「週末の放浪者」TOPバイク旅聖地・北海道>とにかく北へ!! 後編

とにかく北へ!!(1991GW・北海道)・後編

宗谷岬
  快晴の摩周湖YH。
嵐の様な一夜が嘘の様に、遠くの山々までもが5月の空にクッキリと映える。
よぉしっ!!これならば、全く霧の無い摩周湖が拝めるぞぉ!!
YHを出発し、摩周湖への登り坂を駆け上がる。
そこに待ち受けていたものは・・
登る事数分、路肩に雪が現れる。
そうか、夕べの雨、山上では雪だったんだ。
更に高度を上げるに連れ、路肩の雪の量が増える。
やがて道路中央(上下線の分離ラインあたり)にも現れる雪…
「こ・こりは!もしかしたらヤバいかも!!!」
遂には、ワダチ部分を残して、路面全体が雪に覆われる形となる。
積雪は15cmを越えているであろうか。
こうなってしまってはUターンも出来ない!!
とにかく広くて平坦な場所まで行かなければ!!!
 ワダチの幅も徐々に狭くなり、タイヤ幅と等しいくらいになった頃、摩周湖第三展望台の駐車場に到着。
迷わず駐車場に突入するものの、そこはシャーベット地獄となっていた。

 予想どおり、霧どころか全く遮る物も無く、「無修正版マスターテープ」クラスの展望を見せる摩周湖。
永く語られている俗説に
「初めて見る摩周湖に霧がかかっていなかったら、男は出世出来ず、女は結婚出来ない」
というのが有るけれど、今回で4回目だから大丈夫!!
それにしてもここまで晴れ渡った摩周湖は始めてですなぁ・・
などとアホな事を言っているバヤイでは無いのだ!!
目に映る風景への感慨よりも、イキオイで入って来た駐車場からの脱出方法に、思考能力の95%は費やされていたのだ。
 風景を楽しむ時間ももどかしく、素早く駐車場に戻る。
シャーベット化した雪に覆われた駐車場からの脱出作戦が待っているのだ。
恐る恐る両足を着きながらバックする。
おおっ!!ブレーキをかけても停まらない!!
アクセルを開けると簡単にスリップだぁ!!
一歩も進めないよう!!
ど・どうしよう…
 駐車場のあちこちで雪かきをしていた係りのオジさん達4名が、方々から無言で集まって来て、ケツを押えたり押したりしながらバイクを脱出させてくれる。
た・助かったぁ!!

 異常にウンコ臭かった田和平まで往復し、再び弟子屈の街に。
そうだ!これから摩周湖を目指す連中に忠告しといてあげねば…
YHに戻り、数台ほど集まっているバイクに声をかける
「これから摩周湖に向かうシトは居る?」
するとVFR400が
「今、行ってきたんですけどぉ!タイヘンでしたよぉ!!雪で。係りのオジサン達に助けてもらいましたよぉ!!」
にゃ・にゃるほど。
皆同じ運命を辿っていたのね。
どおりでオジサン達がバイク救出に手慣れていた訳だ・・


 屈斜路湖を回り、北海道でも屈指の展望ポイントと言われる美幌峠へ。
ここへ来るのは始めてなのだ。
学生時代の冬にバスでここを目指した事があったけど、吹雪の為にバスが運休してしまい、諦らめきれずにヒッチハイクで目指したものの……
 バスが運休する位の天候時に展望が期待出来る訳も無く、従ってここを目指すクルマも無く、挫折して泣きながら阿寒湖に向かってしまったのであった。
ほどなく峠に到着、屈斜路湖を見下ろす。
湖の周囲が殆ど開発されていないだけ、道東ならではの、原始から変わらぬ風景にしばし釘付けとなる。
更にクッシーなどを探していると・・
「記念写真はいかがかな?」
おおっ!!
背後から忍び寄ってきた老人、アイヌの民族衣装に身を包んでいる!!
一体ナニモノだぁぁ!!
 何気に立てかけられた看板に「酋長と一緒に記念写真を撮りませう」といった内容が書いてあるではないか。
そういう事ですか、沖縄あたりの観光地にもありますな!
もっともそちらはオネエチャンだけど…
おんやぁ?
よくよく見れば、似たような酋長が3人も4人も居るではないか!!
あんたら何処の酋長だぁ!!
ホンモノは誰だぁぁぁ!!言ってみろぉ!!!

