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ぶりぶち探訪(2006夏・波照間島)その2


島のド真ん中にデーンとそびえる、波照間島灯台

ニシ浜

最南端の碑に負けず劣らずの、波照間島のウリとも言えるポイントなのだ。
広々とした砂浜、かなり遠浅なラグーン、そして妙にキレイなエメラルドグリーンな海の色。
離島の海水浴場としては、なかなかゴリッパなシャワーや更衣室もある。

我が家の日課は、オコチャマが昼寝から目覚めた2時から3時ごろ、ノタノタとココにやって来る。
浜辺は閑散としていて、他には2〜30人程度の観光客が泳いでいる程度なのだ。
岩場の影に荷物を押し込み、ただひたすらチャプンチャプンと海に浸かって過ごす。
4時ごろ、ダイビングから戻ってきた朱蘭さまも合流し、引き続きチャプンチャプン。
波打ち際から数十メートル沖まではフクラハギ位の水深なので、まさに寝湯のようで具合イイ。
この頃になると、すでに他の海水浴客は数名程度まで減り、貸切に近い状態となる。

交代で子守をし、もう一人はシュノーケリング。
怪しげなウミヘビやらケッタイな色のサカナやらがウヨウヨいて、水がキレイなんで全く文句なし。
なんだか小さくて透明なサカナが集団でやってきて、ヒトサマの足に噛り付いてきやがる。
まさかピラニアな訳も無く、生命の危機を感じる程ではないけれど、イタくすぐったくてコレは困る。
そんなこんなのうちに5時半になり、バンメシを喰らいに宿に帰るのだ。

ちなみに「ニシ浜」は、漢字で書くと「北浜」ってな事になり、なんだか訳が判らない。
この琉球風の読みかたは、沖縄本島・宮古・八重山、それぞれでも異なり、
東西南北の順に、

本島:アガリ ・ イリ ・ フェー ・ ニシ
宮古:アガル ・ イル ・ パイ ・ ニシ
八重山:アール ・ イール ・ ハイ ・ニシ

と読むのだそうだ。
ただし八重山のなかでも少しずつ違うのかもしれず、波照間島の「南浜」は「ペ浜」と読むそうだ。

まったりなニシ浜。海の向こうは西表島

泡波

島の中央にある集落の中に、波照間酒造という小さな泡盛の製造元があった。
まるでフツーの民家のようにチンチクリンな工場なので生産量も少なく、
ココで作られている『泡波』は、マボロシの泡盛として引っ張りだこならしい。

そうと聞けば、ぜひとも呑んでみたくなるのがノンベーのサガなのだ。
ところが・・・・
集落の中心部にある小粋なスーパー風の商店に向かうと、すでに売り切れていた。
夏休みなのか工場は稼動している雰囲気がなく、このままでは入手できないまま帰る事になってしまうのだろうか。
むなしく『泡波は売り切れ』の張り紙を見つめていると、次々と店に来る観光客も同じように眉間にシワを寄せている。

ココがウワサの『泡波』の製造元

晩飯を喰い終っても外はギラギラの日差しなので、食後の散歩が日課となった。
その際には必ず商店を覗くものの、相変わらず『泡波は売り切れ』の張り紙とウロたえる観光客の姿。
ああ、泡波が呑みたいよう・・・
窮地に立たされればアタマが回るもので、レンタルバイク屋に向かう途中にも、小さな店があった事を思い出す。
ダメモトでソチラの店を覗いてみると・・・・
おおっ! あるではないか!!
ささやかに野菜が陳列された棚の横に、ミニボトルながらも泡波がギッチリと並べられていたのだ。
さっそく1ダースほど買い漁り、ココロ穏やかに宿に戻る途中、スーパー風の商店から出てきたカップルが
「やっぱり売り切れかぁ・・・」
などと、悲しげに呟きあっているのが耳に入ってきた。
泡波の事に違いない。
「そこのオニィサンがた、何を探しているんですかな?」
なにしろコチラは念願のブツを入手したばかりであり、妙にココロ優しい気分なのだ。
「えっと、泡波ですけど。売り切れてるんすよ」
「ほぉ、泡波ねぇ。ソレなら売ってる店を教えてあげやうぢゃないか。エッヘン」
「えっ? あるんすか? マジすか?」
「フォッフォッフォッ。ついてきたまい」

自分がエラい訳でも何でもないのに、意味も無く威張ったりしながら、いよいよ宿に戻って試飲。
こ・こりは!!!
疑いの余地も無く、泡盛である事にはマチガイない。
もちろん、けっして不味い訳でもない。
正直なところ、他の泡盛との違いが判らなかったのだ。
まあ、貴重なご当地モノなので、実際に味わってみる事をオススメしよう。

待ってました!泡波だぁ!

コート盛

集落の外れに、コート盛と言う名の、石積みの見晴台がある。
プリンのような形をしていて、その正体はイニシエの見張り台なのだそうだ。
らせん状の階段がしつらえてあり、テッペンまで登れる構造になっている。
高さは5m弱くらいなので、これに登ったからと言って格別に眺望がアップする訳ではない。
けれど、こういうモノがあるのならば、ついつい登ってみたくなる。
なにしろ、観光客はハジッコとかテッペンとかが大好きなのだ。
ちなみに、このプリン型の見張り台の事を全て「コート盛」と呼ぶ訳ではなく、
「地名+盛」というニュアンスで、他にもミサトゥ盛、ホタ盛など、いくつもの見張り台が存在する。
このコート盛が一番ハッキリとした形で残っていて、そしてデカいのだ。

