!!
あんまりイイ事ないねぇ!!


難民への道

 さらに海岸線を下り根室で宿泊。目を覚ますと再び雨!!。
今度はカッパが有るとはいえ、寒い事には変わりが無い。
さすがに太平洋側には流氷の姿は見当たらないが、徐々に消えていった流氷と反比例するように、一抹の不安が膨らみ始めていた。
じぇ・じぇにが無くなってきたのだぁ!!
 道内のどこかの銀行でおろそうかと考えていたのだけれど、ついつい先延ばしにしているうちに今日まで来てしまったのだ。
明日の釧路発フェリー、予約はしてあるけどチケットはまだ買ってない。
果してフェリーっていくらだったっけ?
いずれにしても、フェリー代ギリギリか足りない位の現金しか残っていないではないか!!
今日明日は祭日、果して銀行は開いているのか???
夕べ、根室の街で真剣に探しておけば良かったよぉ!後の祭りだよう!。
でも、釧路の街なら何とかなるのではとの期待を込めて、そそくさと氷雨の中を走る。

 北海道第3の都市である釧路。
ずっと辺境の地を走って来ただけに、スーパー大都会に見える頼もしさ!!。
夕方、駅周辺に辿り着いて見れば、銀行もウジャウジャ有るではないか!!
しかし・・
の・軒並み閉まっているぅぅぅぅぅ!!!
さまよう事しばし、遂に開いている銀行を発見だぁ!!
「札幌○○銀行」なる聞いた事が無い銀行だけど、とにかく頼むぜぇ!!
しかし、またまたしかし・・
「祭日は、他の銀行のカードはダメ」ですとぉぉぉぉ!!
とうとう銀行は撲滅。
銀行に見放された零細企業の社長様達に見習い、彼らが辿るお決まりコース、サラ金に頼るしか無さそうである。
そうと決まれば速攻に限る。
釧路市民はボンビーなのか、あっちもこっちもサラ金だらけである。
しかし・・くどいけどしかし・・
どこのサラ金も、窓口を閉めて機械だけの営業!!
初めての客を受け付けてくれないよう!!(注:当時はそうでした)
銀行にもサラ金にも見放された零細企業の社長様達は、結局ケーサツのお世話になる末路をたどるようである。
そりは見習う訳にはいかないけれど、別の意味でケーサツにお世話になろうではないか!!
カネを借りるのだ!!
「なにぃ?帰るカネが無い?決して口には出さないけどメンドークサイなぁ」
「そ・そんな事言わないで貸しとくれよう!ちゃんと返すよう!」
「JRにだって着払いって有るだろぉ?フェリー会社に頼んでみなよぉ。全然そんな事思っちゃいないけど、何か信用出来ねぇヤロウだなぁ」
「今日はフェリーが発着する日じゃないんで、窓口も閉まってますよう!」
「んじゃ明日の朝に行けば?。黙っちゃいるけど、ウザい野郎の相手は疲れるねぇ」
「交番には、そういう困ったシトの為のカネが有るって言うじゃないですかぁ!」
「有るけどね。これはせいぜいそこいらへんまで帰る人用で、一人に大金は貸せないよ。誰にも言えないけど、コッソリ使い込んじゃったしねぇ」
全くラチがあかないのであった。
(注:上記会話は、一部フィクションも含みます。念のため)

 この寒さ、野宿という訳にも行かず、貴重な残金で釧路YHに泊まる。
もちろんメシ抜きである。
ベッドの上に小銭までブチまけて残金チェック。
もし足りなかったら・・
本州に戻るには絶対どこかでフェリーに乗らねばならず、ガソリン代は必須だしメシも食わねばなるまい。
高速代も高いから東北地方は下道を走るしか無いよう!!
そんな調子じゃ有休も延長だし。
トホホホホ・・
 翌朝、フェリー乗り場に。
不安げに料金表を見上げると・・
やったぁ!!足りたぁ!!帰れるぞぉ!!。
小銭を混ぜてジャラジャラと払い、残ったゼニは300円!!!
泣けるぜ!!


