「週末の放浪者」TOPバイク旅聖地・北海道>とにかく北へ!! 前編

とにかく北へ!!(1991GW)・前編


摩周湖

バイクに乗り始めたからには、何はなくとも北海道を目指さねばなるまい。
それは理屈では無いのだ!!!
行くったら行っちゃうのだ!!。

時はGW、誰もがウキウキと西へ東へ旅だって行く季節。
北海道も魅力有る候補地の一つ!!
でも・・
冷静に考えれば桜前線を追い抜いてしまう訳だし、雪に降られる事だって有る。
関東あたりでの冬のツーリングに行く覚悟&装備が必用なのだ。
それさえ承知すれば夏の様に混んでないし、その季節ならではの北海道を楽しめるのだけれど・・
結構居るのだ!!
気候を勘違いしちゃってる連中が!!

まあ、そんな連中を待ち受けているのは、考えても居なかった「過酷な寒さ」「雪の恐怖」なのだけれど、実はワタクシ、そんな哀れな連中の一人だったのです。



STEED400に荷物を積み込み、まずは目指せ青森!!
意気揚々と東北道へ突入する昼下がり。
冒頭の意気込みや「意気揚々」という表現の割には、なぜ昼下がりだって?
まあ、普通こういう場合は「会社を抜け出して一気に」とか「日の出と共に」と言った言葉が似合いそうだけど、前の晩に飲みすぎて起きれなかったのだからしょうがない。
ワクワクするけどガンガンする頭をかかえ、とにかく北へ!北へ!北へ!!!

仙台を過ぎ、例の「東北道中間地点」のカンバンを見る。
これだけ走ってきたのに、まだ半分かぁ!!
などと、良くあるパターンのショックを受ける。
覚悟していたとは言え自走はキツい!
フェリーに乗りたく無い訳ではなかったけれど、当時は予約無しでは乗れないものだと思い込んでいたのだ。
そして、盛岡で力尽きる。



翌朝、引き続き東北道を北上!!
道が山の中に入るとちょっぴり寒い。
それもそのハズ、弘前あたりで満開の桜を見る。
ここでやっと、これから我が身で味わうであろう寒さとの戦いに始めて気づく、アタマワルさであった。

まさに終着点といった雰囲気の青森ICを抜けると、ちょっとしたパーキングが有る。
う〜!冷えるぅ!トイレトイレ・・

談笑している二人のライダー。
一人は職人風兄ちゃんのセロー、もう一人はハーレーに乗った40代後半くらいのオジサン、とてもツレには見えないと思ったら、別々に北海道を目指す途中で、後先になりながら夜の東北道を爆進してきたらしい。
走行中に虫の直撃を受けてメットのシールドが真っ二つになったというハーレーおじ、

「いやぁ、娘が高校を卒業したんで、もう子育ては終了!ハーレーを買って一人旅を楽しむ事にしたのだ!!」

と、豪快に笑う。
ホンネは娘とタンデムで旅をしたかったらしいのだけれど、ちょこっと乗せただけで強硬に拒絶されたらしい。

3人で青森港に。
待つ事も無くアッサリとフェリーにも乗れ、2等部屋に転がる。
次に走るのは、初めての北海道の道だぁ!!
いやがおうでも気分は盛り上る。
カンパァイ!!!。
セロー兄ちゃんだけは落ち着いたもので、

「俺はキャンパーだから、入れる時に入っとかなきゃ」

などと、風呂に消えて行く。
今日のテン場はニセコの山中だそうだ。




遂に函館に到着!!
いよいよ上陸だぁぁ!!

係りのオジサンに

「はいっ!バイクすぐ出て!早く出て!出ろったら出て!!え〜いっ、出やがれ」

なぜか異常に急き立てられて慌てて発進。
後方から聞こえてくるハーレーおじの

「だ・暖気をしないとエンジンがぁ!!ノッキングがぁ!!」

といった叫びを気にしているうちに、気が付けば北海道の大地に。
それが、夢にまで見た初上陸の瞬間であった。



セロー&ハーレーと別れ、R5を北上。
函館郊外の町並みを走っているだけなのだけれど、ここが北海道だと思うだけで、気分はメロメロ!!
さっそく対向バイクとピースを交し、んもぉウキウキ!!
以前、アメリカンに乗っていた先輩から

「いいか?アメリカンは派手なピースは似合わない。グリップを握ったまま、軽く指を2本立てればいいんだ。それが絵になるのだ!!」

などと言い聞かされていたのだけれど、「アタシそんなんじゃガマン出来ない!」状態、手を振るような見苦しいピースを繰り返す。
そんな過熱したハシャギを押さえんばかりに、怪しかった空模様は遂に雨を降らせ始める。



カッパを着たって心ウキウキには変わらないけど、時間の経過と共に徐々に冷え始める。
雨と霧に包まれた長万部を過ぎ、夜の気配が漂ってきた頃の「洞爺まで10Km地点」で、本日の宿のYHに予約のTEL。
宿泊はOKだけど、もう夕飯は間に合わないとの事だったので、国道添いのこじんまりとした食堂に入る。

「いちいちカッパ脱ぐの面倒でしょ?そのまま座っていいわよ」

おおっ!なんて優しい店なのだ!!
これが北海道の人情かぁ!!」

感激ひとしお!
カツ丼を食べながら、ここからそう遠くないであろうYHの位置を地図で確認。
温泉付きのYHだし、冷えた体を温めるには最高だぁ!!

