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オリオン日記(2002夏・西表島)その6
8/16(金)
今日も親子3人で行動開始。
昨日に引き続いて滝シリーズで、今日はいよいよピナイサーラの滝なのだ。
ピナイサーラの滝は落差55m。
日光・華厳の滝や和歌山・那智の滝を思わせる、スタンダードな「イッキにドカーン」タイプのカッコイイ滝。
沖縄県で一番大きい滝でもあり、なんと鳩間島からさえも見えるそうだ。
この滝は海岸沿いの道路からも眺める事は出来る。
しかし、それだけではちょっと寂しい。
もちろん鳩間島から見るよりは遥かにマシだけれど、せっかくだから、ぜひとも目の前で眺めたくなるのが心情である。
ただし近くで見ようとすれば、なかなか気合が必要らしい。
その手段は、以下のとおり。
1:
観光船で20分ほどヒナイ川を遡り、そこから徒歩20分で滝壷へ。
これは、ツアーとして参加する事になる。
2:
カヌーを借りてヒナイ川を遡り、そこから徒歩20分で滝壷へ。
ツアーでは行けない、滝の上に登る道にもチャレンジ出来る。
3:
海岸沿いの道路からマングローブの森のフチを歩き、滝壷もしくは
滝の上に。滝壷までの場合、往復5時間コース。
ただし歩けるのは干潮時のみで、潮が満ちてきちゃったら泳ぐ事になる。
オコチャマ連れだし、可能性があるのは1番しかない。
それが一番ラクな方法なのだけれども、それでも滝までの道は険しいとのウワサだ。
そこであらかじめ、西表島に上陸した翌日にレンタカーを借りる時、船浦の『やまねこレンタカー』のニィチャンに聞いてみたのだけれど・・・・・・
「えっ?コドモをオンブしてピナイサーラですかぁ?う〜ん。行けない事もありませんけど、お勧め出来ませんねぇ。実はワタシも、コドモを背負って行った事があるんです。ええ。でも、もう二度とゴメンですねぇ」
などとのたまった。
ヘンっだ。
レンタカーにぃちゃんは親切で言ったのだろうけれど、実は、このセリフで行く事に決定したのだ。
絶対にムリだと言うならともかく、レンタカー屋が行けた道を、このワタクシが尻尾を巻いて逃げる訳にはいくものか!!
カンバルぞぉ!!
ピナイサーラに向かう観光船は不定期で、この時期は一日2便との事。
決してイイカゲンに、そしてケチって運行している訳ではい。
ピナイ川の下流域は細長い入江のような状態が続き、海面との高低差が極めて小さい。
その為に川の水深は海の干満に左右されてしまうのだ。
これは仲間川、浦内川でも同じである。
仲間川などに比べると小さな川であるヒナイ川は水深も浅く、船が川の奥まで入る事が出来るのは満潮時の前後に限られてしまう。
従って、どんなに頑張っても一日2便なのだ。
夜とか早朝とか中途半端な時刻に出航しても仕方が無いので、時期によっては、一日1便になる。
なぜ、西表島の主だった川がこのような形状なのかは判らないけれど、もちろんマングローブの影響でそうなった訳ではなく、その様な地形だからこそ、マングローブの森となったのだ。
もし西表島の川に河口直前まで高低差があったとしたら、マングローブの森は存在していない事になる。
当日、ツアーの申し込みなどを代行している『やまねこレンタカー』の事務所に向かうと、窓口のオババから再びオドシをかけられる。
「その子を連れて行くのぉ?ベビーカーじゃ無理よぉ。」
「もちろん、オンブして連れてくツモリですけど。」
「ホントに大丈夫なのぉ?タイヘンよぉ。」
「昨日もオンブで、カンピレーの滝まで行ったけど、ヘーキでしたよ」
「カンピレー?ダメダメ。アッチの滝なんか道は良いし、坂は急じゃないし、コッチに比べたら全然楽なんだから。そんなのと比較しちゃダメよ。」
ふ〜む。ますますファイトが沸いてきた。
い・い・いったるでぇ・・・
ビビってなんかいないぞぉ・・・
ホ・ホントだよぉ!!
