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ぶりぶち探訪(2006夏・波照間島)その1


最南端の碑

ハジッコは招く

旅先として、やっぱりハジッコってのは気になるポイントなのだ。

日本のハジッコを考えてみると、北ならば宗谷岬がアタマに浮かぶ。
何しろゴリッパな最北端の碑まであるし、その近くのガソリンスタンドで
「最北端給油証明書」なんてのもくれちゃったりする。
最果てという情緒で競えば、「最北限」などとPRしている礼文島のスコトン岬だって負けてはいない。
ただしスコトン岬の情緒には、大きな落とし穴があるのだ。
最北限と記載された絶壁の上の手すりにもたれ掛かり、
「ああ、北のはずれだぁ」
などと感傷に浸っていると・・・
おおっ、見てはイケナいカンバンが!
『この先に民家があります。石を投げないでください』
ほ・北限より先に民家があるですとぉ?
なんじゃそらぁ!
ってな訳で、やっぱし緯度が勝る宗谷岬をハジッコに認定しようではないか。

しかし本当の最北端は、択捉島のカモイワッカ岬である事を、日本国民は忘れてはダメなのだ。
いわゆる北方領土なので、ワタクシのような一般人にはオイソレと行けないのが残念だ。
東のハジッコの南鳥島、南のハジッコの沖ノ鳥島へ行くのも事実上困難で、
確実に行けるハジッコは、最西端の与那国島だけと言う事になる。

無いものねだりしても仕方が無いので、現実的に行く事の出来るハジッコを考えようではないか。
やっぱし北は宗谷岬、東は根室の納沙布岬で、この2つはワタクシも制覇している。
南は沖縄の波照間島で、コレが今回の旅の目的地なのだ。

慌しく那覇で飛行機を乗り換え、石垣島で1泊し、朝一番の船で波照間島に渡る事にする。
八重山の大都会である石垣島で、ウマいモノを食いだめしておく作戦だ。
一般的に、南国系の離島の宿に豪華なメシを期待すると、ガッカリする事になる。
それはアチコチで学習済みなのだ。
もちろん高級リゾートに泊まれば話は別なのかもしれないが、ボンビーな我が家には縁が無い。

目指すは日本最南端!

いざ! 波照間へ

食い倒れの一夜が過ぎ・・・・
といっても、フツーの居酒屋でフツーに沖縄料理を食っただけだったりするものの、
とにかくオリオンさえ飲めば具合イイのだ。
そしていよいよ、波照間に渡る朝がやってきた。
波照間島までは高速船で約1時間の航海で、波照間海運、安栄観光の2社が1日3往復ずつ運行している。
うまい具合に時間をズラしてくれれば便利なのに、殆ど同じ時刻に出航しちゃうのはナゼなのだろうか。
でも、その同時運行が幸いした。
離島桟橋に着き、何気なしに乗ろうとしていた安栄観光の窓口に出向いてみると
「ウチは満席。波照間海運に行ってみろ」
などといったハリガミが張られていた。
慌てて駆け込んだ波照間海運の窓口は長蛇の列。
「ああ、波照間が遠ざかるぅ」
などとウメき、昨日のうちに波照間に渡っておくべきだったと悔やむ。
しかし長蛇の列の半分は、西表島への日帰りツァーの皆様だった。
波照間行きの便はギリギリでセーフ。
ひなびた離島を想像していたのだけれど、なんだか大人気の島だったのだ。

石垣島の離島桟橋を出た高速船「ニューはてるま」は、
竹富島、黒島、西表島、新城島を右に左に眺めながら、穏やかな海を豪快に突き進む。
そしていきなり、ウワサどおりの状況となった。
石垣島や西表島などを囲んだ巨大リーフから出た途端、船が激しく揺れ始めたのだ。
オネェチャン達は奇声を発し、我が家のオコチャマも「うぎゃぁ」と叫ぶ。
「ダイジョーブ。あと30分!」
などとナダめながらも、青ヶ島行き還住丸のゲロゲロ航海の悪夢が蘇える。

なんとか無事に波照間港の防波堤に入り込んで一安心すれば、先着の安栄丸からの下船客も交えて桟橋は大ニギワイ。
民宿の送迎車、レンタバイク・レンタサイクル屋のクルマなどなどがひしめき、手に手に看板を振り回している。
「はぁい。コッチですよぉ」
喧騒の中、我々も民宿のクルマにブチ込まれ、小高い丘を駆け上がった島の中央部の集落に向かう。
底抜けにトロピカリーな光景の中、前方には風力発電の巨大風車がグルングルンと存在を誇示し、 まるでソイツに見守られるような波照間島での日々が始まった。

青空食堂! メシがンマい!