 石北峠を越える。
本州の峠のイメージは
「民家が途絶える→いきなりコーナーの連続の登り→峠」
そんな感じなのだけれど、ここは全く違うではないか!!
街並みが途絶えてから、延々と続く原生林の中の平坦な直線。
これでもか!!と言うほど進んで、タコ部屋労働で多くの犠牲を出したと言うイトムカ鉱山痕あたりからやっと峠らしくなる。
タコ部屋に消え、帰りにこの道を通る事の無かった労働者達が登った頃と、何も変わらぬ風景なのであろうか。
そんな道にも、シッカリと登場する面パト!!
犠牲となったクルマと共に路肩に停まっている。
こりはクマよりも恐ろしいぞぉ!!!
峠の頂上のパーキングで休んでいるライダー達に面パト発見の一報を入れる。
「急カーブ注意!!」などと看板が有っても、本州ではバリバリ高速コーナーだったりするこんな道で捕まったら、一体何キロオーバーになるか考えただけでも恐ろしい。

 大雪湖・層雲峡と走り抜け、旭川の街をパスして北上し、宗谷岬を目指すのだ!!
なにやら小説で有名になったらしい塩狩峠を登る。
それほど大きな峠ではなく、直線的な登りで割とアッサリ頂上へ。
ここには温泉ホテル併設のYHがある。
従ってそのYHの風呂はモチロン温泉!!
メシは毎晩ジンギスカンというアリガタさ!
まだ時刻は16時にもならないけど、通過するのは勿体無さすぎる。
もっとも、体が芯から冷え、これ以上走る気にならなかったのも事実である。
 宿泊者が少なかったためか、YHの設備ではなくホテルの和室に入れられる。
入れられたというよりは、入れてもらえたと言った方が正解であろう。
ちゃぶ台にはお茶セット、テレビやコタツまである。
同室者は6名、みな初対面どおしのライダーであったけど、何となく連れ立って旅館に泊まっている気分なのだ!!
ホテルの大浴場に浸かり、当然ルービだって買えるのだ!!
これはシヤワセ!!
 お楽しみのジンギスカン、質より量で大満足!!
食後のひとときは、部屋でゴロゴロと転がりながら雑談、まさにグループ旅行のノリ!。
やがてテレビでは天気予報が。
「なんか良くないね。気温も低めだってさ…・」

どんよりと曇った、肌寒い朝。
北へ南へとそれぞれの道を目指すライダー達。
「礼文に渡る人、居ますか?島を出る日は朝飯食わない方が良いですよ!!ボクは食ったばかりのメシ、速攻で船のトイレに消えましたぁ!!」
そんなオドシ(?)をホザいていたGPZ君、なぜかクーラントがダダ漏れになっている!!
「こ・これじゃヤバイっすよねぇ!!」
「こんだけ寒いから、クーラント液無しでも平気じゃない?」
「マ・マジっすかぁ?」
そんな会話も出るほど、冷え冷えとした朝の別れのひとときであった。


 国道を北上。
西部劇の様な、ゆったりとした造りの街並みを幾つか通過し、道端で休んでいるハーレー2台と手を振り合いながら原生林の中を走る。
そのあたりで遂に雨!!!
ポツポツながら冷たい雨。
ついに来やがったか…・
カッパを着ているうちに、先程のハーレーが通過していく。
 咲来峠の登り、雨は本降りとなる。
前方からやってくる1台のバイク。
弱々しくピースサインでもするかぁ……
などと考えていると、なんとも力強いガッツポーズを送ってくるではないか!!!
それはまるで
「ヒドい天気だけど頑張ろうぜ!!」
そんな言葉が伝わってくるようで、すこしだけ元気が出る。