さらば北海道

 何はともあれ帰れるのだ!!
大船に乗ったツモリで出港を待とうではないか!!
実際にはまだ乗ってないけど・・
乗船を待つライダー達で多いに盛り上る。
話しを聞くと、上には上がいるものであった。
鼻バンソーコーの兄ちゃん、昨夜から釧路港でテントを張っていたそうなのだけれど・・
「スイマセーン!!起きてますかぁ?」
早朝に、イキナリテントの外からの声に叩き起こされる。
テントを這い出すと、
「お金貸して下さい。足りないんですぅ!!」
そこにはジェベルのおねぇちゃん。
寝ぼけながら、思わず貸したそうな。
すると、
「ボクだって、フェリー代払ったら1000円しか無いですよぉ」
これはCBR250のアンチャン。
「でも、キャン待ちなんですよぉ。乗れなかったらヤバいっすよぉ」
おおっ!!
理由は違うけど、ちょっと前の自分と同じではないか!!
そりは凄いけど、彼は別の意味でも凄すぎる!!
なじぇかCBRのミラーには、割り箸の添え木が・・
「これっすか?来る時の東北道でコケちゃったんですよ。雨が凄くて、100Kmくらいで走ってたらスリップしちゃって」
それでも北海道まで来るかぁ!!!

 割り箸どころでは無いシトも。
セセキで一緒だったTDR氏もやってくる。
「また会ったねぇ。セセキで聞き忘れたんだけど、タンクどうしたの?」
ゲゲゲゲゲ!!鹿とぶつかって以来、必ず凹んだ部分を隠す方向に停めていたのに、キッチリとバレているぅ!!
「そ・そりは鹿と・・(中略)。そういうTDRもウインカーがヘンじゃない?」
そう。
なぜか前のウインカーが、片方は丸、もう片方は四角だったのだ。
「ああ、これね。イネムリしてタンクローリーにオカマ掘っちゃってね。道内のホームセンターでテキトーなの買って来て付けたんだよ。」
これが笑っちゃうのだ。
スイッチも壊れたらしく、市販の波形スイッチを買って自分で配線しなおしたそうな。
左右のランプに1個ずつ、ただ単にスイッチを繋げただけなので、ウインカーは自分でスイッチをオンオフさせて点滅させるそうな。
「両方同時にやればハザードだよぉ」
そんな事をしてたら、またオカマを掘りそうである。

 バイクは無傷でも、人間がイッちゃってるシトも居る。
「あたしねぇ、北海道がこんなに寒いとは思わなかったのよぉ。北海道は梅雨が無いって聞いたから、カッパも持ってこなかったしぃ」
チ・チミはナニモノ???
「寒いから、雨の日にコンビニ袋を被って震えてたのよ。そしたら、通り掛かりのライダーがカッパくれちゃった!!1個余ってるからって」
フツー、カッパなんか余ってるもんかぁ!!
何か下心でも??
「速攻でそのカッパ着て、御礼だけ言って走って逃げちゃった」
ふ〜ん・・としか言い様が無い。
(ちなみにこのオネェチャン、後に貰った手紙によると、道内滞在中に親から捜索願いを出されてしまっていたとの事)


 何はともあれ、船内には出港のドラが響く。
残金300円の中から200円を払い、CBRアンチャンから余ったカップ麺を売ってもらって食料を確保。
フロ上がりのビールはオアズケしかない。
行きのフェリーのゲーセンで使っちゃった400円が勿体無いよう!!
冷水機よ、仲良くしようぜぇ。
 徐々に釧路港の岸壁を離れるフェリー。
反対側の埠頭には、なぜかゾクが集結しているではないか。
10台ほどのクルマが集まり、例のパラリラ音を響かせながら船に並走したり、こちらに向ってパッシングをしまくったり・・
そして一斉にこちらに手を振り続ける。
思わず皆で手を振って答える。
誰かがつぶやく。
「あいつら、きっと東京に行きたいんだぜ」

 フェリーは防潮堤の外に出て、タグボートはゆっくりと旋回しながら港に戻っていく。
埠頭の突端では、相変わらずゾクがライトをピカピカさせながら、ちぎれんばかりに手を振り続けている。
そんな彼らと共に、波瀾万丈だった2回目の北海道が遠ざかって行く。


船上でくつろぐ、少しヘンな人々

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