ツアー参加者は、やまねこレンタカー前に集結。
そのまま目の前の船浦港から出航かと思ったら、マイクロバスと各自が借りたレンタカーなどに分乗し、内陸の細い道を隊列を組んで走り出す。
やがてダートとなって程なく、草生した広場にクルマを止めて、ガイドに引き連れられて登山道のような道を一列に歩き出す。
懐かしのロッキー刑事がドリフの探検隊衣装を着させられたような雰囲気のガイドだ。
船の気配は全く無く、徒歩で滝を目指すツアーに迷い込んだのではとアセるものの、他の参加者は老人子供ばっかりで、まさか5時間は歩けまい。
涸れ川に沿って歩く事しばし、ふいに小さな川に突き当たる。
ヒナイ川の支流で、そこに船が留められていた。
浦内川観光船よりもチンケな船で、桟橋も何も無く、川沿いの土手の木に縛られている。
そして、土手に船の舳先をムリヤリ押し付けての乗船となる。
船はヒナイ川の支流を下る。
極めて小さな川で水深も浅いため、船は歩くよりもゆっくりだ。
両岸のマングローブは手の届きそうな所まで迫り、トントンミやシオマネキみたいなカニや、巨大シャコなんかが手づかみで採れそうである。
ヒナイ川に出て、それを遡上する。
イッキに川幅が広く感じるものの、水深は相変わらずかなり浅いらしい。
船は座礁を避けて右に左に蛇行しながらも、頭上に迫ってくる木の枝も避けたりして忙しい。
いよいよ川幅が細くなり、色とりどりのカヌーがウジャウジャと係留されているあたりで停船。
どうやらここいらで降ろさせるらしいのだけれど、ここにも桟橋は無く、乗船時と同じ様に船の舳先から土手に飛び降りる。
「さあっ、ここから登りますよぉ」
鬱蒼としたジャングルの中を、ガイドのロッキー刑事に従って川沿いを歩く事しばし、
「ここから急になりますからねぇ。各自、焦らずゆっくり登ってくださいよぉ。足元には注意してくださいねぇ。」
木々の間からピナイサーラの滝がチラチラと姿を垣間見せ、いよいよ本格的な登り坂である。
確かに、カンピレーへの道よりは急だし、荒れている。
でも、たかだか20分程度の距離だし、何の事無くピナイサーラの滝に到着。
決してワタクシが強靭な体力を持っている訳ではなく、同じツアーの小学生位のオコチャマだって、50台位のオジチャンオバチャンだって、へたばる事無く到着しているのだ。
どうやらやまねこレンタカー関係者は、いや、八重山のシトビトは足が弱いのだろうか。
都会人は体力が無さそうなどと言うのは昔の事で、毎日の通勤電車で死ぬ思いをして足腰を鍛えているのだ。
オバチャンだって、駅前のスーパーの行き帰りにはダイコンなどを下げて歩いている。
それに比べて今や地方のシトこそ、どこに行くにもクルマだったりして、体力を失っているのが現状だとも考えられる。
特に西表島!!!