 オホーツク海に出て、相変わらずの雨の中を更に北上。
枝幸・浜頓別といった街を淡々と通過。
気分は、ツーリングを楽しんでいると言うよりも、何かの義務感に縛られての北上という気さえしてくる。
程なく、ミゾレが混じり出す。
 もう街と言うべき集落は無くなり、まさに原野の行進である。
ふいに現れた信号で停止した途端、力無くエンジンが停止!!
ガス欠にしては早すぎるのだけれど…
 コックをリザーブにしてセルを回すと、再びエンジンは動き出す。
おかしいなぁ。
妙に燃費が悪かったなぁ。
さて、ガソリンスタンドが有るような雰囲気じゃないし、どうしよう。
まあいいや、何とかなるだろう。(実は、オーバークールだったのだ)
 やたらと目につく「自衛官募集」の看板さえも遂には無くなり、まさに地の果ての様な、木が一本も生えていない海沿いの丘陵地帯を進む。
不意に視界に入るガソリンスタンド!!
おおっ!このような場所に?とりあえず給油を!!!。
ガソリンは大した量は入らななかったものの、貝殻で作った「交通安全」のお守りと、「最北端給油証明書」なる紙切れを渡される。
そう。
ここは宗谷岬すぐ脇のGS、いつのまにか最北端に到着していたのだった。

 ミゾレ混じりの雨の中、時刻はまだ14時だというのに、気温表示は2℃!!!
岬の公衆便所の軒下で一人震える。
走っている時よりはマシとはいえ、耐え難い寒さなのだ。
そんな真横に乗り着けて来て停止した一台のクルマ、にいちゃん&ねえちゃん連れである。
クルマから降りたねえちゃん、
「いやだぁ!!寒いぃぃぃぃ」
などとホザきながら、にいちゃんの腕にしがみつく。
「にゃ・にゃにおう!!オマエラなんかに寒がる資格は無いっ!!」
ついつい叫びたくなる、昼下がりの宗谷岬なのであった。


 稚内のYH、午後3時の到着である。もうこれ以上は走る気がしない。
速攻で風呂に入り、やっと人間界に復帰した気分になる。
「あれ?別人になったじゃん!!」
などと同宿者にひやかされるほど、凍り付き強ばった顔をしていたのだろうか。
やがて、典型的なYHといった感じの夕飯の光景。
あれ?あそこに座っている姐さんは!!!。
そう、夕べのYHで、共にジンギスカンを囲んだ姐さんではないか!!。
「あら!また会ったわね。今日はヒッチハイクでここまで来ちゃった!!」
何ともたくましい姐さん、その行動力は国内だけにとどまらないとの事。
何カ国も訪ね歩く旅を重ねるうちに、ふいに北海道が恋しくなったと笑う。
姐さん曰く
「YHに一人で泊まる年齢か?」
的な視線をヒシヒシと感じるらしい。
こういった生き方をする女性に対する偏見は少なくないのかも知れないけれど、なんともカッコイイ姐さんではないか!!

 最北端の街で迎える朝、今日も冷え込んだ曇り空。
もう北上すべき道は無く、今度はひたすら南下を開始する。
ときおり小雪が舞い落ちるサロベツ原野を抜け、ちょっぴり寄り道し(というには、かなりの距離が有るけれど)、晴れたり吹雪いたり(?)の霧立峠を越える。
国道脇の雪を割って咲いている水芭蕉を眺め、朱鞠内湖まで往復。
さすがに5月の日差しは頼もしく、路面の雪はあっという間に湯気となって消える。

 ここ数日、16時前のYH入りが定着してしまっている。
今日もご多分に漏れず、早々と、日本海を望むYHに飛び込む。
あまりこの季節に宿泊者が多いとは思えない地域なのに、予想に反して賑わっているではないか!!
と思ったら、どうやら今日は常連達が集まる日らしい。
ライダーは他に誰も居ない。
内輪的な話題について行けずに一人で風呂へ。
風呂の窓から、巨大リュックを背負ったモンキーが、YHを目指して走ってくるのが見える。
本日2台目のバイクだぁ!!
仲良くしようぜぇ!!!
やはり冷え切っていたのであろうか、荷物を降ろすや否や、速攻で風呂に飛び込んで来る。
「あ〜!!生き返りますわ!!!」
「寒かったでしょ?」
「肩に鉄が入ってる気分ですねん。それに、死ぬほど眠いですわ!」
寒さだけでは無かったらしい。
キャリアの無いモンキー、全ての荷物を背負ったままで、大坂からひたすら走って日本海添いに北上!!
青森・函館間だけフェリーで眠り、降りてからここまで再び走りっぱなしだったそうな!!!。
彼もここの常連だそうだけど、一泊しただけで再び同じコースを同じ走りで大阪まで帰るとのこと!!
すごすぎるぅ!!!