石積みのプリン、コート盛

驚くべき事に、似たようなヤツがペムチ浜の西側にも存在していた。
こちらは近年になってから作られたモノで、色も白くてホンモノよりも一回りデカい。
外周道路を走行中に見つけ、やはり、ついつい登りたくなってしまったのだ。
海沿いなのでテッペンからの眺めも良いものの、ココにたどり着くのは少しややこしい。
外周道路から最短距離で真っ直ぐ来る道は、直前の貯水池の所でイキドマリとなってしまっている。
かなり東側から畑の中のダート道に入って何度もクネクネと曲がらなければならず、なんだか判りにくいのだ。
テッペンからアチコチを眺めていると、そのイキドマリ道をコチラに向かって走ってくるチャリが見えた。
エンジンまかせのバイクとは違うので、チャリで無駄な逆戻りをするのは可哀想に思い、
「おおい! 違う違う! その道ぢゃ無いんだよう!」
大声で叫んで両手をクロスしてみるものの、チャリは立ち止まる事無く、にこやかに手を振り帰してきた。

コチラは現代版のコート盛

とある日の夕方、晩メシ後の散歩の帰りがてらに、ホンモノのコート盛のテッペンに登ってみた。
この日は水平線上に雲が無く、海へのサンセットが見れそうだったからだ。
真っ先に階段を登り始めたオコチャマが、テッペン近くで立ち止まる。
どうやら先客が一人いたらしい。
「ボク、こんばんわ」
オコチャマに声を掛けてきた先客は、あのセレブねぇちゃんだった。
「こ・こんばんわ。おひとりでココに?」
「ええ。トモダチはニシ浜まで行って夕日を見るって、歩いていっちゃったんです」
「ニシ浜? ココからだと2キロくらいありますよね」
「そうなんです。帰りは真っ暗になっちゃうから、アタシはココで・・・」

ギラギラの太陽もイイカゲンに弱々しく傾き、いよいよ水平線に迫ってくる。
ところが、いつのまにかビミョーな雲が水平線上に現れ、夕日は途中で姿を隠してしまった。
「なんだかダメみたいですね」
かなり素早い決断力で、セレブねぇちゃんは早々とコート盛を後にした。
なにしろ完全に日が暮れてしまえば、懐中電灯無しでは外を歩けなくなってしまうのだ。
ニシ浜まで歩いていったオトモダチは、いかにもアクティビティーに満ち溢れた感じのオネェチャンで、
真っ暗闇になっても全力疾走で帰ってきそうな気さえする。
それに対し、木陰のベンチでオジョーヒンな本をひもといてるのが似合いそうなセレブねぇちゃんが、
懐中電灯を片手にヨロヨロと歩く姿はアブナそうだ。
もっとも、この島での彼女の行動を顧みれば、ワタクシの勝手な思い込みに過ぎないかもしれない。
たった一人でママチャリを漕ぎ、島中を駆け回るオネェチャンなのだから。
暗闇の中をウサギ飛びで帰っちゃうような、タクマしき女性だったりして。

我が家族は諦め悪く、「もしや」に期待してダラダラと水平線を見続けた。
奇跡は起こらず、イッキに夕闇が迫る中を宿に戻る。
なぜか日本全図を壁にあしらった筒型の交番の前を通ると、中は真っ暗だった。
ドアに張られた張り紙には『明日まで石垣島に行ってます』の文字。
島で唯一人の警察官が留守であっても、とにかく平和な波照間島なのだろう。

島で唯一の交番。中で敬礼してるオマワリさんは人形です。

星空観測タワー

文字通り、星空を観測するタワーであり、高那崎の西にある。
巨大な望遠鏡も設置されていて、かなり本格的な天体観測設備らしい。
訪れる観光客の、主な目当ては南十字星。
日本で南十字星が見れるのは波照間島だけかと思っていたら、実はトカラ列島あたりからでも見れるらしい。
それでも、やはり南十字星といえば波照間島なのだ。
南下すればするほど見えやすいのは事実で、ココが南のハジッコだからこそ、いちばん見えるに違いない。
とは言え・・・
さすがの波照間島でも、南十字星が見えるのは5月〜7月上旬までだそうで、今年は既に打ち止めだった。

最初にココに来た日は、どうやら休館日らしく、入口のシャッターがキッチリと閉ざされていた。
そしてどういう訳だか、野生のヤギの群れがタワーを守っていたのだ。
彼らは、第一予防線として大量のフンをタワー周辺にブチ巻き、それでも突破してくる敵に備えて、
入口のシャッター前に集結して座り込んでコチラをにらみつけ、そして時おり、
「んげげげげぇ」などと警告音を発している。
おおっ!
バビルの塔が砂の嵐に守られていたように、星空観測タワーはヤギに守られていたのか!
もちろん、そんな訳は無い。
入口のヒサシが日陰になっていたので、ギラギラな日差しを避けて集まっていたに過ぎない。
恐る恐る近づくと、ヤギは職務を放棄してチリヂリに逃げ去ってしまった。

ヤギに守られた星空観測タワー

開館している日に訪れてみると、ヤギの姿は見えなかった。
昼間なので望遠鏡を見る訳でもないけれど、せっかくだから中に入ってみる事にする。
なにやらコザッパリとしたパネル展示が並び、そして奥にはモノモノしい部屋があった。
なんとそこは、プラネタリウム。
自由に操作できるボタンを押すと、季節ごとの星座が、解説と共にドーム型の天井に映し出された。
う〜む。ココは日本最南端のプラネタリウムなのかもしれない。
一瞬そんな事を考え、思わず自分で呆れてしまった。
アタリマエながら、この島のモノは全てが日本最南端のモノなのだ。
プラネタリウムだろうと民宿だろうとトイレだろうとヘチマだろうと。
くどいけれども、ココは日本のハジッコなのだから。

最南端付近から眺めた星空観測タワー
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