小さな島なので、
「今日はアッチ! 明日はコッチ!」
などと目を皿のようにして駆けずり回っても仕方なく、まったりとしたパターンを繰り返す事になった。
民宿で朝メシを食うと、例によって朱蘭さまはダイビングへ。
残されたオトォチャンとオコチャマはレンタルスクーターでオサンポ。
道はキッチリと整備され、アチコチに点在する牛フンさえ避ければ快適ツーリング。
頃合を見て青空食堂に向かえば、想定外だった離島グルメを大いに楽しみ、民宿に戻ってオコチャマはオヒルネ。
目が覚めた頃に西浜に足を伸ばしてマッタリと海水浴。
果てしなく広い砂浜&ラグーンで、コレがまた文句なしのトロピカリングな午後。
バンメシが終わっても外は明るく、ブラブラと散歩。
日が暮れれば、宿の離れでログ付けと称する宴。
ソコにダイバーでも何でもない父子も乱入し、常連客やスタッフと共に民宿のオジィの三線の弾き語りに耳を傾けながら泡盛を頂く。
宿に戻る夜更けには集落中が真っ暗で、満天の星空で異様な存在感を示す天の川・・・・
ブラボー! ワンダホー! トロピカリアン!
ココで泊まりました

日本最南端の碑

ココは、何といってもオヤクソクの場所なのだ。
波照間島に来た観光客は、必ず訪れる場所であるといっても過言ではないだろう。

高那崎の西側、海を切り裂くような絶壁の入口に、ソレはあった。
ゴリッパな石碑には、確かに「日本最南端」と刻印されている。
ただし、岬の突端という訳ではないので、
「ハイッ、間違いなくココがハジッコでございます。ゴクローさま!」
的な要素が乏しい。
やはり、なんだか物足りなさを感じるのだろうか。
最南端の碑の南側に広がる岩場の上を、何人もの観光客が絶壁を目指して歩いているのが見える。
それならば我々も・・・・
と言いつつ、他の観光客とは少し違う方角を目指して進むのだ。
人々が目指しているのは、最南端の碑から海の方向を見て、いちばんハジッコっぽい断崖絶壁なのだけれど、
地図を見るとソコは最南端とは程遠い事が判る。
そもそも、碑の位置がおかしいのだ。
本当のハジッコは、最南端の碑とペムチ浜の間の、デコボコとした1kmほどの海岸線のどこかにあるハズだ。
よぉしっ!我が家は行くぞぉ! ホントのハジッコへ!

しかし、5歳児を連れての岩場歩行はキケンが危なく、僅か100mほどで断念。
どっちみち『ホントの最南端』などという碑がある訳もなく、要はどうでも良いのだ。
碑の近くの東屋に戻って寝そべり、
「ついに来たぞ! ハジッコだぞ」
などと納得する事にしよう。
ハジッコとは関係無しに妙に気持ちイイ場所でもあり、結局ここには毎日通う事になった。
すでに宗谷岬・納沙布岬・与那国島の西崎を訪れている朱蘭さまは、これで一般人用ハジッコを全て制覇した。

日本最南端の東屋に違いない

波照間空港

この島にも空港があり、9人乗りのプロペラ機が石垣島から飛んでくる。
運行されるのは週に4日だけなのだけれど、それ以外の日でも、空港はささやかなニギワイを見せていた。
集落内を除けば極めて貴重な存在である自販機を求め、バイクやチャリが集まってくるのだ。

島の外周道路は極めて整備されていれ、常にレンタバイクやらレンタチャリやらが走り回っている。
そんな観光客のオアシスとして、空港はキッチリと役目を果していたのだ。
なにしろ小さな島なので、気合を入れて走り回っても仕方なく、何気に立ち寄ったりもするのだろう。

大きな帽子・トロピカルなワンピースの、妙にセレブなフンイキのオネェチャンもキコキコとママチャリ漕いでやってきて、
オジョーヒンに三ツ矢サイダーなんかを買っちゃったりしている。
そんな感じで集まってくるワカモノ達は
「こんにちわぁ」
「また会いましたねぇ」
などと、ココでプチゆんたくを始めてしまうのだ。