ブブブブブブ!!!お茶とハナミズを一気に放出!!
な・なんてこったい・・

そう。
TELしたYHは登別、そしてここは洞爺の手前。
洞爺湖温泉と登別温泉の位置関係を思い違いしていて、登別は60km以上も先だったのだ!!



まあいいや。
冬用でも防水でも無い、絞れば水が滴るグローブを再びはめる辛さ。
走り出せば、益々と冷たさが凍みてくる。
ほどなく洞爺湖との分岐点、泊まるYHを変えようかとも頭をかすめたものの、カッパを脱いでガイドブックを取り出すのも面倒くさくなってそのまま直進。

完全に夜となる。
信号で止まると震えが来る恥ずかしさを感じながら、室蘭の街を通過。
行ってみたかった地球岬に向かう気力など無く、「登別まで○Km」といった標識を、必要以上に気にしながら走る。

やっと登別に。
這いずる様な気分でYHに入る。
食堂で茶を吹き出してから1時間ちょっとの道程だったけど、まるで何時間も走っていた様な冷え込みに、手が震えて宿泊カードに名前すら書けない状態での到着であった。




朝になって雨は止み、とは言えいつ降ってもおかしくない天候である。
夕べ寒さに震えた為か、上陸時ほどのウキウキ感が無いまま出発。

初めて北海道を走るライダーの予定を聞くと、かなりの割合で「東西南北あっちこっち飛び回りのワープ型」が多い。

「絶対に2度3度と行く事になるから、もっとジックリと楽しんだ方がいいよ」

と言って聞かせても聞く耳を持たない連中が多いけど、もちろんワタクシも、そんな連中の一人だったのだ。
今日は道東だぁ!!摩周湖だぁ!!!



降ったり止んだりの天候の中、日勝峠を越えねばならない。
目の前の山々はドンヨリとした雲に覆われ、YHのオバチャンが言っていたセリフ

「GWじゃ峠は雪になる事もある」

を思い出し、心もドンヨリとしてくる。
なんたって、

「冬の日勝峠越えは最大の難所である」

と、聞きたくない事まで聞かされてしまったのだ。

峠越えを前に給油。スタンドのオヤジから情報を・・

「寒い中タイヘンだねぇ・・」

「えっ・ええ。あのぉ、峠はもっと寒いでしょうねぇ・・」

「そうだねぇ」

「ゆ・雪なんか降ってませんよねぇ・・」

「そうだねぇ。降ったら困るねぇ」



何の役にも立たない会話を交し、いよいよ峠越え。
いつのまにか霧が発生し、高度を増すごとに視界が悪くなる。
寒さも増してきているようだ。
コーナーの向こうには雪が待っているのではないか?
といった不安と、そうではなかった安堵を繰り返しながら、遂に峠に到達する。こ・こ・こりは!!!!!

晴れ渡る、抜けるような青空!!
ここまでのダークグレイの雨雲とは違う、ノドカに浮かぶ白い雲!!
眼下に広がる十勝平野!!
まさに北海道の光景がそこに広がっているではないか!!!




峠を下ると、日差しが暖かい。

「ザマアミロ!カッパ!!キサマなんかに用は無い!!」

シヤワセな気分で帯広の街を抜け、更に東を目指す。
豊頃のハルニレの木は丸裸状態で全然それらしく無かったけれど、そんなのどうでも良いのだ!!
気分は春の北海道なのだ!!!

白糠あたりから見える海の景色もサワヤカに、一気に釧路に。
弟子屈に抜ける道道に入り、釧路湿原の展望台で一休み。
ウキウキ感は、上陸当初どころでは無く、最高潮に達しつつあったのだが・・



穏やかな岡をクネクネ曲がりながら北上し、弟子屈まで10Kmを割ったあたりで、その異変がやってきた。
天候の悪化を感じるよりも先に、いきなり襲い掛かる豪雨!
そして台風の様な強風!!
これはいったい!!!!

風雨を遮る物など何も無い丘陵地帯。
カッパを着る間もなく全身ビチョビチョ!!
停まる事も躊躇してしまう状況に陥ってしまったのだ。

「カッパァ!さっきはゴメンよぉ!やっぱりキミは必用だァ!!!」

そんな心とは裏腹に、一刻も早くこの理解不能な状況から抜け出したく、カッパも着ずに走り続ける。

弟子屈の街に入っても、天候が回復しているどころかトラックがひっくり返っている有り様。
やっと辿り着いたYHに逃げ込めば、昨日以上に文字を書く事が出来ない指先。
そして、断続的に訪れる停電。



激しい風雨の攻撃に、耐え切れずにガタガタと暴れる窓!!
どこから入って来るのか、悲鳴の様な隙間風の音!!
まさかバイクが吹っ飛ばされやしないだろうか。
将棋倒しになってたらどうしよう・・

何回目かの目覚め、まだ夜中である。
風も幾分弱まり、雨の音が聞こえなくなった事に気が付き、思わずバイクの様子を見に表に出る。



摩周湖に近く、人気スポットでもあるYH。
あの天候を走り抜けて集まってきたバイク達は一台残らず倒れる事無くふんばり続け、いつのまにか現れた満月を、それぞれのミラーの中に輝かせているのであった。


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