 風呂から出ると、またまた姐さんが居るではないか!!
今日もヒッチハイクで南下してきたそうだ。
結局常連では無いのは我々二人だけ。
常連達の懐かしがりトークの輪から離れて旅談議などで盛り上りながらも、シッカリと常連様のごしょうばんに預かり、本日のみの特別メニュー『手巻き寿司』を頂く。


 朝、留萌行きのバスにのる姐さんを見送り、本格的に南下を開始!!
あとはひたすら帰るだけなのだ。
「ひたすら」と言っても2泊3日の予定なので、大阪モンキーが聞いたら笑う、というよりウラヤマシがるであろうか。
 眺める海は日本海から太平洋に変わり、上陸時にはあれほど旅情を感じたのに、今は一地方都市にしか見えない函館に到着、野辺地行きのフェリーに乗る。
たまたま丁度良いタイミングだったから乗った船だけど、青森行きに比べたらちっぽけな船!!
大荒れの津軽海峡で木の葉の様に揺られ、デッキから遠ざかる北海道を眺めるどころでは無い。
大きく揺れる度に、狭い船内に響く叫び声。
ドドーン!!
「おおっ!!」
ドドーン!!
「おおっ!!」
船室の左右の窓から、海と空が入替わり立ち代わり見える。
本州再上陸は、まるで漁港の様なちっぽけな港であった。

 ヘロヘロになって、三沢のYHに泊まる事に。
夕食後のひととき。
何となく、北海道で出会った人々とは人種の違いを感じながら、東北を旅するおねえちゃん達とトランプをして過す。
唐突に一人が、
「ねえ!そろそろよぉ!!外に出ましょう!!」
何が何だか訳が判らないまま、表に引きずり出される。
暗闇の中、数百メートル先を、長い編成の夜行列車が走りぬけていくのが見える。
遮る物も無く、いつまでも連なりながら移動していく灯り。
最後の一点になるまで列車を見送りながら
「どぉ?どぉ?『銀河鉄道の夜』ってこんな感じでしょ?ねえ、素敵じゃない?」
そうか、北海道の北の大地から、東北・童話の世界に来たんだなぁ……

 桜前線とすれ違い、無限に続く様な東北道の南下。
福島あたりでさえ、もうご近所まで戻ってきた様な気さえする。
そう言う意味では、既に庭先の様な佐野SAで一休み。
そこへ……
あれ?あの姿は!!!
おおっ!!行きの青森→函館フェリーで一緒だった、職人風兄ちゃんのセローではないか!!!!!
でも、なんかバイクの形がヘンだぞぉ??
よくよく見ると…
フロントフェンダーが無い!!
正確に言えば、殆ど根元から折れている!!。
「よぉ!!久しぶりぃ!!北海道はどうだったぁ?えっ?フェンダー?そうそう。雪ん中で寒くて眠れなくてよう、イネムリ運転でカマ掘っちまった!ガハハハハ!!」
どういうツモリか、折れたフロントフェンダーを背負ったまま笑う職人風兄ちゃん。

 延々と走り続けて到着した佐野SA。
あたりには既に北海道を思い出させる物など何も無いけれど、唐突に北海道の風を運び込んできた職人風兄ちゃん。
この兄ちゃんを始め、あちこちで出会ったツワモノ達や様々な出来事。
色々と勇気付けられ、そして自信を持つ事が出来た日々が再び鮮明に蘇る。
こうして、初めての北海道ツーリングが終ろうとしていた。

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