歩いて買い物などと言う事は考えられないほど、とにかく何もかもが、ポツリポツリとしか存在していない。
例えば上原のスーパーだって、徒歩で通える距離の住民などは数えるほどしか居ないだろう。
延々と歩いて買い物に来るのは、星砂あたりにタムロするキャンパーくらいのモノなのだ。
全ての集落が、中心から5分も歩けば人外大魔境に突入してしまう西表島民にとっては、体力勝負な職業のシトを除けば徒歩20分なんてのは、めったにしない大運動なのだ。
真下から見上げる滝は圧巻で、見る位置が近いせいか、日光華厳の滝よりも巨大に見える。
ちょっとしたプールのような大きな滝壷があり、先客達が気持ち良さげに泳いでいる。
とうぜん我が家も飛び込む。
ここで泳ぐのはお約束らしく、我が家もキッチリと水着着用で来てるのだ。
「この滝はねぇ、ちょっと前までは落差60mだったんですよ。ちょっと岩が崩れちゃって、5mほど縮まっちゃった・・・」
無念そうに呟くロッキー刑事。
そんなのどっちだって良いじゃんと滝の上を見上げれば、滝の上に登ったシトがこちらを覗き込んでいるのが見える。
いいなぁ。行きたかったなぁ。
滝の上に登るには、ちょうど船を降りたあたりから、イッキに急坂を登る道を選ばなければならず、このツアーでは時間的理由で行く事が出来ない。
なにしろ船は2便しかないので、浦内川の観光船の様に
「次の船に乗るから、勝手に行かせてもらいます」
と言う訳にはいかないのだ。
「はぁい、そろそろ戻りますよぉ」
20分程度の、あっという間の滝見物は終了。
やっぱりツアーなんて、こんなもんす。
とは言え、これはガイドの人件費削減の為に急かされてる訳ではない。
満潮に合わせて船が遡上してるので、あんまりノンビリしていると川が浅くなって船が座礁してしまうからなのだ。
やはりじっくりと滝見をしたければ、カヌーなどで自力で来るしか仕方が無い。
いるもて荘に戻ってオコチャマのメシ。
朱蘭さまがいると、妙にテキパキはかどるはかどる。
そして午後は星砂の浜に。
やっとオトォチャンも海水浴なのだ。
星砂の浜のレストハウスに向かい、まずはそこで昼飯を食う。
冷麺&ソーキ蕎麦&オリオンでエネルギーを補給し、朱蘭さまと先を争うようにドボンドボンと海に飛び込む。
オコチャマも、浮き輪の下に足の穴が開いているヤツで海に浸けると、んもぉ大騒ぎではしゃぎまくり。
だったのに・・・・・
ほんの数分後、妙にオコチャマがおとなしくなる。
なんと、海に浮かびながら寝ていやがった・・・
とことんマイウエイ小僧め。
くぬやろう。
しかし、わざわざ叩き起こして泳がせる程の意義は見出せない。
オコチャマは岩陰に転がし、急遽持ち出したシュノーケリングセットで、夫婦2交代制にて、細々と八重山の海を堪能するのであった。
いるもて荘への帰り際に、星砂の浜の近くの『うめ工房』と言うミヤゲモノ店に寄ってみる。
シーサーや、なぜかネコ系の工芸品などを製造販売しているらしい。
看板を頼りに人里から離れたダート道を進むと、
「こんな所に店を構えてどうすんの?」
といった感じの所に工房はあった。
もちろん、クルマ無しでは厳しそうな場所である。
何気なく店内を見てるうち、入れ替わり立ち代り2組の客が来たりするので、全く儲かってない訳では無さそうだ。
更に、一台の軽自動車が到着した。
それはいるもて荘に常に止まってるレンタカーで、見慣れたオトコが降りてきた。
このオトコ、会話などを交わした訳ではないのだけれど、とにかく常にいるもて荘にいて、朝夕、玄関前のピーフンの上にパンやらコーヒーやらを並べて喰っているフシギな存在のオトコなのだ。
そしてココへはミヤゲを買いに来た訳ではなさそうで、なにやらダンボール箱を持ち込んできた。
ダンボール箱の中には店に並んでいるのと同じオミヤゲがギッチリと詰まっていて、それを店主が一つ一つチェックしている。
どうやら工芸品製作の下請けをしているのだろうか。
いるもて荘の宿泊費やレンタカー代などの経費を考えると、ババンと利益が出るほど儲かるとは思えない。
あくまでも島が好きでやっているのだろうけれど、ゴクローサマである。
遂に、西表島最後の夜を迎える。
もうアタリマエの様になってしまった、いるもて荘からの眺め。
沖を行く巨大船のような鳩間島の夜景も、これで見納めかぁ。
久々に、あまりノンビリ出来ない朝を迎えなければならない。
カバンの中に、溜まった洗濯物と思い出を詰め込にながら、今宵もオリオンに浸っていく。