自販機付きの休憩所でもあるのです

ペムチ浜

疑惑の最南端の碑から、元祖最南端の岩場を挟んだ西側にあるのが、この海岸。
外周道路から少し海側に入った所に入口があるのだけれど、ソレを示す看板類など何もない。
なにやら工事現場のような所から海がチラっと見えたので、入ってみたらたどり着いた。
岩場と真っ白な砂浜のコントラストがヒジョーにコギレイな海岸で、
バイク、チャリ、宿のマイクロバスがひしめいていた最南端の碑付近とは異なり、まったく人の姿は無かった。
最高のプライベートビーチと言いたいところではあるが、遊泳は禁止されているらしい。

「どうだ、キレイな海岸だろう」
オコチャマの手を引いて波打ち際に向かおうとすると、力いっぱい引き戻してきた。
「どうした?」
「やだ! 波が怖い」
「何を言うか! こんな波」
「とーちゃん、やだよう。次の所に行こうよう」
せっかく来たのに、一目眺めただけで帰るのは惜しすぎる。
「ホラッ、見てみろ。キレイなサンゴがいっぱい落ちてるぞ」

誰のオタワムレなのか、サンゴ質の砂の上に、サンゴのカケラを並べて『波照間』の文字が書かれていた。
「おおっ! なんかイイ感じぢゃないか。サンゴの文字だぞ」
もちろんオコチャマには漢字が読めないけれど、
「ホントだ。ボクもやってみる」
おもむろに、サンゴを拾って自分の名前などを次々と並べ始めた。
そしてそれは、今度はオトォチャンが次の所に行きたがる程に続いた。

イイカゲンに切り上げ、バイクを止めた工事現場の脇へ戻る小道を歩く。
すると前方から、思いもよらぬ人の気配。
それは、あのセレブねぇちゃんだった。
なんだかんだと小一時間もいたのに、ココには誰一人来なかったのだ。
そんな場所に女性一人でやってきて、何も不安は無いのだろうか。
まあ、たぶん怪しいヤツだって来ないような、とにかくヒッソリとした場所なのだ。

ペムチ浜のサンゴの文字

青空食堂

集落から少し外れた所に、ウワサの青空食堂があった。
まさにその名のとおり、オープンタイプだけのコジンマリとした食堂なのだ。
古ぼけた平屋の建物はキッチンのみで、客席はリゾート風のプラスチック椅子。
そこにカラフルなテントが張られていて、イチオウは雨はしのげる。
と言うより、ギラギラの日差しを遮ってくれる。
地べたに置かれたテーブルの合間を縫うように、ニワトリのようなアヒルのようなフシギな鳥の群れが歩き回っているのもご愛嬌でノドカだ。

そして、「驚く事に」といったら失礼ながら、メシがンマいのだ。
人気メニューだという「タコライス」ももちろん、「キムチ仕立てのマグロ丼」がオドロキのンマさ!
コレがまたオリオンに良く馴染み、もう騙されたようにオカワリを繰り返してしまう。
結局、毎日ココに通うことになったのは言うまでも無い。
ただし、いわゆるイナカのニオイが苦手な人にとっては、快適ではないかもしれない。
なぜならフシギ鳥の群れが、そういうニオイを放っているのだ。

ここにも、あのセレブねぇちゃんがやってきた。
海外の旅先で知り合った女性との約束で、この波照間にて再会を果したのだそうだ。
その女性はダイビングに向かい、セレブねぇちゃんは一人で島内観光なのだとか。
そんな彼女も交えて、若い男女数人がテーブルを囲んでニギわっていた。
連れだって島に来たオトモダチどうしではないらしく、
「どちらから来たんですか?」
「今日はどこを見てきました?」
などといった会話が飛び交っている。

ふいに、豊田組のN隊長夫婦の事を思い出した。
豊田組で最もオシドリ夫婦だと言われる彼らは、西表島での出会いから始まっていたのだ。
「ココでもこういう出会いから、やがて結ばれる男女もいるんだろうなぁ」
ルービ漬けの子連れオヤヂ(ワタクシの事)の出る幕はないけれど・・・・
そんな事を考えると何だか妙に微笑ましく、ついつい「オリオンもう一杯!」

青空食堂とナゾの鳥

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